21世紀の日本と国際社会 浅井基文Webサイト

米朝首脳会談(環球時報社説)

2018.05.07

5月7日付の環球時報は、「朝米よ、金正恩・トランプ会談に向けて勇敢に前進せよ」と題する社説を掲載しました。社説は、朝米双方の核問題に関する立場の懸隔の大きさを指摘した上で、強者であるアメリカが問題打開のためにより多くの主動性を発揮することを促しています。私としても首肯できる内容なので、要旨を紹介します。

 朝鮮外務省スポークスマンは6日、朝米首脳会談について報道して以来まれに見る厳しい批判をアメリカに対して行った。それは、アメリカが行っている一連の朝鮮を刺激する言動は「情勢を元に戻そうとする危険な意図に基づくものだ」とするものだ。スポークスマンは特に、朝鮮の半島非核化の意思に関する発言は制裁圧力の結果だ、とアメリカがまき散らしていることを排撃した。
 アメリカは確かにそう言っているほか、制裁は継続していくとも繰り返し言っている。トランプは、南北首脳会談直後にも、朝鮮が核兵器計画を放棄する前にアメリカが「最大限の圧力を行使する」戦略を変えることはあり得ないと明確に述べた。
 トランプの以上の表明に関しては、朝鮮外務省スポークスマンの発言同様、米朝首脳会談に向けて勢いをつけ、カードを作ろうとするものだという分析もあるし、朝米の立場の懸隔が甚だしいため、首脳会談が積極的成果を上げることができるかどうかについて心配があるためだとする分析もある。
 半島情勢の緊張緩和はまことに得がたいものであり、米朝交渉が決裂して原点に戻るようなことがあれば、国際社会にとっては遺憾極まりないし、朝米も間違いなく痛手を被ることになる。  現在まで朝鮮側の対外的表明は多くないが、平壌の立場は主に以下の点にある。第一、朝鮮は公式に完全な非核化を通じて半島非核化の目標を実現することに同意した。第二、朝鮮は自国の安全に対して重大な関心と心配があり、核放棄と朝鮮に対する安全保障とを同時並行で進めることを希望している。第三、朝鮮はすでに戦略の重点を経済発展に向けることを発表しており、朝鮮を囲む国際情勢が大きく緩和し、変化することを真底期待している。
 アメリカの態度表明は多いが、その核心的内容は以下の諸点だ。第一、朝鮮の態度の変化は歓迎しているが、それは平壌の「策略」ではないかと疑ってもいる。第二、朝鮮に対する最大限の圧力と制裁を朝鮮が事実上核放棄するまで続けていくと強調している。第三、朝鮮の核放棄は長時間引き延ばしてはならず、迅速に実現するべきだ。
 今のところ、米朝首脳会談が行われることは大勢の赴くところであり、トランプは「行かないかもしれない」と言ったことはあるし、良い結果が出ないときは礼儀正しく会談を中止するとも表明したが、これらの発言は明らかに会談を前にした圧力行使の作戦だ。首脳会談が実現できないとなれば、それはホワイトハウスにとって耐えられない政治的損失であり、アメリカ世論に対してだけではなく、韓国及び国際社会に対しても顔向けできない。
 両首脳が相まみえても非核化について具体的結果を達成できない場合、あるいは、制裁取り消し及び安全保障提供と朝鮮による信頼できる非核化とを同時並行的に進めるということにアメリカが同意しない場合、交渉は間違いなく決裂する。
 朝鮮はすでに一方的に核ミサイル活動を停止する約束を行っており、朝韓関係も緩和に向けた歩みを始めている。アメリカが米朝首脳会談に同意したことも前進の一歩とすることができる。しかし、朝米間の巨大な隔たりは一目瞭然であり、双方の巨大な不信感も相変わらずであり、この膠着を打破するには首脳会談の実現が必要であり、ここに希望があると同時にすこぶる不安があるところでもある。
 指摘する必要があるのは、アメリカは強者であり、戦略的主導権を握っているもとで、朝米が相互不信から抜け出す上で、朝鮮側の心配と警戒は当然より大きいということだ。平和的な方法で双方の固結びをほどき、相互信頼を作るためには、アメリカがより多くの主動性を発揮する必要がある。アメリカは騙されることを心配するが、その発言権は大きいのだから、その心配については意を尽くして語ればいい。国際社会としては、発言権の小さい平壌とすれば、アメリカに振り回されることに対する心配は幾重にも大きいことを考えてみる必要がある。
 戦争にはリスクがあり、平和にもプロセスにおいてリスクがありうる。しかし、平和のリスクがいかに大きいとしても、戦争のリスクに比べれば遙かに小さい。首脳会談を準備している朝米としては、勇敢に前進することであり、後退することがあってはならない。特にワシントンにとっては、後退する政治的リスクは前進するリスクよりも大きい可能性が高い。