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朝鮮政治:最高指導部の序列変更(?)

2017.10.9.

10月8日付の朝鮮中央通信は、金正日総書記「推挙20周年中央祝賀大会」が、同日、平壌で行われたことを報道しました。そこで、「大会には、朝鮮労働党中央委員会政治局常務委員会委員である共和国最高人民会議常任委員会の金永南委員長、朝鮮労働党中央委員会政治局常務委員会委員で、共和国国務委員会副委員長である崔龍海党副委員長、朝鮮労働党中央委員会政治局常務委員会委員で、共和国国務委員会副委員長である朴奉珠内閣総理、朝鮮労働党中央委員会政治局常務委員会委員で、共和国国務委員会副委員長である朝鮮人民軍の黄炳瑞総政治局長(次帥)をはじめとする党・国家・軍隊の責任幹部が参加した」と紹介しました。従来の報道における紹介の順序は、金永南、黄炳瑞、朴奉珠、崔龍海でした。今回、金永南の次に崔龍海の名前が挙げられ、黄炳瑞が第4位にあげられています。この紹介は、前日の7日に朝鮮労働党中央委員会第7期第2回総会が開催され、数多くの人事の決定が行われたことを受けてのことですので、簡単な報道ミスであるとは思われません。しかもこの大会における報告も崔龍海が行ったと紹介されています。
 ちなみに、中央委員会総会での人事に関する決定では、崔龍海が党中央軍事委員会委員にも補欠選挙されるとともに、「党中央委員会部長に崔龍海、パク・グァンホ、太宗秀、キム・ヨンス、リャン・ウォンホ、チュ・ヨンシク、シン・リョンマンの各氏を任命した」という形での紹介もありました。崔龍海の地位向上と発言力強化を示唆している可能性が大きいと思います(蛇足ですが、金正恩の妹の金与正も、今回の中央委員会総会における補欠選挙の結果、党中央委員会政治局委員候補に選出されたことが紹介されています)。
 以上から、今回の中央委員会総会を経て、崔龍海が金正恩、金永南に次ぐNo.3の地位に上った可能性がきわめて大きいのではないかと思われます。また、首相である朴奉珠が軍トップの黄炳瑞の前に紹介されたことは、朝鮮に対する制裁で厳しい経済建設を強いられている中での朴奉珠首相の役割の重さを反映した可能性も考えられます(黄炳瑞の「序列が下がった」と考えるより、崔龍海及び朴奉珠の責任と地位の向上に伴う序列変動とみる方が妥当ではないでしょうか)。
 私はかねてから、金正恩を支えるトップ4の中でもっとも年齢が低い崔龍海(1950年生)の動向に注目しています。私が固唾をのんで見守った2015年の「8月危機」の際も、黄炳瑞(1949年生)とともに韓国側との交渉に当たり、戦争勃発を土壇場で回避することに成功するという鮮やかな手腕を発揮した崔龍海は、2015年9月の抗日戦争勝利70周年の軍事パレードの際に訪中して、習近平とも会談しています。朝鮮外交の元締めであることもおそらく間違いないでしょう。その後、動向が途絶えて左遷が取りざたされた時期もありましたが、今回の中央委員会総会の結果、高齢の金永南(1928年生)及び朴奉珠(1939年生)が遠くない将来に第一線を退く後は、軍トップの黄炳瑞とともに、朝鮮の政治経済外交軍事などすべての分野で金正恩の掲げる並進路線の舵取りを行う可能性がますます高くなったのではないかと思います。
 もちろん、今後の報道をさらに注意してみていく必要がありますが、緊張状態で推移する米朝関係を打開する上でも、崔龍海の手腕に期待する私の気持ちは大なるものがあります。