21世紀の日本と国際社会 浅井基文Webサイト

日中関係:中国が日本に求めるもの

2018.03.23.

全国人民代表大会終了後の3月21日に、李克強首相は恒例の内外記者会見に臨み、TBS記者の質問に答えて中日関係改善に関する中国政府の基本的立場を述べました。また、この発言を受けて、同日の人民日報・日本版WSは、中国社会科学院日本研究所の厖中鵬副研究員署名文章(「中日関係が良い方向に向かうためには日本は先見性と定力を持たなければならない」)を掲載して、李克強発言の趣旨を敷衍しました。安倍政権が対中接近を試みるようになっていることを一応は評価しつつも、安倍政権の日中関係改善に対する本気度を正面から問いただすものです。私も、安倍政権の対中政策の「変化」は表面的なものであって、トランプ政権が中国を最大のライバル(競争相手ひいては脅威)と見なしている(国家安全保障戦略)のと同じく、安倍政権が中国を最大の脅威と見なしている(「北朝鮮脅威論」は当て馬)と判断していますので、李克強及び厖中鵬の指摘・分析はきわめて的を射たものと思います。ということで、李克強発言及び厖中鵬署名文章(要旨)を紹介します。

<李克強発言>
(質問)今年は中日平和友好条約締結40周年だ。あなたは、1月に河野外相と会ったとき、中日関係を称して「寒暖定まらず」と述べた。両国関係を真に回復するためには、日中双方はいかなる措置をとるべきだと考えているか。あなたは、日本側の招請に応じ、本年中の中韓日首脳会議に合わせ、日本に対する初めての公式訪問を行い、中日両国首脳の相互訪問を開始することを考えているか否か。
(回答)少し以前から、中日関係には確かに改善の兆しが現れており、安倍首相は何度も私の訪日を招請している。私としては、中日関係が改善の兆しを維持する雰囲気の中で、本年前半に中日韓首脳会議出席と併せて、公式に日本を訪問することを積極的に考えている。
 私は、中日関係を改善するには、雰囲気が必要なだけではなく、さらに必要なのは先見性と定力だと考える。中日首脳の相互訪問は中日関係を正常な軌道に回帰させるのに有利だが、もっと重要なことは、中日関係の基礎を突き固めることであり、「一回限りの取引」を行うことではダメで、中日関係を持続的に良い方向に持っていく必要がある。今年は中日平和友好条約締結40周年であり、中日平和友好条約等の中日間の4つの政治文献(浅井注:1972年の日中共同声明(毛沢東・周恩来)、1978年の日中平和友好条約(鄧小平)、1998年の日中共同宣言(江沢民)、2008年の日中共同声明(胡錦濤)。奇しくも中国の歴代最高指導者が4つの文献の中国側当事者であるということで、習近平がそれらを受け継ぎかつ総括する日中関係基本文献の中国側当事者となることを考えていることもあり得るでしょう)の精神及び共通認識を遵守し、堅持するべきだ。両国関係に現在「小春日和」が現れているとするならば、「寒暖定まらず」の状況が現れることを防ぐべきであり、中日関係を持続的に安定する方向に発展させていくべきである。我々としては日本側に期待している。
(第2段落の中国語原文)我认为中日关系改善不仅需要氛围,更需要远见和定力。中日两国领导人互访有利于让中日关系回归正常轨道,但更重要的是要夯实中日关系的基础,我们不能搞"一锤子买卖",要让中日关系持续向好。今年是《中日和平友好条约》缔结40周年,应该遵守和坚持《中日和平友好条约》等中日之间四个政治文件的精神和共识。如果说两国关系现在出现了"小阳春",就要防止出现"乍暖还寒",要让中日关系向着持续稳定的方向发展。我们对日方有期待。
<厖中鵬署名文章(要旨)>
 中日関係の基礎を突き固めるには、李克強首相が言ったように、「一回限りの取引」を行うことではダメで、両国関係に「小春日和」が現れている時に、「寒の戻り」が現れることを防ぐことが特に必要である。
 第一、日本の右翼勢力が歴史、領土主権及び台湾問題などの中日関係の発展の基礎となる敏感な問題において言いがかりをつけたり、悪巧みをしたりすることをこれからも防止するべきだ(浅井注:安倍首相が正にこの右翼勢力の中心人物である以上、この指摘はきわめて辛辣かつ高いハードル設定です)。歴史、領土主権及び台湾問題などは中日関係の発展において高度に敏感であり、仮に、日本が一方で中日関係改善が必要だと言いながら、他方で歴史、領土主権及び台湾問題などで折りにつけて「小細工」を弄するという、この類いの「二面手法」あるいは「二面外交」のやり口をするのであれば、中日関係を深く前に向かって発展させるのは困難だ。
 第二、相互信頼を保つことだ。カギとなるのは、中国が大いに高めている総合的な国力に対して、日本はまず信頼、承認、疑いや警戒や焦りとかを抱かないことといった平静な心情を示すべきであり、中日間の国力の消長と変化を平常、客観、的確かつ公正な意識で見つめることができるようになるべきだ(浅井注:この指摘は日本の対中感情の所在をずばり指摘したものであり、中国の日本研究者の他者感覚の確かさを示しています)。日本は以下のことを認識するべきである。すなわち、中国の発展と成長は「人類運命共同体構築」を目的としており、覇権を争い、覇権を唱え、勢力範囲をこととし、ブロック作りをし、さらには軍事衝突を挑発するといった、歴史的な大国台頭における「古くさいパターン」とは違うこと、中国の発展と成長は地域及び世界にさらなる平和、安定、拡大及び「プラスのエネルギー」をもたらす発展と成長であること、中国の発展と成長は、中日両国が平和友好関係を発展、深化させることに対して有益なテコとなるものであること、中国の発展と成長は、同時に日本の発展に対してさらに多くのチャンスをもたらすものであり、日本のさらなる発展を損なうはずがなく、ましてや、日本の発展に対して脅威及びリスクをもたらし、増加させるものではあり得ないこと、である。
 第三、両国関係を前に向かって推進する積極的要素を探求し、発見することに巧みであることだ。中日友好の基礎は民間にあり、かつての中日国交正常化は正に「民が官を促す」ことの結果だった。今日における中日の一般の民衆の往来はきわめて頻繁であり、特に毎年大挙して日本を訪れる中国の旅行客は日本の観光業に対して目を見張る利益をもたらすとともに、日本経済の回復をも客観的に動かしている。2015年に訪日した外国人旅行客の述べ総数は1974万人だったが、中国旅行客は延べ500万人で全体の1/4を占めた。消費額について見てみると、外国旅行客の3.5兆円の消費額の中で、中国旅行客の消費額は1.48兆円と全体の40%を占めた。
 第四、日本は外交面で、中日関係を推進するための戦略的なビジョン及び計画を持つべきだ。近年の中日関係が戦略的に挽回できないでいる一つの重要な原因は、日本が外交上、戦略的にも「目先しか見ないこと」にある。すなわち、日本は戦略的長期的角度から中日関係の発展を眺めることができず、日米同盟の枠組みに局限し、あるいはこれにこだわっている。日本側にとっては、中日関係は日米関係の後に来る「特に重要ではない」二国間関係と位置づけられているに過ぎず、外交を企画し、アレンジする上で、日本はほぼ全面的にアメリカにぴったり寄り添い、特に中国の発展を牽制する面においては、日本はアメリカのために「忠を尽くし、力を差し出す」存在だ。今後中日関係を深く前に向かって順調に発展させようと考えるのであれば、日本は外交戦略の企画においていっそうの努力を払い、大所高所から中日関係を考えるべきであり、中日関係は「あってもなくてもどうでも良い」重要性がない事柄などと見なすべきではない。日本は、中日関係の発展は功は千秋、利は遠い先にある、50年さらには百年先までの壮大な事業であることを認識するべきだ。何事も日米同盟が優先、何事もアメリカに唯々諾々と従うのであれば、全体を把握できなくなるだけであり、日米同盟によって中日関係発展のための戦略的ビジョンを見失うことになるだけである。日本が日米同盟の「古くさい枠組み」から踏み出る勇気を持ち、外交上のビジョンを備えた戦略的行動をとることができるようになることだけが、中日関係を深化、発展させる優れた処方箋となることだろう。
 2018年は中日平和友好条約締結40周年という重要な年に当たる。日本は得がたい機会を大切につかみ、敏感な問題については言動を慎み、敏感な問題が起こることを効果的にコントロールし、抑え、真摯な態度で中国と向き合い、2018年をして中日関係の持続的改善の年とし、中日関係転換の戦略年とするべきである。