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朝鮮の戦略転換(ハンギョレ評価)

2018.04.24

4月23日のハンギョレ・日本語WSは、イ・ジェフン先任記者による「[ニュース分析]金委員長、「豊渓里核実験場」放棄し「経済建設」選んだ」及び「制裁解除し「経済に集中」の意志…金正恩の改革・開放3種セットが本格化」を掲載し、労働党中央委員会総会の決定を「重要な戦略的方向転換」と高く評価する分析を行いました。私が昨日のコラムで述べた認識と軌を一にするものだと思います。内容的にも興味ある指摘がありますので紹介します。

[ニュース分析]金委員長、「豊渓里核実験場」放棄し「経済建設」選んだ
 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長兼労働党委員長が、国家戦略の核心軸を"核"から"経済"に切り替えると公式宣言した。南北、朝米首脳会談を控え、北朝鮮体制を率いる指導機関である朝鮮労働党の中央委員会第7期第3回全員会議(20日)を通じて公式的に打ち出した重要な戦略的方向転換だ。
 金委員長は「経済建設と核兵力の建設を並進させることに対し、我が党の戦略的な路線が明らかにした歴史的課業が輝かしく貫かれた」とし、「並進路線が偉大な勝利に帰結」したと述べた。2013年3月31日の党中央委全員会議で採択した「核・経済の並進路線」を公式終了するという宣言だ。6回に渡る核実験と頻繁なミサイル試験発射で、昨年、朝鮮半島を戦争危機に追い込んだ北朝鮮の国家戦略的基盤が並進路線だったという点で、この路線の終了宣言は、朝鮮半島情勢に重大な影響を及ぼすものと見られる。さらに、金委員長は、「社会主義経済建設に全力を集中することが党の(新しい)戦略的路線」だと明らかにした。"核"から"経済"へ、国家発展戦略の中心軸を切り替えるという宣言だ。
 金委員長のこのような戦略的転換は、南北および朝米首脳会談を控えて発表されたという点で、世界的な注目の対象となった。特に「もう我々にはいかなる核試験や中長距離・大陸間弾道ロケットの試験発射も必要なく、これに伴い北部の核実験場も自らの使命を終えた」という金委員長の指針によって、党中央委全員会議が決定した、豊渓里(プンゲリ)核実験場の閉鎖と21日から核実験と大陸間弾道ミサイル試験発射中止の措置が注目を集めた。南北および朝米首脳会談を控え、国際社会の一部で金委員長の非核化の意志を疑う視線が依然として存在する中で打ち出された「先制的信頼構築措置」だからである。南北および朝米首脳会談で成功的な結果を出したいという金委員長の意志を示すものと言える。ドナルド・トランプ米大統領は、「朝鮮中央通信」が21日付でこのような内容を報道した直後、「みんなのための進展」であり、「非常に良い知らせ」だとし、「我々(朝米)の首脳会談を楽しみにしている」と歓迎した。大統領府も「朝鮮半島の非核化に向けた意味ある進展」であり、「南北首脳会談と朝米首脳会談の成功に向けた非常に肯定的な環境作りに寄与するもの」だとし、「北朝鮮の決定を歓迎する」と明らかにした。
 ただし、金委員長が並進路線終了の背景として「国家核兵力の完成」や「核の兵器化完結」などを強調したことを根拠に、米国などでは、真摯な非核化の意志の表明というよりは、核保有国としての地位を強固にするための核保有宣言という評価もある。実際、金委員長は「核を放棄する」と明示的に述べなかった。専門家たちの間で、金委員長の今回の決定と処置に対する解釈が大きく異なるのもそのためだ。しかし、北朝鮮の意味のある先制的信頼構築措置というのが大方の評価だ。
 キム・ヨンチョル統一研究院長は22日、金委員長が韓国の特使団の訪朝(3月5日)および中国の習近平国家主席との首脳会談(3月26日)を通じて、「非核化は先代の遺訓であり、非核化の実現に力を尽くすことは変わらない我々の立場」だと再度強調した事実を想起する必要があると指摘した。キム院長は「北朝鮮が非核化の意志を明確にしたからこそ、南北首脳会談と朝米首脳会談に合意でき、朝中首脳会談も開かれた」とし、「結論的に北側の今回の処置は、非核化交渉に向けた事前作りのための先制的信頼構築措置と言える」と話した。北朝鮮の分析に詳しい元高官は「まだ慎重にならざるを得ないが、金委員長が"戻る橋を燃やした処置"と見ることもできる」とし、「今回の決定と処置は、金委員長がこれからは"経済にオールイン(全てをかける)"するという背水の陣」だと分析した。
 イ・ジョンソク元統一部長官は特に、金委員長が豊渓里核実験場を一方的に閉鎖すると宣言した事実に注目した。核保有国のうち、核実験場を閉鎖して核実験をしないと宣言した先例がないだけでなく、豊渓里核実験場の閉鎖カードは、金委員長が朝米首脳会談でトランプ大統領への"贈り物"として提示できる"切り札"と言う点で、南北および朝米首脳会談を成功に導きたい金委員長の意志の強さを裏付けるものだと評価した。別の元老専門家は、「大陸間弾道ミサイルは通常15回以上試験発射して正確性と安全性を確保するのに、北朝鮮がそれを放棄し、今回試験発射の中止を宣言したのは、これを重大な安保への脅威とみなしてきた米国を意識した友好的処置」だとし、「両首脳会談を控えてかなり爽快なスタート」だと評した。しかし、同専門家は「悪魔は細部に宿ることを忘れてはならない」とし、「北の並進路線の終了宣言が核廃棄を前提にしたものなのか、核完成を前提にしたものなのかはまだ定かではないだけに、南北および朝米首脳会談で北朝鮮の核廃棄措置をいかに引き出すかが重要だ」と指摘した。
 2012年の執権以来、北朝鮮経済の「市場化」を地道に進めてきた金委員長が全員会議決定書を通じて、今後「周辺国と国際社会との緊密な連携と対話を積極化していく」と公言したことも注目に値する。「社会主義経済の建設に向けた有利な国際的環境作り」と「朝鮮半島と世界の平和と安定の守護」という2大目標を明確にした点が特にそうだ。今後、南北および朝米首脳会談で、朝鮮半島の非核化と恒久的平和体制の構築、軍事的敵対の解消と北朝鮮の体制安全保障などと関連した南北米の合意がいかなる形であれ実現するものと見られるが、その合意の履行過程は、国連など国際社会の対北朝鮮制裁の緩和や北朝鮮の国際経済体制への接近の拡大と共に進められる可能性が高いからだ。金委員長が今回の決定と処置を通じてほのめかした内心も、南北および朝米首脳会談を通じて国際社会の憂慮を払拭する代わりに、軍事的な敵対を解消して北朝鮮の体制安全の保障を受けると共に、国際経済体制の一員として合流する鍵を得ることが核心だと言える。
制裁解除し「経済に集中」の意志…金正恩の改革・開放3種セットが本格化
 「社会主義経済建設に総力集中!」北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長兼労働党委員長が「党中央委員会7期3次全員会議」で「経済・核並進路線」の終了を宣言し、新たに提示した「党の戦略路線」だ。
 これ自体だけでは内容や方向、強度を測りがたい。ただし、金委員長が今回の会議で明らかにした"目標"には誇張がない。現実認識が率直だ。金委員長は「闘争の当面の目標」が「国家経済発展5カ年戦略」(2016~2020年・5カ年戦略)期間に「すべての工場・企業所の生産の正常化」と「全野(田畑につくられた野原)ごとに豊饒の秋」を達成し「人民たちの笑い声が高らかに響くようにすること」と明らかにした。中長期的には「全体の人民たちに何不自由なく満ち足りて文明化した生活を与えること」と提示した。2013年の並進路線の採択後、北朝鮮の核兵力強化処置とそれに対応した国連など国際社会の制裁強化による北朝鮮経済の困難な現実を包み隠さなかった。「生産の正常化」という表現が代表的だ。金委員長が南北および朝米首脳会談を機に、非核化措置をテコに国際社会の制裁の緩和と経済支援・協力を引き出したいと思っていることがわかる。
 さらに、金委員長は「党の経済政策を貫徹するための内閣の統一的な指揮に無条件に服従しなければならない」という指針を下した。外部の専門家らの間で、北朝鮮経済の悪習慣と指摘されてきた党・軍の介入による「経済政策の政治化」を遮断するという意志の表現だ。
 金委員長が明らかにした「新しい戦略路線」の内容や方向、強度を推し量るならば、2016年5月「朝鮮労働党第7次大会」の時、金委員長が行った事業総和報告を振り返ってみなければならない。当時、金委員長は「経済強国の建設は、現在わが党と国家が総力を集中しなければならない基本戦線」と明らかにした後、2012年の就任以来模索してきた「金正恩式経済改革・開放政策」を総合的に整理して発表した。第一に、中期経済計画として「5カ年戦略」を発表、第二に、金正恩式経済開放戦略として「経済開発区」活性化、第三に、「金正恩式経済改革(市場化)戦略」として「我々流の経済管理方法」の公式化だ。
 5カ年戦略は、金正恩時代の最初の経済政策戦略の基調であるため重要だ。「経済開発区」は、金委員長が2013年3月31日、労働党中央委全員会議で指示して以来、これまで20カ所以上設置された。このうち8つが鴨緑江(アムノッカン)・豆満江(トゥマンガン)など国境地帯に設置・運営されている。経済開発区は、中朝国境地域をはじめ、地方分散型「金正恩式対外経済開放」の核心的な手段だ。俗に「5・30処置」と呼ばれる「我々流の経済管理方法」は、北では「社会主義企業責任管理制」と呼ぶが、「市場」と関連した各種の不法・半合法活動の合法化をはじめ、工場・農場などの経済現場の自主性・インセンティブの強化が中心だ。外部の専門家らはこれを「金正恩式市場化」、「金正恩式経済改革の初期措置」と考え、注目してきた。
 このような「金正恩式経済改革・開放3種セット」は、核開発による国際社会の対北朝鮮制裁の強化のために力を得られなかったが、「金正恩委員長は戦争準備をしながらも市場の扉は開けておいた」(イム・ウルチュル慶南大学極東問題研究所教授)。南北および朝米首脳会談以降は、非核化の進展に合わせた制裁の緩和の度合いによって、状況が大いに異なりうるということだ。
 一部では「金委員長が中国の改革開放を率いたトウ小平の道を歩こうとしている」という評価もあるが、まだ断定する状況ではない。金委員長は「新しい革命的路線の基本原則は自力更生」と強調することにより、少なくとも形式論理上では全面的改革開放と距離を置いた。