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第3回南北首脳会談の成果と課題

2018.09.23.

9月18日-20日に文在寅大統領が朝鮮を訪問し、金正恩国務委員長と2回の公式会談(及び両首脳だけによる会談)を含め、極めて密度の濃い意思疎通を行い、その成果として「9月平壌共同宣言」を発表するとともに、その付属合意書として「板門店宣言軍事分野履行合意書」採択しました。両首脳の交流の濃密さは、18日夜の歓迎宴に始まって、翌19日の昼食会(玉流館)及び夕食会(平壌大同江水産物食堂)、さらに20日の白頭山頂上訪問に際しての昼食会(三池淵)という破格の歓待における長時間の交流に端的に示されています。過去2回の首脳会談で相互の信頼感を高めてきた文在寅と金正恩ですが、両首脳間の相互信頼関係の揺るぎない確立こそ、これからの朝鮮半島情勢を展望する上で、2つの共同宣言そのものの重要性に勝るとも劣らない、特筆大書するべき最大かつ最重要の成果であると思います。
 2回の会談の性格を判断する上での注目点は、初日の第1回会談の韓国側の参加者が青瓦台国家安保室の鄭義溶(チョン・ウィヨン)室長、国家情報院の徐薫(ソ・フン)院長の2人であったのに対して、2日目の第2回会談の韓国側参加者が徐薫だけだった事実です。鄭義溶は「4月27日と5月26日に板門店で開いた文大統領と金委員長の1・2回目の会談では陪席しなかった」のですが、「3月と9月に文大統領の特使団長として北朝鮮を訪問し、金委員長にすでに2回会っているうえに、韓国政府の対米高位協議の代表的窓口」(9月19日付ハンギョレ日本語版WS)であることを踏まえれば、初日の会談では朝鮮の非核化問題が集中的に話し合われ、2日目の会談では南北関係を中心とした話し合いが行われたと判断されます(帰国後の「国民向け報告」において文在寅自身も明らかにしました)。
 また、文在寅に対する歓待・重視ぶりは朝鮮側最高指導部が顔を連ねたことでも分かります。すなわち、朝鮮最高人民会議常任委員会委員長(No.2)の金永南と朝鮮国務委員会副委員長(No.3)の崔龍海が金正恩にしたがって空港に出迎え、同日夜の歓迎宴には金永南が、翌19日の文在寅による記念植樹(百花園)には崔龍海が、同日夜のマス・ゲーム・芸術公演には金永南が、そして20日朝の文在寅一行の白頭山に向けての出発に際しては金永南、崔龍海に加え朴奉珠内閣総理(No.4)が揃って見送りに参加しました。
以上の事実は、金正恩以下の朝鮮最高指導部が今や文在寅に全幅の信頼と高度の期待を寄せていることを示しています。また、その信頼と期待を正面から受け止めた文在寅としては、朝鮮側の信頼と期待を裏切らない言動を取らなければならないという途方もない重責を担う覚悟を改めて自らに課したとも言えるでしょう。勇猛果敢の金正恩と剛毅木訥の文在寅が二人三脚で、猪突猛進+支離滅裂(気まぐれで自己中)のトランプを操縦し、これからの朝鮮半島情勢を動かす主役を担う構図が浮かび上がってきたと言えます。
今回の首脳会談の成果について、9月20日付のハンギョレ・日本語版WSは、「「平壌首脳会談」の成果を"平和"の視点で圧縮すれば、「戦争の危険の根源的除去」と「朝鮮半島非核化再推進の動力確保」ということができる」、「「平壌首脳会談」の結果には、南・北・米の3角関係において、南北関係の速度感ある改善と前進により朝米関係を牽引するという両首脳の戦略構想が含まれている」、「南北二者会談の歴史上、初めて具体的非核化方案を合意・発表した事実は、朝鮮半島平和の歴史で文字どおり「歴史的変曲点」だ」、「文大統領と金委員長は「平壌首脳会談」を通じて恒久的平和に向けた不可逆的な旅程に立ち向かう一方で、南北関係の「日常化・常時化・常設化」の青写真もまた提示した」と指摘しています。特にハンギョレ社説「平壌共同宣言「後戻りなしの平和」の道筋示す」は、「首脳会談の結果は前回の板門店宣言を具体化する域を越えて朝鮮半島の平和に後戻りのない道しるべを立てたという評価を受けるに値する」と、今回の首脳会談の意義を際立たせました。いずれも見事な指摘であり、私はまったく同感です。
<9月平壌宣言>
 9月20日付の朝鮮中央通信(日本語)が発表した「9月平壌共同宣言」の全文は次のとおりです。

朝鮮民主主義人民共和国の金正恩国務委員長と大韓民国の文在寅大統領は、2018年9月18日から20日まで平壌で北南首脳会談を行った。
両首脳は、歴史的な板門店宣言以後、北南当局間の緊密な対話と協商、多面的民間交流と協力が行われ、軍事的緊張緩和のための画期的な措置が取られるなど、立派な成果が収められたと評価した。
両首脳は、民族自主と民族自決の原則を再確認し、北南関係を民族の和解と協力、確固たる平和と共同繁栄のために一貫して持続的に発展させていくことにしたし、現在の北南関係の発展を統一につないでいくことを願う全同胞の志向と念願を政策的に実現するために努力していくことにした。
両首脳は、板門店宣言を徹底的に履行して北南関係を新しい高い段階に前進させていくための諸般の問題と実践的対策を虚心坦懐に深く論議したし、今回の平壌首脳会談が重要な歴史的転機になることで認識を共にし、次のように宣言した。
1. 北と南は非武装地帯をはじめ対峙地域での軍事的敵対関係の終息を朝鮮半島の全地域での実質的な戦争の危険除去と根本的な敵対関係の解消につないでいくことにした。
① 北と南は今回の平壌首脳会談を契機に締結した「板門店宣言軍事分野履行合意書」を平壌共同宣言の付属合意書として採択し、これを徹底的に順守して誠実に履行するとともに、朝鮮半島を恒久的な平和地帯につくるための実践的措置を積極的に講じていくことにした。
② 北と南は北南軍事共同委員会を速やかに稼動して軍事分野合意書の履行実態を点検し、偶発的武力衝突防止のための恒常的な連携と協議を行うことにした。
2. 北と南は互恵と共利・共栄の原則に基づいて交流と協力をより増大させ、民族経済をバランスを取って発展させるための実質的な対策を講じていくことにした。
① 北と南は今年中に東・西海線鉄道および道路連結と現代化のための着工式を行うことにした。 ② 北と南は条件が整うにつれて開城工業地区と金剛山観光事業をまず正常化し、西海経済共同特区および東海観光共同特区を造成する問題を協議していくことにした。
③ 北と南は自然生態系の保護および復元のための北南環境協力を積極的に推し進めることにしたし、優先的に現在進行中の山林分野協力の実践的成果のために努力することにした。
④ 北と南は伝染性疾病の流入および拡散防止のための緊急措置をはじめ、防疫および保健医療分野の協力を強化することにした。
3. 北と南は離散家族・親せき問題を根本的に解決するための人道的協力をいっそう強化していくことにした。
① 北と南は金剛山地域の離散家族・親せき常設面会所を早いうちにオープンすることにし、このために面会所の施設を速やかに復旧することにした。
② 北と南は赤十字会談を通じて離散家族・親せきの画像面会とビデオレター交換問題を優先的に協議、解決していくことにした。
4. 北と南は和解と団結の雰囲気を高調させ、わが民族の気概を内外に誇示するために多様な分野の協力と交流を積極的に推し進めることにした。
① 北と南は文化および芸術分野の交流をいっそう増進させていくことにし、優先的に10月中に平壌芸術団のソウル公演を行うことにした。
② 北と南は2020年夏季オリンピックをはじめ、国際競技に共同で積極的に進出し、2032年夏季オリンピックの北南共同開催の誘致で協力することにした。
③ 北と南は10・4宣言発表11周年を意義深く記念するための行事を有意義に開催し、3・1人民蜂起100周年を北南が共同で記念することにし、そのための実務的方案を協議していくことにした。
5. 北と南は朝鮮半島を核兵器と核脅威のない平和の地盤につくっていくべきであり、このために必要な実質的進展を速やかに遂げなければならないということで認識を共にした。
① 北側は東倉里エンジン試験場とロケット発射台を関係国専門家の参観の下で、まず永久的に廃棄することにした。
② 北側は米国が6・12朝米共同声明の精神に従って相応措置を取れば寧辺核施設の永久的廃棄のような追加的措置を引き続き講じていく用意があることを表明した。
③ 北と南は朝鮮半島の完全な非核化を推し進めていく過程で共に緊密に協力していくことにした。
6. 金正恩国務委員長は文在寅大統領の招請によって近いうちにソウルを訪問することにした。
全文は6項目から成り、最初の4項目は南北関係(軍事・経済・人道・協力交流)、第5項が朝鮮半島非核化(「朝鮮の非核化」ではない!)、そして第6項は金正恩の訪韓となっています。国際的には「朝鮮の非核化」に関して文在寅が金正恩からどのような言質を取るかに注目が集まってきましたが、私自身は、板門店宣言の時と同じく、両首脳が国際環境にできる限り左右されない南北関係を構築していくことに注力していることを重視しますし、今回の宣言の構成・内容にもそのことが色濃く反映されていると思います。
<経済協力(第2項)>
 まず、板門店宣言の履行状況に関して、「北南当局間の緊密な対話と協商、多面的民間交流と協力が行われ、軍事的緊張緩和のための画期的な措置が取られるなど、立派な成果が収められたと評価」していることに注目します。というのは、これまでの朝鮮側報道では、韓国側の対応についての朝鮮側の批判・不満がむしろ前面に出てきたというのが私の印象だったからです。しかし、第2項を見るとき、国連安保理制裁決議によって韓国が縛られている状況を朝鮮側も理解し、韓国独自の制裁措置について南北が協力して緩和・解除に向かうことで双方の了解が成立したことを窺うことができます。そのことがまた、板門店宣言の履行状況に対する肯定的評価にも反映されたということではないでしょうか。
私の以上の判断があながち見当外れではないことは、9月22日付の朝鮮日報・日本語版WSが掲載した「李明博政権の対北報復措置、平壌共同宣言で骨抜きに」と題する以下の記事からも理解できます。朝鮮日報ですから記事の内容は文在寅政権に対する批判なのですが、李明博政権の取った「天安」事件にかかわる朝鮮に対する報復(5.24措置)を実質的に緩和・解除する方向で動いていることは確かであり、今回の宣言第2項もそういうものとして理解することができます。
平壌共同宣言をめぐって、「5・24措置に対する死亡宣告」という評価が出ている。宣言では、南北鉄道連結工事の着工式、開城工業団地と金剛山観光の再開、西海(黄海)および東海(日本海)の経済・観光特区開発など、さまざまな経済協力事業が網羅されている。2010年に稼働した5・24措置に基づくなら、北朝鮮が哨戒艦「天安」爆沈に対する謝罪と再発防止の約束をするまでは開始もできないものばかりだ。このため、「これ以上5・24措置に束縛されたくない文在寅政権が、平壌共同宣言を通して5・24措置を骨抜きにした」という声が上がった。
 李明博政権は、2010年3月に起こった「天安」爆沈を北朝鮮の仕業と結論付け、北朝鮮に対する懲らしめという観点から▲開城工業団地を除く南北貿易・経済協力の全面禁止▲北朝鮮船舶による韓国領海内の航行不許可-などを骨子とする「5・24措置」を発動した。歴代政権は、事案ごとに例外を適用したことはあっても、5・24措置の枠組みは維持してきた。文在寅政権も、まだ5・24措置を公式に解除してはいない。
 これに関して韓国統一部の白泰鉉(ペク・テヒョン)報道官は、21日の定例ブリーフィングで「5・24措置などを含め、今は制裁の局面にあることは間違いない。こうした制裁の枠組みを尊重しつつ、また一方では韓半島(朝鮮半島)の平和と共同繁栄のためにできることを、落ち着いて秩序立てて行っていきたい」と語った。5・24措置をまだ解除はしないが、解除を既定事実化して南北経済協力などを準備したい、という意味だと解釈されている。
 実際統一部は、今年初めから5・24措置を骨抜きにする諸措置を取ってきた。今年2月の平昌冬季オリンピックの際、墨湖港に入港した北朝鮮の万景峰号に対して5・24措置の例外を適用したのが代表例だ。また統一部は先月、来年度予算の要求案を整える中で、北朝鮮との経済協力のための基金に今年より46%も多い5043億ウォンを配分した。
 キム・スン元統一部長官政策補佐官は「韓国政府が露骨に5・24措置を『透明人間』扱いしている」と語った。
<軍事的敵対関係解消(第1項)・「板門店宣言軍事分野履行合意書」>
 私の限られた情報源では「板門店宣言軍事分野履行合意書」の全文を紹介したものがありませんので、韓国紙の報道によるほかありません。9月20日付のハンギョレ・日本語版WSは、「 「平壌首脳会談」の成果を"平和"の視点で圧縮すれば、「戦争の危険の根源的除去」と「朝鮮半島非核化再推進の動力確保」ということができる。言葉の盛り上げに留まらない。軍事合意書は、保険約款を彷彿とさせるほどに詳細だ。今までに採択されたどの南北合意書より詳細だ。合意書本文の他に「付属文書」だけで5つある」と強調しました。また同日付の中央日報・日本語WSは、この合意書を「韓半島における軍事地形の根本的変化を予告する信号弾」と形容しています。軍事合意書の内容については、「南北は、地上と海上、空中などすべての空間で一切の敵対行為を全面的に中止し、さらに進んでいかなる手段や方法でも相手の所轄区域を侵入・攻撃・占領する行為を行わないことにした。また、軍備統制を話し合う南北軍事共同委員会を作ることでも一致した。「平壌共同宣言で実質的な終戦を宣言した」〔青瓦台の尹永燦(ユン・ヨンチャン)国民疎通首席〕という評価が出ている理由だ」としています。ちなみに、「電撃的に出てきた南北軍事合意は▼地上・海上・空中敵対行為の中止▼非武装地帯のGP(監視哨所)撤収▼JSA(板門店共同警備区域)の非武装化▼共同遺骨発掘▼漢江河口の共同利用--など計7分野」(9月21日付中央日報・日本語版WS)とのことです。
 非武装地帯に関する合意内容について、文在寅政権に好意的なハンギョレすら、「南北の軍事当局は、「完全武装状況」である現在の朝鮮半島非武装地帯(DMZ)を平和地帯にすることで電撃合意した。非武装地帯で相手に向かって銃を向け合っている「監視警戒所」(GP)をなくすことにした。銃を持った兵士ではなく、武装解除した民事警察が、板門店共同警備区域(JSA)を守ることにした。南と北は非武装地帯に埋められている朝鮮戦争の戦死者の遺骨を共同で発掘する」と驚きを隠さずに報道しました(9月20日付日本語版WS)。
 陸海空における敵対行為の中止に関する合意内容については、9月21日付中央日報・日本語版WSが次のように解説(批判的ですが)しているのが参考になります。
軍事合意のうち地上敵対行為の中止は、軍事境界線(MDL)を基準に南北がそれぞれ5キロずつ緩衝地帯を設定するものだ。両区域で砲兵射撃訓練と連帯級以上の野外機動訓練を中止することにした。…
しかし海上敵対行為の中止は懸念される。合意によると、西海(黄海)は仁川沖の徳積島(ドクジョクド)から北朝鮮の大同江(テドンガン)河口の椒島(チョド)まで、東海(日本海)は束草(ソクチョ)から北朝鮮の通川(トンチョン)までを緩衝水域に定め、この水域で砲兵・艦砲射撃と海上機動訓練を中止するというものだ。ところが西海は北方限界線(NLL)を基準に南北直線で徳積島まで85キロだが、北朝鮮の椒島までは50キロだ。東海はMDLを基準に束草までは47キロ、北朝鮮通川までは33キロだ。韓国側がはるかに広い海を緩衝水域として譲歩し、公平性を欠いている。 …北朝鮮は今回の合意で南北基本合意書でも認めたNLLの無効化を図る可能性もあると、キム・ジンヒョン元海軍少将は指摘した。
最も深刻な項目は空中敵対行為の中止だ。合意で南北は東部地域はMDLを基準に15キロ、西部地域は10キロ内の空域に無人機を飛ばさないことにした。ところが韓国軍は前方の無人機で北朝鮮軍の動態を監視する。…特に首都圏を脅かす北朝鮮の長射程砲に関する情報は完全に得られなくなる。米国への情報依存がさらに強まる。…
空中敵対行為の中止は東部はMDL40キロ以内、西部は20キロ以内の空域で固定翼航空機の飛行も禁止する。禁止空域内では戦闘機の空対地誘導武器射撃など実弾射撃訓練が禁止される。この基準に直ちに適用される航空機は北朝鮮軍を映像撮影する空軍の金剛偵察機と戦闘機だ。…
漢江(ハンガン)河口の共同利用に関する合意内容は、「漢江河口約70キロ区間で南北民間船舶の自由な航行を保障する」ものですが、上記9月21日付中央日報・日本語版WSは、次のように極めて批判的に解説しています。
国防部はこの水域で骨材(砂)採取、観光・休養、生態保全などを推進すると説明した。しかし北朝鮮軍が民間に偽装して侵入するのを防ぐ方法がなく、北朝鮮の海産物などを海上で積み替えても対応できないという。この水域は国連司令部所轄区域だが、国連司令部との協議がなかったため問題発生の余地がある。また南北は海州(ヘジュ)直航路と北朝鮮船舶の済州海峡通過を許容する案を近く議論する予定だ。北朝鮮船舶の済州海峡無害通航は北朝鮮が「天安」爆沈などの挑発をしたことで禁止した事案だ。済州海峡通航を許容するには「天安」爆沈に対する北朝鮮の謝罪がなければいけない。
軍事問題に素人を自認する私でも、以上のような内容の合意書に対してはアメリカが黙っているはずはないと思いつきます。9月20日付の中央日報・日本語版WSは次のように指摘しています。文在寅政権に対して批判的な立場の中央日報の記事であることを踏まえつつ、この記事が指摘する問題点は踏まえておく必要があると思います。
「9月平壌共同宣言」と「板門店宣言履行のための軍事分野合意書」が採択されたことを受け、韓米軍事同盟における変化が避けられなくなったとの分析が出た。相互不可侵や敵対行為の禁止などの平和保障内容が今回の合意の骨子である以上、韓米軍事演習の名分が弱まるほかないというのがその指摘だ。
まず、暫定的に中断されている韓米合同軍事演習が今後再開される時に論争が予想される。米国の合同軍事演習中断は全面的に非核化を前提にした措置だったが、北朝鮮が今回の合意で非核化よりも軍事的緊張緩和を前面に出して韓米軍事訓練に異議を唱える場合、韓国が米朝の間で板挟みになる境遇に転落する可能性がある。…
南北軍事分野合意書に明示された内容が、韓米連合司令官を兼ねる在韓米軍司令官が司令官を務めている国連軍司令部の同意がなければならない点も問題だ。非武装化が約束された共同警備区域(JSA)はもちろん、共同利用水域に設定された漢江河口地域と飛行禁止区域に指定された軍事境界線上空は国連司令部管轄地域だ。国防部当局者は「国連司令部と相当な回数の対話を重ねた」とし「JSAの非武装化に関するだけでも国連司令部と52回ほど話をした」と伝えた。しかし、この関係者は「国連司令部からの同意を受けた」という話はしなかった。…
国連軍司令部が積極的に応じるかどうかは未知数だという見通しが出る理由だ。停戦協定を管理する国連軍司令部の活動領域縮小が、北朝鮮の終戦宣言圧迫に利用されかねないためだ。…
<朝鮮半島非核化(第5項)>
 宣言第5項に関しては、朝鮮から帰国直後に文在寅が「国民向け報告」で述べた内容について、9月20日付のハンギョレ・日本語WS所掲のイ・ジェフン先任記者の以下の解説付き報道が参考になります。特に、文在寅と金正恩が「議論した内容の中に合意文には入れなかった内容もある」と発言していることが要注目です。なお、同日付の聯合ニュースによれば、文在寅は、「金委員長はまた、非核化の過程を迅速に進めるため、ポンペオ米国務長官の訪朝と、トランプ大統領との2回目の朝米首脳会談が早期に行われることを希望するとの意向を明らかにした」、「このように北がわれわれと非核化の具体的な方策について真剣に相談するのは、これまでとは大きく異なる」とし、「これまで北は完全な非核化の意思を表明する以外に、具体的な方策については米国と協議する問題としてわれわれとの協議を拒否していた」とも述べたそうです。
 私が文在寅発言の中で特に注目するのは、「北朝鮮と米国の間で互いにバランスよく行われなければならない」として、朝鮮の非核化先行に固執するアメリカの立場と一線を画し、アメリカに対して「易地思之」(私もはじめて知った言葉ですが、これは正に他者感覚に他なりません)の必要を説いていることです。
 ちなみに今回の合意書で、「米国が6・12朝米共同声明の精神に従って相応措置を取れば寧辺核施設の永久的廃棄のような追加的措置を引き続き講じていく用意がある」とある「相応措置」とは、韓国3紙が指摘しているとおり、南北米(あるいは南北米中)による「終戦宣言」にアメリカが応じることであることは間違いないでしょう。
 文在寅大統領が「北朝鮮が『9月平壌共同宣言』で使った『寧辺(ヨンビョン)核施設の永久的廃棄』という用語は、結局(米国が要求してきた)検証可能な不可逆的廃棄と同じ意味」だとし、「金正恩国務委員長は非核化プロセスを早く進行させるためにポンペオ長官の訪朝とトランプ大統領との2回目の首脳会談が早期に開かれることを希望するという意向を明らかにした」と話した。
 20日午後、2泊3日の「平壌首脳会談」の日程を終え‥た直後にソウルの東大門デザインプラザ・プレスセンターで行った「国民向け報告」と記者会見で、文大統領は「(金委員長と)議論した(非核化関連)内容で、合意文(平壌宣言)には入れなかった内容もある」として、このように明らかにした。
 文大統領は「(金委員長と)膠着状態に置かれた朝米間の対話再開と対話促進方案について多くの議論をした」として「今後、私が米国を訪問し(現地時間24日)トランプ大統領と首脳会談をすることになれば、その時に詳細な内容を伝える計画」と話した。
特に文大統領は「金委員長は可能な限り早い時期に完全な非核化を終え、経済発展に集中したいという希望を明らかにした。金委員長は確固たる非核化の意志を重ねて確約した」と伝えた。さらに、「私は米国が北朝鮮のこのような意志と立場を易地思之(相手の立場になって考えること)し、北朝鮮との対話を早期に再開することを希望する」と述べた。
さらに文大統領は、金委員長が「寧辺核施設の永久廃棄の用意」を明らかにしたことを重ねて想起させ、「ならば米国の方でも、また我々(韓国)としても、北朝鮮に対する敵対関係を終息させていくための行動を取る必要がある」と明らかにした。 さらに「そのような処置が北朝鮮と米国の間で互いにバランスよく行われなければならない」と強調した。
文大統領は「敵対関係の終息」に進む代表的な初期の相応措置として、再び「年内に終戦宣言」案を提示した。文大統領は「終戦宣言は敵対関係を終息させようという一つの政治的宣言であるため、そのような信頼を北に与えられる案」だと強調した。さらに「我々は年内に終戦宣言を目標にしている」とし、「トランプ大統領と首脳会談の際、その内容を再び論議するつもりだ」と明らかにした。…
 つまり、文大統領は金委員長と2泊3日間の「虚心坦懐な対話」を通して、大きな枠組みで「2回目の朝米首脳会談→年内に終戦宣言→寧辺核施設の永久廃棄処分と追加核廃棄+韓・米などの(追加)相応措置」などにつながる「非核化・相応措置プロセス促進策」を提案したということだ。