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ラブロフ外相の朝鮮訪問

2018.06.10

ロシアのラブロフ外相は5月31日-6月1日に朝鮮を訪問し、李容浩外相と会談し、さらに金正恩委員長とも会見しました。6月1日付朝鮮中央通信は、金正恩とラブロフとの会見について次のように報じました。金正恩が、朝鮮半島の非核化に関し、「朝鮮半島の非核化に対するわれわれの意志には変わりがなく一貫しており、確固たるものだ…、朝米関係と朝鮮半島の非核化を新しい時代、新しい情勢の下で新しい方法で各自の利害に合致する解法を探して段階的に解決していき、効率的で建設的な対話と協商で問題の解決が捗ることを希望する」(強調は浅井)と、これまでになく具体的に述べたことが注目されます。また、外交関係設立70周年の本年に朝露首脳会談を行うことにも合意しました(浅井注:プーチンは、9月に極東開発をテーマにウラジオストックで開かれる東方経済フォーラムへの金正恩の出席を招請)。

談話では、最近、世界的な関心事となっている朝鮮半島と地域の情勢の流れと展望に対する朝露最高指導部の意思と見解が交換され、両国の政治・経済協力関係をより拡大し、発展させて緊密に協力していくための問題が論議された。
ラブロフ外相は、朝鮮が北南、朝米の関係を立派に主導し、実践的な行動措置を積極的に取ることによって朝鮮半島と地域情勢が安定の局面に入ったことに対して高く評価すると共に、日程にのぼっている朝米首脳会談と朝鮮半島非核化の実現を目指す朝鮮の決心と立場をロシアは全的に支持し、良好な成果を収めることを願うと言及した。
金正恩委員長は、朝鮮半島の非核化に対するわれわれの意志には変わりがなく一貫しており、確固たるものだと述べ、朝米関係と朝鮮半島の非核化を新しい時代、新しい情勢の下で新しい方法で各自の利害に合致する解法を探して段階的に解決していき、効率的で建設的な対話と協商で問題の解決が捗ることを希望すると語った。
談話ではまた、戦略的で伝統的な朝露関係を今後も双方の利益に合致し、新時代の要求に即して引き続き発展させていくために、両国間の外交関係設定70周年に当たる今年に高位級の往来を活性化して各分野での交流と協力を積極化し、特に朝露最高指導者の対面を実現させることで合意した。
金正恩委員長は、ラブロフ外相と立派な対話を交わしてロシア指導部の立場と意中を確認し、新しい政治的および戦略的相互信頼関係を構築できるようになったことについて大満足した。

ラブロフ外相は、金正恩との会見に際して、ロシアが板門店宣言を熱烈に歓迎するとともに、同宣言の具体化(特にロシアの参加も予定している鉄道プロジェクト)をあらゆる方法で支援することを伝えました(同日付ロシア外務省英語版WS)。さらに同外相は、李容浩外相との会談後に行った記者会見の冒頭発言及び記者からの質問に対する回答の中で次のように発言しました(同じくロシア外務省英語版WS)。
 ラブロフ発言で注目されるのは、トランプ大統領の性急な動きを明らかに意識した、米朝交渉に対して最大限の慎重なアプローチの必要性をくり返し強調したことです。彼の念頭にはTHAAD問題が含まれていることは間違いありません。また、安保理決議の枠内でとことわってはいますが、鉄道連結問題をはじめとする経済協力問題にもきわめて積極的な発言を行っていることも要注目です。

(冒頭発言)
〇(貿易経済関係)3月に行われた貿易経済協力政府間委員会定例会合、4月の李容浩外相訪露において達成された諸合意の実施について突っ込んだ議論を行った。国連安保理諸決議の枠組みの中で両国の貿易経済関係を拡大する現実的可能性について議論した。
〇(朝鮮半島情勢)北南及び朝米韓の接触並びに北南サミット及び予定されている朝米サミットを歓迎する。我々は、これらの接触について、このプロセスを急ぐいかなる性急な行動または試みもせず、慎重なアプローチを採用することが重要だと考えている。そのことによって、朝鮮半島を非核化し、北東アジア全体の恒久的な平和と安定がもたらされるだろう。
 我々は、すべての関係国がこの脆弱なプロセスを脱線させることを防止する責任を自覚することを強く促す。安保理常任理事国、6者協議参加国及び北朝鮮の良き隣国として、ロシアはかかる努力に貢献する用意がある。北朝鮮の友人はこの姿勢を評価している。
〇(鉄道及びパイプライン等)我々は、南北及びロシアの間の鉄道連結並びにガス・パイプライン及びエネルギー・プロジェクト等に関する段取りについて議論した。板門店で北南首脳が表明した鉄道システムを再連結する希望により、三国間協力イニシアティヴに新たな息吹が与えられている。
〇(再び朝鮮半島情勢)北南及び朝米の接触及び関係正常化については、ロシアと北朝鮮はきわめて慎重な態度を取る必要があること、そしてすべてのことを一気にやりたいとする誘惑には逆らう必要があることについて共通の見解を持っていることを再度言っておきたい(I would like to say once again that Russia and North Korea hold a common view on the need to take an extremely careful attitude to the current development of contacts and the nascent normalisation of relations between the two Korean states and between North Korea and the United States, and to resist the temptation to demand everything at once)。これは最大限に複雑な問題であり、非核化という目標は、平和、安定並びに北東アジアにおけるインタラクション、協力及び平等にして不可分の安全保障システムと分かちようがなく結びついている。
(質問に対する答え)
〇(イラン核合意に対してトランプ政権が取った行動をも踏まえた、非武装化についてアメリカが朝鮮に与える保証に関する信頼性)北朝鮮は最近の過去のことについては完全に理解しており、それらの要素をすべて踏まえて自らの立場を決定すると確信している。(朝鮮の取る行動についてロシアが踏み込むことは適当でないと断った上で)これらの合意が国際共同体の検討に付されるときは、国連安保理がその仕事を支援することが求められるだろう。ロシアは、朝鮮(DPRK)を含むすべての当事国の利益に合致するよう、これらの取り決めを支持するだろう。提供される保証が平壌にとってどの程度満足のいくものになるかは分からない。それを決定するのは北朝鮮指導部だ。
〇(制裁緩和)核問題その他の朝鮮半島が直面するすべての問題の解決方法について議論するとき、すべての制裁が解除されるまでは完全な解決がないと考えている。それを実現させるのは交渉者次第だが、一回ポッキリで達成することは不可能だ。同じことは非核化についてもそうだ。以上により、これは、各段階において相互的な行動を伴うステップ・バイ・ステップのプロセスとなるだろう。