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朝鮮半島情勢と金正恩(韓国専門家分析)

2018.03.17.

3月16日付の韓国中央日報・日本語版WSは、盧武鉉政権時代に青瓦台国家安全保障会議(NSC)事務次長、統一部長官を歴任した李鍾奭(イ・ジョンソク)のインタビュー記事を掲載しました。南北首脳会談及び米朝首脳会談開催の動きが現実になった状況の分析並びに今後の米朝関係を含む朝鮮半島情勢の展開に関する予測に関する彼の発言はきわめて興味深いものがあります。特に、金正恩に関する分析については、手前味噌になりますが、私がコラムで書いてきたことと重なる部分が多く、「我が意を得たり」の思いを味わいました。以下に全文を紹介します。

「情勢動かす金正恩…経済のために核放棄対談に出るよう」
李鍾奭(イ・ジョンソク)元統一部長官が微妙な時期に「対北特使が朝米対話を作り出すことができる」というコラムをハンギョレ新聞に寄稿した。特使団の北朝鮮訪問一週間前の2月26日付だった。李元長官は「北朝鮮が体制安全保障という条件下で米国が対話に出る水準の非核化言明をするだろう」と書いた。完全に一致した。さらには「対北特使は文在寅大統領が金与正に割いた長い面談時間(約3時間)より長い時間を金正恩と虚心坦壊に対話するだろう」とも書いた。実際に金正恩北朝鮮労働党委員長は特使団に4時間余り会った。特使団が金委員長との面談時間を決めてから行ったわけでもないのに「予言」に近い分析だった。
14日夕方、李元長官に会った。「北朝鮮問題に関しては的中」の李元長官が4月末の南北首脳会談と5月の朝米首脳会談に対してどのように占うか気になったからだ。
――どのように対北特使の成果をコラムで正確に予想したのか知りたい。
「金与正が電撃的に特使としてやって来たことにはとても重要な意味があった。金与正は北朝鮮の潜在的後継者だ。北朝鮮に特使を送りづらい状況だったが、その金与正がやってきたから返礼として送ることができることになったのだ。金与正が戻り、金正恩委員長に韓国の意中や米国の動向まで広範囲にわたる話をしたことや、そのような状況を前提に分析したのだ。徐薫(ソ・フン)国家情報院長、趙明均(チョ・ミョンギュン)統一部長官、千海成(チョン・へソン)統一部次官は皆、以前私と一緒に北朝鮮の核問題をめぐり、夜を明かして数百回も討論して戦略をたてた方たちだ。私の考えと『シンクロ率』が高かったようだ」
李元長官は北朝鮮を研究した学者であり盧武鉉政府で外交安保の指令塔を担った交渉家だ。4年間(2003~2006)国家安全保障会議(NSC)を実質的に導き、北朝鮮と直接的、間接的に対話した。
――過去とは違い、対北特使を5人送ったが。
「ある席で、特使の条件として南北関係と北朝鮮の核問題に精通し、大統領の最側近である公職者であるべきで、説得力のある弁舌がなければならないと話したことがある。事は徐薫国家情報院長を念頭に置いた話だった。だが、対米関係の象徴である鄭義溶(チョン・ウィヨン)安保室長、南北関係の象徴である徐薫国家情報院長、このようにツートップをたてたのが絶妙だった。2人はソウル高校の先輩・後輩で息もよく合う」
特使団北朝鮮訪問に前後して韓半島(朝鮮半島)の状況は想像力がついて行けないほど急進展している。特使団が作り出した結果に対する世論(リアルメーター、今月9日韓国全国500人調査)は「歓迎(73.1%)」が圧倒的だ。同時に北朝鮮に対しては「信頼はできない」というのが64.1%だ。
――南北、朝米首脳会談に対する期待も高いが、金正恩の真意に対する不信も高い二重的な状況だ。
「北朝鮮が核を絶対にあきらめないだろうと前提しているからだ。今の状況は金正恩委員長が昨年末から構想していたとみる。金委員長は昨年11月にまだ完成していなかったはずなのに無理に核武力完成を宣言した。『私に生きていく条件をくれれば核をあきらめることができる』という意味とみられる。一部では北朝鮮が核軍縮(北朝鮮だけの核廃棄ではなく核保有国間の交渉)に出るだろうと考えているが、私はかなり前から北朝鮮が体制安全保障と経済補償を核放棄と交換することができるという『条件付き非核化』について話した」
――金正恩委員長を信じることができるだろうか。
「個人を信じるのではなくパターンを見ることだ。文大統領、トランプ大統領、金委員長の3人は韓半島問題の主人公だ。全く違う側面で、この局面を突破しなければならないという点を共有している。文大統領は韓半島で葛藤状態を終息させ、南北の経済協力を通じて北榜示のとおり行く機会の入り口を開け放すという熱望が強い。トランプも北朝鮮の核問題をどんな形であれ結論を出すことが重要だ。これまで掛け金を高めながら危機を高めさせてきたが、このような形で戦争なしに解決できるならば途方もない利益だ。金正恩は野心に満ちている。今、金正恩が望んでいるのは経済だ。ポンプから水が出てくるようにする呼び水を文大統領が開いた。今、ポンプを押す作業を金正恩がしようと言い、トランプ大統領も手を取って一緒にポンプを押そうと言っている。文大統領は水が流れるように堀を作らなければならない」
――金正恩委員長が経済のために核をあきらめることができるだろうか。
「私たちが核にばかり没頭して見たため開放を見ることができなかった。労働新聞を見れば1面はいつも経済の話から出発する。彼は2014年に労働党中央委員会で経済開放を宣言する。『市場経済は体制を危険にする』と認識した水準を越えた。国際標準も継続的に強調している。北朝鮮は昨年12月に江南(カンナム)経済開発区を22番目に指定した。2017年の対北制裁圧迫の状況で何の外資を誘致すると言って経済開発区を作るのか。対北制裁解除を目標にはやく動こうという考えを読み取ることができるのではないか。もし対北圧迫と制裁さえなければ北朝鮮の経済は年間15%の成長が可能だ。『金正恩を信じられるか』。誰にも分からない。だが、今この局面を動かすのは金正恩だ。欺瞞のためにこのように出ることはできない。欺瞞を通じて何を得るだろうか。米国の先制攻撃の回避?その程度ならば『戦略挑発しない』ということだけ与えてもかまわない。もし欺瞞ならば後の嵐は受け止めきれないのではないか」
――間もなく会談場で会う3人の指導者の「化学反応」はどうか。
「昨年に文大統領に会ったが、ワシントンの正統外交文法で見るとトランプ大統領は『突出した人、異端児』という評を申し上げると文大統領が『そうではない。既存文法とは違うとみえるが、自分のやり方あるようだ』とおっしゃった。文大統領とトランプ大統領は、性格は違っても相当な信頼がある。今まで予測できないのは金正恩だった。金正恩が核放棄カードを持ってくるか分からなかったのは金正恩のリーダーシップ、北朝鮮の状況を軽視したからだ。金正恩のスタイルは金正日のスタイルとも違う」
――金正恩委員長と金正日総書記の違いは。
「金正恩の特徴は何でも『一度に、一気に』だ。長期間にゆっくりということはない。問題の本質を貫いてすぐにアプローチするスタイルだ。文大統領とトランプ大統領も形式より内容を重視するスタイルという点で互いに通じる。会談も金正日の時は機先を制するために精魂を使い果たして気力の戦いから始めたが、そのようなことが全てなくなった。金正恩・金正日の最も大きな違いは実用主義だ。金正日は「実力以上の虚勢」だ。金正日は「強盛大国」、金正恩は「剛性国家」を話す。この差は大きい。実用主義の例として金正恩が2013年に張成沢(チャン・ソンテク)を粛清したが、過去には権力を振りかざした人が処刑されればその人と関連した事業が全て散り散りになり、該当分野が焦土化した。だが、張成沢が掌握した対外経済、朝中経済協力分野はいずれも健在だった。張成沢と数人だけピンセットで取り除くかのようにした」
――4月に南北首脳会談をして、5月に北朝鮮・米首脳会談をする。それぞれの会談で非核化をどこまでどのように進展させなければならないだろうか。
「重要な問題だ。韓半島の葛藤の軸は南北、朝米の対決構図だ。南北首脳会談で合意したことも朝米によって壊れたりした。ところが今回は先循環的に、片方で1つの対決軸を解消すれば次の会談で画竜点睛を通じて大転換の歴史を作ることができる。南北首脳会談で先に得るべきことはもちろん条件付きだが非核化だ。ところが問題は1カ月以内に朝米首脳会談がまた開かれる。金正恩はトランプ大統領と大談判をしなければならないため南北首脳会談でプレゼントを出せるものが制限されている。結局、北朝鮮の核問題で韓国も成果があり、朝米も大妥結になるべく議題と合意水準を政府戦略家が繊細に調整しなければならない」
――北朝鮮・米首脳会談で実質的で顕著な成果があるだろうか。
「金正日時代には韓国が北朝鮮を説得して金正日は説得された。今はそうでなくて金正恩が場を作ってエンジンを回す。トランプ-文在寅大統領が「この程度なら…」と受け入れる状況だ。米国が受け入れることのできる「オーダーメード型トランプ政策」がある可能性がある。私たちが想像したのとは違う内容が出てくるかもしれない。想像力を発揮してみるならば、象徴的に核生産施設やICBM生産施設を早期に不用化することなどがありえる。米国が敵対視しなければ在韓米軍に反対しないというなどの公式言明もありえる。北朝鮮が核を放棄する手順を踏んで国際社会が反対給付を与えるといっても大合意を履行するためにはロードマップも組まなければならず時間がかかる。合意した内容の実践期間を早くするためにいくつかの実行措置ができるという意味だ。推定的小説だが米国も北朝鮮に対するテロ指定国指定を早期に解除するなどの手順を踏みながら大妥結をすることもできるのではないだろうか」
――韓半島平和協定問題を議論し、北朝鮮が在韓米軍撤収問題を提起する可能性は。
「すでに2005年の9・19合意から韓朝米中の4者が平和協定を議論するという認識が固まっている。4者協定はおそらく南北首脳会談で進展する可能性がある。在韓米軍撤収を言及すれば状況が変わるが、局面を壊すために会談をしようと言うだろうか。気分を害した時、宣伝戦の次元で主張する問題だ」
――朝米首脳会談の場所はどこが良いだろうか。
「推測が難しい。ただし最も象徴性があるのはワシントンだ。金委員長は米国から自分存在を認められることがとても重要だ。金正日も大胆な側面があるが常に条件がつく。一方、金正恩式の大胆性は特に条件がない。特使団と会談する時もスムーズにいかない部分は自らなくした。もしワシントンに行くとしたら非核化に対する最も明確な意志表示だ。北朝鮮が正常国家を指向しているということも見せることができる。金委員長はスイスに長くいたため英語が堪能な可能性が高い。ワシントンで英語でいくつか話せば?そういうことをそれなりに考えるだろうがうまくいくか分からない。しかし、効果として見れば悪い方法ではない。いや、良い方法だ」
――交渉というものは状況がずっと楽観的なばかりではないと思うが。
「今、3人の指導者の切迫性が互いに面している。3人が大きな枠組みで合意すればトップ-ダウン(Top─down)合意だ。実務者がボトム-アップ(bottom─up)で合意すれば「悪魔はディテールがある」という話のようにロードマップを作る時に数多くのディテールが困難に陥る。ところが最高指導者が政治的勝負を賭けたらディテールという悪魔が飛び出してくるたびに退治することができる。その上、南北間にホットラインを置くことにした。トランプ─金正恩の間に問題があれば文在寅─金正恩ホットラインで解決することができる。ディテールの悪魔を捉える鬼の金棒を持っているようなものだ」
◇李鍾奭元統一部長官(60)とは…
成均館(ソンギュングァン)大学行政学科および大学院政治外交学科で修士・博士学位を取得。大学院在学中に『解放戦後史の認識』に論文が掲載されるほど北朝鮮研究に頭角を現わした。盧武鉉政府では2003年から2005年まで青瓦台国家安全保障会議(NSC)事務次長で在職した。2006年には統一部長官に任命され、NSC常任委員長として外交安保政策を総括した実力者であった。北朝鮮が2006年10月に初めての核実験を押し切ると同年12月に統一部長官職から退いた。現在、世宗(セジョン)研究所首席研究委員。