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安保理決議2371と米朝対決(環球時報社説)

2017.8.11.

朝鮮が行った2回のICBM発射実験に対する制裁として、国連安保理は8月5日に決議2371を15ヵ国すべて(中露を含む)の賛成で採択しました。中露両国がすんなりと決議採択に応じたのは私にはいささか驚きでした。もっとも、朝鮮の核ミサイル開発がエスカレートするたびに安保理は制裁措置を講じてきたし、中露両国もそれに同調してきたわけですから、朝鮮がICBM発射実験という、核実験及び人工衛星打ち上げと並ぶレッド・ラインを越える行動に出た今回、中露両国としても制裁決議採択そのものに難色を示すことはできない相談だったとも言えます。
 ロシアの場合、2回のミサイル発射実験がICBMではなくIRBMだと主張して、決議採択に待ったをかけようとしました。しかし、アメリカのみならず中国も早々とICBMと認定する状況のもとでは、ロシアが技術論だけで決議採択に抵抗するには無理があったのでしょう。また、中国としても、アメリカによるセカンダリー・ボイコット措置(対朝経済貿易関係を有する中国企業に対する制裁措置)など、ただでさえ緊張している米中関係をいたずらにこじらせる気持ちはなかったのだとみられます。
 とはいえ、朝鮮からすれば今回の中露両国の行動はかなり腹に据えかねるものだったことが窺われます。朝鮮アジア太平洋平和委員会スポークスマンは8月8日に声明を発表し、今回の決議を「歯の抜けた老いぼれ狼である米国が恐ろしくて不正義だということを知りながらも手を上げてやった筋金のない有象無象の軟弱さと卑屈さによって国連の額に大きく押された恥辱の烙印」と決めつけ、「今回、信条も良心も信義もすべて捨て、米国に追随して不法非法の「決議」に手をあげてトランプの感謝まで受け、上司の目に入った国々は世界の良心の前で恥を感じなければならず、歴史と人類の厳正な審判場で働いた犯罪を深く反省し、応分の代価を払わなければならない」という表現(強調は浅井)で中露両国を糾弾しました。
 さらに、上記のように決議採択の動きに対して抵抗していたロシアが簡単に賛成に回ったことに対しては、8月9日付の朝鮮中央通信は、リ・チョルホ(国際問題研究院研究者)署名文章「本当の盲人か、でなければ盲人のまねをするのか」を掲載し、「国際社会が一様に公認するこの厳然たる現実(浅井注:ICBMであること)をロシアだけは目も耳も塞いで無鉄砲に否認し、片意地を張っている」と揶揄しつつ、「一方、世人は数年にわたって米国の制裁と圧迫の主な対象として苦しめられているロシアが国連安保理で対朝鮮「制裁決議」の採択問題が論議される時も、その「決議」が朝鮮の日常的な経済貿易活動と人民の生活に影響を与えてはいけないと実際に強硬姿勢で米国に立ち向かっているのを見ながら、われわれの大陸間弾道ロケットを中距離弾道ロケットだという目的と結び付けて「もしか」という考えをしていた。しかし、対朝鮮「制裁決議」の採択にブレーキをかけるかのように空元気を出していたロシアが突然、米国の船に飛び乗ってトランプの「感謝」まで受けたのを見て、中距離弾道ロケットだと言い張る彼らの本当の目的が何かということを推察して余りあったであろう」と皮肉たっぷりの非難を浴びせました。
 ところで環球時報は、8月7日付、10日付及び11日付の社説で、決議採択に応じた中国の基本的立場を表明するとともに、米朝間でエスカレートする「舌戦」に対する判断及び警戒感を表明しています。以下に要旨を紹介します。

<8月7日付社説「アメリカよ 制裁すると同時に朝鮮に対する道徳的傲慢さをコントロールすべし」>

この社説は、中国(及びロシア)が新決議採択に協力した以上、次はアメリカが朝鮮核問題の平和的解決に真剣に取り組むべきだという、中国の基本的立場を再確認したものと言えます。もっとも、アメリカの頑迷な姿勢に対しては「つける薬はない」というのが実感で、このままでは朝鮮がICBM保有に至るだろうという諦観が顔をのぞかせています。
 この社説では、朝鮮核問題に主動的な役割を果たすことができない韓国(文在寅政権を含む)に対する公然とした批判も行われています。「ろうそく革命」を行う力量を持つ韓国の人々が、こと朝鮮半島問題になるとからっきし主体性を発揮できないというのは、私にとっても大きな謎です。ハンギョレ、中央日報及び朝鮮日報を毎日フォローするようになって、特にこの点について大きな疑問を感じるようになりました。そういう私にとって、今回の環球時報社説の指摘はまさに同感です。

 人口が2400万人にも達する朝鮮が、新決議発効後は毎年の輸出額が20億ドルにしか残らず、輸出入を合わせても数十億ドルに過ぎなくなる。朝鮮は核ミサイル活動のために巨大な代価を支払わなければならないのだ。
 それなのにもし、朝鮮が核ミサイル活動を続けられる主な原因は外からの圧力がまだ足りないためだと考えるようなアメリカ人がいるとするならば、そういう発想しかしないアメリカ人には大きな問題があり、少なくとも不健全かつ奇怪である。
 また、中国にしてもロシアにしても朝鮮が核ミサイルを開発することを喜ぶ理由はないのであって、ただしかし、問題の起因及び解決方法に関してアメリカとは考え方が違うということだ。…アメリカはプレーヤーであると同時にジャッジであることはできないし、…アメリカだけが「常に正しく」他の者はすべて間違っているということもあり得ない。
 (新決議採択に対して)トランプ大統領は中露の協調に謝意を表明したのであるから、中露が真剣に決議を履行する限り、ワシントンはこれ以上文句をいわないことだ。仮にワシントンがさらに文句を言いだすのであれば、…北京とモスクワは一切ワシントンに構う必要はない。
 アメリカのヘイリー国連代表は、制裁決議採択後も相変わらず韓国との合同軍事演習を続けるとし、「すべての選択肢がテーブルの上にある」と相変わらずのことを言っている。ここまで来ると、平壌の安全保障に対する関心を解決しない限り追加制裁措置だけではどうにもならない、という道理をアメリカに分からせることは至難であると考えざるを得ない。朝鮮核問題を巡るアメリカの極端さと平壌の過激さとはまるでコインの両面である。
 …アメリカが朝鮮の(核ミサイル開発の)動機に注意を払い、その不安を取り除くための努力をしないのであれば、今後起こりうる事態としては、制裁を追加しても朝鮮の核ミサイル活動は続き、朝鮮がアメリカ本土を攻撃できるICBMの保有にますます近づいていくという可能性がきわめて大きい。…
 西側世論には、非西側世界に対してしばしば抑えようがない道徳的傲慢さがある。我々としては、この種の傲慢さをコントロールするように忠告する必要がある。朝鮮核問題は、米韓がすべて正しく、朝鮮がすべて間違っているというような簡単な問題ではない。重要なことは、このように間違った、一方的な発想で大事を誤らないことだ。
 韓国は一貫して朝鮮核問題の解決に建設的な役割を果たしてきておらず、THAAD導入という軽率さと愚かさはその非建設的行動の縮図である。韓国がTHAAD配備に対する中国の受けとめ方を考えようともしないことからも、アメリカの半島における力の誇示に対して平壌がどう思うかについて、韓国が関心を持ちようはずがないことは分かるというものだ。ソウルは常に自分は無辜だと考えているが、その情勢認識は実に薄っぺらで、滑稽である。
 錯綜して複雑な朝鮮核問題に関しては、…自らは百点満点、相手は完膚ない負けというような解決を追求するべきではない。ワシントンは中国が提起している「双方暫定停止」「ダブル・トラック同時並行」という提案を真剣に考慮するべきであり、アメリカの目標は多国間の平和と共存であるべきであって、アメリカ一国だけの地縁政治的勝利ということであってはならない。

<8月10日付社説「米朝「命がけ」の競い合い 先に瞬きするのはどっち?」>

この社説について「すごさ」を感じるのは、社説執筆者の朝鮮に対する「他者感覚」の確かさということです。「朝鮮が仮に成熟したICBM技術をマスターしたとしても、朝鮮が主動的に対米攻撃を行うということは考えがたいことだ。朝鮮が口先で脅迫するのは、自らのデタランスを強化するための道具としてである」という指摘はその最たるもので、朝鮮の「先制打撃(攻撃)論」はデタランスとしてのはったりであることは、私もこのコラムで指摘したことがあります。

 トランプは火曜日(8日)、平壌がアメリカを脅迫し続けるならば、「かつてない炎と怒りに見舞われるだろう」と厳重に警告した。数時間後に平壌はお返しとして、朝鮮の武装力がグアムの米軍基地をミサイル攻撃する計画を詳細に研究中と応じた。…
 これは米朝の言葉の戦争の最新のエスカレーションであるが、その結果と言えば、米株式市場は値下がりしたが、朝鮮はおおむね相変わらずだった。米朝が口げんかするとき、アメリカが得することは容易ではない。というのは、平壌が言葉を選ぶのはより自由度が高いし、ワシントンが何を言っても朝鮮社会に伝わるとは限らないからだ。ところが、アメリカの世論は耳をそばだてており、米朝双方の発する一言一句を聞き取るからだ。  米朝の力量はきわめて非対称的であり、弱者である朝鮮が強硬な言辞でその力量不足を補うのはそれなりの理由がある。ところが正常な状況のもとでは、朝鮮が仮に成熟したICBM技術をマスターしたとしても、朝鮮が主動的に対米攻撃を行うということは考えがたいことだ。朝鮮が口先で脅迫するのは、自らのデタランスを強化するための道具としてである。
 アメリカは今年に入ってから、「あらゆる選択肢がテーブルの上にある」とか、「軍事的選択肢を排除しない」とか言いだすようになったが、ワシントンの言辞は強烈とは言えないものの、以前と比べれば一歩前に出てきた。しかも、今年、アメリカの戦略爆撃機や原潜がくり返して半島地域に現れており、米側の言葉のエスカレーションと行動上のエスカレーションとが互いにマッチしている。
 今年における朝鮮の最大の変化はミサイル発射実験を強化していることであり、ICBM技術においては重大なブレークスルーを獲得したようだ。その結果、平壌のワシントンに対する脅迫には一定の現実の能力の裏付けがあるかのようであり、そのため、アメリカ人が(平壌からの脅迫的)言辞を聞くとき、印象が(以前とは)違っている可能性がある。
 2006年に朝鮮が第1回核実験を行って以来、米朝は長々と意志比べを行ってきた。ワシントンは制裁プラス軍事的脅迫で平壌をやり込めると固く信じているし、朝鮮は核ミサイルの研究開発を加速することでワシントンの対朝政策を変えさせることを唯一の目標としている。
 ワシントンが双方の決意の対峙において優位を占めていないことは明らかであり、朝鮮が核ミサイル技術を不断に進展させるに従い、アメリカが意志という点で朝鮮を圧倒することはますますむずかしくなっている。アメリカの対朝鮮政策は思考回路が間違っており、アメリカは平壌が核ミサイル開発のために支払う代価を何とも思っていないことを深刻に過小評価しているし、様々な困難に対する朝鮮社会のレジリエンスをも過小評価している。
 朝鮮はおおむね外の世界から隔離されており、このような極端に近い環境のもとでは、平壌が様々な選択肢を考える際の出発点は正常な状況のもとにおける場合とは違うのだ。ワシントンとしては、平壌が外の世界と接触したいという願望を刺激して、国際社会に回帰することが朝鮮にとって魅力を感じられるようなシナリオを考えるべきである。そうなった場合にのみ、制裁は政治的な効果を生むことが可能となるだろう。
 しかるにワシントンの発想は、制裁と軍事的脅迫とを際限なくエスカレートすることにある。それは、絞りきったタオルをさらに絞って最後の一滴を絞りだそうとするに等しい。今、トランプは「怒りと炎」という強烈な比喩を使ったが、朝鮮核問題という列車は一本のトンネルの中を更なる漆黒に向かって疾走している。
 アメリカがいかなる警告を発し、いかなる脅迫的な軍事的行動をとり、安保理の制裁がいかなるレベルにまで高められようとも、平壌がミサイル発射実験をやめる可能性はきわめて小さいというのが、ますます多くの専門家の見方になっている。アメリカは、朝鮮の国家的安全保障に対する関心に真剣に応えるという一歩に踏み出すべき時が来たと言うべきである。中国が提起した「双方暫定停止」及び「ダブル・トラック同時並行」の提案は、ますます半島情勢を緩和する唯一の出口であるようだ。
 中国には、「裸足の人間は靴を履くことを怖がらない」という諺がある。米朝対決はこの道理と大いにマッチしている。アメリカの力は非常に強いが、「命がけ」を競ったら、朝鮮が負けるとは限らない。しかし、朝鮮と「命がけ」の勝負に出ないことは、アメリカにとって「メンツを失う」ことにはならないはずだ。

<8月11日付社説「半島の極端なゲーム ウソからマコトの戦争へ?」>

この社説のいわんとすることはきわめて常識的です。つまり、理性的に考える限り、米朝間の戦争勃発ということはあり得ない(アメリカが100%完璧な先制攻撃を行う計算は立たない以上、甚大な被害を賭して戦争に出ることはあり得ない。朝鮮にとっては戦争に打って出ることは即国家壊滅を100%意味するから、これまたその挙に出ることはあり得ない)ことは、誰が考えてもその結論しかあり得ない。
 しかし、過去の2度の世界大戦も理性的判断が支配しないことで勃発してしまった。米朝間の「舌戦」もそういう突発的戦争の可能性を排除できないし、トランプというまさに「当てにならない」指導者の存在はますます先行きを読めないものにしている、ということです。
 この社説の注目点は、中国(及びロシア)の立場を明確に指摘したことにあります。朝鮮が暴発するときには中国は中立、米韓が暴走するときには中国(及びロシア)は断固対抗する。中露が共同で対処することを明確にしたことは、朝鮮半島情勢に関する中露共同声明に基づくもの(7月9日のコラム参照)ですが、中露が同盟することはあり得ないとする原則の下で、朝鮮半島情勢の展開次第では中露が共同対処するという立場を明示したことは要注目です(社説がロシアの意向をも踏まえたものかどうかは分かりませんが)。

アメリカと朝鮮の相互脅迫はさらにエスカレートしている。アメリカのメディアはB-1B戦略爆撃機が挑戦の役20のミサイル発射基地と支援施設を攻撃するという計画を報じ、マティス国防長官は、朝鮮が戦争を発動するのであれば、政権の崩壊と人民の壊滅に直面すると述べた。それに対して朝鮮は、4基の火星12号ミサイルをグアムから30ないし40カイリの海域に一斉に飛ばすという作戦計画を立案しており、8月中旬には成案を得る予定だと明らかにした。
 米朝が互いにこれほど具体的な攻撃作戦計画をひけらかし合うのは未だかつてないと言うべきである。グアムではパニックになった人が現れたが、このようなことも冷戦終結以来初めてのことだ。
 では、戦争は本当に勃発するのだろうか。理性的分析に基づく限り、このような可能性は依然として小さいと見るものが多い。なぜならば、仮に戦争となった場合、アメリカは戦略的に得るものがないし、朝鮮に至ってはそのリスクは空前のものとなるからだ。朝鮮の狙いはやはりアメリカをして真剣に交渉に応じることを迫ることにあり、アメリカは朝鮮を「鎮圧」することにある。双方が自らの目的を実現することが難しいために、脅迫を極端にまで推し進めているが、双方とも自分から最後の一線を踏み出すことは願ってはいない。
 真の危険とは次のことだ。米朝がルールもなく互いに強さを競いあうゲームをしていて臨界点に達したときもなお停まることができず、双方にとってのボトム・ラインにますます近づき、一連の誤断が生み出されて、戦略的な「暴発」が導かれるということがそれである。つまり、戦争が勃発するとすれば、それは米朝のいずれかが本気で戦争しようということではなく、未だかつて誰もがやったことがない極端なゲームをうまく処理しきれなくて、やり損ねて、ウソがマコトになるということだ。
 …孤立と制裁とを受け、寂寞を味わっている朝鮮にとって、この種のゲームは刺激を感じる一面があるかもしれない。しかし、…アメリカにとってこのことがいかなる結果をもたらすかは難しいところだ。朝鮮はアメリカのこの弱点を見極めて、アメリカを「とことん苦しめる」決心をしている可能性がある。
 半島情勢の不確実性は明らかに高まっている。北京には今ワシントンと平壌とにアドバイスする力はなく、我々がなすべきことは、自らの威厳を保ち、中国の立場を双方に明確に理解させ、いずれの行動が中国の利益を脅かすときにも、中国はどちらの助け船にもなることはあり得ず、ただただカベになるということを理解させることだ。
 中国は、仮に朝鮮が主動的にアメリカ領土を脅かすミサイルを発射し、報復を招くときは、中国は中立を保つということを明確にするべきだ。  中国はまた、仮に米韓同盟が軍事攻撃を発動し、朝鮮政権の転覆を目指し、朝鮮半島の政治的地図を塗り替えようとするときは、中国は断固として手を出し、阻止することを明らかにするべきだ。
 中国の半島政策は、反核であると同時に、反戦・反乱でもあり、いずれか一方が軍事衝突を挑発することを激励することはあり得ず、いずれか一方が中国の利益と密接にかかわる周辺地域で現状を変更させようとする試みに対しては断固対抗する。中国はまたロシアと立場を協調させ、反核及び反戦・反乱を中露共通の戦略的意志として推進する。他の当事国に対し、半島情勢のエスカレーションが中露両国の国家的安全に対して脅威となるときは、両大国が拱手傍観することはあり得ないことを確信させる必要がある。
 米朝が自制を保つことを希望する。朝鮮半島は各国の戦略的利益が重複し合う地域であり、誰もが勝手な行動をとるべきではなく、情勢の絶対的な主導者となろうとするべきではない。「攻撃は最高の防禦」を奉じると同時に、「一歩退けば天空海闊」という中国の諺も心に留めていただきたい。
 今日は、君が強硬に出れば、相手は君よりもさらに強硬に出るという時代であるが、強硬と強硬とが互いに譲らないとき、米朝は最終的に畏敬をもって公理に向かい合うことを願いたい。