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金正恩訪中の画期的意義(李敦球評価)

2018.04.07.

4月4日付けの中国青年報は、李敦球署名文章「習近平・金正恩会談は世界をアッと言わせる 中朝友好は歴史が長くますます堅固である」を掲載しました。近年、中朝関係が低迷し、ぎくしゃくする中でも一貫して、朝鮮に対して長年にわたって培ってきた深い造詣に基づき、中朝友好関係の戦略的重要性について健筆を振るってきた李敦球にとって、今回の金正恩訪中及び習近平との会談で中朝友好関係の歴史的戦略的重要性が再確認されたことを見届けたことは、さぞかし溜飲の下がる、感慨深いものであったと思われます。文中で彼は、環球時報社説及び人民日報海外版WSが紹介した蘇暁暉署名文章の一節を引用していますが、おそらく李敦球は環球時報、人民日報ですら「雑音」の影響から無縁ではなかったと皮肉る気持ちを込めているのではないかと思われます。それほどに、李敦球は孤立無援の中で正論の孤塁を守ってきたのです。
 李敦球のこれまでの孤軍奮闘の健筆に敬意を表しつつ、要旨を紹介します。

 (金正恩の訪中に関して)中国は3400字に及ぶ長文のニュース原稿を発表し、中央テレビは14分かけて報道したが、これは滅多にないことであった。韓国紙も28日、26日の一日だけで両首脳は3回相まみえ、その時間は7時間10分に及び、「習近平が一日に3回金正恩と会ったということは、中朝関係の特殊性を突出して表している」と称した。朝鮮の主要な公式メディアである朝鮮中央通信社、労働新聞、朝鮮中央テレビなども大量の時間及びスペースを使って金正恩訪中の模様を報道した。
 直ちに分かるとおり、中朝双方は金正恩の初めての訪中を非常に重視し、意義は特別に重要かつ大きく、今回の訪中は当面及びこれからの中朝関係及び地域情勢に対して深甚なる積極的影響を生み出すことだろう。今回の訪問がもたらす地縁効果及び戦略的価値は巨大であるが、少なくとも以下のことを含む。
 第一、中朝の伝統的友好は朝鮮核問題によって動揺することはなく、幾度となく波乱に遭遇したが、それによってびくともしないということ。吟味する価値があるのは、一時期、国の内外で中朝関係を誹謗し、ひどくは挑発する声が喧しかったことである。指摘する必要があるのは、中朝は核問題で一定の違いはあったけれども、それは対立ではなかったということだ。第一に、朝鮮の核問題は米韓の強大な軍事圧力及び半島冷戦構造によって作り出されたものであって、中国とは無関係であることだ。第二に、朝鮮が核兵器を開発する根本的目的は国家の安全と政権の安全を守るためであり、それによって米韓の強大な戦略的戦力の圧力に抵抗しようということであって、その目的は中国に向けたものではないということだ。したがって、中国はこれからも引き続き半島の非核化という原則を堅持し、平和交渉によって朝鮮核問題を解決する立場を堅持していくが、そのことは中朝関係に対して衝撃を作り出すものではない。中朝両国指導者は、大所高所に立ち、戦略的高みから中朝の伝統的友好の歴史的意義を認識した。
 第二、中朝の戦略関係は歴史的及び地縁的な法則によって決定されたものであり、友好の基礎の上に樹立されているが、友好を越えてもいるということ。朝鮮核問題及び朝鮮核危機が現れて以来、中朝間の地縁関係を否定するものがひっきりなしに現れたが、彼らはそれ以外の地縁関係の価値、例えば、アメリカが在韓日米軍をさらに強化し、韓国にTHAADシステムを配備することが示している地縁戦略価値、については否定しなかったのであり、その論理は自己矛盾しており、批判する価値すらないものだった。歴史的法則及び地縁政治的法則というものは、歴史の蓄積によって形成されるものであり、その内在的なロジックは人間の意志によって動かされるものではない。(習近平と金正恩の発言を紹介した上で)両国指導者は、中朝の地縁関係の法則性及び重要性に対して同一あるいは相似た明確な認識を示した。
 第三、戦略的定力を保ち、雑音を排除し、中朝関係を新たな段階に引き上げるということ。地域及び国際問題の研究において、朝鮮、朝鮮半島及び中朝関係に関する論争及び違いはあるいはもっとも大きいかもしれないが、そのこと自体が朝鮮の地縁的価値及び中朝関係のこの地域及び国際情勢に対する重要性を物語っている。正常な論争及び違いは免れがたいものだが、論争及び違いが客観的範疇を超えると、それはすなわち雑音となる。最近の「中朝友好関係は絶対に韓米日の干渉妨害を受けることはできない」と題する文章(浅井注:3月19日付の環球時報社説)は、「中朝両国にとり、核問題を巡る違いと中朝友好関係との間で如何に区別し把握するか、この分野で韓日及び西側の世論の影響を如何にして免れるか、ということは重大な試練であり、両国は高度に重視するべきである」と指摘した。また、「金正恩訪中は半島問題に関する中国関連の雑音に反撃した」(浅井注:3月29日付人民日報海外版WSが掲載した文章の中で紹介した蘇暁暉署名文章)と題する文章は、「少なからぬ西側のメディアは、金正恩の「突然」の訪中に驚きを表した。確かに、中朝のハイレベルの交流は、本年以来喧しかった半島問題に関する「中国無用論」「チャイナ・パッシング」論に対して有力な反撃を与えた」と述べた。以上から分かるように、雑音と干渉妨害はすでにかなりの程度にまで達していたということだ。
 朝韓及び朝米が首脳会談を行う前に、金正恩が訪中したことの意義は普通一般なものではない。習近平は、「このたびの訪中は時期・タイミングが特殊であり、意義は重大である…」と述べた。含意は深遠というべきである。戦略的定力を保ち、雑音を排除することによってのみ、中朝関係をさらに新たな高みへと押し上げていくことができるのだ。