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トランプ政権による朝鮮「テロ支援国家」再指定

2017.11.26.

トランプ政権が11月20日に朝鮮を再び「テロ支援国家」に指定し、翌21日に米財務省が追加制裁措置を発表したことに関し、私は朝鮮が激しい反発を示すのではないかと固唾をのんでいました。しかし、11月22日の朝鮮外務省スポークスマンの発言(朝鮮中央通信社記者の質問に答える形をとったこと自体、一種の「抑制」を示しています)は、「米国は、あえてわれわれに手出しした自分らの行為が招く結果に対して全責任を負うことになるであろう」、同日の朝鮮アジア太平洋平和委員会のスポークスマンの声明(朝鮮中央通信社による要旨紹介)は、「米国の行動いかんによって、われわれの今後の対応措置が決まるということも覚悟すべきであろう」、24日付の労働新聞(朝鮮中央通信社による要旨紹介)は「トランプ一味はわれわれを「テロ支援国」に謗り、孤立、圧殺しようとあがけばあがくほど、自分らがそれだけ高価な代償を払うことになるということを銘記し、たわいない対朝鮮敵視政策と強盗さながらの「テロ支援国」再指定措置を撤回すべきである」など、私が予想したより抑制された反応でした。
 もっともトランプ政権は、11月11日から14日にかけて日本海で原子力空母3隻による合同訓練を行ったのに続き、12月4日から8日まで「航空機240機が参加する大規模な韓米連合航空訓練「Vigilant Ace」」を実施することが韓国空軍によって明らかにされる(11月25日付韓国中央日報・日本語WS)など、朝鮮に対する軍事的圧力を強めるばかりです。したがって、朝鮮半島情勢が一触即発の状態であることには変わりはありません。
 ちなみに、朝鮮が行った第6回核実験によって、実験場一体の地形に変化が起こっているという指摘が事実であるとすれば、朝鮮としては放射能漏れを防止し、今後の核実験に万全を期すためには、途方もない時間を要する(福島第一原発事故及びチェルノブイリ事故を想起すれば、複雑な地形の朝鮮の核実験場で事故が起こった場合の対応の難しさは想像を絶します)ことも考えられます。ミサイル発射事件のスケジュールには支障は出ないでしょうが、核実験については大きな支障が生まれている可能性は排除できないのではないでしょうか。
 ついでに言えば、如何に乱暴なトランプ政権といえども、朝鮮による日本及び韓国を完全に射程に収めている核ミサイル戦力をとうてい無視できない(日韓両国が死の灰で覆われる事態は、アジア太平洋経済ひいては世界経済の壊滅に等しく、アメリカだけが「被害の外で涼しい顔」などという事態は考えようがない)以上、朝鮮はすでにアメリカに対する必要かつ十分な核デタランスを構築していると確言できます。したがって私としては、朝鮮がアメリカを射程に収めるICBM開発に執着するのではなく、むしろその開発可能性をカードとして、トランプ政権が「最大限の圧力」政策を断念することを要求することを考えるべきではないのか、と判断しています。
 中国の受け止め方を見る上では、環球時報が、11月22日付社説「アメリカによる朝鮮に対する「対テロ支援国家」再指定 賢明ではない」、及び翌23日付社説「アメリカの「暴走」 誤って1000人を殺すのも厭わない態度」で、トランプ政権のアプローチを厳しく批判し、政策の転換を促す、きわめてまっとうな主張を展開しており、参考になります。要旨を紹介します。

<11月22日付社説>
 ワシントンがこの時期にこのような措置をとるのは賢明とは言えない。この新たな圧力が平壌をして核問題における態度を改めさせることはあり得ないだけではなく、朝鮮を刺激してさらに先鋭な対決的行動に駆り立てかねない。…平壌はすでに2ヶ月間何もしておらず、外部世界としてはこの平静さに留意し、それを助長するべきである。しかるにアメリカはさらに厳しい制裁で報いたのであり、このことは朝鮮に対する間違ったシグナルとなる。
 明らかなことは、アメリカとの対決及び中国とのやりとりを通じて、平壌は自らの戦略的主動性を評価しているということだ。米朝がさらに互いを脅迫しあって、新たな対決エスカレーションの帷が開かれようとしている可能性が高い。
 米朝が互いに強硬さを競い、相手を侮辱するパターンができあがってしまっており、そこには知恵という要素の含有量はゼロだ。しかし、相手側の緩和意図を識別し、適切な方法で、政治的に損をしない、善意のやりとりを行うことこそが、21世紀におけるホット・一シューに関する「高度の外交」というものだ。
 米朝はともに戦争を考えておらず、戦争する瀬戸際で極限的なプレーを演じている。しかし、悲観的にさせられるのは、この種のプレーによっては、最終的に意外なブレークスルーが起こる可能性がますます少なくなるということであり、しかも最終的に、各国がとうてい耐えることができない深刻な衝突の可能性が急激に増加するということである。米朝は、このプレーを中止することができる臨界点に次第に近づいているようだ。
 アメリカはかくも強く、対外政策における弾力性もきわめて大きいはずなのに、米国人は対朝鮮政策を根本的に転換させることがきわめてむずかしいと感じている。朝鮮の政治的な弾力性はそれよりはるかに小さく、そういう弾力性を支えるだけの実力をも欠いており、朝鮮をして一方的に決定的な変化を行う決定をなさしめるということの難度は推して知るべしである。アメリカが再び朝鮮を対テロ支援国家に指定することにより、平壌がハイ・レベルの会議を開催して自らの政策を反省し、核問題で心を入れ替えることを期待するとすれば、それはアラビアン・ナイトというべきだ。…
 アメリカは一貫して平壌政権が自国人民の運命に対して無責任だと宣伝しているが、一般人民を含む朝鮮国内の見方はアメリカの指摘とはまったく違う。朝鮮人はアメリカによる封鎖と圧力とに慣れており、彼らの反応は一致団結して敵に当たるというものだ。
 米朝が中国のアドバイスを聞こうとしない以上、北京としては、半島情勢に突発的変化が起きることに対する対応の仕方により多くの注意を向けることになるだろう。中国としては、国連メカニズムの下で引き続き情勢に対する対応を行うということであり、米朝間で不断に深まる「相手をやっつける」のでなければ止まずとする怨念については、北京は平壌及びワシントンよりも焦る必要はないのだと言っておきたい。
<11月23日付社説>
 (アメリカの新たな制裁措置について)アメリカのやり口は安保理の対朝戦制裁決議の内容を大幅に超えている。中国から見てもアメリカの無体ぶりが感じられるのだから、平壌の受け止め方は推して知るべしだ。
 この世界において、ある国家を本当に「鉄筒式」に囲い込むことができるかどうかというのに、ワシントンはまさにそういう実験を推進しようとしているのだ。
 丹東はこれまで中国の対朝鮮貿易の重要都市だったが、この2年間で同市の対外貿易は完全に閑古鳥だ。アメリカが指定した丹東のいくつかの会社は、もう早くから開店休業状態だと聞く。中国商務部が朝鮮に対する制裁公告を発表した後、国境のコントロールは厳格を極めており、担当の外国貿易会社が国連の決議に違反しているというのはすべてデタラメだ。
 実際のところ、朝鮮もアメリカも安保理決議に違反しているのであり、朝鮮は禁止を無視して核ミサイル実験を行い、アメリカは安保理決議を勝手気ままに解釈して、自分があたかも国連より上であるかのように振る舞っている。
 中国の遼寧、山東等の省は朝鮮に対する制裁で犠牲を払っており、トランプも幾度となく中国が「大いに手伝っている」と表明しているにもかかわらず、ワシントンがなおも中国の大小様々な会社に手を出すというのはきわめて不誠実だ。
 国際関係におけるロジックは相変わらず旧時代の刻印が幅を利かせており、アメリカの経済的実力は最強で、なかんずく国際金融システムを牛耳っているので、何が「道理である」かについて、アメリカが巨大な裁量権を壟断している。
 平壌は以上の諸点を見届けるべきである。外部世界が受けたすべての損失は直接間接に朝鮮経済に跳ね返ってくるのだ。このままいくと、朝鮮としては圧力には屈しないという姿勢は維持できるかもしれないが、今後経験するのは初冬の寒さではなく、厳寒の凍結ということになる。
 中国が人道主義に基づいて対朝鮮貿易の規模を維持することはますますむずかしくなっており、朝鮮の基本的民生を維持することを助けることにも力尽きた。中国がグローバル化に全面的にコミットしている時代に、経済上の「抗米援朝」戦争を行うことは不可能だ。
 米朝対決は非対称的であり、双方はにらみ合っているが、アメリカはぬくぬくとした部屋の中におり、朝鮮は寒々とした雪の吹きさらしの中に立っている。世界はいずれこの対決の結末を見届けることになるだろう。すなわち、部屋の中の人間が窓を打ち壊されるのを恐れて後ずさりするのか、それとも雪の吹きさらしの中に立っている人間が飢えと寒さで倒れてしまうのか。
 しかし、もっとやりきれない可能性がある。北京駐在の西側の記者の間では次のような推測が流れている。つまり、朝鮮が新たにミサイルを発射する際に、トランプがそのミサイルを打ち落とせと命令する可能性があるというのだ。このような局面になった際、朝鮮が如何に反応するかはきわめて深刻な懸念材料だ。
 その際、朝鮮は大規模な軍事反撃は行わないかもしれないが、黙って引き下がる可能性も大きくない。朝鮮は自らが「適切」と考える報復措置をとるだろうし、アメリカがこの措置をどのように判断し、いかなる性格付けを与え、さらなる対抗措置を講じるかどうかということが新たな懸念材料となるだろう。
 米朝はともに開戦したいとは考えていないが、緊張と対決の中で相手をさらに刺激する措置をとることによって、判断の誤りを犯す確率はますます高くなる。半島情勢の将来について悲観的になるのには理由がある。
 アメリカには朝鮮に深傷を負わせる能力があることには疑問の余地はない。しかし、ワシントンとしては、冷戦終結後、アメリカに痛い目を合わせることを目的として決死の反撃を行う国家には遭遇したことがなかったということを忘れるべきではない。ワシントンは本当に「完勝」できるという算段があるのか。やはり深慮熟考するべきだ。