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トランプ政権の対トルコ・アプローチ(環球時報社説)

2018.08.13.

私が皆目見当が付かないのがトルコのエルドアン大統領の外交戦略・政策です。しかし、8月13日付の環球時報の社説「アメリカ 同盟国・トルコを滅多斬り」を読んで、自分の中の先入主(エルドアンは中東の大国として独自外交をしようとしているという思い込み)がそもそも間違っている可能性が大きいことに気付かされました。まさに「コロンブスの卵」ですが、エルドアンはアメリカ・トランプ政権の深謀遠慮のない対トルコ政策によって、伝統的なトルコ外交の基調を修正することを余儀なくされようとしているという性格が強いらしいということです。
 この環球時報社説はまた、トランプ外交の危険極まりない本質(アメリカが世界の金融システムに対して絶対的支配権を握っていることをいいことに、世界経済がどうなるかは眼中になく、ひたすらアメリカ第一主義を追求している)をも鋭く指摘しています。8月12日付の「国是直通車」という中国のニューズWSによれば、トランプ大統領の容赦ない対トルコ政策(直近のものは、トルコの鉄鋼アルミ製品に対する更なる関税率引き上げ)によってトルコ・リラの国際相場が大幅に下落(本年に入ってからの下落率は40%以上)し、トルコ経済の前途に悲観的な見方が広がっています。そして、トルコに対して融資をしている欧州諸国(特にスペイン、イタリア、フランス)の諸銀行は、トルコが対外債務不履行に陥ることになると甚大な損失に直面する可能性が生まれているというのです。このままでいくと、世界の株式市場にも影響を及ぼしかねないと警告しています。トランプ政権のやりたい放題は世界全体に対する不安定要因としての性格を露わにしつつあるというのが環球時報社説の警告だと私は理解します。
 以上の2点を踏まえつつ、社説(要旨)を紹介します。

 アメリカとトルコの関係に新たな動揺が出現している。トランプは10日、トルコから輸入する鉄鋼及びアルミに対する関税をさらに倍にするとツイートし、アメリカとトルコの関係は良くないと述べた。このツイート後、トルコ・リラの対米ドル相場は一気に18%下落し、2001年のトルコ金融危機以来、一日としては最大の下げ幅となった。エルドアンは現在の危機は「経済上の敵(=アメリカ)に対する国家の戦争」と怒りを込めて述べた。
 トルコは中東におけるアメリカの重要な同盟国であり、NATO唯一のイスラム国家であり、国土は欧州及びアジアをまたぎ、しかも黒海と地中海の間を支配する唯一の通路でもある。トルコはまた、工業化が進んだ中東地域でもっとも世俗化したイスラム国家であり、いかなる戦略学の専門家でも、アメリカにはトルコを放棄する理由はあり得ないとしてきた。
 ところが今、「アメリカ第一主義」を公言するアンクル・トムがこれまでのやり方を大幅に変更し、トルコほどの同盟国に対しても刀を振り上げ、しかも痛めつけているのであり、トルコの通貨と経済は血まみれになっている。  アメリカとトルコとの仲違いは2016年に始まった。その年、トルコではクーデター未遂事件が起こり、トルコはアメリカに在住するイスラム精神的指導者・ギュレン師がクーデターを企てたとし、その引き渡しをワシントンに要求したが、ワシントンは拒絶した。本年には、アメリカのブランソン牧師がスパイ活動及びテロの嫌疑でトルコによって拘束され、アメリカはその解放を要求したが、トルコは拒否した。
 往年の冷戦パラダイムは崩れ、同盟国の価値も変化してきた。アメリカは、同盟システムは維持しつつ、経済的には同盟国からカネを無心するようになり、中東政策もこれまでの枠組みを突き破り、損得ばかりにこだわり、その結果として、米土間における相互認識及び利益上の混迷が起こり、相互離間がますます大きくなってきた。  結局は、ワシントンが自信過剰となり、トルコの中東における役割も眼中になくなったということだ。ホワイトハウスは現在、冷戦期における中東の中心的同盟国をヨイショすることも面倒であり、あめ玉一つを与えることも出し惜しみ、「しつけ」という方法でムチを振り上げてアンカラを叩いている。
 アメリカと同盟国との間における中心的共通項は脅威に対して「一緒に防衛する」ということだったが、今のアメリカは「アメリカ第一主義」を公言し、「同盟国」の意味も、部分的にせよ、中小同盟国がアメリカの最大利益を実現するために貢献するということに変わっている。ワシントンは幾度となく、アメリカは同盟国の安全を守ってきたのだから、これら同盟国はそのツケを支払うべきだと表明している。ワシントンのロジックは、「関税を高くしてもお前らが何を騒ぐのだ、お前らに米軍駐留費用を担わせても当たり前ではないか」ということだ。トルコの戦略的重要性に関して言えば、今のワシントンはアンカラが恨みを抱くことをまったく恐れていない。アメリカはすでに宇宙軍創設を決め、世界に号令をかけるまでに強くなっており、同盟国に対しては、アメリカに媚びへつらう以外の選択はないと迫っているわけだ。
 トルコの鉄鋼及びアルミに対するダブル課税は、ワシントンがトルコだけを狙い撃ちしたものだ。これはトルコに対するお仕置きであるとともに、他の同盟国に対する、「どの国も自らの国益をアメリカの利益の上におくことはできない、トルコ・リラが一日で18%下落したのも自業自得だ」という警告でもある。
 アメリカの戦略的利己主義、アメリカがいったん形相を変えたときの強烈さに鑑みれば、経済にしても安全保障にしても、アメリカに頼りすぎることは危険だ。なぜならば、アメリカは国際金融システムを支配しており、他国の発展に対して特殊な面倒を引き起こすことが可能であり、このことは、世界各国がアメリカの覇権的支配を受けずに独立自主を勝ち取る上での難しさを増大しているからだ。
 トルコは、地縁的に欧州に近隣しており、経済的政治的に西側とがんじがらめの関係がある一方、ロシア及びイランと関係を改善し、中国の一帯一路を支持してもいる。トルコが自らの戦略的布石にしたがってやっていけるか否か、今後何が起こるかは、グローバルな意味合いを持つ大きな見どころである。