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朝鮮核問題新決議採択を目指す動きと中国の立場

2017.9.10.

9月7日、中国の王毅外交部長はパキスタン外相との会談後の共同記者会見において、記者からの朝鮮半島核問題に関する質問に対して次のように述べました(同日付中国外交部WS)。

 王毅は次のように述べた。朝鮮は最近またもや核実験を行い、安保理決議に深刻に違反し、国際的な核不拡散システムに衝撃を与えた。中国はこのことに断固反対する。我々は、朝鮮が情勢をクリアに認識し、正しい判断と選択を行い、二度と独断専行せず、二度と国際社会の共通認識とボトム・ラインに対して挑戦しないことを希望する。
 王毅は次のように強調した。半島情勢に現れた新しい変化に鑑み、中国は、国連安保理が更なる反応を行い、必要な措置を取ることに賛同する。中国は、客観的かつ公平に、責任ある態度で各国と密接に意思疎通を行う。我々は、制裁と圧力行使は問題解決のカギの半分であり、他の半分は対話と交渉であって、両者があいまって半島核問題の鎖を解くことができると考える。したがって、国際社会が朝鮮に対してとるいかなる新しい行動もすべて、その核ミサイル開発を押しとどめることに立脚すると同時に、速やかに対話と交渉を再起動させることに役立つものであるべきである。この両面における努力は一方をゆるがせにするものであってはならず、平和的解決の方向性は逆転することがあってはならず、半島非核化の目標実現は動揺することがあってはならない。我々は、安保理理事国が団結を保ち、共通認識を形成し、この点について一致した声を発出することを期待する。

王毅の上記発言に関しては特に、「半島情勢に現れた新しい変化に鑑み、中国は、国連安保理が更なる反応を行い、必要な措置を取ることに賛同する」とした発言部分に注目が集まり、中国が新決議採択に前向きで臨む用意があるという意思表示であると受けとめられています。その限りでは、私が直前のコラムで紹介したロシアのプーチン大統領の発言に込められた、新決議採択に対する慎重姿勢が目立つ立場とは力点の置き方を異にしていると受けとめられます。
 しかし、9月6日付環球時報社説「朝鮮核膠着局面 突破は難しく、現状維持もまた難しい」は、プーチンの「朝鮮は草を食べてでも(核ミサイル)計画を放棄しない」を引用しつつ、「平壌が安全保障に対する不安を感じる限り、制裁が核保有の決心を打ち壊すことは不可能だ」とし、「朝鮮核問題の解決は、米韓が全面的に歩調を合わせることにより、平壌に安全感を与える方向に邁進する必要がある」とする認識を示しました。その上で、社説は次のように中国の問題意識の所在を明らかにしました。

 平壌は今や、無一文になって核兵器だけが残っている中で、国際社会がその核兵器国としての地位を承認するまで頑張り抜き、核兵器国として国際社会に復帰するのだと決心を固めている。
 しかし、国際社会がそういう局面を受け入れる可能性はあまりない。なぜならば、それはとりもなおさず核不拡散原則の崩壊を意味し、北東アジアの地縁政治構造の重大な書き換えをも意味するからだ。大国及び域内の他の諸国はいずれもそういう結末を見届けることを望んでおらず、そうなる可能性は朝鮮半島に戦争が勃発する可能性よりも小さいだろう。
 ここに情勢の難しさがある。即ち、朝鮮が核を放棄することは一見可能性がない。しかし、国際社会が朝鮮の核保有を受け入れる可能性もない。しかも、長期にわたって情勢を維持して引っ張っていくという可能性もきわめて小さい。その間に敵意は不断に増加し、深まり、物事の深刻さはますます人々を窒息状態に陥れ、動きうるスペースは日増しに縮小していく。

王毅発言と以上の社説の問題意識を背景に、9月8日付環球時報は社説「中露は米韓に4つの要求を提起すべし」を掲載し、アメリカが推進しようとしている安保理新決議の動きに対して、中国とロシアは、朝鮮も間違っているが米韓も間違っているのであり、米韓の行動にも制約を加えるべきだとして、具体的に4つの厳しい要求を突きつけるべきだとする主張を展開しました。
 この社説の主張は、何処まで中国指導部の意向を踏まえたものか、また、ロシアとは相談している内容なのか等々、判断できません。しかし、私は見るチャンスがなかったのですが、同紙9月4日付社説(韓国紙の報道によると、新制裁決議採択そのものに消極的な見解を表明したものとされ、そういう内容であれば、上記王毅発言とは明確に抵触する)がWSから削除されたとされるのに対して、今回の社説は私が見届けることができた事実からすると、中国の中にはこうした主張も存在していることを米韓に知らしめる意図があることは間違いないと思われます。
 ちなみに、12日から13日にかけて楊結篪国務委員が訪米して米側と協議する(テーマとしては、新決議の取り扱いに加え、今秋に予定されているトランプ訪中問題も予定されているとのこと)ということですが、この社説は楊結篪の対米交渉ポジションを強める意味合いが込められている可能性もあります。最低限言えることは、アメリカは11日中の新決議採択を目指すとしていますが、12日から楊結篪が訪米するということは、新決議の取り扱いが本格化するとしても、その結果を待ってからになるということをトランプ政権も事実上受け入れたということだと思います。以下、社説の大要を紹介します。
 なお、社説の末尾に強烈な韓国批判が添えられています(9月7日付の環球時報は、「THAADを配備した韓国に答えてほしい2つの質問」と題する社説を掲載して、「平壌は確かに極端だが、ソウルもますます極端になり、支離滅裂になっている」として、名指しこそしませんでしたが、文在寅政権及び韓国保守世論を痛烈に批判しました)。私自身、金大中及び盧武鉉の後継者を自認する文在寅大統領の対外政策手腕には注目しているのですが、腰の定まらない文在寅の言動には不満が募っています。いずれ、このコラムで「文在寅論」をやってみようと考えているところです。

 朝鮮の第6回核実験は安保理決議に違反した深刻な、誤った行動であり、安保理は現在、米韓などが提出した新制裁決議案を討議しており、朝鮮は必ずやさらに大きな代価を支払うことになるだろう。
 平壌が間違っていることについては衆目の一致するところであり、国際社会は不断に対処してきている。しかし、今日における一つの深刻な問題は、米韓も間違いを犯しているのに、米韓は誤りを認識も、承認もせず、国際的にも両国に対していかなる手立てもなく、あまつさえ両国は、自分たちがしていることは正しく、あたかも道徳的高みに立っているが如く、不断に自らの誤りの上乗せをしているということだ。
 米韓は長期にわたり、朝鮮に対して強大な軍事圧力を加えてきた。欧州における冷戦がとっくの昔に終結した状況のもとで、米韓は半島を冷戦残存の最後の一角とさせ、核兵器だけが国家の安全を守る唯一の切り札であると、朝鮮が誤って判断することを手助けする役割を担ってきた。核保有を堅持しなかったカダフィとサダム・フセインが西側によって殺されたことは、平壌政権を刺激したに違いない。
 朝鮮が制裁に逆らって核ミサイル実験を加速するに従い、制裁に頼るだけでは平壌の核放棄の実現を促すことはできないと考える人々がますます多くなっている。ワシントンが軍事攻撃を発動するリスクが不断に高まっているとき、平壌の反応は、一切を顧みずに核ミサイル技術の完成を急ぎ、食うか食われるかの大ばくちを最後まで貫くという可能性がもっと大きくなっている。
 安保理が更なる対朝鮮制裁措置を協議するに当たり、朝鮮に対する米韓の軍事的脅迫を大幅にレベル・ダウンさせる国際的圧力も歩調を合わせて行うべきである。米韓が公然と朝鮮に対してさらに力を誇示するようなことをさせてはならず、米韓の行動は制約を受けるべきである。  これらの制約には以下のことを含むべきだ。
 第一、米韓は半島での合同軍事演習の規模を年ごとに縮小していき、最終的に合同軍事演習を取りやめること。
 第二、アメリカは今後さらに多くの戦略兵器を半島地域に派遣しないこと。
 第三、すでに韓国に配備したTHAADシステムを撤去または封印保存し、使用したい場合には、その使用条件については安保理による授権または関心がある国々の監督及び諒解を得ること。
 第四、米韓は、朝鮮指導者を攻撃することを目的とする「斬首部隊」を作ってはならず、この分野の訓練も行ってはならないこと。
 以上のことは、今の段階で米韓が受け入れることはほぼあり得ないが、国際社会が朝鮮核問題を解決するために促すべき新しい変化の方向性(指針)となるべきである。この一歩を踏み出すことができない限り、朝鮮の核放棄は実現の可能性がまったくない国際社会のスローガンに過ぎず、安保理が制裁を如何に強化したとしても、正しい成果は得られようがない。
 我々としては、中露がまずは安保理で以上の要求を米韓に対して提起し、それを朝鮮に対する制裁を強化することに中露が同意する条件とすることによって、米韓に反省を促すことを主張する。朝鮮の新たな核実験は安保理の決定及び権威を無視したものであり、制裁を強化すべきは当然だが、米韓においてもそれ相応の行動がないとなれば、中露が問題解決の十字架を背負い、悪者になるだけで、米韓は何もみ合った行動をとらないだけではなく、彼らのやり方で物事を失敗させるということになる。
 米韓は中露が朝鮮に対する石油提供をカットすることを要求しているが、本当にそうすれば、平壌を絶体絶命に追いやり、半島危機の重心が中国と朝鮮との間にまで移動してくる可能性が極めて高い。なぜならば、軍事的脅迫はあくまで脅迫に過ぎないが、石油を遮断するということは朝鮮経済及び民生の生命線をもろにぶち壊すことに他ならないからだ。アメリカにとっては危険コストがゼロのこの種の試みは、各国がすべて必要な努力を行うという方式によって取って代わられるべきである。
 安保理は、アメリカが居丈高に中露に対してあれこれ要求する会議と成り下がるべきではなく、アメリカと中露とが互いに要求を出し、互いに妥協して、最大公約数を追求するべきだ。「世界即ちアメリカ」とするアメリカの傲岸さはどうしても打破するべきである。アメリカは朝鮮核問題の主要当事国の片割れであり、少しは正しいことをして状況を何とかするべきだ。
 アメリカに洗脳されたのか、はたまた、朝鮮の核活動で腰を抜かしたのか、韓国は朝鮮核問題に関する独立思考能力をほぼ失ってしまっている。韓国は、「朝鮮が危険な分、それだけ韓国も危険である」という重要な関係性を見極めるべきだ。アメリカがどれほど安全であろうとも、そのことは韓国も同じだけ安全であるということを意味するものではないのだ。