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朝鮮のミサイル発射(8月29日)と中国の冷静な対応

2017.9.2.

8月29日の朝鮮によるミサイル発射に関し、中国外交部の華春瑩報道官は、同日及び翌日の定例記者会見で、記者からの繰り返しの質問に対して、詳細に中国政府の認識と立場を述べました。また、30日付の環球時報は、「ミサイル発射と圧力行使の悪循環 さらにどれだけくり返すのか」と題する社説で、華春瑩報道官が婉曲に明らかにしようとした中国の判断と立場をストレートに明らかにしました。
 その判断と立場とは、米日韓は再び安保理決議で朝鮮に対する制裁を強化する動きを示しているが、そうしたことは腹をくくっている朝鮮に対して何の意味もないことはもはや明らかだという判断であり、米日韓としてはいい加減朝鮮に対するワン・パターンの力ずくのアプローチを根本的に考え直すべきだ(中国としては米日韓にこれ以上お付き合いする用意はない)という距離を置く立場です。
 9月1日付の中国外交部WSは、王毅外交部長が同日、仏英日3国外相との約束に応じて電話会談を行って朝鮮半島情勢について意見交換したことを伝えました。注目されるのは、①フランスのル・ドリアン外相が「フランスは中国が半島核問題の解決のために継続して重要な役割を担っていることを支持しており、中国が責任を果たしていないという議論にはまったく賛成しない。フランスは中国とともに、朝鮮核問題が平和的に解決されることを推進する努力を払う」と述べたと紹介していること、②王毅外交部長が河野外相に対して「単独制裁は安保理決議の精神に反し、国際法上の根拠もない。日本はこの点について間違った判断を行うべきではない」と述べたと紹介していること、③イギリスのジョンソン外相との間では、王毅が「米韓合同軍事演習が終わって半島情勢は小休止の時期に入ったが、平和は引き続き放棄することはできない。各国は慎重に事を運ぶべきで、緊張を強める言動を再びとるべきではなく、共に努力して対話再起動のための条件を作り出すために努力するべきだ」と述べ、ジョンソンは「イギリスは朝鮮が安保理決議を無視してミサイルを発射したことに深刻な懸念を表明する。イギリスは平和的に半島核問題を解決することに賛成であり、中国がそのために行ってきた積極的な努力を十分に認識している。引き続き、半島核問題を適切に解決するため、中国と緊密な意思疎通を図っていきたい」と応じたと紹介していることです。朝鮮半島情勢に関して中国が積極的に事態の打開のための努力を行っていることが窺えますし、仏英外相も問題の平和的解決のために中国と意思疎通していきたいという態度表明を行っています。
 ちなみに、ロシアのプーチン大統領も9月1日、「事実が証明するとおり、朝鮮政権に対して圧力を行使することによってその核ミサイル活動を停止させようとするのは誤りだ。関係諸国が直接対話することによってのみ朝鮮半島問題は解決できる。しかも、この対話は前提条件なし、互いに挑発せず、互いに圧力をかけず、互いに武力行使の脅迫を行わず、互いに「口げんか」をしないという基礎の上で行われるべきだ」、「露中両国は、段階的に朝鮮半島情勢の緊張を緩和させ、朝鮮半島に安定した堅固な平和安定メカニズムを作ることを提起しており、両国が示している朝鮮半島情勢調停「路線図」こそが半島の平和及び安定実現推進の有効な道筋である」と述べました(同日付新華社モスクワ電。ただし、イランのプレスTVによれば、以上のプーチンの発言はクレムリンが発表したプーチンの文章の中でのものだと紹介されており、ソースについて私自身は今のところ確認できていません)。
 参考までに紹介しておきたいのですが、イランとの核合意(JCPOA)に関するイランの履行状況に関するIAEAの天野事務局長の最新の報告(8月31日)は、アメリカの圧力(トランプ大統領の意を受けたヘイリー国連大使が天野事務局長と会って、イランの軍施設に対する査察を行うことを「要求」したことが広く伝えられました)にもかかわらず、イランが核合意を忠実に履行しているとする内容を理事会に提出し、理事会もそれを受け入れました。その背景には、EUのモゲリーニ外務・安全保障政策上級代表が度々JCPOAに対する強い支持を表明し、フランスのマクロン大統領も同じ発言を行っているなど、トランプ政権の対イラン政策が明らかに国際的に孤立していることがあります。朝鮮半島情勢を観察する上でも、アメリカ特にトランプ大統領の思いつき発言に一喜一憂するのではなく、国際的な動きの中で情勢を見極めていくことが重要であることが分かると思います。

<華春瑩報道官の主要発言>

(8月29日)
(質問)米日は朝鮮に更なる圧力をかけることを呼びかけているが、中国もこういう呼びかけをするか。朝鮮に対する圧力強化に関する中国の見方如何?
(回答)米日韓を含めた皆さんは次のことを考えたことがあるだろうか。米韓は合同軍事演習をくり返し行っており、ますます大きな、そしてエスカレートする軍事圧力を行使しているが、それによってより安全となっていると感じているだろうか。それとも感じていないのか。くり返される悪循環によって、半島核問題の平和的解決の大きな扉は近くなったと感じているだろうか。それとも感じていないのか。これまでの実践が証明しているとおり、制裁という圧力行使だけでは問題を根本的に解決することはできない。半島問題は錯綜し、複雑であり、歴史的経緯はすでに長いものがある。問題解決の唯一かつ正しい方法は、対話を通じて各当事国の合理的な安全保障上の関心をバランスよく解決することだ。そうすることによってのみ、核実験・ミサイル発射と軍事演習との間の悪循環を根本から断つことができる。だから中国は「双方暫定停止」の提案を行っているのだ。
(質問)中国は、各国が冷静と自制を保つように度々呼びかけているが、朝鮮は依然としてミサイルを何度も発射している。ということは、朝鮮核問題に関する中国の影響力はないということか。
(回答)私は、あなたが朝鮮核問題をどれだけ長きにわたってフォローしているか、中国の努力と各国の言動についてどれほど密着してフォローしているかについては知らない。朝鮮半島核問題の本質は安全保障問題であり、その根っこにあるのは朝米、朝韓の間の矛盾である。直接当事国が互いに相手側の正当で合理的な安全保障上の関心を配慮してのみ、半島核問題の抜本的解決が可能となる。長期にわたって中国は、半島核問題の平和的解決を推進するためにたゆまぬ努力を行ってきた。それが効果あったかどうかに関しては、あなたには以下のことを真剣に考えてみてほしい。即ち、中国が各国に自制、冷静、対話を呼びかけても、直接の当事国が不断に軍事演習を行い、不断に軍事圧力をエスカレートし、他方の当事国も不断にミサイルを発射して強硬に対抗するとき、あなたは誰を批判するべきだと考えるか。誰がより一層の努力を払うべきだと考えるか。
 安保理関連決議は、一方で朝鮮の核ミサイル開発を阻止するための措置を取ることを定めるとともに、他方では6者協議の再起動を推進することを呼びかけている。私が関係諸国によく自問してほしいのは、安保理決議を全面的に実行しているかどうかということであり、平和的話し合いの再起動を推進するためにどれだけの積極的努力を行っているかということだ。
(質問)中国政府は、半島核問題の解決に対して制裁は効果があると考えているか。
(回答)あなたの判断はどうなのか。安保理はいくつかの決議を通し、制裁はだんだんと厳しさを増してきたが、これまで効果があったと思うか。
(質問)多くの制裁にもかかわらず、朝鮮は相変わらずミサイルを発射している。制裁は確実に効果を上げたというものもいれば、効果を上げていないというものもいる。
(回答)あなたは自分の問題提起に自分で答えを出しているのではないか。あなたが観察し、分析し、判断しているように、また、皆さんもおおむね同感であるように、安保理がいくつかの決議を通し、制裁が一貫して行われてきたが、結局のところ実際の効果があっただろうか。皆さん見てのとおり、一方で制裁が不断に行われ、他方で朝鮮のミサイル発射も続いている。…制裁を行わなければならないとする関係国に自問してほしいのは、自分たちは果たして全面的かつ確実に安保理決議をバランスよく実行しているか、それとも、制裁だけを重視し、早急な6者協議回復のための必要な条件と雰囲気を作り出すために真剣に努力を行っていないのではないかということだ。
(質問)あなたは不断に対話を考慮するように呼びかけるが、今日朝鮮が発射したミサイルが日本の人口密集地の上を飛んでいったことを考えれば、特別な非難があるべきではないか。
(回答)現在の情勢の展開が改めて証明しているのは、制裁と軍事圧力だけでは問題を根本的に解決する術はないということだ。現在、危機が臨界点に迫っているのは間違いないが、同時にまた平和的話し合いの大きな扉を開くための転換点にもあるというべきだ。…最近、アメリカも韓国も、平和的に半島核問題を解決することが各国の利益にもっとも合致すると公に表明している。そうであるとすれば、みんなが真剣に考えるべき問題は、どうしたら平和的に解決できるかということだ。各国が真剣に安保理関連決議を検討し、話し合いを回復して、平和的に半島問題を解決するために真剣な努力を払うことを希望する。
(質問)中国は制裁だけでは効果はないと認識しながら、安保理が制裁決議を通すことには依然と支持している。現在、アメリカと日本は安保理会合を再度開くことを呼びかけているが、中国は朝鮮を非難し、新たな制裁を呼びかける決議を支持するのか。
(回答)あなたは安保理会合を行うことを呼びかける国があると言及したが、我々としては、安保理で討論し、あるいは取る行動が平和的に半島核問題を解決し、半島の平和と安定を実現するという大きな目標に役立つことを希望する。中国はこれまでそうしてきたし、現在及びこれからも引き続きそうするだろう。
(質問)アメリカ等が安保理に新たな制裁を提出する場合には、中国は同意するか。
(回答)仮定の問題には答えるつもりはない。
(8月30日)
(質問)イギリス首相は、朝鮮核問題を解決するために中国はもっと努力して朝鮮に対して圧力をかけるべきだと述べた。中国のコメント如何。
(回答)朝鮮半島情勢が緊張すると、様々な議論が行われる。その中でも典型的なものは、あなたが言及したような、中国が圧力行使でもっと多くのことをすべきであり、もっと努力するべきだというものだ。…
 私が関係諸国に問いかけたいのは、中国が圧力行使の面でもっと力を入れ、もっと大きな役割を発揮するべきだと言うとき、自分たちは掛け値なしに、全面的に、完全に、忠実に安保理決議を履行しているか、そうではなくて、えり好みして履行しているのではないかということだ。例えば、圧力行使と制裁だけを重視して、対話と平和的交渉については完全におろそかにしているのではないか。我々は、公にはできないよこしまな内容(狙い)を強引に忍び込ませる、あら探しをしながら「背中から切りつける」、火事場泥棒をする、さらには火中の栗を拾おうとする動きがあることにも留意している。制裁を言いつのるときは最前列に陣取るけれども、平和的交渉を推進するとなると一番後ろに隠れて、いかなる責任も担うつもりはなく、いいとこ取りだけを考えている。これらのことは、責任ある国家としてとるべき態度及び行動ではない。…
 もう一度指摘したいのは、安保理決議は二つの中身(制裁と交渉)があり、…その双方の重要性は同じであって、一方だけに偏るべきではないということだ。
(追加質問)あなたはいま、責任を負わない国家があると言ったが、それは具体的にどこか。その中にはイギリスも含むのか。
(回答)良心的に観察し、ちょっと考えれば、答は言うまでもなく明らかだ。胸に手を当てて自問することだ。自分たちは半島問題の解決のためにどれほどの努力を行っているか。制裁をわめくことだけに意味があるのか。圧力と制裁だけで問題が解決できるのだとしたら、半島情勢が今日のような悪循環の不断にエスカレートする状況にまでなっていただろうか。半島情勢が火薬の臭いで充ち満ちている今日の情勢を前にして、関係諸国は冷静になり、じっくり考えてみることだ。
 次のことも提起したい。2005年の第4回6者協議で達成した9.19共同声明を改めてよく読んで味わってみることだ。半島核問題が、核ミサイル開発と制裁・圧力行使とが交互にエスカレートするという困難な状況に陥ってしまったことについて、一体誰が主要な責任を負うべきなのか。一方の掌だけでは音を出すことはできない。関係諸国が半島の非核化の実現を推進し、半島の平和と安定を守るという初心を一貫して忘れない場合にのみ、対話と協議の道を速やかに復活する上で積極的な進展が得られるのだ。
(質問)最近の安保理会合以後、中露の両大使の発言がきわめて似通っていることに注目している。中露両国は、朝鮮核問題に関してどれほど緊密な意思疎通と協力を維持しているのか。この問題の解決という目標において、両国は完全に一致しているのか。
(回答)半島問題における目標について中露が一致しているかという点に関しては、半島の非核化実現を推進し、半島の平和と安定を維持し、外交的に問題を平和的に解決するという大きな目標に関しては、中露は完全に一致している。目標における中露の一致だけではなく、安保理5常任理事国及び国際社会における大きな方向性という点でも一致している。ただし、いかに実現するかという具体的方途に関しては、現段階において異なる見方はあり得る。
 ロシアは中国にとって非常に重要な隣国であり、安保理5常任理事国の一つとして、中国と同じく、世界の平和と安定を維持し、地域的なホット・イッシューの平和的解決を推進する上で重要な影響力と役割を担っている。中国は引き続き、ロシアとの緊密な協調及び協力を強化し、共同して地域及び世界の平和と安定を維持することを願っている。

<環球時報社説>

 朝鮮が29日朝発射したミサイルは日本の北海道上空を通過し、2700キロ飛んで太平洋に落下した。日本の反応は強烈で、「未だかつてない深刻で重大な脅威」と称した。トランプ大統領はホワイトハウスを通じて声明を発表し、朝鮮政権を「隣国及び国連すべての加盟国を蔑視し、国際的行為として受け入れ可能な最低標準を蔑視した」と非難した。声明は、すべての選択肢がテーブル上にあると特に述べた。
 朝鮮は、1998年及び2009年に2度ロケットを発射して日本上空を飛ばしたが、当時朝鮮はすべて「衛星打ち上げ」と称した。朝鮮が先月2度にわたってICBMの発射実験を行った(成功したとみられている)際は衝撃を引き起こし、米朝が相互に脅迫し合った。しかし、ワシントンは先週トーンを和らげ、平壌がミサイル発射活動を「自制」していると賞讃した。朝鮮の今朝のミサイル発射は半島情勢の緊張に新たなエスカレーションをもたらす可能性があると分析されている。
 米日韓は更なる対朝鮮圧力行使措置を相談しているようだが、彼らの激怒ぶりからすると何の不思議もない。しかし、朝鮮に対する国際制裁がすでにがちがちの状況のもとでは、新たなステップは乾燥しきったタオルをさらにねじってわずかな水滴を絞り出すだけのことで、新たな制裁から期待できるのは日本及び米韓の世論をなだめる程度のことであり、「「ツケが増えてもくよくよしない」朝鮮に対しては大きな効果を生むことは至難である。
 平壌が外部に向かって発出しているシグナルはいかなるアプローチにも乗らないということであり、朝鮮に対する国際的な態度がどれほど変化しようとも、ひたすらミサイル戦力の開発を急ぐことに変わりはないということだ。朝鮮はワシントンの脅迫を恐れておらず、トランプ政権が突然低姿勢になったからといってその気持ちを酌むこともなく、ミサイル発射実験を継続することは平壌にとって止めようのない慣性になってしまっているようだ。外部に対してインパクトを与えることがどれだけの危険を意味するかということに対して、平壌は明らかにマヒ状態だ。
 米日韓としては次のことを真剣に考えてみるべきだ。このような、行ったり来たりのやりとりは、米日韓にとっては怒り心頭の種だが、孤立を受けることに備え、相当に貧困な朝鮮からしてみれば、無鉄砲さに伴う刺激的な事柄なのではないか。朝鮮がミサイルを発射しないとき、米日韓は平壌のことを無視し、蔑視に充ち満ちており、朝鮮の安全保障に対する関心についてはまったく関心を寄せない。平壌にとって、ひっきりなしにミサイルを発射することでもたらされる注目度及び平等感は、いまや「国際的な尊厳」を獲得する主要な源になっている。
 米日韓としては、このようなミサイル発射と制裁プラス軍事的脅迫という際限のない悪循環を終わらせたいのであれば、朝鮮とやりとりする方法を転換することを真剣に考慮するべきである。朝鮮は弱いにもかかわらず「決して屈しない」存在であり、何故にこれほど後のことを考えずに核ミサイル活動を続けようとしているのか。ワシントンはそのことを徹底的に解明するべきである。
 朝鮮政権を「悪魔」として描き出すことは簡単だし、タオルから一滴のしずくを絞り出すことは新しい水源を探してタオルを漬すことよりも簡単だろう。しかも極めて重要なことは、このようにすることは、米日韓にとっての「政治的正しさ」にもっともピッタリなことだ。しかし、これらのすべては何の結果も残さない。本当に「結果志向」で臨むのであれば改めなければならない。
 即ち、アメリカは朝鮮と無条件で対話を行い、安全保障に対する平壌の心配の所在を理解するべきであり、周辺諸国も共同して、朝鮮の安全保障に対する関心に応え、朝鮮が核兵器に代わる確実な安全保障の手段及び資源を見いだすことを助け、朝鮮が広く受け入れられる国家安全保障の路線にしたがって国際社会に復帰することを促す必要がある。
 以上のようにすることが平壌政権を「力づける」ことになりはしないかとか、ワシントンと平壌との意志比べは白熱化しすぎてしまっており、膠着状態を打開する模索の相互の動きは失敗したのではないかとか、あまり考えすぎないことだ。局面を救うため、シグナルを出すなどの回りくどいことをするやり方を改め、双方が天窓を開けて大声で話をするときだ。平和のチャンスを見逃すなかれ。存在している転機の可能性を見過ごすことなかれ。
 米日韓をあわせればかくも強大なのだから、3国が対朝鮮戦略を調整するスペースの余地はあるはずだ。袋小路に入り込んで首つり自殺をするようなことは、この「反朝鮮統一戦線」がとるべきことではない。
 朝鮮がIRBMやICBM を発射することは安保理決議の厳重な違反だ。国際社会としては長期にわたってみて見ぬフリをすることはできない。しかし、国連にせよ、米日韓にせよ、朝鮮核問題の解決に力だけで対処するのはもはや到底十分ではなく、いま必要なのは、知恵であり、衝動よりも役に立つ理性である。