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朝鮮半島問題:安倍首相のトランプ大統領に対する影響力(!?)

2017.10.19.

10月13日にトランプ大統領は対イラン戦略を発表しました。この問題については機会を改めてコラムで紹介するつもりをしていますが、トランプのイランに関する認識は、イスラエルのネタニアフ首相(及びサウジアラビア)の影響を強く受けていると広く認められています。
 トランプは朝鮮に対しても強硬一本槍で、朝鮮半島情勢を偶発核戦争の危険にさらしていますが、そういうトランプの朝鮮に対する認識に対して安倍首相が強い影響力を及ぼしているとする韓国・中央日報のワシントン総局長・金玄基(キム・ヒョンギ)署名記事(10月17日付中央日報・日本語版WS掲載)を読んで愕然とする思いを味わいました。
私のこれまでの判断では、トランプが当選するやいなや、真っ先に「お祝い」にはせ参じた安倍首相は、トランプと心中することもいとわない、トランプの言いなりになる「唾棄すべき人物」でした。しかし、金玄基の文章を読んで、そのような見方は一方的であるという可能性にハタと気づかされました。
つまり、政治外交にずぶの素人であるトランプは、自分にすり寄る、めがねにかなった相手の言うことに簡単に影響を受ける人物であるということです。ネタニアフがイラン問題でトランプの判断に大きな影響力を及ぼしているように、安倍首相はまさに朝鮮問題に関して、ネタニアフがイラン問題でそうであるように、トランプに対して「対朝鮮強硬一本槍の考え方」を注入している可能性があります。そうであるとすると、現在の朝鮮半島情勢の危機の高まりに対して、安倍首相は重大な役割を担っているということになります。
 私は、安倍首相が9条改憲実現のために「北朝鮮脅威論」を煽っている点から、その政治手法の許せないゆえんを見てきました。しかし、彼がトランプの対朝鮮認識にまで影響を及ぼしているとするのであれば、私のこれまでの認識はとてつもなく甘いものであったということになります。深く反省するゆえんです。
 以下に、金玄基署名記事を紹介します。

【時視各角】トランプ大統領の訪韓、1泊であろうと2泊であろうと
4日午後10時、ラスベガス銃乱射事件の現場へ向かう専用機「エアフォースワン」でトランプ大統領は安倍晋三首相の電話を受けた。慰めの言葉が終わると、トランプ大統領はすぐに北朝鮮の核問題に入った。最初の言葉は「シンゾウ(晋三)、私は何をすればよいのか。(Shinzo,What should I do?」。2人の12分間の対話録を見たというワシントンのある外交消息筋は「2つの理由で驚いた」と伝えた。一つは安倍首相に対するトランプ大統領の絶対的依存度。「北朝鮮との対話はいけない。無条件に圧力だ」と主張する安倍首相に対し、トランプ大統領は「私はシンゾウの言葉に絶対に同感」という言葉を繰り返したという。もう一つは文在寅大統領に対するトランプ大統領の不信感だ。激しい表現(私が直接確認したのでないため具体的には書かない)まで使ったのをみて驚いたという。トランプ大統領の激怒に「私がうまく(文大統領に)伝える」と言ってなだめたりもした。
トランプ大統領が対話論を展開するティラーソン国務長官に「時間を浪費するな」と面と向かって非難し、「嵐の前の静けさ」を叫ぶ理由は何か。
ある人は「戦略的役割分担」というが、ホワイトハウスに詳しい人たちは首を横に振る。それがその時点でのトランプ大統領の率直な考えだという。そしてそこに多大な役割をしているのが安倍首相だ。経済は「アメリカファースト」、北朝鮮問題は「ジャパン・ファースト」(ネーション紙)だ。我々はその間、安倍首相を「トランプのプードル」と嘲弄していた。しかしすでに安倍首相はトランプ大統領のパートナー、いや調教師になってしまった。
トランプ大統領の来月初めの韓日中訪問で「日本は3泊、韓国は1泊」という話が出てきたのも同じ脈絡だ。日本2泊、韓国1泊に調整される可能性が高まったが、いずれにしても安倍首相に対するトランプ大統領の信頼感が表れた。ゴルフラウンド、拉致被害者家族との会談はボーナスだ。またどんなサプライズイベントが出てくるか分からない。
カギは安倍首相の考えが韓国と同じかどうかだ。安倍首相が憎くても我々と同じ方向にトランプ大統領を導いてくれれば悪いことはないからだ。
ところがそうでもないというところに問題がある。安倍首相は非核化を前提にしない対話には反対だ。北朝鮮が大陸間弾道ミサイルを放棄する代わりに米国が金正恩政権の存続、「最小限の」核兵器黙認に動くのではないかと極度に警戒している。それならいっそのこと軍事行動がよいということだ。文在寅政権の対話路線に逆らって時には仲違いさせる理由があるのだ。しかしそれが日本の国益なら、我々にはどうすることもできない。ただ、説得もしないのが我々の問題だ。
小説家、韓江(ハンガン)氏のニューヨークタイムズへの寄稿のタイトルは「米国が戦争を話す時、韓国はぞっとする」だった。しかし私は同じ日、同じ面に掲載されたコラムニスト、ニコラス・クリストファー氏の「北朝鮮訪問記」にぞっとした。最後の文章はこうだ。「北朝鮮を離れる時(戦争数カ前の)2002年にフセイン大統領のイラクを離れながら感じたのと同じ不吉な予感がした。戦争は予防可能だ。しかし今回は予防できるか分からない」。
中国には、トランプ大統領と対等に向き合う交渉力と核という安全装置がある。日本には、日本に知らせず米国が行動に踏み切ることはないというトランプ大統領の信頼という安全装置がある。では韓国には韓半島(朝鮮半島)戦争を防ぐ安全装置があるのか。いや、我々には果たして「味方」がいるのか。
トランプ大統領が韓国を訪問すれば、非武装地帯(DMZ)を見学させて型にはまった演出をするのではなく、何か創意的な発想で新しい安全装置を作り出したり、確実に我々の味方にする転機が求められる。見方によっては最後の機会となる。そうなる場合、1泊も2泊も関係ない。