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韓国青年層の「保守化」?(世論分析)

2018.08.13.

日本における青年層の政治的「保守化」傾向は各種世論調査で明らかになっています(安倍政権に対する支持率の高さ)が、韓国でも若者世代の「保守化」に関する議論が盛んに行われているようです。特に、韓国の若者世代の朝鮮に対する態度が「冷淡」であることが「保守化」の根拠として指摘されています。
 8月16日付のハンギョレ・日本語WSは、高麗大学平和民主主義研究所のペ・ジンソク教授が発表した「対北朝鮮及び安保政策評価の世代及び理念要因」と題する論文を紹介して、「朝鮮に対する態度」だけを基準にして「保守」か否かを判断することは正しくないとする分析結果を紹介しています。この分析結果自体も興味深いですが、私がそれ以上に関心を抱いたのは、同じ「保守化」という用語が用いられていても、その意味は日本と韓国ではまったく違うという事実でした。端的に言って、日本の若者世代は安倍政治そのものを無批判的に受け入れている意味でホンモノの「保守」ですが、韓国の若者世代は、新自由主義市場経済のもとで就職難に直面して「成長より福祉優先政策を支持する」、政治の現状に対する批判姿勢を併せ持っているわけで、「若者世代は自らを保守的だとは認識しない。主観的理念評価では彼らは自らを以前の世代より進歩的と認識している」のです。彼らが「ろうそく革命」の担い手であった事実に鑑みても、日本の若者と韓国の若者を同じ「保守」で括ってしまうのはまったく見当外れであることを再認識した次第です。

「自分は保守なのか進歩なのか?」…青年と中壮年はこのように違った
 2月の平昌冬季五輪女アイスホッケー南北単一チームに対して、若者世代が見せた冷淡な反応をどのように見るべきか?
 よく言われるように、若年層が保守化して民族意識が弱まった結果と見るべきだろうか。高麗大学平和民主主義研究所のペ・ジンソク研究教授は、最近発表した「対北朝鮮および安保政策評価の世代および理念要因」という論文で、若者世代の対北朝鮮認識と統一に対する反応を逸脱的態度として規定したり、保守政権10年の余波で統一教育の不行き届きの結果と見るのは、党派的アプローチだと批判した。ペ教授は、昨年の大統領選挙世論調査結果を基に、対北朝鮮・安保政策で世代と理念が作動する構造を分析して、世代亀裂という側面から南北単一チーム構成過程で見られた若年層の批判的反応の背景を説明した。
 平昌冬季五輪南北単一チームの構成過程で公正性論議がふくらんだ後、若者世代が保守化したという議論が盛んに行われた。多くの研究が20代を中心とした若者世代の特性として、北朝鮮に対する否定的認識を挙げた。これらの世代が以前の世代とは違い、当為論的統一認識から抜け出したということだ。個人の利益を重視する若い世代が、統一以後の社会衝突や経済的得失など利害関係を勘案し、その結果として消極的・否定的な統一認識を持つようになったという分析も出てきた。
 ペ・ジンソク教授は「北朝鮮に対する態度により区分された既存の進歩-保守のアプローチ方式によれば、若年層が保守化したと見ることができる」と話した。彼らは自主国防の代わりに韓米同盟の有用性を強調し、核とミサイル実験を強行する北朝鮮には交流協力が必要ないという認識に同調している。
 ペ教授は「世論調査の結果を見れば、本来若者世代は自らを保守的だとは認識しない。主観的理念評価では彼らは自らを以前の世代より進歩的と認識している」と話した。東アジア研究院の2017年大統領選挙直前パネル調査を見れば、70年代、80年代、90年代生まれの半分以上が自らを進歩的と評価した。
 若者世代と以前の世代は、政治社会化の過程が違うので、進歩-保守理念指向を決める要因も違うという研究結果がある。民族主義言説の影響を受けた中壮年世代は、北朝鮮に対する認識で自身の理念を規定するが、若者世代は北朝鮮に対する態度では規定できないということだ。ペ教授は「雇用なき成長時代を生きる若者たちは、北朝鮮に対する態度の代わりに分配と成長など福祉に関する態度で自身の理念を規定する傾向を見せる」と話した。対北朝鮮強硬策を支持するが、就職難などに苦しんでいるため成長よりは福祉優先政策を支持する青年進歩有権者の出現がおかしくないということだ。
 ペ教授は「平昌五輪女子アイスホッケー南北単一チームに対して見せた若者層の批判的反応は、若者世代には福祉拡大と理念、南北交流協力の間の関係が他の世代と異なる形で作動した事例」と説明した。壮年世代では対北朝鮮政策と理念指向の間の相関関係が高いが、若者世代は相関関係が低いということだ。
 東アジア研究院のパネル調査によれば、対北朝鮮交流協力とTHAAD(高高度防衛ミサイル)配備はさまざまな意見の組合わせが見られた。回答者1091人中「南北交流協力支持-THAAD配備反対」(組合わせA)という典型的進歩見解が33.3%、「対北朝鮮強硬策支持-THAAD配備賛成」(組合わせB)という典型的保守見解は36.5%だった。また「交流協力支持-THAAD配備賛成」(組合わせC)が21.3%、「対北朝鮮強硬策支持-THAAD配備反対」(組合わせD)が9%だった。対北朝鮮政策、安保領域で、既存の進歩-保守観点と衝突する態度の組合わせ(30%程度)が存在することが分かる。
南北関係およびTHAAD配備に対する年齢帯別賛否分布//ハンギョレ新聞社
 組合わせC(交流協力支持-THAAD配備賛成)は、70年代以前の出生者の比率が26.9%で最も高かった。組合わせD(対北朝鮮強硬策支持-THAAD配備反対)は、70年代以後の出生者の比率が16.9%で最も高かった。70年代以前の世代と70年代生まれは自身の理念評価が進歩的であるほど交流協力政策を支持するが、若者世代はそうではなかった。
 組合わせCとDでは、理念の影響力が消えた代わりに、年上であるほど南北交流協力政策を支持し、THAAD配備には賛成した。年齢が低いほど対北朝鮮強硬策を支持しTHAAD配備には反対していることが明らかになった。伝統的な保守-進歩政策が混在し、理念の影響力が消えた空間で年齢効果がこれに代わったわけだ。
 興味深いのは70年代生まれだ。この世代は他の世代とは違い、2002年の大統領選挙から昨年の大統領選挙まで都合4回の大統領選挙で主観的理念認識に大きな変化はなかった。北朝鮮の核実験などで過去5年間、他の年齢帯の対北朝鮮交流協力支持率が急落したこととは違い、70年代生まれの交流協力支持率には大きな変動がなかった。70年代生まれはそれ以前または以後の世代より対北朝鮮交流協力政策をさらに支持し、THAAD配備には賛成しない態度を見せた。70年代生まれは長期的に安定した主観的理念認識を維持していて、対北朝鮮政策評価に及ぼす理念の影響力が大きい。これが70年代生まれが他の世代に比べて対北朝鮮交流協力政策支持が高い背景だと推論される。
 ペ・ジンソク教授は「北朝鮮に対する態度が韓国社会で左と右、または進歩-保守区分の最も有用で確実な定規という既存の主張は、世代分化により再検討する必要がある」として「北朝鮮問題が理念衝突と重なって、世代間の差異として表出されたが、その表出の様相は全く同じではなく年齢帯別に異なっている」と主張した。
クォン・ヒョクチョル・ハンギョレ平和研究所長