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プーチン大統領の日ロ関係に関する発言

2017.11.13.

プーチン大統領11月11日、APEC経済協力フォーラム終了後の記ロシア内外の記者からの質問に答えて長いインタビューを行いましたが、その質疑の最後は安倍首相との会談に関するもので、特に平和条約交渉に関するものでした。
 私は、昨年(2016年)の9月5日付及び9月8日付のコラムでも日ロ領土問題に関するプーチン発言について紹介したことがありますが、今回の発言内容は、昨年9月8日のコラムの柱書きで、「いかなる条件の下で引き渡されるかについては、共同宣言は何も述べておらず、日ロ間の交渉マターだとしていることです。そしてプーチンは、「経済活動、安全保障など多くの問題があり、人道的問題もある」とまで指摘しています。「安全保障」をも含めたことは、当然とは言え、実は極めて本質的なポイントです。というのは、プーチンは9月5日の発言で、中露交渉と日露交渉との違いの一つとして、中露間並みの信頼関係が実現することの必要性を明確に指摘していましたが、これは正に安全保障に直結することだからです。要するに、日本がロシアをも標的とする日米軍事同盟のもとにある限り、ロシアが「引き渡し」に応じる条件は満たされないということを、「安全保障」という抽象的言葉に込めていることは明らかです」と指摘しましたが、今回のプーチン発言は「安全保障」という点についてさらに立ち入った考え方(認識)を述べたものである点で、きわめて注目するべき内容になっています。つまり、今回の発言は昨年の発言内容を受けて、さらに「安全保障」部分について詳しく述べたものという位置づけになります。
 ちなみに、11月12日付の中国新聞網もこのプーチン発言について取り上げ、「プーチンは、日本の同盟国に対する安全保障上のコミットメントは炉に地平和条約交渉の進展に影響するだろうと表明した」と紹介しています。
 短いですが、プーチン発言を紹介します。昨年9月5日付及び8日付のコラムと併せて読んでいただきたいです。

(問)昨日の安倍首相との会合について聞きたい。あなたは、日本での選挙の勝利は「我々のすべての計画を実行させることになるだろう」と述べた。「我々の計画」とは何を意味するのか。安倍氏の計画には平和条約の締結が含まれている。この問題はあなたの合同計画の一部であることに同意するか。
 もう一点。この計画の実行を交渉するにはたぶん数年はかかるだろう。ということは、あなたは大統領選挙に再び出るつもりなのか。
(答)我々が多くの計画を持っているというあなたの指摘は正しいし、我々は何度もそのことを明らかにしてきた。経済に関しては、それらは主に安倍首相の諸計画である。知っての通り、彼は数ヶ月前に多くの分野における提案を言葉にした。さらに彼は、これらの問題を担当する専任大臣まで指名した。これは一つの問題だ。
 第二の問題、あるいは問題の第二の部分は、地域全体における安全保障問題だ。我々はたった今、記者会見で北朝鮮問題について話した。我々はそのことについても話し合った。我々は第一の部分と第二の部分について話し合った。
 当然のことだが、我々は平和条約についても話し合った。これは確かに我々の合同計画の一部だ。平和条約に関しては多くのチャレンジがあると言いたい。秘密ではなく、我々としては、防衛及び安全保障の分野における日本の同盟国(partners)に対する義務、そのことが平和条約交渉プロセスにどのように影響するか、日本はいかなる義務を負っているか、そして日本は独立して何ができ、また、何ができないか、について考えなければならない(we also have to look into Japan's obligations to its partners in the sphere of defence and security, how it will affect the peace treaty negotiating process, which obligations Japan has, and what it can and what it cannot do independently)。
 きわめて当然のことだが、もし何かの合意があるのであれば、それらの合意は遵守されるべきだろう(It is quite natural that if there are some agreements, they should be complied with)。我々としては、そのことがロシアと日本との関係にどういう意味合いを持つかをはっきりさせる必要があるのであり、それは大変な仕事だ(We need to find out how it will tell on our relations with Japan, this is a lot of work)。確かに1年以上かかるかもしれない。しかし、今日にでも解決できる問題もある。
 例えば、安倍首相は日本人が自分たちの先祖の墓を見るために南千島に訪問するという問題を提起し、査証免除という簡易化された方法でアレンジすることを求めた。知っての通り、我々はそうしている。
 彼はまた、日本人が以前訪問した場所だけではなく、これらの島々の制限されている場所にも訪問することを許可するように求めた。我々はこれにも同意した。
 我々は、日本実業家達がこれらの島嶼に来て現地で合同開発問題を議論することに合意した。我々は同意し、訪問は実現した。ということは、問題によっては直ちにできることもあるが、問題によってはもっと長い時間を予定するものもあると言うことだ。
 しかし、それは誰が政権にあるかとは関係がなく、安倍、プーチンあるいは他の誰かということは重要ではない。重要なことは、短期的、中期的のみならずむしろ長期的歴史的に我々の関係を発展させるための良好な条件を作り出すべく、すべての問題の長期的解決に向けて、両国及び両国民がコミットするということである(What matters is the commitment of our countries, our peoples to long-term settlement of all the problems so as to create favourable conditions for the development of our relations not in the short- or medium-term but rather in a long-term historical period)。