21世紀の日本と国際社会 浅井基文Webサイト

朝鮮半島情勢の行方

2018.04.05.

<中朝外相会談>
金正恩訪中を受けて、中朝関係には直ちに大きな変化が現れています。モスクワを訪問するために北京を経由した朝鮮の李勇浩外相が4月3日に王毅外交部長と会談し、「朝鮮は今後、両国最高指導者の北京での会談で示された方向に従って、半島の関連する問題について中国側と密接な戦略的意思疎通を保つ」と発言しました(中国外交部WS)。
 王毅外交部長は同日、記者の質問に答え、南北及び米朝首脳会談に対する中国の支持を表明するとともに、今後現れるであろう干渉妨害要素に対する警戒の必要に関して次のように述べました(中国外交部WS)。ちなみに、「同歩的」という表現は金正恩が使ったもので、王毅は早速中国側の従来の提案の中に取り入れる配慮を見せた感じです。米朝首脳会談に関しては、「朝米指導者が順調に会談を実現し、相互理解を増進し、基本的な相互信頼を確立することを希望」するという表現は、速戦即決を急ごうとする可能性がある(後述参照)トランプ政権に釘を刺し、まずは首脳間の相互理解・相互信頼を築くことに重点を置くことを諭している感じです。

 最近、半島情勢には積極的な変化が生まれており、各国が良い方向で動き合い、対話交渉の再起動のために貴重なチャンスを作り出している。中国は、各国がこの得がたい局面を大切にし、接触と対話の勢いを保持し、対話を順調に再起動するための条件を作り出し、雰囲気を積み重ねることを希望する。中国は、朝韓双方が関係改善を継続することを断固として支持しており、北南首脳会談が予定どおり行われ、積極的な成果を上げることを期待している。我々はまた、朝米指導者が順調に会談を実現し、相互理解を増進し、基本的な相互信頼を確立することを希望している。
 もちろん、歴史的経験が告げているように、半島情勢に緩和が出現し、平和対話の希望の兆しを迎えるとき、往々にしてあれやこれやの干渉妨害の要素が現れるものだ。我々は、各国が定力を保ち、干渉妨害を排除し、確固として対話交渉という正しい方向に沿って歩んでいくことを呼びかける。非核化プロセスを推進する中では、各国の合理的な安全に係わる関心を同歩的に解決し、かつ、半島の平和メカニズムを積極的に構築し、「ダブルトラック同時並行」の考え方に沿って、共同で半島の長期安定の未来を切り開くのだ。

<日本に対する警告>
王毅が「半島情勢に緩和が出現し、平和対話の希望の兆しを迎えるとき、往々にしてあれやこれやの干渉妨害の要素が現れるものだ」と発言したとき、その念頭にあるのは日本であることを、同日の中国外交部定例記者会見で耿爽報道官が次のように述べています(質問者は日本の自衛隊の指揮権集中は中国と朝鮮の脅威を想定したものと見られるという趣旨の発言を行ったことに対するものです)。トランプが米朝首脳会談に応じたために朝鮮半島問題で孤立無援に陥っている安倍政権を揶揄するとともに、「足を引っ張る」ことはするなと警告したのです。
 ちなみに、安倍政権は正に妨害工作に必死です。アベは訪米してトランプに、また、河野は訪韓して康京和に、いわゆる拉致問題を朝米及び南北首脳会談で取り上げるよう働きかけると報道されています。しかし、拉致問題は平壌宣言(2002年)第3項で外交的に解決済みです(「日本国民の生命と安全にかかわる懸案問題については、朝鮮民主主義人民共和国側は、日朝が不正常な関係にある中で生じたこのような遺憾な問題が今後再び生じることがないよう適切な措置をとることを確認した。」)。「拉致問題の解決なくして日朝国交正常化なし」とアベが言う「拉致問題」とは被拉致生存者の帰国ですが、これは平壌宣言第3項とは別の問題で、日朝国交正常化とは切り離して扱うべきものであり、ましてや朝鮮半島非核化問題に絡めるべき筋合いの問題ではありません。韓朝米中露が朝鮮半島非核化問題に正面から取り組もうとしているときに「拉致問題」をあげつらうのは、王毅がいう「半島情勢に緩和が出現し、平和対話の希望の兆しを迎えるとき、往々にしてあれやこれやの干渉妨害の要素が現れるものだ」そのものなのです。

 最近、朝鮮半島に積極的兆しが現れており、各国が積極的に相互のコミュニケーションを図っている。関係諸国はアメリカも含め、そのための努力を払っており、一定の成果も獲得している。このプロセスの中で、日本はいささか粗末に扱われているようだ。
 最近日本側は、朝鮮が新たな核実験の準備を行っているとか、さらなるミサイル発射実験を行おうとしているとかの見解を発表もしている(浅井注:河野外相発言を指していることは明らか)。こうした警報を鳴らすことで、国際社会の注目を集めることに成功している。
 日本よ、安心しなさい。半島の非核化、国連安保理の朝鮮関連決議を全面的かつ完全に履行するという国際社会の決意と意思は非常に明確であり、確固として変わることがない。同時に我々としては、各国が現在のタイミングを捉え、向き合って進み、半島情勢の緩和を推進し、半島問題の解決を再び対話協議の正しい軌道に乗せるために共同して努力することを望む。みんなが共同で努力しているときに「足を引っ張る」ものはいらない。

<中朝、韓国及びアメリカの思惑>
ところで、朝鮮の安全保障と朝鮮半島の非核化という2つの課題を如何にして実現するかという最大の問題に関して、早くも中朝、韓国そしてアメリカの間の考え方の違いが取りざたされるようになっています。中国と朝鮮は、「同歩」と「ダブルトラック同時並行」で足並みをそろえたと思われます。これはとりもなおさず、6者協議の9.19合意で合意された「約束対約束」「行動対行動」を指すことは明らかです。具体的に中国と朝鮮は、6者協議の再起動により、朝鮮半島の非核化と朝鮮の安全保障を同時的段階的に実現していくという基本姿勢と見られます。ロシアも完全にこれにコミットしていますから、朝鮮及び中国はロシアが今後の協議に加わることを当然の前提と考えていると見て間違いありません(李勇浩外相は訪ロしてラブロフ外相と協議する予定であり、金正恩の訪ロと朝露首脳会談が話し合われる可能性も十分あります)。
 これに対して韓国の文在寅政権は、盧武鉉大統領と金正日総書記との間で締結された宣言(2007年)に基づき、南北及び米朝首脳会談後に韓国、朝鮮及びアメリカの首脳会談を開催し、その後で南北米中4カ国の首脳会談を行うことを考えていると、4月3日付のハンギョレ・日本語WSは以下のように伝えています。

 朝鮮半島非核化のロードマップをめぐり様々な議論が飛び交う中、大統領府は2日「南北米3カ国首脳会談が南北米中4カ国会談に先立って行われるのが望ましい」と明らかにした。
 大統領府関係者は同日、「南北が首脳会談を行い、(北朝鮮核問題の)当事者である朝米が(会談)して、その次に南北米、その次には南北米中に行くのが手順である」とし、「終戦宣言と平和協定などは、非核化に関する大きな枠組みの合意が実現してから、可能になる」と話した。…
 他の大統領府高官も記者団に「南北米首脳会談は私たちが望むところであり、そうなることを希望する」と話した。先月26日の朝中首脳会談後、中国が朝鮮半島問題に対する発言権が大きくなった後も、文在寅大統領の「南北米3カ国首脳会談」基調が維持されるかを問う質問に対する答弁だった。同関係者は「南北米会談が南北米中の会談の先に行われるべきという意味なのか」という質問に「そうだ」と答えた。…
 南と北は2007年10月、南北首脳会談で採択した「南北関係の発展と平和繁栄のための宣言」(4項)で「直接関連した3カ国または4カ国首脳が朝鮮半島地域で会談し、終戦を宣言する問題を推進するための協力」を明示した。当時、南側は「3カ国または4カ国」という表現を「直接関連当事国」に変えようという立場だったが、北朝鮮側の主張でこの枠組みが反映された。

また、今後の対話交渉の進め方に関する文在寅政権の考え方としては、3月30日付の中央日報・日本語WS及び4月4日付のハンギョレ・日本語WSは以下のように伝えています。

(中央日報)
核心関係者は30日、記者会見で私見と断ったうえで「ゴルディアスの結び目であれ一括妥結であれ、リビア式解決法であれ現実に存在しにくい方式を想定しているようだ」と話した。 同時に「北朝鮮の核問題が25年間続いているが、テレビの電源コードを抜けばテレビが消えるように一括妥結宣言をすれば非核化が終わるものではない」として「検証と核廃棄は順々に踏んでいくしかないのが現実」と指摘した。
この関係者は「細かく切り離して少しずつ進めたのが従来の方法だったとすれば、今は両首脳間宣言をすることで大きなふたをかぶせてその次から実務的に取り組んでいくのが可能なのではないだろうか」と話した。
この関係者は「何度も結婚用品や舅姑問題を例に挙げるが、そのような問題がない結婚がどこにあるのか」として「トランプ大統領と金正恩委員長が5月末にも会うと宣言したことから、何かをやってみたいという意志を垣間見られるのではないか」と付け加えた。青瓦台の非核化構想については「テーブルに着く当事者の考えは違うはずだ」としながら「我々の考えがあるというより、仲裁者として異なる考えを調整して折り合いをつける」とした。この関係者は「29日、鄭義溶(チョン・ウィヨン)青瓦台国家安保室長が楊潔チ中国外交担当政治局委員から金正恩委員長の訪中結果についてとても細かい部分まで詳細に伝えてもらった」とした。
(ハンギョレ)
 大統領府は3日、4・27南北首脳会談と5月の朝米首脳会談で提示される非核化ロードマップと関連し、「包括的、段階的妥結」の原則を重ねて強調した。「北朝鮮核問題の根源的解決に向けた段階的・包括的アプローチ」の原則は文在寅大統領が昨年7月、ドイツのケルバー財団の招請演説で強調したものだ。文大統領は当時、「北朝鮮核問題は過去よりはるかに高度化し、難しくなった」とし、「段階的かつ包括的なアプローチが必要だ。韓国政府は国際社会と共に、北朝鮮核の完全な廃棄や平和体制の構築、北朝鮮の安保・経済的憂慮の解消、朝米関係および朝日関係の改善など、朝鮮半島と北東アジアの懸案を包括的に解決していく」方針を明らかにした。
 大統領府高官は同日、記者団に「一括妥結と段階的な妥結は実はコインの両面」だとし、「非核化の合意は包括的に行い、その合意の履行過程は段階的にならざるを得ない」と話した。非核化と国交正常化を交換した「一括妥結交渉」の代表的な事例に挙げられるリビア式の非核化の解決策についても、彼は「経済制裁の解除や連絡事務所の設置、国交正常化など、完全な非核化までいくつもの段階を経た」とし、「結局、妥結と履行の過程は一体として共に進められるしかなく、包括的、段階的という表現を使うのもそのためだ」と説明した。
 同高官は、南北と朝鮮半島周辺国の首脳会談を通じた非核化協議が過去とははっきり異なっており、肯定的だという点も明確にした。彼は核開発と朝米国交正常化および軽水炉発電所の提供を交換した1994年の朝米枠組み合意と、核兵器の破棄の見返りに核拡散禁止条約(NPT)への復帰と平和協定の締結を約束した2005年9・19共同声明の締結当時と比較しながら、「今はボトムアップ(下から上に)方式ではなく、指導者たちが決定権を持っているトップダウン(上から下に)方式の包括的合意であるため、もう少し早く、確実に合意が行われ、検証も効率的になるだろう」と見通した。
 同高官はまた、リビアやウクライナなど他の国の非核化過程を例に挙げ、北朝鮮の非核化のロードマップを予断するマスコミ報道を警戒した。彼は「リビア式やウクライナ、マルタ式など、様々な予測記事があり、南北米または南北米中首脳会談のシナリオはあるが今決まっているものは何もない」としたうえで、「大統領府はまず、非核化を包括的に協議する南北首脳会談の準備に全力を傾けている」と話した。

上記記事にある「リビア式解決法」とは、トランプ大統領がマクマスターの後任として安全保障担当補佐官に指名したボルトンが、これまでに主張してきた解決方式です。ボルトンは、リビア・カダフィ政権が受け入れた「先に非核化、その後に補償(支援)を行う」を朝鮮に対しても適用することを主張してきました。上記「核心関係者」及び大統領府高官の発言が文在寅の考え方を正確に反映しているとするならば、また、トランプがボルトンのこれまでの主張を採用するならば、中朝露の立場に傾斜している文在寅政権とトランプ政権との間には立場の大きな違いが出てくるということになります。
 ただし、先に紹介した4月3日付ハンギョレ・日本語WSの記事は、北朝鮮に対する超強硬姿勢の立場の共和党のリンゼー・グラム上院議員の言動に関して次のようにも紹介して、ボルトンの立場に変化の兆しが見られるとも観測しており、トランプ政権の今後の出方は今の時点では不分明というほかありません。

 今年初めまでも北朝鮮の核・ミサイルプログラムの開発を防ぐためなら戦争も考えるべきだと主張していた共和党のリンゼー・グラム上院議員も1日(現地時間)、北朝鮮非核化の見返りとして、南北米中4カ国和平協定の締結に言及し、注目を集めている。
 グラム議員は同日、「フォックスニュース」に出演し、「(朝米首脳会談で)交渉の目標は、北朝鮮の核計画の放棄を明確にすること」だとし、「そして多分、北朝鮮や韓国、米国、中国が平和協定を結ぶこと」だと話した。さらに、「今我々は(北朝鮮と)膝をつき合わせて金正恩に核兵器を放棄させると共に、まだ進行中の朝鮮戦争を終わらせる歴史的機会を迎えた。ただし、長く時間をかけてはならない」と述べた。これまで対北朝鮮タカ派は北朝鮮の非核化を強調してきただけで、相応の見返りに対する言及はほとんどなかったという点で、グラム議員の発言は異例的だ。グラム議員は同日のインタビューで、ホワイトハウスのジョン・ボルトン国家安保補佐官指名者と先日夕食を共にしたと公開した直後、このような発言をした。したがって、ボルトン指名者の考えが反映された可能性もある。

<環球時報社説>
 以上のように錯綜した情勢を踏まえ、4月2日付環球時報社説「米韓フォール・イーグル合同軍事演習は手加減すべし」は、以下のような興味深い、私としてはおおむね首肯できる分析を行っています。

 現在の半島には直近10年間ではもっとも緩和の雰囲気が現れているが、この緩和に対する態度は各国間で大きな違いがある。ワシントンの全体としての態度はもっとも不確定であり、一方で米朝首脳会談を準備しつつ、他方では平壌の態度の変化はアメリカが最大限の圧力をかけた結果であると見なし、引き続き朝鮮に対して圧力をかけていくというのが主流である。
 韓国は今回の緩和を作り出すことにプラスの役割を発揮したが、緩和を維持していく能力は限られており、米韓同盟の主役となってアメリカのタカ派に影響力を及ぼす力はない。仮にワシントンが今後も断固として朝鮮に対する強硬政策を推進するとなれば、ソウルはこれを阻止できないだけではなく、韓国内部の対朝鮮姿勢もワシントンの態度の衝撃を受け、大勢がアメリカに従うという結果を導く可能性もある。
 日本は半島情勢の緩和に対して一貫して水を差す発言を行っており、東京の頭の中を占めているのは脇に追いやられたという思いだけであることは誰にも分かることだ。半島が緩和を維持することに対する日本の関心は、このままで行くと完全にメンツを失うという焦りには遠く及ばない。半島情勢が再び緊張に向かい、米韓が日本の支援を求めることになれば、東京にとってはもっと気分が良いということだろう。
 平壌は米韓との交渉にどれほどの確信があるだろうか。これも何とも言えない。しかし、平壌の確信の多くの部分は、米韓とのコミュニケーションの中で築き上げられていく必要があるという性格のものだろう。つまり、半島の公正で平和的な協議を達成することに関する米韓の態度が確固としたものであればあるほど、交渉を通じて自らの安全に対する関心を解決することに対する朝鮮の期待はますます高まるだろう。
 米韓合同軍事演習を行うことに対して朝鮮が「理解」を示したと韓国はいうが、米韓はやはり手加減して、極力トーンを落とし、平壌が米韓の誠意を見届けられるようにするべきである。  米韓がしっかり認識するべきは、朝鮮の核保有は安全のためということである。朝鮮の安全環境を改善するために米韓が本気で努力せず、もっぱら利己的な安全上の利益を中心に据えるならば、半島非核化の道はきわめて険しく、仮に何らかの協定を達成したとしても、それを履行していくことは至難だろう。
 朝鮮が巨大な代価を払いながら核保有を追求したのは、半島が今日に至るまで停戦協定しかなく平和協定はないなど、多くの複雑な原因によるものだ。朝鮮核問題を徹底的に解決するためには、朝鮮の安全に対する深刻な不安感を導いたこれらの原因を能う限り取り除き、朝鮮の外的安全環境を正常化させる必要がある。
 これらのことは一回の交渉で解決できるものではなく、各国が長期にわたって努力を払う必要がある。心配なことは、アメリカの政治システムはホワイトハウスの交渉意欲に対して安定した支持を与えることが難しいことだ。トランプ政権は現在交渉する意思がある。しかし、大統領は明らかに「政治的実績」により関心がある。短期間の交渉で結果が出ず、繰り返しの交渉が政権の政治的威信を消耗するとなると、ホワイトハウスはきっぱりと政策を変更する可能性がある。
 当面の緩和はきわめて脆弱であり、各国が細心の注意を払って守り、情勢が後退することを防ぐ必要がある。交渉が速やかに決定的な進展を獲得し、問題の一括的解決の妙案が随時達成可能というような幻想を抱くべきではなく、交渉は持久戦になるという心理的な心構えをしておく必要がある。半島の平和と安定を実現するため、各国は互いに向き合って進むべきである。