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朝鮮半島問題に関する中露共同声明

2017.7.09.

中国の習近平主席は、7月3日から2日間、ロシアを公式訪問しました(その後はG20サミット出席のためにドイツを公式訪問)。このロシア訪問に際しては、「全面的な戦略協力パートナーシップをさらに深化させることに関する中露共同声明」、「当面の世界情勢及び重大な国際問題に関する中露共同声明」とともに、「朝鮮半島問題に関する中国外交部とロシア外務省の共同声明」を発出しました。中露外交当局間の共同声明は、朝鮮による大陸間弾道弾発射実験成功に関する朝鮮国防科学院発表をも踏まえていることは、下記に紹介する内容からも分かりますが、基本的には、方向性の定まらないアメリカのトランプ政権の対朝鮮政策を強く意識して、中露両国が今後朝鮮半島問題に対して共同歩調を強めることを明らかにしたものです。内容的には、朝鮮に安保理決議遵守を要求した点を除けば、アメリカに対して厳しい要求を突きつけるものとなっています。THAAD問題も朝鮮半島問題の不可分の一部をなすと捉える中露の立場も鮮明です(THAAD問題で綱渡りを模索している文在寅政権にとっては厳しい内容です)。今後の朝鮮半島情勢を観察していく上での国際的な基本文献の一つとなる可能性があると言えます。
 7月4日の朝鮮のミサイル発射実験に対しては、アメリカ主導による安保理非難声明の採択の動きがありますが、従来は米中主導で動いていたのに、今回はロシアがアメリカの提出した決議案に強い難色を示しているという新しい展開が早くも現れています。今後の朝鮮核問題に関しては、中露が全面的に協調、協力してアメリカ(米日韓)のごり押しに対抗するという局面が増える気配です。
以下に全文を翻訳の上紹介します。

 中国とロシアは朝鮮半島の近隣国家であり、この地域の情勢は両国の国家利益にかかわっている。中露両国は緊密に協調して、核問題を含む半島問題を一括解決し、北東アジアの持続的な平和及び安定を実現することを全力で推進する。戦略的協力の精神に基づき、中露両国外交部(以下「双方」)は、朝鮮半島問題について以下のとおり声明する。
1.双方は、朝鮮が7月4日に弾道ミサイルを発射したと発表したことに重大な関心を表明し、この行動は安保理の関連決議に対する深刻な違反であると見なすものであり、双方は、これをまったく受け容れることはできず、朝鮮に対して安保理決議の関係する要求事項を厳格に遵守することを強く促す。
2.双方は、朝鮮半島及びその周辺の情勢の展開に対して深刻な関心を表明する。この地域の政治軍事情勢の緊張はエスカレートしており、武力衝突を引き起こす可能性があり、国際社会は集団的措置を取り、対話と協議を通じて平和的に解決するべきである。双方は、緊張を招き、矛盾を激化するいかなる言動にも反対し、関係諸国が自制を保ち、挑発的行動及び好戦的言辞を避け、無条件で対話する意思を表し、情勢の緊張を緩和するために共同で積極的に努力することを呼びかける。
3.双方は、朝鮮は核ミサイル活動を暫定停止し、米韓は大規模合同軍事演習を暫定停止するという「双方暫定停止」に関する中国の提案、朝鮮半島非核化を実現し、半島平和メカニズムを作るという「ダブル・トラック同時並行」に関する(中国の)アイデア並びに朝鮮半島問題をステップ・バイ・ステップで解決するというロシアの考え方を基礎として、共同で以下の提案を提起する。
 双方は、朝鮮が自発的な政治的決断を行い、核実験及び弾道ミサイル発射実験の暫定停止を宣言すること、米韓がその見合いとして大規模合同軍事演習の実施を暫定停止することを提案する。対立する当事国は並行して交渉を開始し、相互関係の全体的原則(武力不行使、不侵略、平和共存を含む)を確定し、半島非核化の目標を実現し、核問題を含むすべての問題を一括解決することに力を尽くすべきである。交渉プロセスにおいては、関係各国は、等しく受け容れ可能な方式で朝鮮半島及び北東アジアの平和安全保障メカニズム設立を推進し、最終的には関係諸国間の関係正常化を実現する。
 双方は、国際社会が上記提案を支持し、朝鮮半島問題解決のための現実的道筋を切り開くことを呼びかける。
4.双方は、国際核不拡散体制を断固として擁護し、朝鮮半島非核化の目標の実現を堅持する。安保理関連決議は全面的かつ完全に実行されるべきである。双方は関係諸国とともに、対話と協議を通じて各国の関心についてバランスをとって解決することを推進するべく引き続き努力する。
 双方は、朝鮮の合理的な関心は尊重されるべきであることを重ねて表明する。他の諸国は、交渉再開のためにふさわしい努力を払い、平和的相互信頼の雰囲気を共同して作り出すべきである。
 双方は、各国が「9.19共同声明」が詳述した誓約を遵守し、半島問題を全面解決する対話プロセスを速やかに再開することを呼びかける。軍事手段は朝鮮半島問題を解決する選択肢とするべきではない。
5.双方は、朝鮮半島の北南双方が対話と協議を行い、相互に善意を示し、関係を改善し、和解と協力を推進し、半島情勢の緊張を緩和し、半島問題を適切に解決するために担うべき役割を果たすことを支持する。
6.双方は、国際及び地域のバランスと安定を維持することを非常に重視していることを重ねて述べるとともに、関係諸国間の同盟関係は第三国の利益を損なうべきではないことを強調する。域外の勢力が朝鮮の核ミサイル計画に対処することを口実として北東アジアにおける軍事的配備及びプレゼンスを強化することに反対する。
 双方は、北東アジア地域にTHAADシステムを配備することは中露を含む域内諸国の戦略的安全保障上の利益を深刻に侵害し、朝鮮半島非核化の目標の実現及び地域の平和と安定に役立たないことを重ねて表明する。双方は、THAADシステム配備に反対し、関係諸国が直ちに配備を停止し、撤回し、必要な措置を講じて、両国の安全保障上の利益及び地域の戦略的バランスを確実に維持するべく合意に達することを促す。

 なお、この中露外交当局間の共同声明に対して、朝鮮は今までのところいかなる反応も示していません。また、韓国政府もこれまでのところ公式な反応は示しておらず、朝鮮日報(日本語)及び中央日報(日本語)も何の反応も示していません。わずかにハンギョレ(日本語)が7月5日付(韓国語原文は4日付)で事実関係を紹介した後、6日付(原文は5日付)で、以下のおおむね的を射た分析記事(同紙北京特派員署名)を出している程度です。

 7~8日、ドイツ・ハンブルクで開かれる主要20カ国・地域(G20)首脳会議を控え、米国の牽制を受ける中国と西側の制裁を受けるロシアが密な連帯感を誇示している。中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領は、北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)について懸念を示したものの、高高度防衛ミサイル(THAAD)の朝鮮半島配備についても断固として反対する立場を明らかにしている。特に「THAAD反対」は中ロ密着の重要な輪となる形だ。  習主席とプーチン大統領は4日、ロシア・モスクワのクレムリンで会い、「中ロの全面的戦略協力パートナー関係をさらに深化させることに関する共同声明」と「中ロ現世界情勢と重大国際問題についての共同声明」(国際問題声明)に署名し、「中ロ善隣友好協力条約」の今後3年間の実施要綱を批准した。2001年に締結された協力条約は、1980年に満期になった同盟条約を代替したものだ。また、両首脳が見守る中、中国の王毅外交部長とロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は「朝鮮半島問題に関する中ロ共同声明」(朝鮮半島声明)に署名した。
 特に「朝鮮半島声明」によると、北朝鮮核問題に対する両国の共助方針が明確に表れている。両国は4日の北朝鮮の大陸間弾道ミサイル試験発射は国連安全保障理事会(安保理)決議違反だと明示し、北朝鮮に決議の順守を求めた。同時に、中国が提案してきた双中断、つまり北朝鮮が核・ミサイル開発を中止する代わりに韓米が大規模演習を中止する解決策の実施を再度求めた。また、核問題を含む朝鮮半島問題の「一括妥結」と北東アジア平和体制の必要性を強調した。さらに、「北朝鮮の合理的な憂慮」である体制保障に対する憂慮が尊重されなければならないという部分も明示し、韓国と北朝鮮の関係改善と対話推進を支持すると明らかにした。
 中国、ロシアの立場は、北朝鮮の大陸間弾道ミサイル開発を懸念しながらも、北朝鮮核問題の解決と関連しては従来の立場を固守したものと解釈される。日米が対北朝鮮圧迫強化を主張するなら、対峙局面が形成される可能性もある。さらに、中ロは「朝鮮半島声明」で「THAADは地域の戦略的安保利益を侵害するものであり、配備を直ちに中止せよ」という従来の立場も再確認した。両首脳の声明でも「一部の国家が脅威に対する対応を口実に一方的にヨーロッパとアジアにミサイル防衛システム(MD)を配備し、中ロを含む域内国家の戦略的安保利益に重大な損害を及ぼしている」と明らかにした。THAADを米国のグローバルMDの一部と規定し、反対の立場を明らかにしたものだ。