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朝鮮の第2回ICBM発射実験と中国の立場(環球時報社説)

2017.7.30.

環球時報WSは7月29日、「朝鮮再度のミサイル発射 「中国責任論」断固拒否」と題する社説を掲載しました。WS掲載が11持44分なので、7月30日付社説だと理解されます。
 今回の社説はいくつかの点できわめて注目されます。
 第一に、朝鮮及び米韓がとっている政策を批判する点では強度の違いはありませんが、中国が今後とるべき政策に関しては、中国の国益及び安全保障上の利害という基準に立って、米韓に対抗する方向に明確に軸足を移しているということです。米韓が中国東北地方に汚染をもたらす軍事行動をとることをとることを認めないと明言したのは、私の記憶による限り初めてです。また、「朝鮮半島における政治的版図を変更させようとする企みには断固として反対であり、半島に突発的変化が起こることを許さない決心」であると明言したのも初めてですが、その対象は明らかに米韓です。米韓の朝鮮に対する軍事力行使反対であり、中国が座視しない決心であることを明言したものです。
 第二に、4月の習近平訪米でトランプ政権の「最大の圧力と対話」という新しい対朝鮮政策に積極的要素(朝鮮政権の転覆を追求せず、対話による朝鮮核問題の解決の可能性を含めた)を見いだし、対朝圧力強化に踏み切った中国でしたが、この社説では、「ワシントンが強制的に推進する、朝鮮の核ミサイル活動における「中国責任論」」に対する中国の不満を前面に押し出すとともに、トランプ政権が「圧力行使が朝鮮の核ミサイル放棄を最終的に迫る唯一の手段であり、それがまた北東アジアにおけるアメリカの影響力を維持する軸足だと見定めている」という見極めをしていることです。つまり、トランプ政権における対朝鮮政策の「新しい可能性」が現実のものになっていないという判断であり、習近平政権が「中国責任論」をあげつらうトランプ政権に対する評価を改めていると判断されます。
 第三に、今回の朝鮮のICBM発射に対してTHHADの完全配備へと急激な舵を切った文在寅政権に対する明確な不満と批判です。そのことは、「文在寅はおおむね前政権のTHAAD路線に回帰した」という断定に明らかです。中国としては、「戦時には配備されたTHAADシステムを破壊する」ことをも含む中国戦略核戦力の構築を急ぐことにより、米韓と断固対決する立場を確認しています。前回のコラムで、文在寅の「ベルリン構想」に好意的評価を下した李敦球署名文章を紹介しましたが、そこで示された中国の文在寅に対する期待を込めた評価も、文在寅の今回の衝動的行動で帳消しです。
 以上の点を踏まえると、米日韓は連係して新たな安保理決議採択を急ぐ構えですが、中国が朝鮮のICBM発射を核実験とともに超えてはならないレッド・ラインとしてきたというこれまでの経緯はあるとしても、中国がすんなりと米日韓に同調する可能性は小さいと予想できます。また、ロシアも、今回及び前回、朝鮮が発射したミサイルをICBMと断定するアメリカの判断に疑問を提起しており、やはり新制裁決議採択には消極的です。したがって、安保理での議論は難航が予想されます。
 もう一点、付け加えておきたいことがあります。それは、朝鮮の中国に対する姿勢の微妙な変化についてです。即ち、7月10日付の朝鮮中央通信は、「最近、米国が「北の核開発阻止」のための中国の役割に露骨に不満を表して「対北制裁、圧迫」の度合いを強めろと不平をこぼしている」とした上で、同日付の労働新聞の書名入り論評が、「米国のごう慢無礼で愚鈍な発狂は中国が原則を破って公正さを失い、彷徨するほどより露骨になるであろう」と指摘したことを紹介しました。労働新聞の指摘は中国に対する悪意と皮肉がこもっていますが、朝鮮中央通信の扱い方はより中立的な印象でした。
 さらに7月21日付の朝鮮中央通信は、「「労働新聞」朝鮮の核戦力強化措置に対して「中国責任論」を唱える米国の術策を暴露、糾弾」と題する記事を掲載し、論評における「米国が中国を推し立ててわれわれを圧迫するからといって、朝中両国の人民が反帝・反米抗戦を通じて血潮を流して結んだ友誼と親善の伝統を絶対に壊すことはできない」、「中国内で対朝鮮制裁の度合いをより強めろという米国の強迫に反発して、「中国はある国の国内法による決定を執行する国ではない」「中国は法治国家として内政に対する他国の干渉を徹底的に排撃する」「朝鮮との血盟関係が維持されている」という声が響き出ているのは、理由なきことではない」というくだりを紹介しています。ここでは、今回の環球時報社説が問題としている「中国責任論」を労働新聞がある意味先取りしていることが分かります。また、朝中人民の伝統的な友誼と親善にも言及していることも要注目です。
 また7月29日付の朝鮮中央通信は、「戦略武力の絶対的優勢を狙った策動」と題する論評を掲げ、次のように論じました。

 「オーストラリアの弁護士であるジェームズ・オニル氏は、米国が「北朝鮮脅威」を引き続き繰り返す重要な目的は東アジアで米軍駐屯を正当化するためであり、米国の覇権戦略に対する最大の脅威である中国を抑制、包囲するためであると論評した。
正当に評したように、米国が「スター・ウォーズ」計画の再開まで論じ、武装装備の近代化に狂奔しているのは決してわれわれのためではなく、中国に比べた戦略武力の絶対的優勢を保障しようとする狡猾な下心の発露である。
問題の「スター・ウォーズ」計画が1980年代にレーガン行政府が「ソ連の軍事的脅威」を口実にしてソビエト体制の抹殺を狙って作成した宇宙戦争シナリオであったということはすでに秘密ではない。
当時、ソ連の内部に恐怖の雰囲気をつくり、ソ連経済の力を抜いて自分らの覇権戦略を実現するための謀略的術策であった宇宙戦争計画を米国がこんにち、再び持ち出したのは現時期、中国をはじめとする地域諸大国に比べた戦略的優勢を狙ったものである。
米国の世界支配野望は絶対に変わっていない。
米国の反動的な世界支配戦略はライバル、挑戦者を軍事的に圧迫、牽制し、覇権的地位を占めることを目的にしている。
諸大国の戦略的利益が先鋭に対立している朝鮮半島と地域でのいかなる事態発展も、彼らの利害関係を刺激してあまりあるということは「THAAD」配備を巡る中米間の対立が如実に実証している。
アジアでの軍事的影響力拡大とそれをけん制しようとする動きとかみ合って、中米間の軍事的緊張は高まり、軍備競争は日を追ってエスカレートするようになっている。」

 このように、朝鮮の対中姿勢にも一定の変化が現れつつあることは注目しておいていいことでしょう。朝鮮にとって、今回の環球時報社説の内容はさらに力づけられる「中国の対朝鮮政策・姿勢の変化」と受けとめられる可能性は大きいと思われます。

 韓国及びアメリカが対外発表したニュースによれば、朝鮮は28日深夜に新たなミサイルを発射した。韓国側によれば、ミサイルは約1000キロ飛行し、最高高度は3700キロだという。ペンタゴンはこのミサイルをICBMとした。
 韓国の文在寅大統領は本日早朝に国家安全保障会議を招集し、残りの4基のTHAAD発射台の配備を指示した。これにより、文在寅はおおむね前政権のTHAAD路線に回帰したことになる。
 米韓は安保理が朝鮮に対してさらに厳しい制裁を実行することを要求するだろうし、トランプ政権は中国が朝鮮核ミサイル問題の「解決を手伝う」ことを要求して更なる圧力を強め、ひいては中国の会社に対する「連帯制裁」の分野でもさらに激しい行動をとることが予想される。現に28日、日本は、未だかつてなかったことだが、朝鮮に対する一方的追加制裁を発表して中国の2会社の資産を凍結するとし、ワシントンが強制的に推進する、朝鮮の核ミサイル活動における「中国責任論」に同調した。
 朝鮮核問題はますます深刻かつ複雑の度を強め、リスクは不断に高まっている。中国に関していえば、朝鮮の核ミサイル活動という直接的なリスクに加え、THAADをはじめとする米軍戦略資産の集結は中国の国家安全保障に対する新たな脅威となっている。中米関係及び中韓関係は深刻な困難に遭遇している。朝鮮核問題の制御不能の含みは増大し、情勢はさらに悪化していく可能性がある。
 朝米韓はいずれもこのような対決が何を生むかについて分かっていない。朝鮮はひたすら、アメリカを射程に収めるICBMを保有しさえすれば、自らの国家的命運を掌握するカギを持つことになると信じ込んでおり、核ミサイル開発のためには一切他を顧みることがなく、安保理も眼中にない。アメリカはといえば、圧力行使が朝鮮の核ミサイル放棄を最終的に迫る唯一の手段であり、それがまた北東アジアにおけるアメリカの影響力を維持する軸足だと見定めている。朝米はともに、自分の意思が相手側を圧倒し、相手側は最終的ににらみ合いの末に瞬き(根負け)することを望んでいる。
 中国の選択肢は非常に限られている。中国には朝鮮の核ミサイル活動を阻止する力もなければ、アメリカのひたすら圧力行使という政策を変えることもできないし、米韓がTHAADを配備することも阻止できない。もちろん、中国は半島非核化という目標を放棄することはできないし、これは中国の半島政策における礎石の一つだ。また現状に立脚していえば、安保理制裁決議の全面的執行と同時に、中国としては、自らに立脚し、中国の国家的利益を最優先とし、さらに強大なデタランスを構築して、可能な限り中国自身の安全係数を高める必要がある。
 中国にとっての安全保障上の利益とは、第一には、朝鮮の核ミサイル活動が中国東北地方の汚染を生み出してはならないということであり、米韓も中国東北地方の汚染をもたらす可能性がある軍事活動を取ってはならないということだ。以上は中国の半島政策における最終レッド・ラインだ。誰がこの方向に向かって歩を進めても、すべて中国の激しい制裁と報復に遭遇する。中国としては、この点について各当事国に徹底して明らかにしておく必要がある。
 第二に、中国は現在だけではなく今後においても、アメリカが韓国にTHAADを配備することを受け容れないし、アメリカが半島地域において中国の軍事配備に対する脅威を強化する場合には、中国の断固たる対抗措置に遭遇する。中国は、戦略的核打撃能力の開発を急ぎ、戦時には配備されたTHAADシステムを破壊するべきである。THAADが中国の戦略核戦力の質的向上を促すことができるならば、中国はこのゲームにおいてより高いレベルでの勝利者となるだろう。
 第三に、中国は半島で戦乱が起こることに反対するが、口先だけの反対では十分ではない。中国としては、朝鮮半島における政治的版図を変更させようとする企みには断固として反対であり、半島に突発的変化が起こることを許さない決心であって、中国は様々な野心にとって解決不能な存在であることをハッキリさせる必要がある。それにより、戦乱を導く様々な冒険が起こる確率を低くするのだ。
 半島問題に関する「中国責任論」という害毒は非常に広範囲に広まっており、物事が分かっていない中国のインテリの中にも、中国には朝鮮の行動を変える力があると誤解するものがおり、客観的に謬論を助長している。朝鮮核問題における中国世論の分裂というような現象は他の国際問題についてはないものであり、朝鮮核問題にかかわる中国社会の共通認識を強化することは、我々が情勢に有効に対処する力を強化する源の一つでもある。当局がこのような共通認識を導く努力を強化することは欠かすことができない。なぜならば、米韓の世論は一貫して錯綜する事態における彼らの主張の因果性ロジック性の優先度を主張しているからだ。