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在韓米軍撤退問題:南北の立場(韓国紙報道)

2018.05.04

文在寅大統領が5月2日に、在韓米軍の駐留問題は朝鮮半島における平和協定締結問題とは「まったく関係ないこと」という立場を明確にしたことを、5月3日付のハンギョレ・日本語WSが報道しました。また、同日付の中央日報・日本語WSは、青瓦台関係者の発言として、朝鮮も、体制保障が確約されれば、在韓米軍駐留を問題視しないだろうという見通しを示したことを報道しました。
 以上の動きは、文在寅大統領の外交安保特別補佐官である文正仁・延世大学教授が米誌『フォリン・アフェアズ』への寄稿文章「朝鮮半島の真の平和の道」の中で、「平和協定が締結された後は、在韓米軍の持続的な駐留を正当化するのは難しい」という見方を示したことが韓国国内で物議を醸している状況に対して、文在寅政権が速やかに火消しを行ったものと見られます。
 私も、終戦協定を平和協定に転換させ、米朝国交正常化などによる朝鮮の体制保障が確保されれば、朝鮮は在韓米軍駐留を問題視しないと見ています(例えば、2月3日付コラム)。したがって、文在寅政権が取った今回の動きは当然なことだと思います。とはいえ、ハンギョレと中央日報の記事は一読の価値があると思いますので、以下に紹介しておきます。

ハンギョレ「文大統領「在韓米軍は平和協定とは関係ない」明確な立場表明」
 文在寅大統領が2日、朝鮮半島平和協定締結後の在韓米軍の駐留問題に関して、「平和協定の締結とは全く関係ないこと」だと、明確に立場を示した。5月の朝米首脳会談を控えて誤解の素地をなくし、消耗的な保革論争の余地を与えないという意志が反映されたものとみられる。
 キム・ウィギョム大統領府報道官は同日午前の記者会見で「ムン・ジョンイン大統領外交安保特別補佐官の在韓米軍関連の(寄稿)文について、文大統領が直接述べた言葉を伝える」とし、「(文大統領は)『在韓米軍は韓米同盟の問題だ。平和協定の締結とは何の関係もない』と述べた」と伝えた。キム報道官は「文大統領が参謀たちとの朝の茶談会でこのように述べた」と付け加えた。
 ムン・ジョンイン特補は先月30日に発刊された米国の外交専門誌「フォリン・アフェアズ」に寄稿した「朝鮮半島の真の平和の道」という題名の文で、「平和協定が締結された後は、在韓米軍の持続的な駐留を正当化するのは難しい」としたうえで、「しかし、保守野党陣営が在韓米軍の削減や撤退を強く反対することが予想され、文大統領には相当な政治的ジレンマとして作用するだろう」という見通しを示した。キム報道官は「イム・ジョンソク大統領秘書室長がムン特別補佐官に電話をかけ、文大統領のこのような言葉を伝えると共に、『大統領の立場と混乱が生じないようにしてほしい』と話した」と伝えた。また、ムン特別補佐官の解職の可能性を問う質問に対し、「それはない」と答えた。
 文大統領は朝鮮半島平和協定の締結後も、在韓米軍が駐留する必要があると考えている。大統領府関係者は「文大統領は金大中元大統領同様、平和協定の締結後にも北東アジアのバランサーの役割を果たす在韓米軍が必要だと考えている」と話した。別の大統領府関係者も「政府の立場は、在韓米軍駐留は必要だということ」だと話した。2000年、史上初の南北首脳会談当時、金元大統領は金正日総書記に、在韓米軍の役割に関して「今は対北朝鮮抑制力として存在するが、北朝鮮の核問題が解決され、朝米の国交が正常化すると、北東アジアの軍備競争におけるバランサーの役割を果たすだろう」と述べた。文大統領は先月19日、マスコミ各社社長団との昼食会で「(北朝鮮は非核化の前提として)在韓米軍の撤退など、米国が受け入れられない条件を提示していない」と述べた。昨年11月には京畿道平沢(ピョンテク)の在韓米軍基地キャンプ・ハンフリーズでは「在韓米軍は韓米同盟の頑丈な礎であり、未来」だと述べた。
 文大統領が直接速やかに、また明確に在韓米軍の駐留問題についての考えを示したのは、朝米首脳会談が目前に迫った状況で不必要な混乱や論争を招きたくないという意志が込められたものとみられる。大統領府関係者は「大統領府は朝米首脳会談を控え、まさにガラスの器を扱うような、雷畑や氷の上を歩いているような状況」だとし、「かなり敏感な時期にこの問題をめぐって保守陣営を中心に消耗的な論争が巻き起こることを望んでいないということ」だと話した。文大統領は南北、朝米首脳会談の過程で数回にわたり、「国論をまとめてほしい」と呼びかけた。  ヤン・ムジン北韓大学院大学教授は「板門店宣言では、北朝鮮が在韓米軍撤退問題を提起しなかった」とし、「在韓米軍問題は、北朝鮮が語るべき問題ではなく、韓米間の問題だというのが韓国政府の立場だ。北朝鮮の金正恩国務委員長も、在韓米軍を平和協定の障害要因とは思っていないだろう」と話した。
ソン・ヨンチョル記者、パク・ビョンス先任記者
韓国語原文入力:2018-05-02 23:57
中央日報「青瓦台「金正恩委員長、米朝会談で在韓米軍容認も」」
2018年05月03日09時45分
[ⓒ 中央日報/中央日報日本語版]
北朝鮮の金正恩国務委員長が今月と予想される米朝首脳会談でトランプ米大統領に「在韓米軍駐留」を容認する立場を明らかにする見通しだと、複数の青瓦台関係者が2日伝えた。
青瓦台関係者は「金委員長が米朝首脳会談の際、平和協定の締結などで北の体制が保証される場合、在韓米軍の韓半島(朝鮮半島)駐留を問題視しないと公開的に約束する可能性がある」とし「これは米朝の非核化合意過程で北が米国に提供する『贈り物』になる可能性がある」と話した。
別の関係者も「金日成主席と金正日総書記は非公式的に在韓米軍の駐留を容認したことがあった」とし「初めて平和体制のための米国との直接談判をする金委員長が先制的に在韓米軍駐留を容認する立場を明らかにするのは当然の流れとも考えられる」と述べた。
この関係者は「米国が北の体制を保証する場合、在韓米軍は北の脅威にならない」とし「北はこの場合、在韓米軍駐留を通じてむしろ北の対中国交渉力を最大化できるという計算もすでにしているはず」と話した。また「現在まで我々が(各種の南北接触過程で)接した内容によると、在韓米軍に関する限り南北の立場は大きく変わらない」とも明らかにした。これに先立ち青瓦台は2月、訪朝特使団が金正恩に会った当時、金正恩委員長は「韓米連合訓練実施を理解する。朝鮮半島に平和が訪れれば在韓米軍と韓米訓練の性格と地位も変わるのでは」という立場を明らかにした、と公開した。
文在寅大統領はこの日、米朝関係正常化の過程で在韓米軍が撤収する可能性もあるという一部の不安を公開的に一蹴した。前日に「平和協定を締結すれば在韓米軍の駐留を正当化するのは難しい」と主張した文正仁(ムン・ジョンイン)外交安保特別補佐官の寄稿が論議を呼ぶと、文大統領は翌日、「在韓米軍は韓米同盟の問題。平和協定の締結とはいかなる関係もない」と述べたのだ。文大統領は特に任鍾晳(イム・ジョンソク)大統領秘書室長を通じて文特別補佐官に電話をかけて自分の立場を説明するよう指示した後、これを青瓦台の金宜謙(キム・ウィギョム)報道官を通じてメディアに公開することにした。文大統領が文特別補佐官に対して事実上の公開的警告をしたという解釈が出てくる理由だ。
青瓦台は当初、この日午前6時30分ごろまで在韓米軍の撤収を一蹴しながらも「文特別補佐官は思想の自由と表現の自由を享受する教授」という対応を見せていた。過去に文特別補佐官の立場や発言について「学者としての考え」と述べたのと似ている。しかし午前8時10分ごろ文大統領が主宰したティータイムで大統領のメッセージが出てきた。そして午前10時、報道官の公式ブリーフィングにつながった。
青瓦台関係者は「文大統領の措置は一次的には韓国内の葛藤を遮断しようという意図」とし「過去の金大中、盧武鉉政権当時、内部の葛藤で挫折した経験を省みながら文大統領が最優先に国民世論を考えている」と話した。何よりも米朝首脳会談を控えて在韓米軍撤収の議論が韓米同盟に亀裂を生じさせるという点も考慮された。一部では文大統領の強い警告が文特別補佐官の更迭を予告したという見方も出ている。
在韓米軍に対する文大統領の考えは明確だ。文大統領は昨年、シンガポールメディアのインタビューで「在韓米軍は対北抑止力レベルでなく、北東アジア全体の平和のためにも重要だ」と強調した。平和体制が定着した後にも在韓米軍は北東アジアの「力の均衡軸」の役割をすべきということだ。文大統領は3日、5府要人(国会議長、最高裁判所長、首相、憲法裁判所長、中央選挙管理委員長)を青瓦台に招請し、在韓米軍問題をはじめとする南北首脳会談の結果を説明する。このうち出張中の金命洙(キム・ミョンス)最高裁判所長は出席しない。