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トランプに対する警鐘(環球時報社説)

2018.04.26

4月22日付けのウォールストリート・ジャーナルは、トランプ政権高官の発言として、「大統領が過去の誤りを犯さないというとき、それが意味するのは、北朝鮮がその核計画を実質的に廃棄するまではアメリカは実質的な譲歩を行わないということだ」と述べたことを紹介しました。またトランプ自身、同日、金正恩をテーブルに着く決心をさせるため、トランプが大きな譲歩を行ったとする批判に対して、「ワオ、我々は何も譲歩しておらず、しかも彼らは核試験場の閉鎖、核ミサイル実験をもうしないことに同意したのだ」「北朝鮮と話をつけるまでには長い道のりがあり、話はつくかもしれないし、つかないかもしれない。時だけが教えるだろう」とツイッターに書き込みました。
 トランプが朝鮮との交渉を短期間で決着をつけるとしているのは、ブッシュ及びオバマ両政権が「行動対行動」原則に基づいてさみだれ式に朝鮮に譲歩を行ったけれども問題解決には至らなかった、という認識に基づいています。ちなみにこの点について、韓国当局との話し合いのために訪韓した米国務省のソーントン東アジア・太平洋担当次官補代行(指名者)は、トランプが自分の任期内に非核化の成果が出ることを望んでいるという見通しについて、「長い時間がかかることを望んでいるわけではないが、デッドライン(期限)があるとは思っていない」、「段階的措置に必ずしも長い時間が必要な状況ではないとみている」とし、「大統領が時間を無駄にするようなプロセスに入るつもりはないという点を明確にしたと思う」と説明しました(4月25日付ハンギョレ・日本語版WS)。
 トランプの以上のようなアプローチは、彼の超強硬な圧力行使が朝鮮の今回の譲歩を余儀なくさせたのであり、朝鮮を完全に非核化させるためにはさらに圧力をかけ続けていくことが必要だとする認識に基づいている、というのが大方の見方です。しかし、そのような認識をトランプが本気で持っているとするのであれば、それは完全に誤りです。私がコラムで指摘してきたように、金正恩はアメリカに対する核デタランスを構築したという自信があるからこそ、それを武器(取引材料)として、自国の安全保障の確保及び経済建設に邁進できる内外条件の確保という目標のために、アメリカに対して一方的かつ大胆な譲歩を行って、アメリカを交渉のテーブルに着かせようとしているのです。
明らかなことは、このモメンタムを活かし、朝鮮半島の非核化に向けたプロセスを軌道に乗せるためには、トランプ政権(及び国際社会)も朝鮮の大胆なアプローチに応えるだけの大胆なステップを取ることが不可欠です。そこにおけるカギは、朝鮮を対等平等な交渉相手として敬意を持って接し、朝鮮の取った具体的行動に見合うだけの具体的行動で報いる用意があるかどうかです。
 韓国メディアの報道に基づけば、韓国の文在寅大統領はその点を正確に認識しつつ明日(27日)の南北首脳会談に臨む姿勢を示していますが、肝心なのは南北首脳会談で敷かれるであろうレールにトランプが心して乗る心構えがあるかどうかです。冒頭で指摘したトランプの言動を見る限り、前途は決して楽観を許しません。4月25日付の中国青年報は、李敦球署名文章「朝鮮核実験停止 半島、冷戦脱出の重要なチャンス」を掲載しました。李敦球は末尾で「朝鮮は真っ先に実際の行動を取った。米韓は誠意を持ってこのチャンスをとらえ、見合うだけの実際的措置をとって、半島の冷戦メカニズムを徹底的に終わらせるかどうかを、人々は刮目して見守っている」と指摘していますが、私もまったく同感です。
4月23日付及び25日付の環球時報はそれぞれ、「朝鮮核実験停止 米韓も重大な調整を行うべし」及び「半島の後戻り防止 アメリカは誠意を示すべし」を掲載し、トランプの足腰の定まらない言動に対して、警鐘ともとれる提言を行っています。そして、4月25日付社説は、明日(27日)南北首脳会談に臨む文在寅に対するエールが込められていることも明らかです。要旨を紹介します。

<4月23日付社説>
 朝鮮は二度と核実験もミサイル実験も行わない。考えても見よ。半年前に想像できたか。このような重要な進展が目の前にある。だからこそ、米韓日を含む各国はこの得がたい局面を大切にすべきなのだ。
 半島情勢を朝鮮の完全な核放棄及び永久平和の実現という目標に向かってたゆみなく前進させること、逆向きに歩み、昨年のような激烈な対決に向かって捲土重来させないこと、これこそが今後半島問題に対処する上での各国の出発点であるべきだ。
 半島の真の非核化を実現することと今日朝鮮が核ミサイル実験を停止したこととの間にはまだ艱難辛苦を極める巨大なステップがあることは明らかだ。しかし、平壌は非核化を語る用意があることを示したし、道理からいっても、非核化の目標は実現不可能ということではない。
 朝鮮はすでに仕事の重点を経済建設に転換するという決定を行った。これは朝鮮の戦略的決心であるはずだ。国際社会、真っ先に米韓日及び西側はイデオロギー的に朝鮮を悪魔と見なす意識から抜けだし、正常な国家と交際するというロジックに基づいて朝鮮が最終的に核を放棄するように働きかける必要がある。
 朝鮮がきっぱりと核ミサイル実験を停止すると宣言したことについて、ワシントンは最大限の圧力行使の結果だと考えるべきではない。これには多くの要因が働いており、その中には、朝鮮がすでに相当なレベルの核ミサイル技術を擁するに至り、10,000キロ以上の射程のICBMの発射実験を成功裏に行ったことが含まれている。圧力行使が「成功した」という主張は検証に耐えうるものではない。
 ワシントンがこれからも最大限の圧力という手段によって平壌を核放棄に向かわせようとするのであれば、極めて危険なことであり、中韓はおそらくそれに応えることはないだろう。なぜならば、それは情勢を再び激動に向かわせる可能性が極めて高く、しかもその激烈さは昨年のそれを上回らないとも限らないからだ。
 国際社会としては、部分的に制裁を取り消し、部分的な交流を回復する方式を通じて、朝鮮が情勢を安定化する行動を取ることを促し、かつ、平壌をして国際社会に復帰することが巨大な利益を意味すること、さらには、その利益が国家の安全保障を実現する現実的な促進剤となり、朝鮮の安全保障にとっての核兵器の意味を徐々に失わせることを見届けさせるべきだ。
 朝鮮が核兵器の研究開発に巨大な代価を支払ったことは容易に見て取ることができる。朝鮮が核兵器は自らにとって「重要」と考える限り、それを放棄したいと考える可能性は大きくない。核兵器を放棄するメリットがそれを保持するメリットよりも遙かに大きいと平壌が確信する場合にのみ、核の放棄が確実になるのだ。…
 国際社会がなすべきことは、朝鮮にとって核兵器が「無用」になること、あるいはそのマイナス面がプラス面より明らかに大きいようにすることだ。朝鮮の安全保障環境が根本的に改められれば、…朝鮮の核放棄は自然に成就するだろう。…
 半島情勢が今後どうなるかのカギはやはりアメリカにある。そして韓国はアメリカの態度を動かす重要なテコである。平昌オリンピック以来、ソウルは役割を発揮してきた。ソウルは今後もワシントンが実質的な調整を行うことを促す必要がある。
<4月25日付社説>
 朝鮮が一気呵成に核を放棄するのであれば、それはいいことだ。アメリカが朝鮮に対して極めて魅力的な補償を与える場合にのみ、平壌をして急転換に応じさせることができるだろう。しかし、米朝間の戦略的相互信頼はゼロであるので、米朝が一気呵成に交渉を完成させることを楽観的に予想するものは少ない。
 ワシントンは最大限の圧力行使によってマジック的な結果を生み出すことを相変わらず希望しているかもしれないが、アメリカが平壌の交渉に対する熱意を疑ってかかっているように、ワシントンが交渉に誠意を持っているか否かも同じように深刻な問題なのだ。  アメリカにとって、朝鮮が核を放棄することだけが重要であり、朝鮮が核ミサイル実験を停止するというプロセスは価値がないことなのかもしれない。しかし、中国及び韓国にとってはまったく違う。中韓も朝鮮の核放棄を最終目標としているが、両国は同時にこのプロセスが平穏なものであることを強く願っている。いかなる代価も惜しまず、ひいては軍事的にカードを切る方式で目標を実現するやり方は、中国としては受け入れられないし、韓国もおそらく受け入れないだろう。
 アメリカ人も他者感覚を発揮して中国人の関心を考えれば、我々がなぜ朝鮮の核保有に反対するとともに、極端なカードを切る方式でこの目標を実現しようとすることにも反対するかが分かるはずである。中国の東北地方は朝鮮のお隣であり、豊渓里核実験場は東北地方の安全にとって核が漏れ出す可能性がある長期的かつ潜在的なリスクだった。朝鮮が核実験を停止し、核実験場を廃棄することは、中国にとって現実的な利益であるし、韓国にとっても実質的な進展だろう。…
 アメリカが出している情報に鑑みると、半島情勢は相変わらず巨大な不確定性に直面している。我々は、米朝が今後一連の原則及びボトム・ラインを遵守することを希望する。
 第一、米朝が接触及び交渉を維持するに当たって、アメリカは条件を設けないこと。
 第二、朝鮮は、いかなる核実験及び中長距離ミサイル発射実験をも行わないという誓約を堅持し、いかなる状況下においてもこれらの実験を復活することを対米韓圧力行使のカードとしないこと。
 第三、アメリカは朝鮮に対して軍事攻撃するという脅迫を行わず、軍事的カードという選択肢を除外すること。
 朝鮮が核ミサイル実験を復活させない限り、半島の緊張は昨年の米朝対決の激しさ以下のレベルにコントロールすることができるだろう。アメリカが軍事行動を取ることがない限り、半島問題が噴火するに至ることはない。
 韓国と中国が立場を協調することは非常に意義がある。中韓は、半島の激動に耐えることは米日よりも難しく、両国としてはそれぞれのやり方によって平壌をして核放棄の方向に邁進することを促すと同時に、それぞれの角度からワシントンに圧力をかけ、半島問題で勝手なことをさせないようにするべきだ。
 朝鮮核問題を如何に解決し、半島の恒久的平和を如何に実現するかについて、ワシントンは半島及び周辺地域諸国の意見を尊重するべきである。アメリカは自分勝手な行動を取ることがあってはならず、地域の安全にとって危険となる極端な手段を執ることによって、ワシントンの深刻な一手によるツケを我々が支払わせられるようなことがあってはならない。中韓及びロシアは朝鮮の隣国であり、我々は半島問題に関する発言権を守る必要がある。