21世紀の日本と国際社会 浅井基文Webサイト

シリア問題:米ロ大統領の共同声明

2017.11.12.

シリア情勢は、ロシア及びイランに支援されたアサド政権軍が国土の90%以上に対する支配を回復した(ロシア外務省)とされています。「イスラム国」及びヌスラ戦線などの安保理決議で「テロリスト」と名指しされた勢力はまだ抵抗をやめていないものの、彼らに対する討伐完了は時間の問題とされています(同じくロシア外務省)。
 今後の最大の問題は、如何にして安保理決議2254に基づく和平プロセスを軌道に乗せるかに移りつつあります。ロシアは、アサド政権と反アサド勢力を一堂に会せしめるアスタナ会議の第8回会合で、シリアのすべての民族を含む全国的な「シリア国民対話会議」の開催を提案しました。この提案に対しては、国外に活動基盤を持つ反アサド勢力が拒否する声明を出し、また、クルド人勢力を含めることに対してはトルコのみならず、アサド政権も難色を示していると伝えられています。そのクルド人勢力は、アメリカ軍の支援の下、「イスラム国」が「首都」としていたラッカを攻略しました。中国の中東問題専門家の文章では、シリアにおける米ロの角逐で、今後のシリア情勢は予断を許さないという分析が見られます。
 以上のような背景の下、11月11日付のロシア大統譜WS(英語版)は、APEC経済サミットに出席していたプーチン大統領とトランプ大統領が同日、シリアに関する共同声明を承認したことを明らかにしました。両大統領による首脳会談は実現しませんでしたが、両首脳は立ち話で「話し合いたいことはすべて議論した」末、「シリアにおけるテロリズムとの戦いに関する共同声明にも合意した」(サミット終了後の記者危険におけるプーチン発言)という「離れ業」(?)を演じました。
 この共同声明は、今後のシリア情勢を見ていく上で、特にアメリカの立場を規制する意味を持ちうる点で、重要な意味を持つ可能性があると思います。共同声明の大要及びプーチンの記者会見での発言(関連部分)を紹介します。

1.共同声明

APEC経済サミット会合の傍らで行われた会話を経て、プーチン大統領とトランプ大統領は、シリアに関する共同声明を承認した。
この文書は、両国の専門家によって起草され、ラブロフ外相とティラーソン国務長官によって調整された。この声明は、ダナンでの会合のために特別に準備された。プーチンとトランプは、APEC経済サミットのグループ記念撮影の前に会話した。
<「ロシア及びアメリカの両大統領による声明」(11月11日)>
 本日、トランプ大統領とプーチン大統領はダナンにおけるAPEC会合の傍らで会い、シリアのISISを打ち破る決意を確認した。(シリアにおける米ロ両軍の間の連絡チャンネルの役割を評価し、今後も継続することに合意した上で)両者は、この努力をISISの最終的敗北まで継続することを確認した。
 両大統領は、シリア紛争には軍事解決はないことに合意した。両者は、紛争に対する最終的政治的解決は安保理決議2254に従ったジュネーヴ・プロセスで成し遂げなければならないことを確認した。両者はまた、アサド大統領によるジュネーヴ・プロセス並びに安保理決議2254の下での立憲的改革及び選挙に対する最近の誓約に留意した。両大統領は、これらのステップには、国連の監視下における立憲的改革及び自由かつ公平な選挙、安保理決議2254の完全な実行を含むことを確認した。その選挙は、国際的に最大限の透明性を持ち、参加する資格のあるすべてのシリア人(ディアスポラ成員を含む)が参加する。両大統領は、安保理決議2254に定義された、シリアの主権、統一、独立、領土保全及び非党派性に対する両者の誓約を確認するとともに、すべてのシリアの当事者に対して、ジュネーヴ政治プロセスに積極的に参加し、その成功を確かなものにするための努力を支持することを呼びかけた。
 最後に、トランプ大統領とプーチン大統領は、シリアにおける暴力を減少させ、停戦協定を実行し、妨害のない人道的アクセスを容易にし、紛争の最終的政治的解決するための条件を作るための中間的ステップとしての非エスカレーション地帯の重要性を確認した。両者は、2017年7月7日に両大統領がドイツのハンブルグで会合した際にまとめたシリア南西部における停戦の進捗状態を再検討した。両大統領は本日、ヨルダン、ロシア及びアメリカの間で2017年11月8日に締結された原則に関する議事録を歓迎した。この議事録は、停戦イニシアティヴの成功を強化するものであり、より持続可能な平和を確保するための、この地域からの外国軍及び外国人戦闘者の減少そして最終的ゼロ化を含む。この停戦取り決めの監視は、ヨルダン、ロシア及びアメリカの専門家チームが参加するアンマン監視センターを通して継続して行われる。
 両大統領は、シリアにおける人道的被害を減少させるための必要性について議論し、来たるべき数ヶ月間、すべての国連加盟国が人道的必要性に対する貢献を増加することを呼びかけた。
ヴェトナム・ダナン 2017年11月10日

2.プーチン大統領の記者会見発言

(問)二人が話し合った内容について話してほしい。
(答)シリアに関する声明にたどり着くことは簡単ではなかったので、APECサミットの傍らでの仕事は有意義だった。両国の専門家はサミットに先立って準備し、最終的修正は昨日行われた。
 ラブロフ外相とティラーソン国務長官は、専門家がテキストを提出した後に起こった問題点について対応した。そして米大統領と私は今日この文書を承認した。この文書はもっとも基本的な事柄について強調している点で重要だと考える。…
 シリアに関して言えば、我々がシリアの領土保全及び主権を確認したことは決定的に重要だ。我々は、対テロの戦いを終了し、シリア領内におけるテロの脅威を消滅した後は、国連監視下における政治的解決の道に沿って行動することに合意した。