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「北朝鮮脅威論」に固執する安倍政治

2017.6.28.

*あるメディアの誘いを受けて書いた小文です。前にこのコラムで紹介した文章とダブるところもありますが、最初の「朝鮮の最近の動きをどうみるか」の部分は、前回のコラムで紹介した朝鮮の文在寅政権に対する強硬姿勢の背後にあるだろう、朝鮮の意図について考えたことなので、参考にしていただけたら、と思います。

<朝鮮の最近の動きをどうみるか>
 朝鮮民主主義人民共和国(以下「朝鮮」)の核ミサイル開発がスピードを上げている。今や米日の専門家を含め、朝鮮が日本と韓国を核ミサイルで破壊する能力を持つに至ったことを認めざるを得ない。朝鮮との軍事衝突が起きれば「壊滅的な戦争」になる(5月28日のマティス米国防長官発言)。
 米韓両国にトランプ及び文在寅新政権登場という新たな事態を前にして、金正恩政権が核ミサイル開発を急ぐのは何故か。
トランプ政権は「最大限の圧力と関与」と称する、「朝鮮の政権交代は追求しない」とする新政策を打ち出した。イデオロギー(反共主義)に囚われた歴代政権と異なり、商売人的「損得勘定」だけを重視するトランプだからこその新機軸だ。文在寅政権は金大中及び盧武鉉両大統領の直系であり、南北関係の改善に取り組む決意を明らかにして登場した。
 しかし、金正恩政権は米韓両新政権の新しいアプローチを評価する姿勢をこれまで示していない。朝鮮メディアは、両政権の船出に際して当初こそ様子見の姿勢は示したが、トランプ政権が史上最大規模の米韓合同軍事演習を実施して以降、同政権批判をエスカレートさせている。文在寅政権に対しても警告的論調が早くも目立っている。
 考え得る理由はただ一つ。何はさておき対米核デタランスの構築の完成を急ぎ、来たるべき対米韓交渉ポジションを有利にすることだ。朝鮮が目指すのは、停戦協定の平和協定への転換及び米朝国交正常化、そして朝鮮の経済建設に対する国際協力取り付けだ。他に有効な交渉上の切り札を持たない朝鮮にとって、核デタランス確立が不可欠と認識されていると見る。
<なぜ、核開発に執着するのか>
 朝鮮が核開発に執着する理由を理解するためには、朝鮮戦争以後(特に1990年代以後)、朝鮮が直面してきた厳しい国際環境の認識が不可欠だ。朝鮮は戦後一貫してアメリカの核の脅威にさらされてきた。1990年代に入ってからは、ソ連の崩壊と中国の路線転換により、朝鮮は安全保障及び経済建設の両面で大きな後ろ盾を失った。
 朝鮮が38度線沿いに展開する火力はソウルを射程に収めており、米韓の北進に対するデタランスとなってきた。しかし、湾岸戦争、イラク戦争等で示されたアメリカの軍事力を目の当たりにして、朝鮮は更に確実なデタランスとして核戦力構築を目指すことになった。詳細を述べる余裕はないが、朝鮮は90年代からの対米交渉経験でアメリカに対する不信感を強め、核ミサイル能力建設に邁進することになったことは間違いない。
 中国は、トランプ政権の上記対朝鮮政策を総合的に評価し、朝鮮に対して核ミサイル開発の中断と朝鮮核問題の交渉による解決に応じるように圧力をかける政策に転換した。しかし、朝鮮の対米不信感は根強く、核ミサイル開発中断を促す中国に強く反発している。
<日本政府・国民に求められる対応>
朝鮮が日韓両国を射程に収める核報復能力を保有するに至った以上、中露が一貫して主張してきた対話(外交)による以外に朝鮮核問題の解決はあり得ず、米日韓のこれまでの対朝鮮強硬政策(軍事圧力一本槍)は根本的に見直しが迫られていることは今や明らかである。安倍首相の対朝鮮政策は完全に破産した。
 私たちは、「北朝鮮脅威論」を振り回す安倍政権の呪縛を解き放ち、朝鮮半島の真の平和と安定の実現に貢献するべく、発想を転換しなければならない。
 「北朝鮮脅威論」のウソは、朝鮮が「3頭の猛獣(米日韓)に取り囲まれたハリネズミ」に過ぎない現実を理解すれば直ちに明らかだ。このウソを見極めれば、朝鮮が核開発に執着せざるを得ない事情も理解できるし、このウソを一つの根拠にして改憲路線を突っ走る安倍政権を「裸の王様」にすることもできる。
また、朝鮮核問題の平和的解決を主張している中露に加え、トランプ政権が「朝鮮の政権交代は追求しない」ことを明らかにし、文在寅政権も南北関係改善に真摯に取り組もうとしている今、私たち主権者が安倍政権の硬直した朝鮮政策(ひいては改憲路線)に引導を渡すことは、単に国内的課題であるにとどまらず、朝鮮半島、東アジアひいては国際の平和と安全に対する私たちの喫緊の国際的責任であることを認識しなければならない。