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アメリカ外交批判-国際関係-(環球時報社説)

2017.8.5.

7月31日付、8月1日付、8月3日付及び8月4日付の環球時報は、「トランプ大統領よ 朝鮮核問題で素人発言をすることなかれ」、「アメリカ 実に始末が悪いタコ」、「勇気あるティラーソンの朝鮮関連新発言」及び「プーチンとトランプ 引き離された織姫と彦星の如し」と題する社説を掲載しました。最初の社説はトランプの7月28日のツイッター書き込み、次の社説は対ロシア制裁をめぐる米議会とトランプ政権の攻防、三番目の社説は8月1日のティラーソンの朝鮮に対する「4不政策」発言、そして最後の社説は米議会が可決した対露・イラン・朝鮮制裁法案にかかわる露米関係を取り上げたものです。
最初と三番目は朝鮮半島問題に関するもの、二番目と最後は国際関係全般にかかわるものとなっています。扱っているテーマには異同がありますが、アメリカ外交になかば辟易している中国側の対米認識の所在を理解する上では参考になりますし、中国外交が冷静な分析とその上に立ったしっかりした足取りの対外政策を行おうとしていることが理解できます。
トランプ政権の「異常ぶり」にはさすがに口を閉じてはいられない日本のメディアですが、実はアメリカ外交そのものが非常に問題があることについては、「親米」の日本のメディアからはまともな論調が出てきません。ということで、朝鮮半島問題に関する2社説と国際関係にかかわる2社説とについて、2回に分けて紹介します。今回は国際関係にかかわるものです。

<「アメリカ 実に始末が悪いタコ」>

 ロシアのプーチン大統領は日曜日(7月30日)、ロシア駐在のアメリカの755名の外交官及び工作スタッフの活動を停止しなければならないと述べた。ロシアがこうしたのは両国の外交人員の人数を同じ規模にするという理由だが、その唯一の本当の意味はアメリカがとろうとしている対露新制裁措置に対する報復である。
 ロシア憎しという怒りの炎はアメリカで燃えさかっており、対露関係を改善したいというトランプの願いは、大火に投じる一滴の水の如しだ。アメリカの世論とエスタブリッシュメントは、ロシアがアメリカ大統領選に干渉したと信じるものがほとんどであり、アメリカは至るところで他国の選挙に干渉している癖に、この干渉という相手がモスクワとなると、物事の性格はまったく違うものとなってしまう。
 「ロシア・ゲート」はトランプ以下をすくみ上がらせており、このことからアメリカ全体のロシアに対する敵意が如何に根深いかが分かる。プーチンとトランプは露米関係を改善したいと考えてはいるが、それが現実となる可能性は低い。
 アメリカ議会が採択した制裁法案はイランと朝鮮をも対象としており、情報がきわめて発達しているアメリカでは、人々のイラン及び朝鮮に対する見方もステレオタイプ化している。
 興味深いのは、新法案はEUの猛烈な反対に遭遇していることだ。というのは、法案の中にはロシアと協力しているEUのエネルギー会社を制裁する条項も含まれているからだ。この条項は、アメリカがロシア制裁にかこつけてロシアの対EU天然ガス供給を締め上げ、アメリカがEUに対してシェール・ガスを輸出する道筋をつけようとしていると見なされている。
 さらに注目するべきは、アメリカの外交権限のほとんどは大統領以下の行政当局の手にあり、議会は大統領に対するチェック・アンド・バランスしかないのだが、現在の議会はかくも強硬であり、対露政策上、大統領が議員の意のままに動くというような状況は過去には非常に稀であるということだ。
 以上のすべてが生々しく示していることは、アメリカの対外政策が生みだしている状況の複雑さということだ。アメリカの対外関係は往々にして、一本の紐帯が向きあう紐帯と結び合わされれば完成というようなことではない。それはむしろ無数の足を持ったタコのようなものであり、その中のどの足を相手にすればいいのか分からないことがある。
 もっとも重要なことは、このタコはきわめて貪欲であるということだ。アメリカの各勢力は互いに独立しており、客観的には互いにかばい合いつつ、それぞれの言い分を述べるという対外的な構造を作り出している。アメリカの一つの主動的勢力とうまくやることを通じてアメリカとの関係をうまくやろうとすると、とどのつまりは、アメリカというタコが設けた罠にはまっているという結果になるのだ。
 アメリカに対するときは闘う気持ちが絶対に必要だ。アメリカというシステムは実際、道理をもっとも尊重しないのであり、アメリカが尊重するのは実力のみである。アメリカは実は中国のことも好きではなく、中国が一定程度アメリカを「ホールド」できるのは、両国間の大規模な貿易がアメリカにもたらす利益があるからだ。中国はアメリカの最大の貿易パートナーであり、ワシントンとしては、中国と仲違いすることと関係を保つこととがどのような状況にあることが自国にとってより有利であるかを考慮しなければならない。
 アメリカの対外要求は底なしである。モスクワは、ソ連の十数の構成共和国を失い、東欧をも失い、さらには多党制にも変わっている。冷戦時代にワシントンが要求していたことと比べると、これらのことが何倍の大きさのものであるか分からない。ところがアメリカ人の要求には終わりというものがなく、さらに膨らむばかりだ。ロシアは今に至るも「独裁国家」であり、ワシントンに対していくら譲歩しても抱擁という代価は得られないという生き証人である。
 もう一度中米関係に立ち戻っていうならば、両大国が戦争せず、商売する勢いを保ち、互いの経済的利益を高めることさえできれば、それがすなわち最良の中米関係というものだ。アメリカのメディア、議員さらには官僚たちがどのように中国を罵るとしても、それは大したことではない。アメリカのシステムのもとでは、人々が口に長けるのは人を罵るためだ。彼らはことがあれば外を罵るし、ことがなければ互いを罵りあうのであって、罵ることがアメリカの「プラス・エネルギー」なのだ。
 現在、日本やオーストラリアで、アジア太平洋諸国が連合して中国に対抗する上で価値観に役割を担わせるべきだと主張するものが後を絶たないが、こういう主張はきわめて現実から遊離している。これらの国々は会合を開いたり合同軍事演習をしたりしているが、実際上は何の意味も生み出してはいない。それは、中国の台頭に直面して我を見失った者たちの傷の嘗めあいである。
 畢竟するに、中国は自分のことをやるということであり、不断に自らの市場規模を拡大し、自らの軍事的実力を強化することだ。そうすれば、中国の対外的な吸引力を持つことになるし、一定の勢力による中国に対する衝動を抑えることもできる。おそらくこれらのことが戦略的主動性の根っこであるだろう。

<「プーチンとトランプ 引き離された織姫と彦星の如し」>

 アメリカ議会の「クーデター」が成功した。トランプ大統領は火曜日(8月1日)、新しい対露制裁法案にしぶしぶ署名した。同法案はイラン及び朝鮮をも対象としている。この法律は米ロ関係改善の扉をほぼ閉じたに等しい。ロシアはすでに755名の米外交官退去を公表しており、モスクワは更なる報復を講じる可能性がある。
 「中米ハネムーンはすでに終わった」とする主張がアメリカでは盛んに行われており、アメリカのメディアによれば、トランプ政権は、知的財産権及び市場参入という二大領域に手をつけ、第301条を発動して対中貿易戦争に訴えるなど、中国に対する脅迫的な貿易上の措置を発表するだろうという。
 アメリカ内部では政治的混戦に陥り、対外戦略は自己矛盾だらけであり、政権中枢部では朝鮮半島のような重点問題でも互いをたたき合う主張を行っている。アメリカ全体が明らかに焦燥、傲慢、かつ、結果も考えずにでたらめな攻撃を仕掛けている。今や、伝統的なライバル及び競争相手がアメリカに対して疑念を深めているだけではなく、多くの同盟国・友好国までもがワシントンに対する怨嗟の声で充ち満ちている。ピュー・リサーチの最新の世論調査によれば、世界の約4割はアメリカが「最大の脅威」であると見なしている。
 「アメリカは正しい、同時にアメリカは心外の思いをさせられている」とするナルシズム感情がアメリカ議会等のエスタブリッシュメントの間で充満している。ワシントンはモスクワを制裁するべきであり、北京も大目に見ることはできず、同時に朝鮮とイランに対する始末も強化するべきである。以上が、少なからぬアメリカのエリートの間でくり返しわき上がる衝動だ。  ところが、アメリカの能力はそれほど大きいわけもなく、できることは各分野で中途半端なことをするだけにすぎない。中途半端なことはアメリカ人が好むミーディアムレアのステーキではない。
 アメリカがこの半年もがいている間に、ロシア人と中国人はますます中露関係を大切に思うようになっている。プーチンとトランプはあれほど露米関係を改善したいと思っているのに、天の川で隔てられた織姫と彦星と同じで、一緒になることのできない運命だ。中米は世界最大の二国間貿易の基礎があるが、この「富裕な家庭の夫婦」は永遠に自分の給与カードを握りしめており、互いに疑いに充ち満ちている。それらと比べると、中露関係ははるかにスッキリ、晴れ晴れしており、「縁組みの釣り合いがとれている」だけでなく、「共通の言葉」もある。
 事実が証明するように、今日のアメリカは重要な外交関係ではきわめて保守的であり、実質的な変化を提起し、操る力と決意を欠いており、実際は「現状維持」を望み、リスクに対してはすくみがちだ。
 アメリカが圧力をかければ中露が一緒に走り出すというほど物事は単純ではない。しかし、中国とロシアは全面的戦略協力パートナーシップを維持することにより、ワシントンからの挑戦に十分対処できる。このことは今日の世界が安定する上でのカギとなる要素である。
 アメリカという国家の本性からして、アメリカが北京とモスクワとの関係を根本的に改善することはあり得ないが、かといって、中露に対して難癖をつける方向に向かって突っ走ることも難しい。アメリカの新しいロシア制裁法案の実際上の効果は限られており、米ロの膠着状態を固定化するだけのものだ。ワシントンのいう北京との貿易戦争についていえば、それが対象とする貿易量は中米貿易のほんの一部にすぎず、感情をぶちまけ、北京に対して警告するという意味合いのほうが大きい。
 現在のアメリカの問題を一言でまとめるとするならば、「時勢が分かっていない」ということだ。時世が変わったのに、アメリカの野心と気質は相変わらずであり、ところがその実力と徳行は人を信服させるにたらず、その結果、ますます国際社会に対する面倒製造者になっている。
 現在では、アメリカに唯々諾々と従うのはすべて小国であるか、あるいは日本のような類の国家である。力量を持った欧州の同盟国・友好国は耐えられなくなって、アメリカに造反しようとしている。当然ながら、ロシアはアメリカの顔を立てる気持ちはさらさらない。中国は「中米関係は良くなってもほどほど、悪くなってもほどほど」を信奉しており、「両手で相手の両手に対応する」だけの力と辛抱心がある。
 今後の一時期においては、中露関係はさらに強化され、中米関係は中国が対応できる程度の紆余曲折があり、中欧関係は、米欧関係というやや大きな変数の影響は受けるだろうが、大勢としては良い方向に向かうだろう。また、インドと日本は中国に対して回りくどい面倒を引き起こす可能性はあるが、それらは小さなことだ。