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ポンペイオ国務長官訪朝(ハンギョレ分析&環球時報社説)

2018.07.10.

アメリカのポンペイオ国務長官は7月6-7日に訪朝しました。朝鮮中央通信は、7日付で「ポンペイオ国務長官を団長とするアメリカ合衆国代表団が6日、平壌入りした。代表団は、朝米首脳の対面と会談で採択、発表された共同声明を履行するための初の朝米高位級会談に参加することになる。」と報じ、8日付では「ポンペイオ国務長官を団長とするアメリカ合衆国代表団が朝米高位級会談を終えて7日、平壌を出発した。6日から7日まで平壌で行われた会談では、歴史的な朝米首脳の対面と会談で採択、発表された共同声明を忠実に履行するうえで提起される諸般の問題が深く論議された。」と事実関係を簡単に伝えました。
 朝鮮の金英哲・労働党副委員長と協議を終えたポンペイオは7日、平壌を発つ前に随行記者団に対して「ほとんどすべての主要争点で進展が見られた」と話し、また、東京での米日韓外相会談後の共同記者会見において、「2日間、金英哲副委員長と善意に基づいて会談した」とし、「北朝鮮は完全な非核化の約束を確認しており、米軍の遺骨の返還を議論した。我々は世界を安全にする」と発言しました。また、ポンペイオに随行したナウアート国務省報道官は7日朝、「朝米が非核化の検証など懸案を協議する実務グループを構成することにした」と発表しました(以上、9日付ハンギョレ・日本語WS)。
 しかし、朝鮮外務省スポークスマンは7日、以下の談話を発表し、朝鮮がポンペイオとはまったく逆の評価を下していることを明確にしました。

歴史的な初の朝米首脳の対面と会談が行われた後、国際社会の期待と関心は朝米首脳会談の共同声明の履行のための朝米高位級会談に集中した。
われわれは、米国側が朝米首脳の対面と会談の精神に即して信頼の構築に役立つ建設的な方案を持ってくるだろうと期待し、それ相応の何かをする考えもしていた。
しかし、6、7の両日に行われた初の朝米高位級会談で現れた米国側の態度と立場は実に残念極まりないものであった。
わが方は、朝米首脳の対面と会談の精神と合意事項を誠実に履行する変わらない意志から、今回の会談で共同声明の全ての条項のバランスの取れた履行のための建設的な方途を提起した。
朝米関係改善のための多面的な交流を実現する問題と朝鮮半島での平和体制構築のためにまず朝鮮停戦協定締結65周年を契機に終戦宣言を発表する問題、非核化措置の一環としてICBMの生産中断を物理的に実証するために大出力エンジン試験場を廃棄する問題、米軍遺骨発掘のための実務協商を早急に始める問題など、広範囲な行動措置を各々同時に取る問題を討議することを提起した。
会談に先立って、朝鮮国務委員会の金正恩委員長がトランプ大統領に送る親書を委任によってわが方の首席代表である金英哲党副委員長が米国側の首席代表であるポンペイオ国務長官に丁重に伝えた。
国務委員長は、シンガポール首脳の対面と会談を通じてトランプ大統領と結んだ立派な親交関係と大統領に対する信頼の感情が今回の高位級会談をはじめ、今後の対話過程を通じてさらに強固になるとの期待と確信を表明した。 しかし、米国側はシンガポール首脳の対面と会談の精神に背ちしてCVIDだの、申告だの、検証だのと言って、一方的で強盗さながらの非核化要求だけを持ち出した。
情勢の悪化と戦争を防止するための基本問題である朝鮮半島の平和体制構築問題については一切言及せず、すでに合意された終戦宣言問題までいろいろな条件と口実を設けて遠く後回しにしようとする立場を取った。
終戦宣言を一日も早く発表する問題について言えば、朝鮮半島で緊張を緩和して恒久的な平和保障体制を構築するための初の工程であると同時に、朝米間の信頼構築のための優先的な要素であり、ほぼ70年間持続してきた朝鮮半島の戦争状態にピリオドを打つ歴史的課題として北南間の板門店宣言にも明示されている問題であり、朝米首脳会談でトランプ大統領がより熱意を見せた問題である。
米国側が会談で最後まで固執した問題は、過去の以前の各行政府が固執していて対話の過程を台無しにし、不信と戦争の危険だけを増幅させた癌的存在である。
米国側は今回の会談で一つ、二つの合同軍事演習を一時的に取り消したことを大きな譲歩のように宣伝したが、一挺の銃も廃棄せず、全ての兵力を従前の位置にそのまま置いている状態で演習という一つの動作だけを一時的に中止したのはいつであれ、任意の瞬間にまた再開されうるごく可逆的な措置として、われわれが取った核実験場の不可逆的な爆破廃棄措置に比べれば対比さえできない問題である。
会談の結果は、極めて憂慮すべきものだと言わざるを得ない。
米国側が朝米首脳の対面と会談の精神に合致するように建設的な方案を持ってくるだろうと考えていたわれわれの期待と希望は愚かだと言えるほど純真なものであった。
古い方式では絶対に新しいものを創造することができず、百戦百敗した腐り果てた古い方式を踏襲すれば、また失敗しか与えられない。
朝米関係史上、初めてとなるシンガポール首脳会談で短時間に貴重な合意が成し遂げられたのもまさに、トランプ大統領自身が朝米関係と朝鮮半島の非核化問題を新しい方式で解決しようと言ったからである。
双方が首脳級で合意した新しい方式を実務的な専門家レベルで投げ捨てて古い方式に戻るなら、両国人民の利益と世界の平和と安全のための新しい未来を開こうとする両首脳の決断と意志によってもたらされた世紀的なシンガポール首脳の対面は意味がなくなるであろう。
今回の初の朝米高位級会談を通じて朝米間の信頼はより強固になるどころか、むしろ確固不動であったわれわれの非核化意志が揺さぶられる危険な局面に直面するようになった。
われわれはこの数カ月間、できるだけの善意の措置をまず取りながら最大の忍耐心を持って米国を注視してきた。
しかし、米国はわれわれの善意と忍耐心を間違って理解したようだ。
米国は、自分らの強盗さながらの心理が反映された要求条件までも、われわれが忍耐心から受け入れると見なすほど根本的に間違った考えをしている。
朝米間の根深い不信を解消して信頼を構築し、そのために失敗だけを記録した過去の方式から大胆に脱して既成にこだわらない全く新しい方式で解決していくこと、信頼の構築を先立たせて段階的に同時行動の原則に基づいて解決可能な問題からひとつずつ解決していくのが朝鮮半島非核化実現の最も速い近道である。
しかし、米国側が焦燥感にとらわれて以前の各行政府が持ち出していた古い方式をわれわれに強要しようとするなら、問題の解決に何の助けにもならないであろう。
われわれの意志とは別に、非核化の実現に適する客観的環境が醸成されないなら、むしろ良好に始まった双務関係発展の気流がごちゃ混ぜになる可能性がある。
逆風が吹き始めれば朝米両国にはもちろん、世界の平和と安全を願う国際社会にも大きな失望を与えかねないし、そうなれば互いに間違いなく他の選択を模索することになり、それが悲劇的な結果につながらないという保証はどこにもない。
われわれは、トランプ大統領に対する信頼心を今もそのまま持っている。
米国は、両首脳の意志とは違って逆風を許すのが果たして世界の人民の志向と期待に合致し、自国の利益にも合致するのかを慎重に見極めるべきであろう。

これだけ評価が真っ向から食い違うのも珍しいことです。米朝接近に対して冷ややかな態度を取ってきた朝鮮日報は早速、アメリカの主要メディア及びエスタブリッシュメントの報道・発言を紹介する形で、以下のように伝えました(9日付日本語WS)。

ポンペイオ訪朝を米紙が批判「得た物1つもない」
米メディアや専門家らは、ポンペイオ米国務長官の第3回訪朝交渉について、「非核化への突破口を開けなかった」と評し、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長がした非核化の約束に対し、基本的な部分で疑問を呈した。
  米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは7日(現地時間)、「北朝鮮の批判で非核化交渉の運命が疑問に陥った」「このような北朝鮮の姿勢は、ポンペイオ長官が『(北朝鮮の)善意』と『(非核化)進展』と言ったこととの矛盾を示した」と伝えた。
  同じく米紙ワシントン・ポストも「北朝鮮との非核化交渉が長引き、困難になるという明確なシグナルだ」「米国は北朝鮮との非核化に関する共有理解を築くのにも苦労しており、基本的な(非核化のための)対話を維持することすら困難だった」と報じた。訪朝に同行した米紙ニューヨーク・タイムズの記者は「『核兵器申告・非核化のタイムテーブルや、非核化定義に関する北朝鮮の文書化された声明など、米国の最優先順位のうち1つでも得られたのか』という質問にポンペイオ長官は詳しい回答を拒否した」と書いた。
  ジョセフ・ユン元米国務省北朝鮮政策特別代表はウォール・ストリート・ジャーナルに「非常に悪いシグナルだ。彼ら(北朝鮮)は米国が完全に(非核化への)期待を下げることを望んでいるだろう」と語った。ビクター・チャ戦略国際問題研究所(CSIS)韓国部長は米MSNBC放送で「ポンペイオ長官は『進展した』と言ったが、豚に口紅を塗ろうとしているのと同じだ(やっても大して代わり映えしないという意味)。我々が米国大統領を1万マイル離れたシンガポールにまで送り出したが、10年前に戻ったことは全く鼓舞的でない。北朝鮮は10年前と同じ台本で(時間を稼ぐ)演技をしている」と批判した。
  エバンス・リビア元国務副次官補(東アジア・太平洋担当)もワシントン・ポストに「北朝鮮は米国が望む方式の非核化を行う意図がないものと見られる」と語った。
  しかし、北朝鮮のこうした反発は交渉戦略だという見方もある。ビル・リチャードソン元国連駐在米国大使は「北朝鮮は賭け金を引き上げて(米国に対して、賭けに)出すものを用意しろというメッセージを送っている」とした。今回のポンペイオ長官訪朝に同行したABC放送のタラ・パルメリ記者は8日、「北朝鮮政府が厳しい声明を出したことについて、米国の官僚たちは『驚くことではない。一種の交渉戦略だ』と考えている」とツイートした。
  一方、米国務省関係者は同日、対北朝鮮支援再開の可能性を問う米国のラジオ放送「ボイス・オブ・アメリカ」(VOA)の問いに、「トランプ大統領は数百万ドル(数億円)相当の食糧を支援していた以前の行政機関と同じ間違いを犯さない」と答えた。
ワシントン=趙義俊(チョ・ウィジュン)記者

そのような評価はともかく、9日付のハンギョレ・日本語WSが掲載したイ・ジェフン先任記者等による分析記事は、朝米間の違いが主として終戦宣言の扱いに関するアプローチの違いにあったと指摘するもので、私としては合点がいく内容でした。以下に紹介しておきます。

[ニュース分析]終戦宣言急ぐ北朝鮮、非核化に連携し先送りする米国
  朝鮮戦争の終戦宣言が「6・12朝米首脳会談共同声明」の履行過程のホットポテト(厄介な問題)に急浮上した。ポンペイオ国務長官が7日に平壌を出発した直後、北朝鮮が「外務省報道官談話」(以下談話)を通じて、終戦宣言と関連した米国の「一貫性もなく消極的態度」を非難したからだ。
  終戦宣言は、文在寅大統領が朝鮮半島における平和体制の構築過程で重要な架け橋として主導的に推進してきた「文在寅議題」であるため、韓国も直接当事者だ。大統領府が「朝米が真剣で誠実な姿勢であるため、問題がうまく解決されると期待している」(キム・ウィギョム報道官)とし、非常に慎重な姿勢を示しているのもこのためだ。
 北朝鮮は7日夜の「談話」を通じて、金英哲労働党副委員長がポンペイオ長官との高官級会談で「朝鮮半島における平和体制の構築のため、朝鮮の休戦協定締結65周年を契機として終戦宣言を発表することに関する問題を討議することを提起した」と明らかにした。ところが「米国側は情勢の悪化と戦争を防止するための基本問題である朝鮮半島の平和体制構築問題については一切言及せず、すでに合意された終戦宣言の問題まで条件と口実を並べ、遠く先送りにしておこうとする立場を取った」と批判した。さらに、「終戦宣言は北南間の板門店宣言にも明示された問題で、朝米首脳会談でもトランプ大統領の方がより熱意を見せていた問題」だったという事実を想起させた。チョ・ソンニョル国家安保戦略研究院首席研究委員は「米国が体制保証の話をしなかったことに対する不満」だと解釈した。
 北朝鮮は「早期終戦宣言」の意味についても、公開的には初めて見解を明らかにした。第一に、「朝鮮半島で緊張を緩和し、強固な平和保障体制を構築するための初の工程」であり、第二に「朝米間の信頼構築のための優先的な要素」であり、第三に「およそ70年間持続してきた朝鮮半島の戦争状態を終結させる歴史的な課題」だということだ。要するに、朝米関係を戦争から平和に転換する過程で、米国の対北朝鮮体制保証の「初の措置」ということだ。
  文在寅大統領は「北朝鮮が持っている安保の面での懸念を解消できる案」の一つとして、「朝米首脳会談が成功した場合、南北米3カ国首脳会談による終戦宣言の推進」を期待すると明らかにした。トランプ大統領も「彼ら(南北)は(朝鮮戦争)終戦問題を協議しており、私はこの協議を祝福する」と述べるなど、終戦宣言に対して肯定的な発言を繰り返してきた。
  しかし、ポンペイオ長官は8日、東京で開かれた韓日米外相会議後の記者会見で、北朝鮮のこのような反発にもかからわず「終戦宣言」に関して直接的な言及をしなかった。
  これと関連し、北朝鮮の事情に詳しい元高官は「談話で、北朝鮮が米国に提起した不満の核心が終戦宣言の問題」だとし、「逆説的に、終戦宣言問題で進展が見られれば、朝米交渉に重大な突破口が切り開かれるかもしれない」と指摘した。
  早期の終戦宣言に関する米国の"態度変化"の背景をめぐっては、専門家らの間でも分析が分かれている。まず「実務準備の不足」が挙げられる。米国の対北朝鮮制裁のかなりの部分が朝鮮戦争の時から続いているため、宣言に先立ち、敵国通商法など国内法の対北朝鮮制裁条項を再検討しなければならないが、そのような実務作業がまだ行われていないという指摘だ。第二に、非核化を後押しする交渉カードとして残している可能性もあるという分析もある。

9日付の環球時報は、「米朝 和平プロセスにおける曲折を耐えるべし」と題する社説を掲げ、双方に忍耐心を持って長期にわたる交渉に臨むべきだと語りかけました。社説は用心深く双方に対して分け隔てなく意見している体裁を取っていますが、すでに紹介した朝鮮外務省スポークスマン談話は、アメリカ側に対してまさに社説が指摘しているような戦略的判断に基づくアプローチを要求しているのであり、社説が朝鮮に軍配を上げていることは明らかです。その内容は私も至極同感できるものです。大要を紹介します。

  (米朝の評価の違いを紹介した上で)これは、6月12日の朝米首脳会談後発生した最初のハッキリした齟齬だ。国際社会はこのことで仰天する必要はないし、特に米朝韓は気を落とすべきではない。
  朝鮮半島の非核化及び恒久平和の実現は北東アジア情勢の根本的な変化であり、一連の重大な政治、軍事及び経済分野における併走を必要としている。このような変化に対しては単純化することはゆめゆめあってはならないし、いずれか一方が思考を変化し、調整しさえすればいいことだと思ってもならない。実際には、各国が相手に対する見方を変える必要があるし、関係の性格も変わる必要があり、相互に行動し合う方式も変化する必要がある。現在は変化の初期にあり、変化に対する認識はなお形成中であり、適応性などということはとてもとても語りうるまでには至っていない。
  根本的な違いは、アメリカは朝鮮に対して速やかなCVIDを要求し、それまでは厳しい制裁を維持するというのに対し、朝鮮はアメリカに対して安全保障及びその他の補償を非核化プロセスと同歩的に進めることを希望しているということにある。このようなロードマップをめぐる争いの背後にあるのは米朝双方の互いに対する不信だ。
  半島情勢の転換はすでに偉大な始まりを作り出しており、朝米の指導者はこの新局面を切り開くことに対して貢献を行った。しかしながら、彼らに是非求められるのは、十分な戦略的忍耐心を持って様々な曲折に向きあうということであり、ひっきりなしに現れるであろう妨害に抵抗する能力を持つということであり、周りの建設的な力の助けも得て和平プロセスを推進し、コントロールするということである。今回の半島非核化の努力は、歴史によって称揚される成果を生み出す可能性があるが、流産してしまうならば笑い話になってしまう可能性もある。
  アメリカにとっても朝鮮にとっても、この和平プロセスを維持し、それを最後まで推し進めることは今や最善の選択となっている。対決に戻る道は政治的に極めて高いコストがかかることを意味しており、この選択は分けてもアメリカの現政権にとっては引き合わないものである。
  朝米にとって必要なことはシンガポール・サミットの精神を実際の行動に転化することであるが、これは明らかにアメリカにとってより困難性が大きい。シンガポール・サミットは事実上米朝関係の性格を変えるもの(浅井注:ハンギョレが指摘した「性悪説から性善説へのパラダイム転換」)であり、朝鮮核問題の解決を異なる道筋へと導いた。しかし、アメリカの多くのエスタブリッシュメント層はこの変化を戦術的なものと見なし、相変わらずケチな根性で古くさい対朝鮮対応カードを操っており、妥協と交換しようとしたがらない。
  この時点で米朝に必要なことは、考えの筋道を整理し、自分が一番求めているものは何かをハッキリさせ、核心的な利益のためにはどうでもいい利益は交換に付することも辞さないということだ。現在この時に、自分の利益を最大にするという思考方法で相手に対処することは危険であり、そのようなことでは戦略的転換のチャンスを失って、自らの長期的な国家利益を失ってしまう可能性がある。
  現在、半島を完全に非核化することと朝鮮に対して信用できる安全保障を提供し、繁栄に向かって進むことを助けるということとは、すでに互いにマッチングした目標となっており、この点については双方がすでに認識を同じくしている。米朝はすでにスタート・ラインで握手したのであり、ゴール・ラインの吸引力は双方にとってますますホンモノとなっている。この二つのラインの中間地帯で駆け引きをしすぎると、方向性を見失う可能性がある。やはり大いに協力することだ。こうした協力をすることを誤って将来後悔するようになることにならないようにしたまえ。