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中国の対米戦略アプローチ(環球時報社説)

2018.08.02.

環球時報の8月1日付社説「中米 戦略的対決? 次の世代に影響あり?」及び翌8月2日付社説「交渉は良い されどアメリカには依然誠意なし」は、中米貿易戦争の本質を21世紀における中米関係のあり方を再定義するものと規定しています。実に見事な本質規定だと、私は感服しました。
 それだけではありません。8月1日付社説が整理して提起した8点の対米アプローチのポイントは、他者感覚及び自己内対話能力なしにはありえない、彼我の実力関係を冷静に踏まえた、これまた素晴らしいという一言に尽きる提起です。
 また、8月2日付社説は米中貿易戦争を持久戦と規定し、かつての日中戦争における中国の最終的勝利の可能性を科学的に分析した毛沢東の「持久戦を論ず」を彷彿させる論法で、中国の最終的勝利を確言し、動揺する層に対して自信を持つように促しています。アメリカにひれ伏し、経済属国になることに甘んじきった日本政治の歴史的現実と比較するとき、このような歴史観、大国観を備え、我利我利亡者のトランプ・アメリカに対して確固として対峙しようとする中国の存在は、国際政治的、世界史的に見ても高く評価するべきだと思います。

<8月1日付社説>
 アメリカが貿易戦争を仕掛けてきてから、中国社会全体に、中米関係は長期的に下降し、さらには戦略的悪化が起こり、将来の世代の運命に影響を及ぼすのではないか、という懸念が次第に広がっている。中米関係はうまくいってもそこそこ、悪くいってもそこそこ、というのが中国人の長い間の認識だったが、現在の状況は真の変化が起こりつつあるかのようである。
 中米関係に「嵐来たらんと欲す」の原因としては様々な見方がある。客観的なものもあれば、イデオロギー的な感情的なものもある。国内の一定の政策に対する不満と中米関係悪化に対する恐れとが複雑に混じり合って、悲観とため息へと導き、アメリカと「対決しよう」という声とともにネットで拡散している。
 中米関係は確かに重大な挑戦に直面しており、貿易戦争の本質は、米中のパワー・パラダイム及び国際情勢全体の大変化を背景とした中米関係再定義のプロセスである。しかし、中米が全面的に対決する可能性はきわめて小さい。アメリカには中国の台頭を防遏する戦略的願望はあるが、同じく存在するのはアメリカ人の利益を最大限に実現するという現実的な追求であり、アメリカの対外政策はこの二つの傾向が合わさって形成される結果であることは間違いない。
 中国はすでに製造業におけるNo.1大国であり、最大の市場潜在力を有し、しかも核大国であるから、アメリカが単純に軍事的圧力で中国を防遏することはあり得ず、その防遏戦略は必ず21世紀に見合った「創造的スタイル」となっていくにちがいない。
 以上の状況のもとでは、中国は足元を固め、レジリエンスを保ち、盲目的自信に陥ってもいけないし、アメリカを恐怖することがあってもならない。我々は以下の数点を理性的にやり遂げるべきである。
 第一、戦略上は謙虚さと守勢を維持し、いかなる状況のもとでもこちらからアメリカを挑発せず、進んでアメリカに力をひけらかすこともしない。
 第二、アメリカの圧力に対しては断固として抵抗し、アメリカの無理放題を絶対に勝手にさせない。同時に、我が方の抵抗は対等の反撃の範囲を超えないようにし、過度の反撃は行わない。
 第三、中米間に軍事衝突が発生しないように最大限の努力を払う。そのためには以下の二つのことが必要だ。第一、中国軍は核心的利益にかかわるところ以外ではアメリカが反対する軍事行動を行わない。第二、核心的利益にかかわるところでは、我が方が引いたレッド・ラインを断固防衛すると同時に、強大な核戦力を含む戦略資産の開発のスピードを上げ、アメリカが中国の核心的利益にかかわるところで中国に勝負を挑むことを尻込みするようにさせる。
 第四、中国の核心的利益にかかわらない問題ではアメリカと協力を行い、アメリカと不必要に対決せず、アメリカの覇権的行動に対してはマルチの方式によって闘争を行う。
 第五、経済分野では、知的財産権を尊重し、中国産業の高度化とアメリカがハイテク分野での優勢を維持するという要求との間の関係を巧みに処理し、真剣にウィン・ウィンのモデルを探究し、この難題が爆発しないようにし、時間がこの難題を解決する知恵を生むようにする。
 第六、台頭する中国がアメリカに取って代わるあるいはアメリカを圧倒するのではなく、両国がゼロ・サムのゲームを打破する現実的方式を真剣に探究する。アメリカは、人口大国としての中国が最終的に経済的グロスでアメリカを越えるという趨勢を受け入れなければならず、中国は、アメリカが国際的トップのイノベーションのセンターであり、多くの分野で長期にわたり中国の前をいく可能性を受け入れるべきである。この関係を処理することは、中米戦略対話の核心的議題である。
 第七、中国は絶対にアメリカとの間でグローバルな地縁政治上のゲームあるいは戦略的競争を行わないが、アメリカの覇権主義に対しては是々非々の闘争を行い、中国の利益を守ることには一切ためらわない。
 第八、中国は自国が正常に発展する権利を絶対に放棄しないし、いかなる状況のもとにおいても、アメリカとの和を乞うために進歩をやめ、落後することに甘んじることはあり得ない。
 以上をまとめれば、中国は進んでアメリカに挑発することはしないと同時に、アメリカの防遏に対して中国がまかなう必要があるコストを高めるとともに、最大の誠意をもってウィン・ウィンのモデルを探究するということだ。かくすれば、アメリカにとって、中国と協力する吸引力は中国と対決する吸引力より大きくなり、中米関係は米ソ関係の21世紀におけるコピーとなることを避けることが可能になるだろう。
 中米貿易戦争は起こるべくして起こった衝突であり、双方にとって反省材料である。科学的で民主的な政策決定が世界的に支配的になりつつあることに鑑みれば、国家全体の命運をかけてバクチをするというリスクは大国にとっての現実的な政策とはなりにくい。中国の人々は、中国の国家的実力を信頼し、政府が複雑な局面を制御する能力を信頼するべきだ。我々は、中国が防遏される可能性がある臨界点をすでに乗り越えたし、いかなる勢力が我が国をやっつけようとするのも白日夢であると確信するべきである。
<8月2日付社説>
 ブルームバーグ通信社の報道によれば、中米は貿易交渉を再起動させ、全面的な貿易戦争が爆発するのを回避しようとしているという。情報筋によれば、アメリカのムニューシン財務長官と中国の劉鶴副首相が密かに会談しているとのことだ。しかし同時に、西側メディアによると、トランプは、アメリカ製品2000億ドルに対してかける税率を10%から25%に引き上げる準備をしているともいう。見たところ、トランプは硬軟両様で中国が最大限の譲歩を行うことを迫ろうとしているようだ。
 中米が話し合うこと自体は悪いことではない。しかしこれまでのところ、トランプ政権は明らかにまだ平等な交渉を通じて中国と妥協を達成する誠意はなく、引き続き中国に対して最大限の圧力をかけるというマンネリズムの中にある。アメリカが中国と交渉する目的も、中国に対する圧力の程度を推し測り、少しでも早く対中貿易戦争の成果を勝ち取ろうとするにある。
 中国にとって、アメリカと平等に交渉する立場は闘いとる以外にない。したがって、アメリカが対中姿勢を変えるままでは、貿易戦争の弾がさらに多く飛びかっても焦る必要はない。
 これは普通の貿易戦争ではなく、トランプとしては「アメリカ第一主義」の原則を確立する必要があり、貿易戦争は彼が全世界にかましているにらみ利かせなのだ。中米間についていえば、貿易戦争は両国にパワー・パラダイムと国際情勢全体がともに変化するもとで中米関係を再定義するプロセスであり、両国の貿易パワー、総合力さらには意志、求心力がこの再定義には関与してくる。
 中国にとって特に必要なのは冷静さであり、速戦即決という焦りは禁物であり、アメリカが簡単に旗を巻くという幻想は持つべきではないし、ましてやアメリカを恐れてはならないし、衝動に駆られてもいけない。我々が絶対に行ってはならないのは、貿易戦争の早期終結のために、アメリカに怖じ気づいたと見なされるような譲歩を行ってしまうことであり、そんなことをすれば、今後数十年にわたる中米関係のあり方を誤ることになる。
 中米関係の再定義は早晩必要となるものだ。アメリカのエスタブリッシュメントの中には強大な中国を受け入れないものがおり、彼らはアメリカには防遏によって中国の復興を終わらせる能力があると考えており、彼らは一貫して摩擦によってその能力を誇示し、かつてプラザ合意を受け入れた日本と同じように、中国がアメリカに経済的に依存する存在に成り下がることを迫ろうとしている。こういった野心が今回の貿易戦争に大きく入り込んで、その僥倖心を煽っている。
 中米貿易戦争が単なる経済上の利益の問題であるならば、解決は難しくはない。しかし、中米が交互に掛金を増やして闘い続けていくとすれば、この戦争はもはや貿易上の利益だけではなく、まがうことなく中米関係全体に対する総合的再定義ということなのだ。
 中国は発展し続ける権利があるのかないのか。我々はアメリカに臣属するべきなのか否か。ワシントンの指揮棒に従い、アメリカの利益に即して中国の経済運用モデルを再構成し直すべきなのか否か。さらに一言をもって尽くすならば、中国は経済主権の大部分をアメリカに引き渡すべきなのか否か。その答えが「ノー」であるならば、この決定を守り抜くために貿易戦争の苦痛を耐え忍ぶべきではないか。
 中米関係を再定義するために、アメリカ人にはすでに「犠牲を払う覚悟ができている」という者がいる。これは中国人の腰を抜かそうとする脅しだ。20世紀全体を通じて、アメリカ人の勝利はアメリカ工業の勝利であり、頼りにしたのは絨毯式爆撃だった。しかし、貿易戦争は市街戦であり、肉弾戦だ。トランプはほとんどのアメリカ人が彼に付き従うはずがないことを分かっており、そこで彼は市街戦が始まってしまう前に中国の都市を手にするカギを手に入れたいと思っているのだ。
 中米関係の艱難辛苦を極める再定義を、熱戦あるいは全面的冷戦を通じてではなく、貿易戦争を通じて行うということは、中国にとってあるいは最悪ではない選択かもしれない。なぜならば、中国の経済的及び貿易上の実力は中国にとって様々な実力の中でもっとも強いものであるからだ。我々としては早くに戦略デタランスを構築したことを感謝するべきだろう。そのために、中国の台頭をたたき壊そうと考えるアメリカのエスタブリッシュメントとしては経済貿易という土俵に上がるほかなかった。
 中国としては、中米関係の当面する激動に慌てふためく必要はない。アメリカは貿易戦争を開始し、終了させる主導権を握ってはいるが、貿易戦争開始後の戦術的支配権を持っているわけではなく、中国としては一致団結し、一時的困難を耐え忍べば、アメリカを震撼させる陣地防御戦を勝ち取ることができる。取るに足らない貿易戦争は中国の台頭をバラバラにすることは絶対にできないし、中国の若い人々の人生をバラバラにすることなどもっとできっこない。
 我々は冷静かつ確固として、今回の貿易戦争を持久戦として闘い、アメリカが平等な交渉を通じて双方の経済貿易上の争いを解決することに同意し、それをもって今後両国が平等な協議で問題を解決する模範例とするようにするべきだ。中国にはその日の到来を断固として待つだけの頑張り抜く力が備わっている。