21世紀の日本と国際社会 浅井基文Webサイト

21世紀における米中関係(環球時報社説)

2018.07.26.

トランプ大統領が「アメリカの敵は誰か」と自問し、「我々には多くの敵がいる。EUはその一つだ。EUは貿易についてそうだ」と言い、ロシアについては「いくつかのレベルでは敵だ」と言い、中国については「経済上の敵だ」と発言したことは、中国において21世紀の大国関係のあり方に関して改めて省察を迫る契機となっている観があります。7月8日のコラムで習近平外交の本質について、その最大のポイントが脱パワー・ポリティックスを目指すことにあることを指摘しました。しかし、トランプの赤裸々な権力政治を前にして、中国はこれと如何に向かい合うかという厳しい現実に直面するとき、「きれい事」だけを言ってはいられない状況もあるようです。
 もちろん、中国の公式的立場は一貫しています。7月20日の中国外交部の定例記者会見で、ホワイトハウス国家貿易委員会のナバロ委員長が19日、中国は貿易問題で他の国々との間でゼロ・サムの駆け引きに陥っており、アメリカは他の国々と協力して対処する必要がある、と発言したと紹介した記者がこれに対する中国のコメントを求めたのに対し、華春瑩報道官は次のように述べました。

 最近、アメリカ当局は白黒をひっくり返す荒唐無稽な発言をかなり行っているが、それは、アメリカが発動している貿易戦争に対する不安や反対を表明する国内の人々を慰撫する必要に基づくものだと理解はする。しかし、ナバロ氏がアメリカの貿易政策で重要なポジションにあることを踏まえ、その間違った発言がさらに多くの人を間違った方向に導くことを防止するため、ピンポイントで答える必要がある。
 まず、冷戦思考を卒業し、唯我独尊にならず、勝つか負けるかというゼロ・サムの駆け引きを行わないということは、中国が一貫して大いに唱えてきたことだ。「人類運命共同体構築推進」はすでに中国共産党章程及び中華人民共和国憲法に前後して規定されている。相互尊重、公正正義、合作共贏の新型国際関係の建設推進、人類運命共同体構築推進は、中国外交が追求する総目標だ。我々は、義利相兼、以義為先の正しい義利観及び真実の親誠理念を堅持し、途上諸国と団結合作し、終始一貫して途上諸国の信頼できる友人そして親誠なパートナーとなって、途上諸国の高い賞讃を得ている。
 第二に、多くのアメリカ企業は、急速に成長する中国の経済及び膨大な消費市場のおかげで、中国市場で膨大な利益を上げている。中国はアップル及びGMの最大の消費市場である。2017年、GMはグローバルでは109.8億元の赤字だったが、中国における2つの合弁企業は133.3億元の利潤をあげた。クアルコムの中国での販売はその全営業収入の58%を占める。アップル7の価格は最低が649ドルだが、中国における加工コストは1%にも満たない。中国がアメリカに輸出する450ドルの背広については、中国とアメリカが得る利潤はそれぞれ5%と84%だ。アメリカはこれらの数字をどう解釈するつもりなのか。これらの数字も、アメリカは中米経済貿易関係において損をしており、中国はアメリカとゼロ・サムの駆け引きを行っている例だとよもや考えるのではあるまい。
 第三に、国際関係におけるアメリカの振る舞いにせよ、アメリカ当局がどう言い、どう行動しているか、世界各国がそれをどう見ているか、多くの人がどう見ているかは明らかだ。もちろん、アメリカには自分の想像世界にこもってしまって一気には脱け出せないものもいるだろう。しかしアメリカは、自分は他人を棒でみだりに殴るくせに、他人が自衛することは許さないし、自らの門は閉じておきながら、他人には無条件で門を開けろと要求する。国内政治の必要と利己心に基づいて、自国の利益を他国の利益及び国際ルールの上におく振る舞いは、世界に対してきわめて生々しく深刻な教訓を与えている。多くのアメリカ人とアメリカの同盟国・友邦国が、アメリカは今や世界最大の不安定かつ不確定要因になったとし、アメリカの一国主義及び保護主義が今日の国際ルール及び世界経済秩序に対する最大の脅威となっている、と直言して憚らないことに我々は留意している。
 やはり、人を知る者は智、己を知る者は明、という言のとおりだ。もう一言加えるならば、乱に勝る害はなし。アメリカは今日の世界におけるNo.1大国だ。アメリカが行う政策及び言行は最低限の責任感を持つべきであり、世界の「治」に利するべきであって、「乱」に利するべきではない。
こうした中、トランプだけではなく、アメリカの主流メディア、エスタブリッシュメントからも、今日の米中関係を冷戦的発想(=ゼロ・サムのパワー・ポリティックス的発想)で捉える傾向が増大していることに対して、中国国内ではこれに如何に対処したら良いのか、如何に対処するべきなのかについて、深刻な問題意識が提起される状況になっています。
私自身は、いわゆる「トランプ現象」はアメリカにおいて長続きするものではなく、したがって、トランプ政権及びその支持層が喧伝する攻撃的政策・言論に対して過度に反応する必要はない(いずれ収まるべきところに収まっていく)と考えるので、中国の反応はいささか過剰という印象もあります。しかし、トランプ・アメリカの攻撃の矢面に立たされている中国としては過剰に反応するのも無理からぬことかとも思う自分もいます。そういう問題意識の代表格として、また、中国当局の発想をもある程度反映するものとして、2つの環球時報社説(要旨)を紹介しておきたいと思います。
<7月17日付「誰が敵で友か 大国関係は乱れたのか」>
 大国関係の現実的中身は確かに変化している。例えば、中米関係や中欧関係がいかなる性格なものかについては、伝統的な大国関係の経験からは解釈することがきわめて難しい。露米関係及び露欧関係に関しても、人々が慣れ親しんだ古いステレオタイプからは大いに違ってきている。中米貿易戦争が一体いかなる性格なものになるかについては、今後の展開を待って検証する必要がある。
 各国において先見性を自負する者たちは、現下の大国関係について我先にと性格規定を行っている。しかし、想像力が乏しいために、伝統的な地縁政治学的影響は至るところで顔を出す。例えばアメリカでは、中米関係をゼロ・サムの闘いと見る勢力はきわめて大きく、中米はライバルと決めつける考えは今やアメリカの正式の国家戦略の中にも反映されている。…
 大国関係の現実は、古い経験の基礎の上に立った思考方式に不断に挑戦しており、大国の利益のパラダイム及び実現の方法はもはや冷戦期とは同日に論じることができない。経済発展は、先進国を含むすべての国家にとっての最大の利益であり、国家の安全保障という概念の中でもますます前面に出てくる要素となっている。この点を見て取ることができないもの、あるいは経済発展の基本的道筋を誤って認識する者は必ず損をすることになる。
 トランプのもとでのアメリカは、世界に対して強烈な損失感に陥っている。トランプは中欧露すべてがなんらかの意味でアメリカの敵であると考え、アメリカ人に対して、全世界はアメリカに借りがあると思い込ませようとしている。ワシントンは世界を弱肉強食の時代に引き戻そうとしているがごとくであり、そうなれば、最強の大国を率いて世界を大掃除し、これまでのすべての国際ルールを超越した覇権を樹立できるというわけだ。
<7月22日付「中米を冷戦に押しやることは21世紀最大の犯罪」>
 アメリカCIAのマイケル・コリンズは20日にあるフォーラムで、中国は今アメリカと「密かな冷戦」を行っていると発言した。彼によれば、これはかつての米ソ両陣営による冷戦とは違うけれども、中国は多くの戦線でアメリカの地位を破壊しようとしており、その目的は中国がアメリカに取って代わろうということにある。‥同じフォーラムでアメリカ連邦調査局局長のクリストファー・レイは、中国は多くの点でもっとも重大な脅威であると表明した。
 中国に対するアメリカの規定は絶えず過激になる傾向にあり、今やヒステリー気味ですらある。中国を「敵」として描き出すことはますます大っぴらになり、次第に政治的権威を帯びるようにまでなっている。…
 まず、中国がアメリカの地位を破壊し取って代わろうとしていると言うが、そこで言う「中国」とは誰を指しているのか。中国当局か、それとも中国社会か。中国当局の文献でそのようなことを指摘したものは皆無だし、中国共産党内部でもそのような目標を立てたことは絶無だ。中国の民間においては、アメリカと敵対しろという主張が主流になったことはまったくないし、官から民に至るまで、中国の総合国力が直にアメリカを越えると考えるものはごく少数であり、中国のある分野での力がアメリカを追いこしたと宣伝するものが稀にあったとしても、世論の嘲笑の的になるのが普通だ。
 中米協力を極力維持したいというのが中国社会の普遍的願いであり、中国の対米外交の一貫した政策でもある。アメリカが中国に対して貿易戦争を発動しても、中国は国際的慣例を堅持するもとで断固対抗する状況だが、一貫して留意しているのは事実に基づいて事に当たるということであり、進んで貿易摩擦を他の分野に拡散するということはやらない。中米間に多くの問題があることは明確に認識しているが、これらの問題を適切にコントロールするということが我々の願いだ。
 近年における中米間の摩擦及び紛争をふり返れば、例外なくアメリカが難癖をつけ、中国が対応に迫られているものばかりだ。中国は、既存の国際秩序に溶け込むことに対して一貫して積極的に臨んでおり、中米間の現在のもっとも激越な経済貿易上の衝突も、アメリカが主導して定めてきたもともとのルールの上で発生したものだ。中国は、現有世界秩序の外で何かをやらかそうとは考えていない。
 中国の真の「罪」とは経済が発展してきて、中国の経済発展そのものがアメリカの脅威とされてしまい、コリンズのような当局者が対米冷戦として描き出すことにある。こうした連中は度量が狭いだけではなく、想像力及び判断力にも欠けており、「冷戦」というもっとも俗っぽい言葉をもって中米間の歴史において見たことがない特別な大国関係を描き出そうとしているのだ。
 アメリカのエスタブリッシュメントの中には、中国が中国的特色を持った社会主義の道を堅持していることをもって中米関係失敗の根拠とするものがいる。異なる制度の国家は必ず対抗し、冷戦になるというのか。中国は絶対にそれを求めていないが、アメリカの中には極力そのように描き出そうとするものがいる。
 中米関係は確かに空前の複雑の中にあり、現在、かつてない困難の中にある。しかし我々は21世紀にあり、貿易戦争といえども中米の利益が緊密に交錯している現実を覆い隠すことはできないし、中米を徹底的に引き裂くなどということは歴史という時間を逆戻ししようとする狂った発想である。中米関係を処理することは国際関係の歴史で遭遇した艱難辛苦の課題であり、中米関係の尋常ならざることを正視し、これを巧み制御することは、両国人民に対する責任であるとともに、世界及び人類文明全体に対する責任でもある。
 中米を全面的に冷戦に押しやるということは21世紀最大の犯罪である。アメリカのエスタブリッシュメントの中にこのような恥ずべき道に向かおうとするものがいる。中米そして国際社会全体の力で彼らの犯罪を阻止し、21世紀を守り、人類の未来を守ることを希望する。