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対米傾斜の韓国外交-殷鑑遠からず-(環球時報社説)

2017.7.15.

7月13日付の環球時報社説「韓国の殷鑑:アメリカに対するごますりは厄介」は、THAAD問題に関して、韓国が米中韓でバランスをとる政策を放棄し、アメリカの要求に応じて韓国配備を受け容れたことは、中国を利用した対米交渉カードを自分から放棄し、その結果、トランプ政権の韓米FTA再交渉要求に直面しても一方的に押し込まれる結果につながっていると指摘しています。
 また最近、中印間でも国境問題が起こっているのですが、この点に関連してインドのメディアが米日と結んで中国に対抗するべきだという論調を出していることについて、この社説は、インドが外交で主導権をとれるのはその自主独立の立場に根拠があるのであり、いったん米日に傾斜すれば、結局アメリカの言いなりになるだろうと戒めています。
 私は、この環球時報社説は、実事求是、他者感覚発揮の見本のような優れた文章だと思います。人によっては、「中国の鼻持ちならぬ大国主義が横溢した文章」と感じるかもしれませんが、私は、筆者が韓国、インドのみならず中国自身をも他者感覚によって第三者的に見つめていると思います。
 私は常日頃、外交問題で的確な政策判断を行うに当たっての前提はリアリズムに徹した現状分析を行うことだと考えているのですが、この社説はそういう意味での模範的文章だと思うのです。
世界第3位の経済大国である日本も、アメリカ追随に安住せず、自主独立の外交を行うのであれば、アメリカにも、中国にも「もの申す」ことができる国なのです。この社説は日本について名指しでは触れていませんが、「「アメリカを引っ張って中国を制御する」ことを考えるアジアにおけるアメリカの同盟国・友好国としては、総括と反省を行う必要があるだろう」という指摘は日本にも当てはまります。韓国外交の現実は私たち日本にとってまさに「殷鑑遠からず」です。訳出して紹介する所以です。

 アメリカ政府は(7月)12日、韓米自由貿易協定(FTA)交渉を改めて開始することを正式に要求し、韓国世論は騒然としている。文在寅大統領が訪米してトランプと会談してから半月も経たないのに、帰るとすぐさまツケが来るということで、少なからぬ韓国人がショックを受けている。  韓米FTAは2012年に発効し、その後の韓国の対米貿易は100億ドル以上の黒字となっている。トランプ大統領は「アメリカ優先」のためには義理人情には関係がなく、多くの同盟国に対して貿易協定再交渉を要求しており、同盟国がトランプの圧力に抗しうるか否かは、手元にどれだけの交渉カードがあるかにかかっている。
 現在の韓国の手のうちにはカードがもっとも少ないときであり、ほぼ何もない。一つには韓朝関係が緊張しており、半島の軍事的対決は近年におけるピークであり、韓国の対米軍事依存は増すばかりで、そのことにより、アメリカの韓国に対する経済的要求は弱みにつけ込む勢いだ。それに次ぐもっと重要な点は、THAAD問題がもたらした中韓の深刻な齟齬である。韓国が中米間でバランスをとるという過去の戦略が崩れ、韓国は元来持っていた戦略的に最善の立場を放棄してしまった。なぜならば、アメリカに傾斜することでワシントンに掣肘され、ワシントンの無理難題に対して返す手を失ってしまったからだ。
 韓国世論は一時THAAD問題で中国を高飛車に非難し、韓米同盟という後ろ盾に寄りかかった。いずくんぞ知らん、中国との友好協力があってこそ、ソウルは韓米同盟における自尊を維持でき、ワシントンに対する幾許かの平等を勝ち取ることができるということを。いったん中国とそりが合わなくなり、韓米同盟がさらに緊密となれば、韓国は逆に「子ども扱い」から「孫扱い」に降格になるのだ。
 環球時報のインタビューに応じた多くの中国の学者は、現在の情勢下では、韓国がFTAに関してアメリカに譲歩を行うことはほぼ決まりと判断している。
 「アメリカを引っ張って中国を制御する」ことを考えるアジアにおけるアメリカの同盟国・友好国としては、総括と反省を行う必要があるだろう。中米間で「バランスを図る」というのは悪くないアイデアだが、バランスを図るに当たっては定力(ぶれない姿勢)が必要だ。つまり、これらの国々が中国との間で摩擦が起こる場合には、中国と共同でそれらの摩擦をコントロールすることがベストの選択である。これらの国々としては、自分たちが中国と争うことをアメリカが支持してくれると考え、それによって得失のバランスをとることができるだろうというが如き発想はゆめゆめ持たないことだ。そのことによってこれらの国々はワシントンのカードになるだけであり、しかもそのカードはアメリカによって好き勝手に扱われるだけだ。
 現在、中印国境で摩擦が起こっており、インドのメディアの中には、インドが米日と手を組むべきだとか、甚だしきに経っては同盟を結ぶべきだと叫んでいるものがいる。長期にわたる中印国境の平静はインドにとっての戦略的アセットになっており、良好な中印関係があることによって、インドは対米日関係において主導権を握っている。仮に中印国境の摩擦が両国間の戦略的対峙にエスカレートした場合、インドは米日に援助を乞うことを強いられ、ニュー・デリーはワシントンに対して毅然とした主導権を発揮する立場からワシントンの鼻息を窺う「外交的ちび」になってしまうだろう。
 国力が中国よりはるかに劣る国家は、北京に対して正真正銘の外交上戦略上の優越性は持ちようがないのであり、中国と摩擦が生じたときには、その自制心は中国より少なくあるべきではない。仮に彼らが、米日等の戦略的支持に頼って中国を一歩一歩追い詰めれば、中国としては譲歩する以外の選択はないだろうと考えるのであれば、それはきわめて幼稚なことだ。
 中国人はすべての国々と友好関係を発展させたいと願っているし、摩擦が現れたときも友好的な協議を通じ、関係国と穏やかに処理したいと願っている。すべての国家にはボトム・ラインというものがある。自らのボトム・ラインは崩すことができないと考える国であるならば、中国のボトム・ラインは自分たちのボトム・ラインよりも簡単に崩すことができるなどとは絶対に考えるべきではない。
 中国の台頭は、周辺諸国に対して経済成長という大きなエネルギーを放射していることに加え、アメリカがこれらの国々に対して戦略的に「ごまをする」という効果ももたらしている。周辺諸国はこうした優越性を十分に利用するべきであり、中国との関係をこじらせることによって、ひたすらアメリカのごまをすらなければならなくなるというようなことは万が一にもするべきではない。韓国の例が告げているのは、アメリカにごまをするのは厄介なことだということである。