21世紀の日本と国際社会 浅井基文Webサイト

米英仏によるシリア攻撃の可能性(ロシアの警鐘)

2018.09.02.

シリアのアサド政権は今や国土の約60%を支配下に収めるまでになったといわれています。残りの国土のうち約25%はクルド人武装勢力(背後にはアメリカの支持がある)が支配していますが、7月31日のコラムで書きましたように、クルド人武装勢力は、アメリカがトルコとの関係にも配慮していることを不満として、アサド政権との交渉・対話の道も開いていると伝えられています。そういう背景のもと、アサド政権はロシア及びイランの全面的支援のもと、あくまで政権に敵対的態度で臨んでいる、シリア北西部のイドリブ州(人口300万人)を支配するテロリスト勢力(主力はかつてアル・ヌスラ戦線と称し、現在はタクリル・アル・シャム(8月31日のロシア・シリア外相会談後の共同記者会見におけるラブロフ外相発言。シリアのムアレム外相はthe Jabhat Fateh al-Sham Takfiriと指摘)を名乗っている)に対する掃討作戦に乗りだそうとしています。
国連のシリア特別代表であるデ・ミストラは8月30日、国連はイドリブ州のテロリスト勢力は約1万人程度と推定しているとし、シリア政府軍の攻撃に対して化学兵器を使用する可能性があると指摘して、彼らを打ち破る必要があると表明しました(8月31日付イラン放送英語版WS)。デ・ミストラが本当にこのような発言を行ったのかどうかについては、現在段階ではまだ確認できていません(彼は従来、西側諸国や反イランのアラブ諸国にも配慮する傾向があります)が、仮にこの発言が事実であるとすれば、これから紹介するロシア側の主張を認めていることを示すもので注目されます。
 8月31日のロシア・シリア共同外相記者会見の席でロシアのラブロフ外相は、シリアはその主権を守り、領土に対するテロリストの脅威を根絶する権利があると指摘した上で、政府軍との対話の用意を示しているグループとあくまで対決しようとしているヌスラ戦線とを区別して扱う必要があると指摘しました。同外相はまた、この作戦は、数年に及んだ同国の危機及び全領域を解放する上での「最後のステップ」だと指摘した上で、それが故に米英仏3国は、政治解決プロセスを阻止し、ヌスラ戦線を支持するために、テロリストが科学兵器を使用した場合に、それをシリア政府軍の使用と決めつけて、シリアに対する攻撃を辞さないとしていると非難しました。
 8月29日、国連のグテーレス事務総長は声明を出し、シリアにおいて発生する可能性がある全面的軍事行動に対して「深刻な懸念」を表明し、シリアにおける化学兵器の使用は受け入れられないとし、シリア政府及び関係者が自制を保ち、人身の安全保護を優先することを呼びかけました。同日の定例記者会見で、グテーレスが指摘した化学兵器使用に関する情報ソースについて聞かれた国連事務総長の報道官は、事務総長がこの声明を出したのは人道的災難の可能性について関心を表明しただけとのみ答えました(以上、8月31日付新華社WS)。ただし、上記デ・ミストラ発言が事実であるとすれば、国連事務当局は、テロリストによる化学兵器使用をシリア政府軍の仕業と断定することで発動される米英仏によるシリアに対する軍事行動を間接的に牽制したものと解する余地があります。
 以上の事実関係を踏まえれば、8月30日に行われたロシア外務省の定例記者会見におけるザハロワ報道官の以下のブリーフ(要旨)は、ホワイト・ヘルメットとテロリストの共謀によって化学兵器事件が起こされ、それをシリア政府軍の仕業と決めつけた米英仏がくり返しシリアに対して軍事行動をとってきており、今回もまたそれがくり返されようとしているという、深刻な内容を指摘していることが分かります。日本を含む西側の報道はこれまで、ホワイト・ヘルメットを中立の国際NGOとする前提の下、彼らが発出する情報をすべて「真実」として垂れ流してきていますが、ホワイト・ヘルメットそのものがアメリカ、イギリスなどによって作られ、資金的に支援されている、きわめていかがわしい組織である可能性が高いことが分かります。
 ちなみに、9月1日付の人民日報は、シリア駐在記者・李瀟による現地報告「シリア「核兵器問題で新たな駆け引きが始まっている」を掲載していますが、その内容は明確に断定することは避けながらも、ロシア側の主張通りに米英仏が行動していると、李瀟が判断していることを強く匂わせるものでした。なお、私がチェックしてきたホワイト・ヘルメットに関する中国の記事としては、4月18日付人民日報所掲「ホワイト・ヘルメットの真相」及び同月21日付国防部WS所掲張君蘭署名文章「ホワイト・ヘルメットは実は「サクラ」」(注:「サクラ」とは客引き役のこと)があります。ともに様々な資料に基づいて書かれている文章です。前者では「(ホワイト・ヘルメットは)テロリストとの付き合いがきわめて深い」という指摘が、また後者では「この組織の創始者であるJ.ハイマンスは元イギリスの情報員だった。関連資料によって明らかなように、この組織は西側諸国から大量の資金を得ており、また、CIA、イスラエル情報機関、シリア反対派諸組織と深い関係がある」という指摘があります。うさん臭い存在であり、日本を含む西側メディアがこの組織初の「情報」をそのまま垂れ流してきたことに重大な問題があることは間違いないと思われます。

シリアに関するアップ・デート
 ロシアは、シリアが国内におけるテロリストの一掃並びに真の政治プロセス、経済回復及び国外及び国内避難民の帰還を含めた重要で積極的なブレークスルーの軌道に立っていると確信している。…
 残念なことに、シリアに暗雲が再び覆おうとしている。すなわち、アメリカは西側同盟諸国とともにシリアに対する軍事攻撃を行おうとしている。彼らはこれまでに使ったモデルをくり返すことになんらの痛痒も感じていない。そのモデルとは本年4月及び8月に使われたものだ。すべては、「アサド政権」が化学兵器を使用しようとしているという主張及びそれを妨げる必要があるとする予防的声明に始まっている。その後に続くのは本当またはニセの化学兵器による攻撃だ。最後にシメとして、シリア軍及び他の場所に対する攻撃が行われる。以上のプロセスがまた始まっている。予想できるのは毒々しい、メディアの一斉キャンペーンが続くだろうということだ。ロシア軍からのデータ及び8月27日のロシア国防省ブリーフは、以上の仮説が根拠のないものではないことを証明している。…このようなことは、シリア問題の解決だけではなく、世界の安全保障に対しても大きな打撃となるだろう。このようなやり方で火を弄ぶことが常態となれば、予想もできない結果を招くだろう。
 ロシアの提起に基づき8月28日、安全保障理事会でこの問題が議論された。不幸なことに、参加国はそれぞれ相反する見解を表明した。仮にコンセンサスには達しないとしても、重大なときには最低限相手の言い分には耳を傾けることが絶対に必要だというのに、みんなが自分の立場に固執した。
 ロシアの立場をくり返すならば、いかなる化学物質の使用にも絶対に反対であるとともに、シリア政府及び軍が化学兵器による攻撃を行ったという念入りに作り上げた、間違った非難にも絶対に反対だということだ。シリアは2014年及び2015年に、アメリカを含む国際的査察のもとで化学兵器を全廃したので、化学兵器による攻撃を行う能力はない。…
シリアの女の子によるツイッターでのブログ
 約一カ月前、女の子の名前を使った宣伝計画がツイッターでまたもや始まった。その女の子の名前はハラで6才、イドリブ(浅井注:前記したように、シリア軍が軍事行動をとろうとしている州)在住だ。ハラは世界に対して、「イドリブに注目して」、「子どもを殺すことをやめて、空爆はやめて」と呼びかけている。フォロアは約350名だが、興味深いのは、BBC、ハフィントン・ポスト、バズ・フィード、ラディオ・リバティが含まれていることだ。…これこそがまがいのないプロパガンダだ。…
 今何故このアカウントが出現したかは明らかだ。…アレッポ解放作戦のさなかにも、バナ・アル・アベッドというシリアの女の子のアカウントが現れたことはみんなが覚えている。この子も英語で120に上るツイートを発信した。…今はハラがバナの役割を引き継いだということだ。ハラはまだそれほど発信していないが、発信されたもののほとんどはバナの書いたもののカーボン・コピーだ。ほとんど同じ表現だし、トピックも似ている。挑発、仕組まれた攻撃そして更なる攻撃というシナリオが実行される場合、ハラのアカウントが中心的舞台になっても驚いてはいけない。明らかにこれはそのために仕組まれている。ハラのブログがシリア政府による一般市民に対する「化学兵器による攻撃」を証明する根拠となる可能性は排除できない。
 前例がある。東ゴータの生活の惨状をツイートし、アサド大統領を告発した15才の男の子モハメド・ナジェムだ。…どれだけの数の子どもがホワイト・ヘルメットの製作に利用されたことか。最悪なことは、このことが起こっているということではなく、それが仕組まれて起こっているということ、そして西側のメディアでそのことに立ち入って調査し、真実を明らかにしたものはゼロだということだ。…子どもたちを利用して利己的な目的を達成しようとし、汚らわしい政治的演出を行うというのはさらに許せないことだ。…