21世紀の日本と国際社会 浅井基文Webサイト

文在寅大統領「ベルリン構想」(李敦球文章)

2017.7.27.

7月26日付の中国青年報は、「文在寅の対朝鮮政策「ベルリン構想」と直面する挑戦」と題する李敦球署名文章を掲載しています。私は悲しいかな、7月6日に文在寅がベルリンで行った演説の全文を見つけられていません。したがって、文在寅が打ち出した「ベルリン構想」の全容も把握していません。今回の李敦球署名文章はベルリン構想の中身についても詳しく紹介しつつ、その積極的意義と直面する挑戦を指摘するもので、とても参考になります。以下に全文を訳出して紹介します。

 韓国の文在寅大統領は、7月6日にドイツ・ベルリンで行った演説の中で、朝鮮半島の平和を実現するための構想を提起し、「ベルリン構想」と称され、国際世論の大きな注目を集めた。韓国元大統領・盧武鉉の参謀として、文在寅は対朝鮮政策において金大中の「太陽政策」及び盧武鉉の「平和繁栄政策」を経験した。「ベルリン構想」は金大中及び盧武鉉の対朝鮮政策の継承と発展である。
 「ベルリン構想」の内容は豊富であり、文在寅の演説及び5月10日以来の対朝鮮政策を総合すると、以下のいくつかにまとめることができる。
 第一、金大中及び盧武鉉政権時代の政策を継承し、さらに積極的かつ勇敢に朝鮮半島問題を主導すること。文在寅は、軍事緊張を緩和し、相互信頼を回復することが当面の急務であると強調し、朝鮮が核兵器開発を停止して対話を再開することを促している。条件が成熟し、半島の緊張情勢及び対立の局面を転換できるチャンスさえ迎えられるならば、いつでもどこでも朝鮮最高指導者である金正恩と会談することを希望した。彼はさらに、韓国は朝鮮政権の崩壊を希望しておらず、吸収的統一を図らないと強調している。
 第二、国際社会の朝鮮に対する制裁を損なわない範囲内で民間交流を弾力的に展開すること。韓国統一部は5月26日、民間団体「我が民族相互幇助運動」が朝鮮側と接触し、朝鮮に対する人道援助問題を協議することを批准して、昨年1月に朝鮮の第4回核実験以後中断した韓朝交流のチャンネルを開こうとしている。6月5日現在、新政府成立後1ヶ月も経たない時間の間に15の団体が朝鮮と接触することを認められた。韓国政府はさらに、ピョンチャン冬季オリンピックに朝鮮代表団が参加することを支持する計画だ。
 第三、軍事境界線(MDL)における敵対行為を停止し、朝鮮核問題と平和協定を一括討議すること。韓国政府は7月17日に朝鮮に対して、軍事会談を行って軍事境界線両側での敵対行動を停止することを討議すること、8月1日に赤十字会談を行って離散家族再会活動等の人道問題を討議することを提案した。7月19日、韓国政府は「国政運営5年計画」を発表し、2020年に新しい非核化の協定を達成することを計画している。文在寅はベルリンで「半島平和構想」を提起した際、朝鮮核問題と平和協定などの朝韓が関心あるすべての事項を対話のテーブルに乗せ、一括討議を行い、恒久的な平和メカニズムを構築することを提起した。朝鮮が長期にわたって関心がある問題をズバリ取り上げるとともに、中国が提起している「ダブル・トラック同時並行」の提案とも合致するものだ。
 第四、韓朝経済協力項目を再起動させ、「半島経済統一」の実現のために道筋をつけること。朝鮮核問題で進展が得られるという前提の下、韓国政府は開城工業団地再開、金剛山ツア等の韓朝経済協力項目を推進しようとしている。計画によれば、韓国は半島を東海圏、西海圏及び非軍事地帯(DMZ)の3つに分けて開発を進め、朝鮮の経済ベルトと連結し、朝鮮の開発を北東アジア地域の経済協力の中軸にする。具体的には、韓国政府は、東海圏を「エネルギー及び資源経済ベルト」、西海圏を「産業・物流・交通経済ベルト」、非軍事地帯を「エコロジー及び平和安全ツア・ベルト」等にしようとしている。朝韓隣接地帯の開発を推進するため、韓国は朝鮮とともに当該地域を「統一経済特区」に指定し、「韓朝共同管理委員会」を設立する。韓国政府はさらに、2007年韓朝「10.4共同宣言」で提起された「西海平和協力特別地帯」設立プランを改めて推進することを決定している。
 第五、韓朝間の鉄道を連結し、まったく新しい陸海のシルク・ロードを実現すること。文在寅は6月16日に済州で行われたアジアインフラ投資銀行(AIIB)第2回理事会年次会合で挨拶を行った際、韓国と朝鮮が鉄道を通じて連結することによってのみ、まったく新しい陸海のシルク・ロードが実現すると述べた。文在寅は、古代のシルク・ロードが開通して以後、東西諸国の交流が行われ文化を共有できたと指摘した。現在、韓国はアジア大陸の北東の終点に位置しているが、韓朝を連結する京義鉄道は切断されている。文在寅はさらに、平和な半島がアジアの安定と和解のために貢献できることを真剣に希望していると強調した。文在寅の以上の発言は、韓朝鉄道連結工事がAIIBの推進するアジアインフラ開発項目の重要な構成要素であること、地域の平和と安定に力を致すことを表明したものと分析される。文在寅としては、韓朝鉄道連結計画を中国の「一帯一路」提案と結びつけることを希望している可能性がある。
 第六、「北東アジア+責任共同体」建設を重要な国政戦略の一つと定めること。「北東アジア+責任共同体」とは、韓中日3国の協力強化を通じ、手を携えて北東アジア平和協力プラットフォームを建設し、北東アジアの南と北の地域をまたいだ繁栄の主軸とする新南方政策及び新北方政策である。新北方政策は、韓朝が共同で中国の「一帯一路」」提案に参画し、韓朝露3国の経済協力の基礎をうち固め、ユーラシア経済連盟(EAEU)自由貿易協定署名を推進するなどの内容を含む。新南方政策は、ASEANとの実質的な協力を4強外交に劣らない水準にまで高め、2015年に特別戦略パートナーシップを構築したインドとの戦略的及び実務的経済協力を強化するものだ(浅井注:この第六の部分については私はつまびらかではありません)。
 文在寅の「ベルリン構想」は、金大中及び盧武鉉の対朝政策の基礎の上にさらに大きな一歩を進めたものであることは間違いなく、根本から朝鮮半島を冷戦から脱却させ、恒久的な平和メカニズムを構築することを施政目標としており、時代とともに進むという理念を体現している。しかし、「ベルリン構想」の実現に当たっては半島の内外からの多くの挑戦に直面するだろう。
 まず、韓朝間の信頼は再建される必要がある。李明博及び朴槿恵両政権の9年間は、金大中及び盧武鉉政権の時代に築き上げた韓朝間の信頼を崩し尽くしたから、文在寅政権はかなりの時間とエネルギーを注いで双方の信頼を回復し、再建する必要がある。次に、朝鮮核問題のリスクと制約がある。「ベルリン構想」中のいくつかの政策の実行は朝鮮核問題の解決を前提としているが、朝鮮核問題の解決は朝米関係なかんずくアメリカの対朝鮮政策に厳しく制約されており、韓国政府が支配できるものではない。したがって、朝鮮核問題のリスクは「ベルリン構想」の実現を大きく制約する。第三、米日の掣肘と妨害がある。冷戦終結後の米日の対朝鮮半島政策を総合的に見ると、米日両国は朝韓関係の改善と和解を希望していない。金大中及び盧武鉉政権の時代、アメリカの高官はしばしば韓国政府の対朝鮮政策を公然と非難し、批判したし、陰での圧力はさらに多かった。
 チャンスとチャレンジとは往々にしてあいまって来るものであり、朝韓両国人民が和解及び統一を願っているということが基礎である。朴槿恵政権崩壊と文在寅政権誕生は韓国人民の自覚的選択であり、韓朝和解の途は曲折を辿るだろうが、これは歴史の発展の趨勢であり、逆転することはできない。