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朝鮮核問題とアメリカ(李敦球文章)

2017.10.30.

前のコラムでお詫びしましたように目の調子が悪いのですが、中国における朝鮮半島問題研究の権威(と私が評価する)・李敦球が最近も何編かの文章を中国青年報に載せており、その中の2編は特に読み応えがありますので、要旨を紹介します。

<9月27日付文章「「朝鮮の完全破壊」 アメリカには物理的力はあるが、戦略的力量はない」>
 もちろんアメリカには「朝鮮を完全破壊する」物理的力はあるが、朝鮮に対して軍事力を行使できるかどうかは戦争を発動するだけの戦略的力量があるかどうかにかかっている。ところがアメリカは、朝鮮半島において戦略的困難があると同時に、明確な戦略的目的もある。
第一、朝鮮はかつて2度核を放棄する用意があった(浅井注:次の李敦球の文章が指摘するとおり、1994年の米朝枠組み合意と2005年の6者協議における9.19合意)。その主要条件は半島に平和メカニズムを構築すること及び朝米関係の正常化を実現することだった。しかし、それに応じれば、必ずアメリカのアジア太平洋ひいてはグローバルな戦略を直撃することになるので、アメリカが2度とも約束を違えた(浅井注:アメリカ発の情報を鵜呑みにする日本では、朝鮮の「核疑惑」(2002年)及びマカオでの「マネー・ロンダリング」(2006年)による朝鮮の責任をあげつらうことが「常識」になっていますが、アメリカが真剣に朝鮮の核問題を解決する意思があったのであれば、かかる「疑惑」等を理由にして両合意の実行を不可能にさせる選択はあり得なかったはずであり、李敦球もそういう意味で「約束を違えた」と言っていると思います)のは「(朝鮮が求めるものを)与えることができない」ということであった。これがアメリカの朝鮮半島における最大の戦略的困難である。
 第二、対朝鮮戦争を引き起こすことは大して困難ではないが、アメリカは戦争がもたらす結果を収拾することは至難であるし、周辺諸国の反対ひいては干渉を制御するだけの力もない。換言すれば、アメリカには軍事及び兵器における物理的力はあるが、朝鮮に対して戦争を発動するだけの戦略的力量はないということだ。アメリカは1950年に半島に出兵し、意のままにならなかったことを忘れるはずがない。現在の半島情勢は67年前に比べてアメリカにとってより有利となったとは言えない。朝鮮外相は国連総会演説で、朝鮮に対する斬首作戦あるいは軍事攻撃の兆候を見いだせば、朝鮮はためらうことなく「先制打撃」の防御行動をとると強調した。この発言が意味することは、敵軍の侵略に対して核兵器の使用を排除しないということだ。明らかなことは、朝鮮に対する武力行使は核戦争を引き起こすリスクがきわめて大きく、その結果は推して知るべしということである。
 第三、アメリカは安保理決議をつまみ食いしており、中国が提唱している「同時並行」「双方暫定停止」の提案を遅々として受け入れようとせず、軍事的圧力は虚であり、経済封鎖・囲い込みこそが実であって、その戦略的目的は朝鮮の崩壊を促すことによってアジア太平洋におけるバランスをとるということだ。
 現在における朝鮮核問題の困難は、「制裁だけを重視して、対話及び平和交渉を完全におろそかにしている」ことにある。これこそは、安保理関連決議の履行問題における局限性ということであるとともに、アメリカの根本的な戦略目標が朝鮮を窒息させることにあることを暴露しており、半島の平和を願う人々が警戒するべきことである。
<10月25日付文章「米韓、朝鮮半島で「イラク・リビア方式」の再演能わず」>
 朝鮮半島の状況は往年のイラク及びリビアとは完全に異なっており、アメリカ及び西側がサダム・フセイン政権及びカダフィ政権に対して執った方式は朝鮮には適用できない。9月5日にプーチン大統領は、「人々はイラク及びリビアの歴史的教訓を忘れるべきではない。現在の状況下では、朝鮮に対するいかなる制裁も役に立たない。軍事的なヒステリーは朝鮮問題解決にとって何ら資することはなく、袋小路だ」と戒めた。「イラク・リビア方式」を朝鮮半島で再演することはできない。
 第一、アメリカはもはや朝鮮の核開発プロセスを阻止する力はない。朝鮮核問題が今日の局面にまで展開してしまったことに対して、アメリカは主要な責任を負うべきである。事実として、朝鮮核問題を解決する最良の機会が少なくとも2回あった。一度は1994年に朝米がジュネーヴで締結した核枠組み合意であり、もう一度は2005年に朝鮮核6者協議で発表された9.19共同声明だ。しかし、アメリカは2回とも責任及び義務を履行しなかった。現在に至るまで、アメリカは朝鮮核開発プロセスを中止させる有効な措置を提起し得ておらず、事実上、アメリカにはもはやその能力はない。
 第二、アメリカはもはや朝鮮半島の現状を変更する力もない。アメリカは一貫して米韓主導による半島統一実現を希望してきたが、米韓が選択しうる手段は次の二つだ。一つは、かつてイラク、リビアに対した方式で、軍事力で朝鮮政権をつぶすことだ。もう一つは、経済的に朝鮮に対して囲い込み及び封鎖を行うことによって朝鮮政権を窒息させる目的を実現することだ。しかし、朝鮮に対する武力行使は半島核戦争を引き起こす可能性が極めて高く、その結果はきわめて深刻であり、米韓にはそれだけの肝っ玉はない。また、金正恩が政権について以来、朝鮮経済は制裁の下にあるにもかかわらず毎年成長を実現しており、民生は明らかに改善している。したがって、予見しうる将来において、アメリカが半島を統一できる力はないし、朝鮮政権を崩壊させる力もない。
 第三、朝鮮の米韓に対する抵抗力はますます強くなっている。10月18日付のワシントン・ポストは、文在寅のブレーンは、アメリカの動きが朝鮮の情勢判断の誤りをもたらし、半島における軍事衝突を生み出すリスクが増大していることを懸念していると報じた。10月15日付の韓国・東亜日報は、「アメリカ太平洋司令部は朝鮮のミサイル飛来を探知できる可能性はあるが、迎撃は失敗する可能性が高い」とするアメリカ側文献について報じた。以上から明らかなように、朝鮮の米韓に対する抵抗力はますます強くなっているのであり、米韓としてはますます防犯措置を執ることに汲々とせざるを得なくなっている。