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朝鮮労働党中央委員会総会決定の重要な意味

2018.04.22

朝鮮労働党中央委員会の第7期第3回総会が行われ、全会一致で採択された決定書「経済建設と核武力建設並進路線の偉大な勝利を宣布することについて」は、以下のことを明示しました。

一、党の並進路線を貫徹するための闘争過程で臨界前核試験と地下核試験、核兵器の小型化、軽量化、招大型核兵器と運搬手段開発のための事業を順次的におこない核兵器兵器化を頼もしく実現したことを厳粛に闡明する。
二、チュチェ107(2018)年4月21日から核実験と大陸間弾道ロケット試験発射を中止する。
核実験中止を透明性あるものに裏付けるために、共和国北部核試験場を廃棄する。
三、核試験中止は、世界的な核軍縮のための重要な過程であり、わが共和国は核試験の全面中止のための国際的な志向と努力に合流する。
四、わが国家に対する核の威嚇や核の挑発がない限り、核兵器を絶対に使用しないし、如何なる場合にも核兵器と核技術を移転しない。
五、国の人的、物的資源を総動員して強力な社会主義経済をうち建てて人民の生活を画期的に高めるための闘争に全力を集中する。
六、社会主義経済建設のための有利な国際的環境を用意し、朝鮮半島と世界の平和と安定を守護するため周辺国と国際社会との緊密な連携と対話を積極化していく。

韓国、中国、ロシアはもちろん、EU、イギリスも上記第二の点について高く評価する声明を発表しました。トランプ大統領もツイッターで歓迎する言葉を発しました。ところが、アメリカ及び日本国内では、「北朝鮮はこれまでにも約束を破ったことがある」として、今回の朝鮮の発表を懐疑的に受け止める向きが多いのが実情です。
 しかし、このような受け止め方はまったく的外れです。「北朝鮮はこれまでにも約束を破ったことがある」という受け止め自体も実は大きな問題がある(これらの懐疑的見方は、米朝枠組み合意及び9.19合意を朝鮮が「破った」という断定、あるいは、かつて金正日が冷却塔を爆破しておきながら核開発は継続したという一方的断定に基づいていますが、これらの断定については議論の余地が大きい)ことについては、ここでは立ち入りません。
 過去における朝鮮の約束・行動は、いうならば金正日の一存で行われたのですが、今回の決定は金正恩の独断ではなく、朝鮮の最高意思決定機関である朝鮮労働党中央委員会総会の全会一致の決定です。もちろん、「そんなのは金正恩独裁体制の下におけるお飾りに過ぎない」という反論は直ちに行われるでしょう。しかし、そのような反論があることは認めた上で私が指摘しなければならないのは、今後仮に朝鮮が以上の決定内容と異なった行動を取るためには、再び朝鮮労働党中央委員会総会による決定という手続きを踏む必要があるということです。つまり、金正恩の一存で今回の決定を覆すことはないということを、金正恩は正規の意思決定機関の決定という手続きを踏むことで対外的にコミットしたということなのです。したがって、「過去の事例」をもとに朝鮮の今回の決定の意味を疑ってかかる見方は決定的に間違っています。
 今回の決定の意味がこのように極めて重みを持ったものであることを確認すれば、上記決定の第五及び第六に示された経済建設への全力集中並びに経済建設のための有利な国際的環境整備及び周辺国・国際社会との緊密な連携と対話の積極化という決定も正真正銘、掛け値なしの決意表明であることが確認されます。つまり、並進路線の一つである核デタランス構築が完成したという基礎の上で、これからは並進路線のもう一つである経済建設に全力を投入するということです。
 今回の決定は非核化について触れていないという軽率を極める批判が出ていますが、非核化について触れていないのは当たり前です。この問題は正にこれからアメリカを相手に交渉する事柄であり、朝鮮がボトム・ラインとする休戦協定の平和協定への転換及び米朝国交正常化にアメリカが応じる場合にのみ、朝鮮も最終的に非核化するということであり、その点については金正恩と直接交渉したポンペオ(したがってトランプ)も当然認識しているでしょう。
 私が今回の朝鮮労働党中央委員会総会に関する労働新聞及び朝鮮中央通信の報道を読んで改めて確認できたのは、並進路線はあくまで「経済建設と核武力建設並進路線」であって、「核武力建設と経済建設並進路線」ではないという李敦球の指摘の重みです(3月1日のコラム参照)。私流に言い換えるならば、経済建設が目的(主)であり、核武力建設はそのための手段(従)であるということです。アメリカに対する交渉力を確立するために核武力建設に邁進する(その間は中国及びロシアの批判にも一切耳を貸さない)、しかし、核武力(デタランス)が確立した上は、「非核化に応じること」を最大の交渉上の武器(手段)として経済建設という目的を実現するための最大限の外交上の成果を獲得する。これが金正恩の戦略であると私は指摘しました(2月3日及び3月8日のコラム参照)が、今回の決定を読んで、私の判断は的を射たものであったと確認できます。
 したがって、アメリカ・トランプ政権は、今回の金正恩のメッセージは不退転のものであることを真摯に受け止め、アメリカとしても不退転の意思で金正恩・朝鮮に向き合うことが不可欠です。また、国連安保理を筆頭とする国際社会としても、金正恩の不退転の決意に積極的に応じる行動を取ることが必要です。
この点に関して、4月22日付の環球時報社説「朝鮮、核ミサイル活動停止 世界、口先での激励にとどまることなかれ」が以下の指摘を行っていますが、私もまったく同じ意見です。

 最新の事態が示すとおり、米日及び西側は相変わらずの見方をしている。長期にわたり、西側は平壌政権を「奇怪な」存在と描き出してきたが、朝鮮が経済建設及び平和的発展に転換する願望は真摯なものだ。…朝鮮が一切の核ミサイル活動を停止すると一方的に宣言したことは、半島が冷戦の残渣から抜け出す重大なチャンスだ。各国はこのチャンスをしっかりつかみ、情勢を前進させるべく確固としてともに歩むべきである。
 我々は、半島情勢が良い方向に変化するべく実質的な行動を取ることを希望する。そういう行動としては、米韓合同軍事演習の停止、あるいはその規模及び頻度の大幅な削減を含むべきだ。米韓日は、国連決議以外の朝鮮に対する一方的な制裁を速やかに取り消すことを明らかにするべきだ。安保理も、朝鮮の今回の決定に対して速やかかつ積極的な反応を明らかにし、当面の良好な情勢を強固なものにするべきだ。すなわち、安保理は朝鮮に対する制裁の部分的解除を決定するとともに、半島非核化プロセスの進展に従い、対朝制裁を最終的かつ完全に撤廃することにより、朝鮮の新政策に対する激励を明確にするべきだ。
 世界世論も朝鮮に対する凝り固まった認識を積極的に調整し、米韓同盟の圧力のもとにある朝鮮の艱難辛苦を理解するべきである。西側世論は朝鮮に対するイデオロギー批判を停止し、半島非核化が最後まで推進できるよう、まったく新たな世論環境を作り出すべきである。
 もっとも心配なのは、アメリカが半島情勢に対して別の「考え方」を持ち、半島問題の根源を除去することに興味を持たず、新しい変数を持ち込むことである。各国は、半島問題の解決を推進することに確固たる決心を持ち、忍耐心を発揮することによってのみ、情勢を不断に前進させることができるし、後退を回避することもできるのだ。今後の実際の展開がそのようになることを期待する。