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朝鮮の核ミサイル開発問題に関するプーチン大統領の見解

2017.9.9.

9月5日、プーチン大統領は、BRICS首脳会議が終了した後のロシア人記者団とのインタビューの中で、朝鮮の核ミサイル開発問題に関する認識を詳細に表明しました(同日付のロシア大統領府WS(英文版))。プーチンはその後の日ロ及び韓ロ首脳会談でも、米日韓が推進しようとしている安保理での最強硬の対朝鮮制裁決議に対する協力を求めた安倍首相及び文在寅大統領に対しても、5日に行った発言のスタンスを変えませんでした。
 また、東方経済フォーラムに出席したラブロフ外相は、記者の「安保理が朝鮮に対する新決議を行おうとする場合、ロシアはそれを阻止するか」という質問に答えた際、「我々は、プーチン大統領が厦門の記者会見で示した評価とアプローチに基づいて事を進める」と述べ、プーチン発言の重みを強調しました(9月7日付ロシア外務省WS(英語版)による)。
 アメリカは9月11日中の決議採択を目指しているという報道がありますが、プーチン発言を踏まえると、物事はそれほど簡単ではないことが理解されます。以下に、9月5日付ロシア大統領府WS(英語版)に掲載されたプーチン発言の大要を紹介します。

(質問)朝鮮に関するあなたの立場は何か。話し合い(外交プロセス)、脅迫、制裁のいずれも効果がないように見える。どうすれば朝鮮問題が解決できるだろうか。
(回答)私はこの問題について同僚たち(各国首脳のことか)と私的に議論したが、この場で隠しておく必要のあることは何もない。私は、常識を備えたものならば誰もが理解するべきこととして、私的及び公式の場で話したことをくり返す。
 イラク及びサダム・フセインに何が起こったかについては誰もが覚えている。フセインは大量破壊兵器の製造をストップした。それにもかかわらず、大量破壊兵器を探し出すという口実の下、サダム・フセイン本人と家族は周知の軍事行動の間に殺された。あの時、子どもたちも死んだし、孫たちも射殺されたと思う。国家は破壊され、サダム・フセインは絞殺された。このことは誰もが知っており、覚えていることだ。北朝鮮の人々も知っているし、覚えている。制裁採択の後、彼らが大量破壊兵器製造を諦めると思うか。
 ロシアは北朝鮮のこれらの行動を非難している。彼らがやっていることは挑発的だと思う。しかし、私が今イラクについて話したこと及びその後でリビアで起こったことについて忘れることはできない。確実なことは、北朝鮮の彼らが忘れることはないということだ。  この問題においては、いかなる種類の制裁も意味がないし、効果はないということだ。昨日、私がある同僚に話したことだが、朝鮮の彼らは安全だと感じなければ、草を食べてでもこの計画を諦めないだろう。
 何が安全を保障するのか。国際法の回復だ。我々は、全関係国の間の対話に向けて進む必要がある。重要なことは、北朝鮮を含むすべての当事国が破壊されようとしているという考えを持たない(ですむ)ようにすること、逆に、紛争全当事国が協力するべきだということだ。
 この環境・状況下においては、軍事的ヒステリーをあおり立てることは絶対に無意味だ。それでは万事休すだ(It's a dead end)。また、北朝鮮が持っているのは中距離ミサイルと核兵器だけではなく、60キロ先までをカバーする長射程砲及び多段式ロケット・ランチャーをも保有している。ミサイル防衛システムをこれらの兵器に対して使用するのは無意味なことだ。世界には、長射程砲及び多段式ロケット・ランチャーに対処できる兵器は存在しない。しかも、これらの兵器は見つけることがほとんど不可能な形で配備することができる。
 以上との関連だが、軍事的ヒステリーは何もいいことをしないだけでなく、グローバルな、地球規模の災難と巨大な犠牲を導くだろう。
 北朝鮮の核問題を解決できる唯一の方法は外交だ。
(質問)アメリカは制裁を強化したいと言っており、ロシアにもそれに参加することを要求している。例の(アメリカの)制裁法において、ロシアが北朝鮮及びイランと同列にリスト・アップされている状況のもとで、アメリカの言っていることをどう評価するか。
(回答)確かに、ロシアを北朝鮮と同じリストに載せておきながら、北朝鮮に対する制裁については手伝えと我々に要求するのはばかげている(it does not make sense)。そうしたことを、オーストリアとオーストラリアとを混同する連中が、大統領に対して制裁を強化するようにロシアを説得するように要求しているというわけだ。
 しかし、それは肝心なことではない。この問題及び他のすべての問題に関する我々の立場は原則に基づいている。問題は、ロシアが北朝鮮と同じリストに載せられているということではない。それは完全にばかげてはいるが。制裁が限界に達しており、まったく非効果的であると考える理由についてはすでに話した(ロシア外務省もその点については述べている)。
 この問題に関しては人道的側面もある。北朝鮮に対して影響を及ぼそうとして我々がいかなる選択肢を選ぶにせよ、北朝鮮の指導者たちは政策を変えないだろうが、朝鮮人民の受ける被害は数倍にも増える可能性がある。
 ロシアについては何も言うことはない。ロシアの貿易はほとんどゼロなので、本当に何もない。私はエネルギー相に聞いたのだが、ロシアが北朝鮮に送っているのは1四半期で4万トンの石油と石化製品ということだ。念のために言えば、ロシアの世界市場に対する石油及び石化製品の輸出は40億トンであり、1四半期で4万トンという数字はゼロに等しい。さらに言えば、ロシアの大規模垂直統合企業の中で、北朝鮮に輸出しているものはゼロだ。以上が私の言いたい最初のポイントだ。
 第二の問題は北朝鮮労働者に関してだ。確かにロシアには約3万人の北朝鮮労働者がいる。多いか。否、実に微々たる数だ。彼らを生存手段なしで放っておけというのか。また、ロシア極東にはもっと人手が必要だ。したがって、何も話すことはない。外務省が述べたとおり、制裁の効用は枯れ果てたのだ(exhausted)。
 もちろん、詳細については議論する用意はある。しかし、まずは考えることが必要だ。我々はこのことについて検討する。このプロセスにかかわる当事国すべてと協力する。実際、ロシアは関連決議の共同作成者であるし、採択された今回の決議に関する議論においては共同作成者だ立った。そしてこの決議については完全に遵守している。