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仕切り直しの米朝首脳会談

2018.05.27

1.米朝首脳会談をめぐる応酬及びその意義

5月25日にトランプ大統領は6月12日に予定されていたシンガポールでの米朝首脳会談開催を取りやめることを金正恩委員長宛の書簡を公表することで明らかにしました。しかし、その文面を見れば明らかなとおり、トランプが怒りにまかせてぶち切れたということではなく、むしろトランプ自身は首脳会談を本当に行いたいのだというメッセージを伝えようとするものであることが分かります(全文は末尾に紹介)。
トランプが首脳会談取りやめの理由として挙げているのは、交渉が行き詰まっているとか、互いの条件についてのすりあわせが不可能になったとかについて相手を難詰するということではなく、「あなたの最近の声明で示されたすさまじい怒りとあからさまな敵意」だけです。具体的には、5月16日の朝鮮外務省の金桂冠第1次官の談話及び同月24日の同じく朝鮮外務省の崔善姫次官の談話であることは明らかです(金桂冠談話及び崔善姫談話は末尾に紹介)。
重要なことは、両談話が非難の対象にしているのは、前者がボルトン国家安全保障担当補佐官、後者がペンス副大統領であるということです。注目する必要があるのは、トランプの手紙と同じく、交渉が行き詰まっているとか、互いの条件についてのすりあわせが不可能になったとかについて相手を難詰するということではないということです。そんなことに目くじらを立てるということ自体が「朝鮮一流の駆け引き」だと物知り顔に批判することは簡単です。
 しかし、1990年代から2000年代にかけて朝鮮側の交渉の第一人者であり、ボルトンを知悉している金桂冠の名前で「ボルトンがどんな者であるのかを明白にしたことがあり、今も彼に対する拒否感を隠さない」、「トランプ行政府がこれまで朝米対話が行われるたびにボルトンのような者のため紆余曲折を経なければならなかった過去史を忘却して、リビア核放棄方式だの、何のというえせ「憂国の士」の言葉に従うなら、今後、朝米首脳会談をはじめ全般的な朝米関係の展望がどうなるかということは火を見るより明らかである」と指摘することには格別の重みがあるのです。ちなみにこの点については、5月17日付のハンギョレ・日本語WSが的確な解説記事を掲載しているので、末尾で紹介しておきます。
要するにボルトンは朝鮮にとって、1990年代から2000年代にかけての米朝交渉の「壊し屋」という札付き人物であること(しかも、その人物がトランプ政権に入ってからも「リビア方式」などと公言しているのに、トランプはそれを放任していること)を朝鮮は深刻に問題視しているということです。メディアの執拗な「解説」によって、過去の米朝交渉が挫折したのはすべて朝鮮側に原因があると思い込まされている多くの日本人には信じられないかもしれませんが、1994年の米朝枠組み合意にしても、2005年の9.19合意にしても、朝鮮は合意内容を確実に履行していたのに、それに人為的障害を設けて合意の破産、急停止に追い込んだのはアメリカであり、その中心人物がボルトンだというのが朝鮮の認識なのです。したがって、ボルトンを問題視するというのは「小事」ではなく、米朝交渉の前途を左右しかねない「大事」であるというのが朝鮮の偽らざる認識だと思います。
 またペンス副大統領をやり玉に挙げたことに関していえば、金桂冠談話の以上の趣旨をまったく理解せず、「金正恩が合意しないなら、リビアモデルが迎えた終わりのように終わることになる」という発言を行い、トランプがそれを咎めもしないということに対する朝鮮の強烈な不満があるのだと思います。もともと朝鮮の対米不信感は朝鮮戦争以来積もり積もってきたものですから、副大統領という重責にあるものがかくも重大なことを公然と発言することができるのはトランプ政権の本意であると受け止めるとしても無理からぬものがあります。
 私は今年に入ってからの事態の急展開を見てきて痛感するのですが、交渉内容もさることながら、金正恩がストレートの剛速球で勝負してきているのに、商売人根性のトランプはあの手この手で自分に有利な取引に持って行こうとする「交渉術」に執着している点においても、両者の懸隔が甚だしいことにも問題が横たわっていると思います。金桂冠談話及び崔善姫談話が言いたいことは要するに、金正恩の直球勝負にトランプも直球勝負で臨むべきだということだと思うのです。
 悲しいかな、今のトランプ政権には朝鮮の発想・アプローチを熟知しているプロがまったくいませんし、朝鮮としては、これまでのアメリカの政権とは異なり、支離滅裂なトランプ流の「駆け引き外交」の真意が奈辺にあるかつかみようがありません。また、崔善姫談話のペンスに対する「政治的に愚鈍な間抜け」という酷評に対しては、トランプとして到底看過できないという事情もあったでしょう(昨年までは、朝鮮メディアはトランプに対してさらに露骨な罵声を浴びせてはいましたが)。その結果、トランプは首脳会談取りやめという判断に至ったのだと思います。
 しかし、金桂冠談話には、「トランプ大統領が歴史的根源の深い敵対関係を清算し、朝米関係を改善しようとする立場を表明したことについて私は肯定的に評価した」、「トランプ行政府が朝米関係改善のための真情性を持って朝米首脳会談に臨む場合、われわれの当然な呼応を受けるようになる」というトランプ(政権)に対する肯定的発言がありました。また、崔善姫談話の「米国がわれわれと会談場で会うか、でなければ核対核の対決場で会うかどうかは全的に、米国の決心と行動いかんにかかっている」というけんか腰の発言も交渉の余地を排除しようとするものではありません。
 したがって、トランプが米朝首脳会談中止を一方的に発表したことは朝鮮にとっては思わぬ展開だったと思われます。朝鮮が再び金桂冠談話(以下「金桂冠第二談話」)を発表し、トランプが「突然、一方的に会談の取り消しを発表したのは、われわれとしては意外のことであり、非常に残念に考えざるを得ない」と述べたのは偽りのないことでした。この談話は、「われわれはトランプ大統領が過去のどの大統領も下せなかった勇断を下して首脳の対面という重大な出来事をもたらすために努力したことについて依然として心のうちで高く評価してきた」、「「トランプ方式」というものが双方の懸念を共に解消し、われわれの要求条件にも合致し、問題解決の実質的作用をする賢明な方案になることを密かに期待したりもした」、「(金正恩も)トランプ大統領と会えば良いスタートを切ることができると述べて、そのための準備に努力の限りを尽くしてきた」という最大限の賛辞をトランプに贈った上で、朝鮮が「いつでもいかなる方式でも対座して問題を解決していく用意があるということを米国側に再び明らかにする」とトランプの再考を求めたのです(金桂冠第二談話の全文は末尾に紹介)。
トランプはこの談話を評価し、早速首脳会談を行う方向で軌道修正を開始し、記者団に対して、「朝鮮は首脳会談をやりたがっている。我々もやりたい。どうなるか見てみよう」と発言しました。首脳会談は当初の予定どおり6月12日になる可能性があることにまで言及しました(トランプ発言の詳細は5月26日付の韓国・中央日報日本語版WSに詳しいので末尾で紹介)。冒頭に紹介したトランプの金正恩宛書簡に込められた、トランプの首脳会談開催を望む心情がホンモノであることを確認できます。
 私も、崔善姫談話のペンスを酷評した表現については、「何もそこまで言わなくても」という感想がありました。しかし、結果的には、この酷評に対してトランプが激しく反応し、それに慌てた朝鮮が軌道を元に戻そうとする動きを取り、トランプもそれを評価して元に戻そうと動く、という一連の動きを導いたわけです。つまり、米朝双方が首脳会談を開催することに真剣であるということが明確になったということです。
 もう一つ明らかになった重要なことは、交渉内容に関して双方の接点が生まれつつあることが窺われるということです。そのことは、トランプ書簡における「私は、あなたと私との間で素晴らしい対話が培われてきたと感じている」というくだり、金桂冠第二談話における「「トランプ方式」というものが双方の懸念を共に解消し、われわれの要求条件にも合致し、問題解決の実質的作用をする賢明な方案になることを密かに期待したりもした」というくだりから明確に窺うことができます。
 考えてみれば、トランプ政権が長続きする保証はまったくなく、次のアメリカの大統領が「朝鮮の政権交代を追求しない」保証もないわけです。朝鮮としても、トランプ政権の追求する「短期決戦」にできるだけ応じ、朝鮮の体制保証と複雑を極める朝鮮半島の非核化という課題をできるだけ短期間に完成させたいという発想があっても決しておかしくはありません。

2.これからの朝鮮半島情勢

米朝首脳会談へのプロセスが再び動き出すか否かは現時点ではまだ確定的ではありません。しかし、米朝首脳会談が実現したとしても、それですべてが直ちに解決するということではありません。重要なことは、米朝首脳会談及び米朝交渉が今後いかなる起伏を経るかどうかに関わりなく、朝鮮半島情勢が再び2017年以前の極度の緊張状態に戻ることはまずないだろうということです。私がそう判断する根拠として、主に4つの要素があります。
 第一に、「朝鮮は悪者」という2017年までは広く国際的に流通していたイメージはもはや通用しないということです。アメリカがいかなる手練手管を講じても、とにかく結果責任は朝鮮に負わせることができた、というのが今までの状況でした。しかし、本年に入ってからの金正恩自身の外交的な露出及び朝鮮が展開してきた理詰めの積極外交により、朝鮮に対するマイナス・イメージはかなり払拭されています。
 第二に、国連安保理がお墨付きを与えた(アメリカももちろん賛同した)イラン核合意(JCOPOA)からトランプ政権が一方的に脱退したことは、トランプ政権に対する国際的信用を完全に失墜させています。この行動は、国連安保理決議を踏みにじったという点で、例えば気候変動枠組み条約(パリ協定)からの脱退とは比較にならない国際政治的・国際法的に深刻な行動と受け止められているのです。したがって今後は、朝鮮に対する締め付けに関して、トランプ政権が如何に国際的協調を呼びかけても、嬉々として付き従うのは日本(安倍政権)ぐらいなものです。
 第三に、2017年までは国連安保理制裁決議についてアメリカと共同歩調を取ってきた中国及びロシアは、もはや簡単にはアメリカのいうことを聞かなくなるということです。その点は、中国を電撃訪問した金正恩を歓待した中国、年初以来の朝鮮の外交攻勢を高く評価しているロシアという事実を考えれば直ちに合点がいくでしょう。
 第四に、国連事務局特にグテーレス事務総長は従前の事務総長とは異なり、アメリカに寄り添う形での国連の復権ではなく、大国に対して是々非々の態度で臨む姿勢を明確にしていることです。彼は、朝鮮半島問題についても国連が積極的役割を果たす意欲を鮮明にしています。
 第五に、韓国の文在寅政権は、板門店宣言に基づく南北関係改善については簡単にはアメリカに譲らないだろうということがあります。朝鮮は文在寅政権に対しても強烈な不満を持っています(特に脱北した元駐英公使・李太浩然の活動を野放しにしていることなど)が、文在寅が朝鮮の問題意識を踏まえて慎重に行動するならば、板門店宣言に基づいて南北関係が前進する可能性・条件は今や具備されていると言っていいのではないでしょうかこのコラム執筆時に、5月27日に文在寅大統領と金正恩委員長の2度目の首脳会談が行われたというニュースに接しました。詳細は文在寅の発表を待つ必要がありますが、両者の南北関係改善及び朝鮮半島の平和と安定の実現にかける決意の固さ及び意欲の高さは十分に窺えます。
 以上から、私は、仮に米朝交渉が再び暗礁に乗り上げるような事態になったとしても、朝鮮半島情勢が2017年までの極度の緊張状態に戻ってしまうことはないのではないかと判断する次第です。

(付属)関連文献
○トランプ大統領の金正恩委員長宛書簡(5月24日付)
「朝鮮民主主義人民共和国国務委員会委員長(平壌) 金正恩閣下
 親愛なる委員長先生
 双方が追求し、シンガポールで6月12日に開催が予定されていた首脳会談に関する我々の最近における交渉及び討論についてのあなたの時間、忍耐及び努力を、我々は非常に感謝している。我々は、会合は北朝鮮が要請したと知らされているが、そのことはまったくどうでもいいことだ。私は、同地であなたと一緒することを大いに期待していた。残念だが、あなたの最近の声明で示されたすさまじい怒りとあからさまな敵意に基づき、私は、長期にわたって予定されてきた会合を行うことは、今回は不適当だと感じている。したがって、双方にとってはいいことであるとしても、世界にとっては良くないことなのだが、この手紙をもってシンガポール・サミットは行わないことを表明するものとしたい。あなたは核戦力について語っているが、我々の(核戦力)はあまりに大量かつ力があるので、それが絶対に使われないことを神に祈っている。
 私は、あなたと私との間で素晴らしい対話が培われてきたと感じているし、究極的に重要なことは対話である。いつの日か、私はあなたと会うことを期待している。とりあえず私は、今は家族と家にいる人質たちの釈放について謝意を表したい。この行為は麗しいジェスチャーであり、高く評価されるものだ。
 もし、あなたの気持ちが変わってこのもっとも重要なサミットを行いたいときは、ためらわずに私に電話するか手紙を書いてほしい。世界、なかんずく北朝鮮は、恒久的平和並びに大いなる繁栄及び富への偉大な機会を失った。この失われた機会は歴史における本当に悲しい瞬間である。
敬意を込めて、アメリカ合衆国大統領 ドナルド・J・トランプ」
(英語原文)
His Excellency
Kim Jong Un
Chairman of the State Affairs Commission
of the Democratic People's Republic of Korea
Pyongyang
Dear Mr. Chairman:
We greatly appreciate your time, patience, and effort with respect to our recent negotiations and discussions relative to a summit long sought by both parties, which was scheduled to take place on June 12 in Singapore. We were informed that the meeting was requested by North Korea, but that to us is totally irrelevant. I was very much looking forward to being there with you. Sadly, based on the tremendous anger and open hostility displayed in your most recent statement, I feel it is inappropriate, at this time, to have this long-planned meeting. Therefore, please let this letter serve to represent that the Singapore summit, for the good of both parties, but to the detriment of the world, will not take place. You talk about nuclear capabilities, but ours are so massive and powerful that I pray to God they will never have to be used. I felt a wonderful dialogue was building up between you and me, and ultimately, it is only that dialogue that matters. Some day, I look very much forward to meeting you. In the meantime, I want to thank you for the release of the hostages who are now home with their families. That was a beautiful gesture and was very much appreciated.
If you change your mind having to do with this most important summit, please do not hesitate to call me or write. The world, and North Korea in particular, has lost a great opportunity for lasting peace and great prosperity and wealth. This missed opportunity is a truly sad moment in history.
Sincerely yours,
Donald J. Trump
President of the United States of America
○金桂冠第1次官談話(5月16日付)
「朝鮮民主主義人民共和国国務委員会の金正恩委員長は、朝米関係の忌まわしい歴史にけりをつけようとする戦略的決断を下して朝鮮を訪問したポンペオ米国務長官に二回も接見し、朝鮮半島と世界の平和と安定のために実に重大かつ度量の大きい措置を取った。
金正恩委員長の崇高な志に応えてトランプ大統領が歴史的根源の深い敵対関係を清算し、朝米関係を改善しようとする立場を表明したことについて私は肯定的に評価したし、近づく朝米首脳会談が朝鮮半島の情勢緩和を促し、立派な未来を建設するための大きな歩みになるだろうと期待した。
ところが、朝米首脳会談を控えている今、米国で対話の相手を甚だしく刺激する妄言がやたらに吐かれているのはきわめて不穏当な行為として失望せざるを得ない。
ホワイトハウス国家安保補佐官のボルトンをはじめホワイトハウスと国務省の高官らは、「先核放棄、後補償」方式を流しながら、いわゆるリビア核放棄方式だの、「完全かつ検証可能で、不可逆的な非核化」だの、「核、ミサイル、生物・化学兵器の完全廃棄」だのという主張をはばかることなくしている。
これは、対話を通じて問題を解決しようとするのではなく、本質上、大国に国を丸ごと任せて崩壊したリビアやイラクの運命を尊厳あるわが国家に強要しようとする甚だしく不純な企図の発現である。
私は、米国のこのような行為に憤激を禁じられず、果たして米国が真に健全な対話と協商を通じて朝米関係の改善を願っているのかについて疑うようになる。
世界は、わが国が凄惨な末路を歩んだリビアやイラクではないということについてあまりにもよく知っている。
核開発の初期段階にあったリビアを核保有国であるわが国家と比べること自体が愚鈍である。
われわれは、すでにボルトンがどんな者であるのかを明白にしたことがあり、今も彼に対する拒否感を隠さない。
トランプ行政府がこれまで朝米対話が行われるたびにボルトンのような者のため紆余曲折を経なければならなかった過去史を忘却して、リビア核放棄方式だの、何のというえせ「憂国の士」の言葉に従うなら、今後、朝米首脳会談をはじめ全般的な朝米関係の展望がどうなるかということは火を見るより明らかである。
われわれはすでに、朝鮮半島非核化の用意を表明し、そのためには米国の対朝鮮敵視政策と核威嚇・恐喝に終止符を打つことがその先決条件になるということについて数回にわたって闡明した。
ところが、今、米国はわれわれの雅量とおおらかな措置を軟弱さの表れと誤って判断して自分らの制裁・圧迫攻勢の結果に包装して流そうとしている。
米国がわれわれが核を放棄すれば経済的補償と恩恵を与えると唱えているが、われわれは一度も米国に期待をかけて経済建設を行ったことがなく、今後もそのような取り引きを絶対にしないであろう。
前行政府と異なる道を歩むと主張しているトランプ行政府が、われわれの核がまだ開発段階にある時、以前の行政府が使っていた古びた対朝鮮政策案をそのままいじくっているということは幼稚な喜劇だと言わざるを得ない。 もし、トランプ大統領が先任者らの轍を踏むなら以前の大統領らが成し遂げられなかった最上の成果物を収めようとしていた初心とは正反対に歴代の大統領よりもっと無残に失敗した大統領に残ることになるであろう。 トランプ行政府が朝米関係改善のための真情性を持って朝米首脳会談に臨む場合、われわれの当然な呼応を受けるようになるが、われわれを隅に追い込んで一方的な核放棄だけを強要しようとするなら、われわれはそのような対話にこれ以上興味を持たず、近づく朝米首脳会談に応じるかを再考慮するしかないであろう。」
○崔善姫次官談話(5月24日付)
「21日、米副大統領のペンスはFOXニュースとのインタビューで、北朝鮮がリビアの轍を踏みうるだの、北朝鮮に対する軍事的選択案は排除されたことがないだの、米国が求めるのは完全かつ検証可能で、不可逆的な非核化だの、何のと出まかせにしゃべってせん越に振る舞った。
対米活動担当の私としては、米副大統領の口からこのような無知蒙昧な言葉が出たことに驚きを禁じ得ない。
肩書きが「唯一超大国」の副大統領であるなら、世情も知り、対話の流れと情勢緩和の気流でもある程度感じてこそ正常であろう。
核保有国であるわが国家をせいぜいわずかの設備を設けていじくっていたリビアと比べることだけを見ても、彼がどんなに政治的に愚鈍な間抜けであるのかを推測して余りある。
ホワイトハウスの国家安保補佐官ボルトンに続いて今回またもや、副大統領のペンスが、われわれがリビアの轍を踏むようになると力説したが、まさにリビアの轍を踏まないためにわれわれは高い代価を払いながらわれわれ自身を守り、朝鮮半島と地域の平和と安全を守ることのできる強力で頼もしい力を培った。
ところが、この厳然たる現実をいまだに悟れず、われわれを悲劇的な末路を歩んだリビアと比べるのを見れば、米国の高位政客らが朝鮮を知らなくてもあまりにも知らないという思いがする。
彼らの言葉をそのまま打ち返すなら、われわれも米国が今まで体験も、想像もできなかったぞっとする悲劇を味わうようにすることができる。
ペンスは自分の相手が誰なのかをはっきり知らずに無分別な脅迫性発言をする前に、その言葉が招く恐ろしい結果について熟考すべきであった。
自分らが先に対話を請託したにもかかわらず、あたかもわれわれが対座しようと頼んだかのように世論をまどわしている底意が何か、果たして米国がここから得られると打算したものが何かについて知りたいだけである。
われわれは米国に対話を哀願しないし、米国がわれわれと対座しないというなら、あえて引き止めないであろう。
米国がわれわれと会談場で会うか、でなければ核対核の対決場で会うかどうかは全的に、米国の決心と行動いかんにかかっている。
米国がわれわれの善意を冒とくし、引き続き不法非道に出る場合、私は朝米首脳会談を再考慮する問題を最高指導部に提起するであろう。」
○5月17日付ハンギョレ解説記事「米"スーパータカ派"ボルトン挑発…北"6カ国協議代表"キム・ケグァン復帰」
「北朝鮮が16日「激怒を禁じえない」として出したキム・ゲグァン外務省第1副相の談話文には、ホワイトハウスのジョン・ボルトン国家安保補佐官の名前が三回登場する。談話文の大部分は、ボルトン補佐官が最近マスコミインタビューで主張した対北朝鮮メッセージに照準を合わせている。ジョージ・ブッシュ行政府に続き、ドナルド・トランプ行政府で華麗に復活した"スーパータカ派"ボルトン補佐官が、史上初の朝米首脳会談へ進む道で変数に浮上した格好だ。
 北朝鮮とボルトン補佐官の悪縁は、2000年代初めにまで遡る。彼はブッシュ行政府で国務部軍縮・国際安保担当次官と国連駐在米国大使を務めた時から代表的な強硬派(ネオコン)に挙げられた。彼は次官を務めていた2003年、金正日(キム・ジョンイル)当時北朝鮮国防委員長を「暴君のような独裁者」と非難し、当時北朝鮮は「人間ゴミ、血に飢えた吸血鬼」と打ち返した。キム・ゲグァン副相が談話で「私たちはすでにボルトンがどういう者かを明らかにしたことがあり、今でも彼に対する拒否感は拭えない」と明らかにしたのは、こうした前歴を指す。
 キム副相はまた「かつて朝米対話が進行されるたびに、ボルトンのような者のために迂余曲折を経なければならなかった過去の歴史を忘却し、偽りの憂国志士の話に従うならば…(省略)」と警告した。これもまた2000年代初期の北朝鮮核6カ国協議の時期を指していると見られる。ボルトン補佐官は、国務省次官だった2004年、リビアの核関連装備を米国テネシー州のオークリッジに移すことを主導しており、当時6カ国協議のメンバーではなかったが「北朝鮮はリビアモデルに従わなければならない」と主張し続けた。当時、6カ国協議の北側首席代表はキム副相だった。1994年の朝米ジュネーブ合意を2002年にブッシュ行政府が破棄する過程もまた、ボルトン当時次官が主導した。
 ボルトン補佐官は今年3月、国家安保補佐官に任命される直前までも対北朝鮮先制攻撃を主張するなど、タカ派気質をまったく捨てようとしなかった。彼は任命直後には「これまで個人的に話したことは、もうすべて過ぎ去ったこと」と言いはしたが、13日には「北朝鮮の核兵器をテネシー州に持っていかなければならない」として、リビアモデルを再び口にした。互いに知り尽くしている14年前のレコードを再び回して、北朝鮮の反発を招いたのだ。(ファン・ジュンボム記者)
 北朝鮮外務省のキム・ゲグァン第1副相は、中国北京で開かれた6カ国協議など北朝鮮核関連交渉で頑強に米国と対峙した外交の第一人者だ。彼が交渉の場で米国代表らと対抗する間、米国の大統領はビル・クリントンからジョージ・ブッシュに、さらにバラク・オバマに変わった。それほど朝米核交渉の歴史に占める象徴性が高い。…
 北朝鮮は2003年、第1次6カ国協議を控えて、当時"ネオコン"の代表的人物であるボルトン国務省次官が米国の首席代表として出てくることを強く敬遠した。ボルトン次官が出てくれば共存しないとも言った。米国はブッシュ大統領とコリン・パウエル国務長官が決める事項だとして対抗したが、ボルトン次官はついに交渉の場に出てくることはできなかった。キム副相は、彼の不参加が確認された2次6カ国協議から北朝鮮の首席代表として出席した。しかし、ボルトン次官は交渉の場外で強硬な態度を維持し、キム副相は彼と見えざる戦争をしなければならなかった。
 キム副相はしばらく北朝鮮核外交の舞台に姿を現わさなかった。彼が高齢であることに加え、健康状態が良くなく仕事をするには難しい状況という話が出回った。そのため、彼の今回の談話が名前を借りただけという観測も出ている。彼の名前に含まれた象徴性を通じて、米国に対する警告の重さを強調したという分析だ。ボルトン次官が当時、交渉の場外で米国の強硬な立場を代弁したとすれば、今回はキム副相が同じような役割をするものと見られる。(ユ・ガンムン先任記者)」
○金桂冠第二談話(5月25日)
「今、朝米間には世界が非常な関心の中で注視している歴史的な首脳の対面が日程にのぼっており、その準備も最終段階で推し進められている。
数十年の敵対と不信の関係を清算し、朝米関係改善の新たな里程標を立てようとするわれわれの真摯な模索と積極的な努力は内外の一様な共感と支持を受けている。
そのような中で24日、アメリカ合衆国のトランプ大統領が突然、すでに既定事実化されていた朝米首脳の対面を取り消すという公式立場を発表した。
トランプ大統領はその理由について、わが外務省の崔善姫次官の談話内容に「大きな憤怒と露骨な敵対感」が盛り込まれているからであるとし、久しい前から計画されていた貴重な対面を行うのが現時点では適切でないと明らかにした。
私は、朝米首脳の対面に対するトランプ大統領の立場表明が朝鮮半島はもちろん、世界の平和と安定を願う人類の念願に合致しない決定だと断定したい。
トランプ大統領が取り上げた「大きな憤怒と露骨な敵対感」というのは事実上、朝米首脳の対面を控えて一方的な核廃棄を圧迫してきた米国側の度の過ぎた言行が招いた反発にすぎない。
この忌まわしい事態は、歴史的に根深い朝米敵対関係の現実態がどんなに重大であり、関係改善のための首脳の対面がどんなに切実に必要であるのかをありのまま見せている。
歴史的な朝米首脳の対面について言うなら、われわれはトランプ大統領が過去のどの大統領も下せなかった勇断を下して首脳の対面という重大な出来事をもたらすために努力したことについて依然として心のうちで高く評価してきた。
ところが、突然、一方的に会談の取り消しを発表したのは、われわれとしては意外のことであり、非常に残念に考えざるを得ない。
首脳の対面に対する意志に欠けてか、でなければ自信がなかったせいか、その理由について推し量るのは難しいが、われわれは歴史的な朝米首脳の対面と会談自体が対話を通じた問題解決の第一歩として、地域と世界の平和と安全、両国間の関係改善に意味ある出発点になるとの期待をかけて誠意のある努力を尽くしてきた。
また、「トランプ方式」というものが双方の懸念を共に解消し、われわれの要求条件にも合致し、問題解決の実質的作用をする賢明な方案になることを密かに期待したりもした。
われわれの国務委員長も、トランプ大統領と会えば良いスタートを切ることができると述べて、そのための準備に努力の限りを尽くしてきた。
にもかかわらず、米国側の一方的な会談の取り消し公開はわれわれをして今まで傾けた努力とわれわれが新しく選択して進むこの道が果たして正しいのかということを再び考えるようにしている。
しかし、朝鮮半島と人類の平和と安定のために全力を尽くそうとするわれわれの目標と意志には変わりがなく、われわれはつねにおおらかに開かれた心で米国側にタイムとチャンスを与える用意がある。
一分は寸の始まりと言われるが、会ってひとつずつでも段階別に解決していくなら現在より関係が良くなるはずであって、より悪くなるはずがないということぐらいは米国も深く熟考してみるべきであろう。
われわれは、いつでもいかなる方式でも対座して問題を解決していく用意があるということを米国側に再び明らかにする。」
○5月26日付韓国・中央日報日本語版WS記事(抜粋)
 「トランプ米大統領は25日午後8時(米東部現地時間)、「米朝首脳会談をするのなら、もともと予定していたシンガポールで6月12日に開かれるだろう」と明らかにした。
トランプ大統領はこの日、ツイッターで、「我々は北朝鮮との首脳会談について非常に生産的な対話をしている」とし、このようにコメントした。そして「必要なら開催期間を延長することもあるだろう」と付け加えた。13時間前のコメントに比べて一段階発展した発言だ。これに先立ちトランプ大統領はツイッターで、北朝鮮の金桂冠(キム・ケグァン)第1外務次官の談話について「北朝鮮から温かくて生産的な談話を受け、非常に良いニュース」として歓迎の意を表していた。
トランプ大統領は「我々はこれがどこに到達するかもうすぐ知ることになるはず。長期的かつ持続的な繁栄と平和につながることを望む」とし「ただ、時間(そして手腕)が語るだろう」とコメントした。
トランプ大統領は記者らに「我々は今、北朝鮮側と対話していて、(予定通りに米朝首脳会談が来月)12日に開催される可能性がある」と明らかにした。続いて「彼らはそれ(米朝首脳会談)を強く望んでいて、我々も望んでいる。どんなことが起こるか見守ろう」とも話した。」