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朝鮮のICBM発射実験成功と情勢の緊張激化

2017.12.2.

11月28日に朝鮮が行ったICBM(火星15号)の発射実験の成功は、朝鮮半島を巡る国際情勢を最大限の緊張に導いているようです。
アメリカのトランプ大統領は11月29日(現地時間)に中国の習近平主席と行った電話会談で、朝鮮に対する原油等の供給中断を要求(ヘイリー米国連大使の緊急安保理会合での発言)、ヘイリー大使は安保理緊急会合で「すべての国連加盟国は、北朝鮮との外交関係を断絶し、軍事・科学・技術・商業協力を制限しなければならない」、「投票権を含め、北朝鮮の国連加盟国としての権利と特権を取り上げるべきだ」と主張(12月1日付ハンギョレ・日本語WS)、米朝間で戦争となれば朝鮮は完全に破壊されると、トランプの国連総会演説を彷彿とさせる言辞を弄しました。また、トランプ大統領は金正恩委員長を頭がおかしくなり正常な判断ができない若者を意味する「いかれた若造」(sick puppy)と呼び、嘲弄した(同)とのことで、まさに怒髪天をつく勢いです。
 ロシアが情勢を深刻に受け止めていることは明らかです。ロシア大統領府WSは、12月1日に行われた国家安全保障会議では、「朝鮮による直近の弾道弾実験による朝鮮半島情勢が議論された」と紹介しました。また、ローマを訪問中のラブロフ外相は同日、朝鮮を破壊すると公言したヘイリー大使発言について、「火を弄ぶものであり、大きな誤り」「血に飢えた長広舌」と厳しく批判しました(同日付のイランPars Today WS)。
 中国に関しては、「呉海涛国連次席大使は安保理の緊急会議で、ヘイリー大使の油類供給中断の主張に対し、「対北朝鮮制裁決議が適切な水準の人道主義的活動に否定的な影響を及ぼしてはならないというのが、我々の一貫した立場」だと述べ、「油類供給の全面中断」には反対する考えを示した」(12月1日付ハンギョレ・日本語WS)とされています。アメリカの石油供給中断という要求を拒否する姿勢を明らかにしたわけです。
 私がチェックしている韓国3紙も大きく取り上げています。朝鮮日報社説「北への原油供給中断、文大統領は習主席に直接要求せよ」にはあきれてまともに読む気も起こりませんでしたが、中央日報が掲載している同紙論説委員の金永熙(キム・ヨンヒ)署名文章「ティラーソン米国務長官を平壌に派遣せよ」は、トランプの朝鮮政策を失敗と断じ、「トランプは習近平に責任を転嫁するのではなく、レックス・ティラーソン国務長官を平壌に派遣する大胆な決定を下さなければならない」と主張するもので、出色でした。
 今後の情勢の展開は読めませんが、中国が如何に情勢を深刻にとらえているかについては、12月1日付の環球時報社説「さらなる安保理制裁は安保理決定を待つべし」に明らかです。社説は、トランプの要求(原油禁輸)を拒否する点で、呉海涛国連次席大使の上記発言と軌を一にしていますが、米朝間の対決が臨界点に近づいているとして、これまでになく深刻な認識を示しています。大要を紹介しておきます。

水曜日(11月29日)に招集された安保理緊急会合で、ヘイリー大使はすべての国が朝鮮との外交関係を断絶することを呼びかけるとともに、中国が朝鮮に対する原油貿易を停止することを要求した。これは、朝鮮がアメリカ全域をカバーできるICBMの発射実験を成功裏に行った後、アメリカが示したかつてない激烈な反応である。米朝の衝突はいまや決着をつける臨界点に近づいている。
 朝鮮のミサイルはいまやアメリカ本土の大都市を攻撃できると考えられており、朝鮮の直近の新ミサイル発射実験がもたらした衝撃は空前のものがある。朝鮮はついにアメリカ本土を脅迫するというドリームを実現した。しかし、ワシントンがどのように反応するかということは、朝鮮のコントロールの範囲内にないことはもちろんだ。平壌自身も、この数年の朝鮮の安全保障情勢は不断に厳しさを加えており、現在及び今後の一定期間が高度に危険な時期であると言っている。
 アメリカを攻撃する技術を掌握した国家がアメリカをやっつける、「アメリカを滅ぼす」と言いつのるのを、トランプ政権が甘受することは想像しがたい。ワシントンが驚いて退却する可能性はほとんどなく、最初にトランプ政権が示した反応は、平壌に対して報復的な強大な圧力を加えるというものであり、ワシントンにはこの対決で平壌に譲る気持ちはないことを証明している。
 各国に対して朝鮮と断交し、石油禁輸を求めるということは、政治的経済的に朝鮮を窒息させるという断固とした行動であり、トランプ大統領が水曜日に、朝鮮最高指導者に対して「病的な子犬」という新しいあだ名をつけたように、朝鮮を圧力でやっつけなければ止まずという決意の誇示だった。
 この時に当たり、仮に平壌が硬に対しては硬で当たり、1回実験に成功したに過ぎないICBMを「必殺の奥の手」として気ままに振り回すのであれば、情勢はきわめて危険だろう。アメリカ本土を攻撃できる「火星15号」の発射成功から、原爆弾頭をミサイルに搭載して「核とミサイルの結合」を完全に完成させ、実戦用の核ミサイル技術問題の解決に至るまでにはまだ一定の時間がかかる。この時間は、アメリカが軍事攻撃で朝鮮の核能力を破壊する上での巨大な誘惑であり、トランプ政権の内部には「時期を逃さず即刻朝鮮を打つ」とする衝動が存在することは間違いない。
 もちろん、このような衝動がアメリカの国家としての政策決定に転じるというのは必ずしも容易なことではない。我々としては、朝鮮がこれからの時間において引き続きアメリカを刺激したり、自らのICBMのアメリカに対するデタランス力を過大評価したりすることがないことを強く望む。いまや朝鮮にとって「もっとも危険な時」となっているのであり、平壌は高度に頭を冷静に保ち、幸福の絶頂から奈落の底に落ちるような大きな災いを招かないようにする必要がある。
 中ロがアメリカの要求に応じ、安保理決議の枠外の単独制裁の形式で朝鮮を懲らしめることはあり得ないし、朝鮮との断交及び対朝鮮石油全面禁輸が安保理で採択されることもあり得ない。アメリカの激怒については理解できるが、国連がどのように朝鮮を制裁するかについてアメリカの意思の支配を受けることはできず、制裁は朝鮮の核ミサイル活動のエスカレーションに対する国際社会としての共同の対処としての方途でなければならない。
 中国はすでに安保理決議に基づいて朝鮮に対する石油の提供を大幅に制限している。いまはまさに冬であり、朝鮮に対する完全な石油禁輸となれば、朝鮮の民生に対して深刻な打撃になるだろうし、人道主義的な災難を引き起こす可能性すらある。このようなことは中国として絶対にとり得ないことであり、中ロの代表が安保理でアメリカのこのような提案を支持することもあり得ない。
 もう一点指摘しておく必要がある。すなわち、中国の国家的利益ということは対朝政策を考える上での唯一の出発点であるわけではなく、国際社会の共通利益とも協調させる必要があるということだ。しかし、中国の国家的利益をアメリカの国家的利益より下に置くということはあり得ないし、アメリカの利益を実現するために犠牲にするということはなおさらあり得ない。米韓日が中国による対朝鮮石油禁輸を望む目的の一つは、中朝が徹底して仲違いし、中朝友好が敵対関係に変わることを促すことにより、鴨緑江が38度線に代わって半島情勢の「乱」のエネルギーの大部分を吸収するようになるということだ。そうなれば、アメリカが朝鮮に対して軍事攻撃を発動する際、さらにやりたい放題ということになるだろう。中国が他国の戦略的コマに変じるというようなことは絶対にあり得ない。
 北京はすでに、半島情勢が戦争に向かうことを阻止するために最大限の努力を行ってきている。しかし、米朝は互いに脅迫し合っており、双方の戦略的判断の誤りによって戦争勃発を導く可能性は急速に増大している。中国は最悪の事態に対する備えをし、半島に何が起ころうとも、中国が受け身の立場にならないことを確保する必要がある。