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アベのホンネと日中関係の導き方(中国専門家提言)

2018.04.03.

3月23日のコラム「日中関係:中国が日本に求めるもの」で、李克強首相が「中日関係を改善するには、雰囲気が必要なだけではなく、さらに必要なのは先見性と定力だと考える」と述べたこと、またその趣旨を厖中鵬署名文章がさらに敷衍したことを紹介しました。3月30日付の環球時報は、呉懐中(中国社会科学院日本所研究員)署名文章「アベの「本心」を導いて対中関係を改善する」を掲載しました。この文章は、他者感覚を駆使して、安倍首相の対中認識・政策の本質を剔抉した上で、安倍首相の本心を十分わきまえた上で、中国が主導権をとって日中関係を改善するべく努力することを提言しています。
 日本国内の日中関係に関する発想は、官・民・メディアを問わず、自己中心の発想に立つものばかりで、他者感覚を働かせて中国の考え方を見極めようとする努力は皆無です。したがって、日本の対中認識・政策は本当に薄っぺらなものとどまっているのです。このままでは、日本は中国というお釈迦様の手のひらの上で暴れ回って得意になっている孫悟空に成り下がること必定です。この文章を読んで、少しは中国人の他者感覚の豊かさについて、爪の垢を煎じて飲んで味わってみたらどうでしょうか。

 安倍政権は昨年以来、「一帯一路」参加希望表明、両国首脳会談開催提起、李克強首相訪日招請等、続けさまに対中関係改善の意思を示してきており、そのたびごとにその意思が明確さを増している。李克強首相はすでに、本年上半期に中日韓首脳会議に出席することと併せて公式に訪日することを積極的に考えていると表明した。2018年を迎え、中日関係にも「小春」の兆しが見えている。
アベの「本心」を過大評価することはできない
 では、以上からアベは戦略を抜本的に変え、「本心」から中国との友好及びウィン・ウィンを図ろうとしていると考えることができるだろうか。少なくとも今のところは、あまりに過大評価することはできない。短中期的には、アベの対中政策の基本あるいは立脚点が根本的に調整されることは難しい。逆説的に考えれば分かるだろう。アメリカがオバマまたは共和党エスタブリッシュメントの考え方に沿ってアジア太平洋リバランスあるいはTPPを引き続き推進していたならば、中国の「一帯一路」建設の成果と見通しがなかったならば、中国が南海の安定維持に力不足で、域外諸国が引き続き波風を立てることができていたのであれば、日本が朝鮮核問題で中国の力を借りる必要がないということであったならば、つまり、こういった要素の働きがなかったならば、アベがこのように急いで関係改善を図り、友好的姿勢を見せるということはおそらくあり得なかっただろう。
 中国の台頭を正視できないことが、日本政府をしてあらゆる方法を講じて中国を牽制し、警戒するようにさせている。しかし現実としては、かくも図体と利益とを備えている中国に相対するとき、日本としては中国と付き合い、交流を図らざるを得ず、これは正にアベがもっとも頭を悩ませるところである。こういう心情と認識に動かされてアベが思いめぐらすのは、中国に対して冷たくもなく熱くもない、平和共存の疎遠な関係を保ち、利に赴き害は避け、自分のためになる「政経分離」というダブル・トラックの戦術を進めることであり、それは必然的に中国に対してひっきりなしに見せる「二重人格者」式ジェスチャーとなる。
 以上からアベが定める対中戦略における主要目標は次の3点に集約される。すなわち、経済ではチャンスを活かすこと、安全保障では「脅威」を予防すること、政治では影響力を競うことである。なかんずく中国防遏の戦術は、軍備を整え、日米同盟を強化し、広く仲間を集めるという3つの組み合わせによって、中日関係に対して妨害と破壊とを引き起こすことである。最近の例は、日本が極力推進する「インド太平洋戦略」による中国牽制である。
姿勢の変化が表す「新しい意味合い」
 しかし、アベのこのような姿勢の変化にはいかなる「新しい意味合い」もないのだろうか。必ずしもそうではない。少なくとも以下の2つの面で一定の新しい動きが現れている。
 最初に、安倍政権の戦略には、臨機応変、自主、バランスという考え方が生まれている。もっとも顕著な変化では、当初は中国が推進する地域協力構想に加わることを断固拒否し、「一帯一路」提案及びアジア開発銀行に極力抵抗してきたが、今ではしきりに積極的な態度を示すようになっている。短中期的にいえば、日本が「脱米入中」し、中米間でいずれかを選択するという可能性を見届けることは困難だが、日本の戦略的発想におけるタブーには一筋のほころびが見えている。
 実際に日本は、政治・安全保障上の絶対的「聯米制中」から、比較的賢く、バランスのとれた「日米同盟+日中協調」への一定の調整及び転換という現象がすでに起こっている。ニューヨーク・タイムズ紙はこれを論評して、このことは、アメリカがアジアで備えていない役割と影響力を中国がすでに部分的に発揮していることを日本が承認したことを意味するとしている。筆者の大胆な予測としては、中国がさらに発展して大きくなれば、日米同盟を如何に強化するかどうかに関わりなく、中国と真正面から衝突することを避けるため、日本としては説明がつけられる程度の対中戦略協調・協議の関係を維持していく必要がある。
 次に、戦術的及び策略的に、好意を示し、歩み寄ることは本当に必要であるという一面があり、短中期的には「絶対的必要」ですらある。その原因は、外交及び経済内政という2つの面から来るものだ。外交に関しては、中国を牽制し、包囲するため、アベは「各国を歴訪」し、足をすり減らし、弁舌の限りを尽くしたが、それでも設定した目標を達することはできず、「地球儀を俯瞰する」戦略は破産宣告した。このような状況の下、仮にひたすら中国と敵対するならば、日本全体の利益に影響し、「虻蜂取らず(元も子もない)」結果になること必定である。経済に関しては、アベノミクスが日本経済を動かす力には相変わらず限界があり、TPPは締結したけれども、その効果が現れるまでにはまだ時日を要し、これに対して中国の「一帯一路」は着実に発展していて、日本の経済界には分け前にあずかることができないことへの焦りが生まれている。
 このような状況の下、日本経済界及び一部の政治家は安倍政権が対中政策を転換することを呼びかけるようになっており、アベが一定の転換をすることは必然の成り行きとなっている。仮に日本経済がさらにうまくいかないとなれば、「超長期」政権のアベとしては、国民に対して申し開きのしようがないということになる。
日本が向き合って進むように導く
 矛盾の普遍性の中から特殊性を見いだし、新しい動きをつかみ、新たなチャンスを発見し、利に趣き害を避け、相手を導き、主体的能動性を発揮して有利な局面を作り出す、これこそが大国外交の使命と要諦である。我が国は、官民両面において心理的適応及び結合誘導の工作をうまくやるべきである。
 中国の人々の日本に対する見方には、ステレオタイプ化、固定化及び定式化の傾向があり、往々にして単純化した「日本観」となっている。中日両国民は疑いの目で相手を見ており、メディアの報道も往々にして消極的なものが多い。「アベ日本」と付き合うにおいては、中国の人々は少なくとも2つの冷静な認識と観念上の準備を持つことが必要だ。
 第一、全体としてバランスのとれた認識を持つ必要がある。今日の大国関係というものは、単純な敵か味方かという図式で分けることはきわめて難しく、実は複雑な多面体であって、中日も例外ではない。日本の右翼勢力は歴史問題で中国人の感情を傷つけており、これに対しては厳粛な批判と対抗措置で報いなければならない。しかし、日中双方の安全保障、外交及び経済貿易面での紛争と摩擦はおおむね大国の駆け引きの正常範囲内にあり、この点に関して過度に感情的に憤激したり反発したりする必要はない。
 第二、長期的な視野及び意識を持つ必要がある。中日間の多くの敏感な問題、例えば領土問題、国民感情等は、解決するには時間がかかるものばかりだ。中日国交回復の45年の経緯が示すとおり、両国関係は前進がなければ後退し、進むは難く退くは易し、である。今日の中日関係の舞台及び背景はすでに時代を画する変化が起こっており、中国は着実に世界の舞台の中央に歩みを進めているのであるから、中国社会及び人々も大国国民としての見識と気概を備えるべきである。成熟した安定的な新型国際関係を作り出すには揺るがない意志と忍耐心、理性と定力を必要としており、長期にわたる精神的な準備と着実な努力とが必要である。
 政府レベルに関していえば、中日関係は正に新たなチャンスの入り口に直面しており、しっかりとつかみ、最大限に利用する必要がある。近年の中日首脳会談では、歴史、安全保障及び戦略的相互信頼等の問題が毎回取り上げられているが、これらの問題に関する日本のやり口はとうてい中国にとって満足できるものではない。しかし、情勢の発展は時として人間よりも強力であり、日本の立場も一定の変化がある。これらの新しい動きは、安倍政権の対中思考が一定の変化を生んでいることを示すものであり、それはすなわち、対決は損を招き、便乗することが有利であり、アメリカは頼りとならず、「保険」を増やさなければならない、ということだ。
 李克強首相が訪日を考えているのは、しばらくは政治的疑念を脇に置いて、両国関係の持続的健康的な発展の新しい道筋を切り開くことを試してみるということである。アベの真の意図及び今後の行動については引き続き観察する必要があるが、中国が主導して導き、積極的に作り出し、日本が気を抜かず、後退せず、反復しないことを促すことは妨げがない。平和、発展、協力は時代の潮流であり、本年は中日平和友好条約締結40周年であって、中日がこの機会に向き合って進むことにより、両国関係が再び健康的安定的な道、新型国家関係の道に歩み出す重要な一歩となることを促すかもしれないのだ。