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文在寅大統領の南北米三者終戦宣言構想

2018.06.06

6月5日付のハンギョレ日本語WSは、文在寅大統領が南北米三者による終戦宣言について温め、推進しようとしている構想に関する以下の解説記事を掲げました。執筆者のイ・ジェフン先任記者の文章は読み応えがあるものが多いのですが、この文章も学ぶことが少なくありません。筆者が文在寅政権関係者と親しい関係にあることが容易に推定でき、そのことが彼の文章の魅力を高めているのでしょう。

文大統領、終戦宣言に「不可侵」盛り込む案を推進
文在寅大統領が南北米3者による終戦宣言(3者終戦宣言)に「朝鮮半島における戦争の終結宣言」と「不可侵の確約」などの核心内容を盛り込むことに力を入れていることが分かった。朝鮮半島で南北と朝米の軍事対決が終わったという政治的宣言に加え、南北及び朝米間の「不可侵の確約」を取り付ける腹案だが、その核心は米国が北朝鮮を軍事的に攻撃しないという確約だ。3者終戦宣言を北朝鮮に対する軍事的体制保証の一環とし、朝米首脳会談の成功と恒久的平和体制への進入に必要な論議・実践を加速化させるという構想だ。文大統領はすでに北朝鮮の金正恩国務委員長やドナルド・トランプ米大統領、習近平中国国家主席とこのような構想を協議し、首脳レベルの共感を広げているという。
 最近の朝鮮半島情勢の流れに詳しい消息筋は4日、「終戦宣言を朝米首脳会談の核心争点である『北朝鮮の体制保証』の側面から理解する必要がある」とし、「当初『3者または4者』で始まった終戦宣言だったが、文大統領が最近になって『南北米3者終戦宣言』と重ねて強調している背景には、このような構想がある」と話した。同消息筋は「終戦宣言は朝鮮半島で戦争が終わったという政治宣言だが、ここに3者による不可侵の確約、特に米国の北朝鮮に対する不可侵の確約を加えることで、北朝鮮への軍事的体制保証策の強化を狙っている」と説明した。
「不可侵の確約」の切実さは、朝鮮半島の軍事的な対立が南北と朝米の間に二重に行われてきた歴史的現実に根差している。不可侵の確約は、南北の間にはすでに数回あったが、朝米の間では公式的に行われたことがない。南北は1992年2月に発効した「南北間の和解と不可侵および交流・協力に関する合意書」(南北基本合意書)の「第2章、南北不可侵」で、「南と北は、相手に対して武力を使用せず、相手を武力で侵略しない」(第9条)として「不可侵の確約」を初めて取り交わした。
 一方、朝米は2000年10月の「共同コミュニケ」を通じて「相互尊重」や「内政不干渉」、「敵対放棄」などを宣言したが、不可侵については言及しなかった。文大統領が3者終戦宣言に北朝鮮に対する米国の不可侵の確約を盛り込もうとするのも、このためだ。
 「軍事的体制保証としての3者終戦宣言」は、最近の多角的首脳会談を通じたトップダウン方式の情勢突破のなかで、進化を遂げ具体化している。文大統領は当初、"終戦"問題を「朝鮮半島に恒久的平和構造を定着させるためには、終戦と共に関連国が参加する朝鮮半島平和協定を締結しなければならない」(2017年7月6日、ドイツ・ケルバー財団での演説)として、「平和体制の入り口論」として原論的に提起した。「4・27板門店(パンムンジョム)宣言」でも「南北は停戦協定締結65年になる今年に終戦を宣言し、停戦協定を平和協定に切り替えると共に、恒久的で堅固な平和体制構築に向けた南北米3者または南北米中4者会談の開催を積極的に推進していくことにした」とし、終戦宣言の主体を"3者"に特定しなかった。
 ところが、トランプ大統領と「5・22ワシントン首脳会談」で「終戦宣言を朝米首脳会談以降(南北米)3カ国が宣言する案について意見を交換」したと発表(大統領府)したのに続き、金委員長との「5・26統一閣首脳会談」の結果を発表する記者会見では、自ら要望して「朝米首脳会談が成功した場合、南北米3カ国首脳会談を通じて終戦宣言が進められることを期待している」と明らかにした。さらに、文大統領は「金委員長にとって不明なのは、非核化の意志ではなく、自分たちが非核化を実施した場合、米国が敵対関係を終わらせ体制を保証することを確実に信頼できるかどうかに対する懸念だと思う」と強調した。「体制保証としての終戦宣言」の構想を示唆したものと言える。
 政府関係者は「文大統領は南北米3者による終戦宣言の構想と関連し、金正恩委員長やトランプ大統領とそれぞれ協議した」とし、「両首脳の反応も悪くなかったと聞いている」と話した。これと関連し、トランプ大統領は金英哲労働党副委員長兼統一戦線部長とホワイトハウスで面会した直後、「終戦宣言」に関した質問に「我々は朝鮮戦争を終わらせる問題について話し合った」とし、「それも(朝米首脳)会談で出てくるもの(の一つ)」だと述べた。「終戦宣言の協議」を公式化したのだ。
 「3者終戦宣言」を進めるうえで、もう一つ争点になるのは、中国の反発に対する懸念だ。しかし、政府関係者は「韓中首脳レベルで終戦宣言の推進について意見の相違があるという話は聞いていない」と伝えた。この問題に詳しい他の消息筋も「文大統領が3者終戦宣言の推進を公開的に取り上げた時点が、習近平主席と電話会談以降という事実に注目しなければならない」とし、「両首脳の間に了解があったと見ても良い」と指摘した。文大統領と習主席は5月4日の電話会談で、「終戦を宣言し、停戦協定を平和協定に転換する過程で、韓中両国が緊密に疎通し、積極的に協力していくことにした」と発表(大統領府)したが、「3者終戦宣言→4者平和協定の協議」を念頭に置いたものと見られる。「終戦宣言」は朝鮮半島で軍事力を持って対峙する南北と朝米間で行い、「平和協定」は1953年の休戦協定の(事実上)主体であり、朝鮮半島の中核の利害当事国である南北米中が参加する方式で進めるというアプローチだ。

私自身は、昨日(6月5日)のコラムで書いた文章で、中国は文在寅の構想に関し、「朝韓米三者で行うことに関しては、中国は強い異論を隠しません」と書きましたが、この判断は軽率でした。終戦宣言と平和協定とは別ものであり、中国は後者には中国が関与するのは当然だと考えていますが、前者に関して別の考え方を持っているようです。6月5日付の環球時報社説「半島戦争終結宣言の署名? 効果が最重要」は以下のように中国の立場を明らかにしていますので、要旨を紹介し、私の軽率な先走った判断についてお詫びします。

 韓国メディアによれば、文在寅が米朝首脳会談に参加し、朝鮮半島戦争終結宣言に署名する可能性があるという。しかし、確かではないことは、金正恩とトランプが初めて会うときに署名するのか、署名者は全部でどれだけか、ということだ。
 朝鮮は停戦協定を平和協定に代えることを非常に望んでいる。板門店宣言はこれを支持した。したがって、米朝が終戦宣言について協議し、署名することは間違いなく良いことだ。
 中国にとって、半島が非核化と恒久平和を実現することが何よりも重要なことだ。したがって、半島が平和協定署名に向かって努力することを促すことが中国の大方針だ。中国自身がこの協定の署名に参加することへの関心度は、韓米のこだわりに比べれば小さい。
 客観的に言って、朝米指導者がシンガポールで会うときに、韓国の指導者が同地に赴いて補助的役割を担うことを強く願っているようだが、仮に中国にもこの補助的役割を担わせたいということであれば、中国外交は多分大いにためらうだろう。シンガポールは半島問題の一括的解決の場所とさせることはできず、プロセス開始(の場所)であることがよりふさわしい。
 半島問題は相当複雑であり、アメリカが今や「プロセス」という言葉を使い始めたことは、トランプ政権が半島核問題を一気に解決するのは難しいことを認識するに至ったことを示している。
 我々から見て、朝米韓三者が終戦宣言を署名することも良いことだ。それが三者をして今後いかなる敵対行動をとることも停止するように拘束するのであれば、何もないよりは良いに決まっている。しかし、かかる終戦宣言を停戦協定と完全にドッキングさせることは無理である。即ち、法律的には厳密ではなく、不確定性を孕むことになる。中国としては、終戦宣言がプラスの効果を生むことを励ましはするが、それが長期的に有効であるかどうかについては責任を負えない。
 半島の地縁政治的情勢は非常に微妙であり、恒久的な平和協定が十分な準備を経て、かつ、中国も署名することができれば、その安定性は更なる保証を得ることになるだろう。この点については、明らかに各国が検討する価値があるだろう。
 韓国世論の中には、朝米韓三国が署名することは中国を「のけ者」にすることを意味するという分析もあるが、それは考えすぎだ。中国は半島問題に大きな実際的な影響力を持っており、中国の態度は地縁的角度及び国連の枠組みという角度からいつでも半島問題のあり方に影響を与えることができる。仮に中国が一言も発しないとしても、中国の現実の影響力は(こせこせ)走り回る韓国のそれよりも大きいのだ。
 朝米サミットをすぐ前にして、各国はその成功を推進するために力を致すべきだ。中国は必ずや建設的力を担う。それ以外に関しては、あれやこれやの小さなそろばん勘定をするべきではない。半島が恒久平和を実現することはすべてに優先する。我々としては、和平プロセスが実りあるように進展することをより願っているのだ。