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朝鮮外務省スポークスマン発言(2017年9月5日)

2017.9.7.

9月5日、朝鮮外務省スポークスマンは朝鮮中央通信社記者の質問に答えて、「米国がわれわれの大陸間弾道ロケット装着用水爆の実験に言い掛かりをつけて制裁・圧迫策動に執着し続けていることに関連して」以下のように答えました(同日付朝鮮中央通信)。
 私がもっとも注目したのは、「われわれが今回行った大陸間弾道ロケット装着用水爆の実験は、国家核戦力完成の完結段階の目標を達成するための一環である。これで、われわれは地球上のどこにいる侵略勢力も断固と撃退し、朝鮮半島と地域の平和と安全を頼もしく守れる最強の核抑止力を備えるようになった。」と発言した部分です。今回の水爆実験が「国家核戦力完成の完結段階の目標を達成するための一環」であるとする発言には、今後も更なる行動をとる可能性が込められていると理解するべきニュアンスが含まれています。他方、「これで、われわれは地球上のどこにいる侵略勢力も断固と撃退し、朝鮮半島と地域の平和と安全を頼もしく守れる最強の核抑止力を備えるようになった」とする発言からは、朝鮮の核ミサイル開発計画が「国家核戦力完成の完結段階の目標を達成」したというニュアンスを読み取ることが可能です。
 私は、今回の水爆実験を行うに先だって、9月3日、朝鮮労働党中央委員会政治局常務委員会が行われ、「まず、現国際政治情勢と朝鮮半島に醸成された軍事的緊張状態を分析、評価した。続けて、朝鮮民主主義人民共和国核兵器研究所が行った核の兵器化研究事業の実態に関する報告を聴取し、朝鮮労働党第7回大会が提示した国家核武力完成の完結段階の目標を達成するための一環として大陸間弾道ロケット装着用水爆の実験を行う問題を討議した。政治局常務委員会では、朝鮮労働党中央委員会政治局常務委員会の決定書「国家核武力完成の完結段階の目標を達成するための一環として大陸間弾道ロケット装着用水爆の実験を行うことについて」が採択され、金正恩同志が実験を断行することに関する命令書に親筆署名した」(同日付朝鮮中央通信)ことに注目していました。私が朝鮮中央通信WS(日本語)をフォローしてきた限りにおいては、朝鮮労働党中央委員会政治局常務委員会の開催が報じられたこと自体が初見です。ということは、朝鮮指導部が今回の水爆実験を核ミサイル開発計画の大きな区切りとしてとりわけ重要視していることを対外的に宣明する意図が込められていると思ったのです。
 朝鮮外務省スポークスマンの「国家核戦力完成の完結段階の目標を達成するための一環」という発言は上記常務委員会の発表文にある文言そのものです。それに、「これで、われわれは地球上のどこにいる侵略勢力も断固と撃退し、朝鮮半島と地域の平和と安全を頼もしく守れる最強の核抑止力を備えるようになった」という発言が付け加わったわけです。
 即ち、朝鮮としては、今回の水爆実験の成功によって核ミサイル開発計画が一段落を迎えたというメッセージを対外的(とりわけアメリカ)に発信しているのではないでしょうか。ということは、アメリカがこのメッセージを正確に読み取って更なる安保理制裁決議採択に暴走しない(この可能性はゼロに近い)、あるいは、このメッセージをくみ取った中露がアメリカの暴走を押さえ込んで決議採択を阻止すれば、朝鮮としては少なくとも当面は更なる核ミサイル活動を行わない用意があるということを発信している可能性がある、というのが私の理解です。
 朝鮮外務省スポークスマンの上記発言に関しては、「米国の白昼強盗さながらの制裁・圧迫策動にわれわれは朝鮮式の対応方式で応える」とした部分が取り上げられ、朝鮮の「挑発」性が喧伝されています。しかし、私としては、今回の発言のポイントはそこにはなく、私が以上に指摘したところにこそあるのではないかと考えるので、結果的に判断を間違えることになる可能性を弁えながら、あえて紹介する次第です。

朝鮮外務省代弁人、反共和国制裁策動に熱を上げている米国を糾弾
【平壌9月5日発朝鮮中央通信】朝鮮外務省のスポークスマンは、米国がわれわれの大陸間弾道ロケット装着用水爆の実験に言い掛かりをつけて制裁・圧迫策動に執着し続けていることに関連して5日、朝鮮中央通信社記者の質問に次のように答えた。
われわれが断行した大陸間弾道ロケット装着用水爆の実験を巡って米国が先頭に立って「糾弾」劇を演じながら、反共和国制裁策動に熱を上げている。
4日、国連安保理緊急会議なるもので米国の代表は、朝鮮は国際社会の意思を無視して戦争だけを望んでいるなどとけん伝しながら、新たな「制裁決議」の採択を強要した。
米国がわれわれの自衛的核戦力強化に言い掛かりをつけてわが共和国のイメージをダウンさせようと狂奔しているのは、緊張激化と核脅威の張本人としての正体を覆い隠すための詭弁(きべん)である。
トランプが吐いた「火炎と憤怒」という暴言と今行われている米国のヒステリックな反共和国圧殺騒動は、米国こそ朝鮮半島の平和と安定を願う国際社会の意思を無視して戦争だけを追求する白昼強盗であることを明白に実証している。
大陸間弾道ロケット装着用水爆の実験は、われわれが選択した並進の道で必ず経るべき正常な工程として、誰もなんだかんだと言い掛かりをつけることができない。
われわれは、長々数十年間持続する米国の敵視策動と核威嚇・恐喝を根源的に取り除くために核保有を選択し、経済建設と核戦力建設を並進させる戦略的路線を堅持している。
トランプ行政府時代に入って、われわれの自主権と生存権、発展権を完全に抹殺しようとする米国の策動がより無分別になっていることに伴って、われわれは国家核戦力強化にいっそう拍車をかけざるを得なくなった。
われわれが今回行った大陸間弾道ロケット装着用水爆の実験は、国家核戦力完成の完結段階の目標を達成するための一環である。
これで、われわれは地球上のどこにいる侵略勢力も断固と撃退し、朝鮮半島と地域の平和と安全を頼もしく守れる最強の核抑止力を備えるようになった。
米国がいわゆる「全ての選択肢」をうんぬんして政治、経済、軍事の各分野で前代未聞の悪らつな制裁と圧力を加えることによってわれわれを脅かしたり、逆戻りさせられると思うなら、それより大きな誤算はない。
米国の白昼強盗さながらの制裁・圧迫策動にわれわれは朝鮮式の対応方式で応えるであろうし、米国はそれによって招かれる破局的な結果に対して全責任を負うことになるであろう。
米国は原爆、水爆と共に大陸間弾道ロケットまで保有した名実相伴う核強国としてのわが国家の実体を暫時も忘れてはならない。