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中朝関係(王毅外交部長訪朝)

2018.05.06

5月2日から3日に、中国の王毅国務委員兼外交部長は訪朝し、2日には李容浩外相と会談し、3日には金正恩国務委員長の接見を受けました。
 外相会談に関する中国側発表(中国外交部WS)と朝鮮側発表(朝鮮中央通信)は次のとおりです。
私が特に注目したのは、王毅が「中朝二国間の経済貿易の具体的な協力を推進」と明確に述べ、しかも「朝鮮が力を集中して経済建設を行うことを全力で支持」すると発言したことです。このことは、朝鮮労働党中央委員会総会が、並進路線は勝利したとし、今後は経済建設に全力で取り組む新しい路線を打ち出したことを中国が全面的に支持し、バックアップするという方針であることを示しています(王毅は金正恩との会見でも「朝鮮が戦略の重心を経済建設に転換することを支持」と明確に述べました)。
私は、4月26日のコラムで、4月23日付環球時報の社説が「国際社会としては、部分的に制裁を取り消し、部分的な交流を回復する方式を通じて、朝鮮が情勢を安定化する行動を取ることを促し、かつ、平壌をして国際社会に復帰することが巨大な利益を意味すること、さらには、その利益が国家の安全保障を実現する現実的な促進剤となり、朝鮮の安全保障にとっての核兵器の意味を徐々に失わせることを見届けさせるべきだ」と主張したことを紹介しました。
王毅の上記発言と環球時報社説の主張を踏まえれば、中国としては朝鮮の経済建設に全力で支援する構えであること、そのためには邪魔となる安保理制裁決議の取り消しや停止に向けて今後アメリカ以下の常任理事国に働きかけていこうとしていることが窺えます。そのことは、朝鮮の非核化を確保するまでは最大限の圧力を行使していくとしているトランプ政権のアプローチと真っ向から衝突する可能性をはらんでいます。米朝首脳会談が安保理決議についても何らかの方向性を示すかどうかにも要注目です。

<中国側発表文>
 5月2日、王毅国務委員兼外交部長は朝鮮労働党政治局委員の李容浩外相と会談を行った。
 王毅は次のように述べた。3月に金正恩委員長は成功裏に訪中し、習近平総書記と金正恩委員長は歴史的会談を行い、中朝伝統的友好関係を受け継ぎ、発展させ、両国の戦略的疎通及び協力を強化することに関して新たな重要な共通認識を達成し、中朝関係の歴史的な新たなページを開いた。両国最高指導者の以上の共通認識は、双方が新時期に中朝関係を強固にし、発展させる上での方向を示し、行動指針を提供した。
 王毅は次のように述べた。中朝の伝統的友誼は双方共同の大切な財産である。中朝の伝統的友好関係を不断に受け継ぎ、発展させることは双方の戦略的選択だ。中国は朝鮮とともに、両国最高指導者の重要な共通認識を確実に実行に移し、双方の政治外交部門の疎通と協調を強化し、中朝二国間の経済貿易の具体的な協力を推進し、両国の人文交流を活発にし、新時期の中朝関係に不断に新たな活力を注入していきたい。
 王毅は次のように述べた。中国は、北南指導者が会談に成功し、重要な成果を獲得したことを祝賀する。中国は、朝鮮が自国の国情に合致した発展の道路を歩むことを全力で支持し、朝鮮が力を集中して経済建設を行うことを全力で支持する。中国は、半島に最近出現した積極的な変化を高く評価し、朝鮮が半島の非核化の目標に力をいたすことを全力で支持し、朝鮮の正当で合理的な安全保障上の関心を全力で支持し、半島の北南双方が関係を改善することを全力で支持する。我々は、朝米対話が順調に行われ、かつ、実質的な進展を獲得することを希望する。中国は朝鮮と疎通を強化し、半島問題の政治的解決プロセスにおいて引き続き然るべき積極的な役割を発揮することを願っている。
 王毅は、金正恩委員長及び朝鮮の党・政府が最近朝鮮で起こった重大な交通事故で中国公民が死傷したことを高度に重視し、救援及びその後の対策を全力で行ったことに対して感謝を表明した。
 李容浩は次のように述べた。金正恩委員長は朝中伝統的友誼を極めて大切にしている。新しい起点の上で朝中友好関係を堅持し、発展させることは朝鮮党・政府の確固として不変な立場だ。朝中の最高指導者が北京で成功裏に会談し、戦略的疎通・協力を強化することに関して重要な共通認識を達成したことは、朝中関係史上において歴史の節目となる大事件という意義を持つ。朝鮮は中国と共同で努力し、両国指導者の共通認識を真剣に実行し、政治外交部門の交流を密接にし、具体的な協力を強化し、人文交流を推進し、明年の朝中国交樹立70周年の記念活動を成功させるため速やかに準備を行いたい。半島の北南双方の指導者が行った歴史的会談の意義は極めて大きい。朝鮮は、半島非核化の実現及び半島平和メカニズム建設党の問題について中国と密接な疎通を保つとともに、引き続き関係方面との対話を強化することを願っている。
<朝鮮側発表文>
朝鮮の李容浩外相と中国国務院の王毅・国務委員兼外交部長の会談が2日、平壌の万寿台議事堂で行われた。
会談で双方は、両国の最高指導者が歴史的な対面の際に合意したことに基づいて朝中友好・協力関係を新たな高い段階へと拡大強化し、発展させていくうえで提起される問題について深く討議した。
また、朝鮮半島情勢をはじめ共同の関心事となる問題について虚心坦懐に意見を交換した。
会談は終始、友好的で真しな雰囲気の中で行われた。
会談には、朝鮮側から李吉聖外務次官、対外経済省の具本泰次官、関係部門の活動家が、中国側から外交部長一行、李進軍駐朝中国大使、大使館員が参加した。

金正恩と王毅の会見に関する中国側発表文(中国外交部WS)と朝鮮側発表文(中国中央通信)はそれぞれ次のとおりです。

<中国側発表文>
 5月3日、金正恩朝鮮労働党委員長・国務委員長は、党中央本部で朝鮮を訪問中の王毅国務委員兼外交部長と会見した。
 王毅はまず習近平主席の金正恩委員長に対する懇ろな挨拶を伝達した。王毅は次のように述べた。先般、委員長同志は成功裏に訪中し、習近平総書記と委員長同志は歴史的な会談を行い、一連の重要な共通認識を達成し、中朝関係の真新しいページを開き、中朝関係が新たな発展段階に入ることを共同で企画し、引率した。私の今回の訪問は、両国最高指導者が相談して定めた事柄を実行し、打ち固めるためのものである。
 王毅は次のように述べた。朝鮮はタイミングを見極め、情勢を判断して、果断に政策を決定し、朝鮮半島情勢に積極的な変化が出現することを導いた。中国は、北南指導者の会談が成功し、時代を画する板門店宣言を発表したことを支持し、祝賀する。会談は、半島問題の政治的解決に対して有利な契機をもたらした。中国は、半島が戦争状態を終結し、停戦から平和へのメカニズム転換を実現することを支持し、朝鮮が戦略の重心を経済建設に転換することを支持し、朝鮮が非核化プロセスを推進する中で自らの正当な安全に関わる関心を解決することを支持する。中国は以上について朝鮮と疎通を保ち、協調を強化したい。
 金正恩は習近平主席に対する懇ろな挨拶を伝達するように王毅に頼んだ。金正恩は次のように述べた。朝中友誼は両国の先輩指導者が残した尊い遺産であり、大変に貴重である。朝中友好協力を強固にし、発展させることは朝鮮の確固として不変な戦略方針である。私は先頃中国に歴史的訪問を行い、習近平主席と広範かつ突っ込んだ交流を行い、重要な共通認識を達成し、豊富な成果を獲得した。朝鮮は中国とともに、朝中関係がさらに高い段階に進むべく推進することを願っている。
朝鮮は、中国が朝鮮半島の平和と安定のために行っている積極的な貢献を高く評価しており、中国との戦略的疎通を強化することを願う。金正恩は、半島の非核化を実現することは朝鮮の確固たる立場であると述べた。先頃から、半島情勢に積極的な変化が出現していることは意義があることであり、半島問題の平和的解決にとって有利だ。朝鮮は、対話の復活を通じて、相互信頼を確立し、半島の平和に対して脅威となる原因を取り除くことを探求することを願っている。
<朝鮮側発表文>
朝鮮労働党委員長で朝鮮国務委員会委員長であるわが党と国家、軍隊の最高指導者金正恩同志が5月3日、訪朝中の中国国務院の王毅・国務委員兼外交部長に接見した。
中国外交部の孔鉉佑副部長、李進軍駐朝中国大使が陪席した。
金正恩委員長は、王毅部長とほとんど1カ月ぶりに再会できたことを非常に喜び、懐かしくあいさつを交わした。
金正恩委員長は続けて、王毅部長と談話した。
王毅部長は席上、最高指導者金正恩同志に送った中国共産党中央委員会総書記で中国国家主席である習近平同志の温かいあいさつを丁重に伝えた。
金正恩委員長はそれに謝意を表し、尊敬する習近平同志と兄弟の中国人民に送る自身とわが党と政府と人民の温かいあいさつを伝えることを頼んだ。
接見では、朝中両国間の団結と伝統的な友好・協力関係を全面的に継承して深化、発展させることと、朝鮮半島情勢の流れの発展方向と展望など、互いに関心を寄せる問題に対する幅広くて深みのある意見交換があった。
談話は終始、同志的かつ和気あいあいとした雰囲気の中で行われた。
金正恩委員長は、王毅部長と立派な談話をして重要な問題に対する朝中の見解を再確認し、意見を交換したことに大きな満足の意を表した。
金正恩委員長は王毅部長と熱く抱擁し、別れのあいさつを交わした。

5月3日付の環球時報は「中国は半島の傍らの大山であり、藁の山にはあらず」と題する社説を掲げ、王毅訪朝の意義を論じました。この社説は、南北首脳会談の実現及び米朝首脳会談の準備が着々と行われる中で、西側メディアを中心に「中国抜き」(チャイナ・パッシング)あるいは「脇に追いやられ」の議論が現れていることを強く意識して反論しつつ、王毅訪朝の意味を論じています。中国の役割が変わることはあり得ないことを理解している私からすれば、環球時報社説がムキになって反論しているのはいささか子供じみているという印象が否めません。
 しかし、金正恩訪中を受けた中朝関係に関する基調再規定(伝統的友誼の強調)は、金正恩訪朝以前の同紙の朝鮮に対する懐疑的論調を記憶するものにとっては、正に天地をひっくり返すものであり、中国の朝鮮に対する今後のアプローチを踏まえる上では非常に重要な内容です。要旨を紹介します。

 我々の理解に基づけば、王毅の今回の訪朝はまず、中朝指導者が3月に北京で会談した際の両国関係及び戦略的疎通に関する決定を具体化することにある。中朝が交流を強化することは、最近半島情勢で起こっている巨大な変化によって推進されたものであるし、中朝の伝統的友誼の回復、発展によって牽引されたものでもある。…
 ある人が非常に見事なたとえをした。すなわち、米朝関係如何は半島問題解決の天井板であり、中朝関係如何はこの難題解決の床板だ、というものだ。中国の半島問題における役割は北京が強引に要求したものではない。中国は地縁的に半島にもっとも近い大国であり、朝鮮にとって政治上の大後方であり、経済上の最大の協力パートナーであるとともに、韓国にとっては最大の貿易パートナーである。中国はまた国連という枠組みの支柱の一つだ。中国の参与なしには、半島が非核化の実現及び恒久平和について一括合意を達成することはまったく考えられないことだ。
 中朝の伝統的友誼を発展させることは、中朝両国の利益に合致するだけではなく、半島の恒久平和を推進する上での重要なプラス資産である。米韓同盟を前にして、朝鮮が半島非核化の道において自らの合法的利益を擁護することに関し、中国は確固たる支持者であるし、中朝友好関係もまた朝鮮の戦略的自信の安定的根拠の一つでもある。中国が半島の非核化及び平和メカニズムに対して監視することも実質的な意味がある。
 朝韓及び朝米首脳会談は北京が歓迎するところだ。正確に言えば、これらの会談は正に半島情勢の発展において中国が期待するものだ。…中国は浮ついたパフォーマーではないが、半島の平和に関する最高の一幕は中国の尽力支持なしには実現不可能である。
 中国社会なかんずく東北社会は、半島和平プロセスが後戻りしないことを心底希望している。聞くところによると、東北地方のある都市では、不動産価格が軒並み値上がりしているという。これこそは人々の楽観ムードの反映である。中朝友好協力をさらに発展させることについて、中国社会には非常に高い民意の支持がある。平壌が核実験を停止すると公表した後、中国の人々の朝鮮に対する好意は高まっている。
 朝鮮側も中朝の伝統的友誼を発展させることに極めて高い情熱を示している。最近も、金正恩委員長は中聯部の宋濤部長と二度も会見したし、朝鮮でバス事故に見舞われた中国の旅行客を何度も見舞った。中朝のこうした一連のインタラクションにより、人々は両国関係の未来について広く好意的に見ている。…
 中国は半島の縁にある大山であり、藁の山ではない。この事実は、一部の人間の主観によって変えることができるものではないのだ。