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朝鮮半島情勢:文在寅政権と南北関係

2017.6.26.

1.朝鮮の文在寅政権に対する厳しい姿勢

 5月10日、韓国に文在寅政権が登場してからの南北関係の動きは要注目です。私は当初、南北関係改善に強い意欲を持っている文在寅政権に対して朝鮮側も配慮する姿勢を示すのかと思っていました。しかし、早くも5月18日付の朝鮮中央通信が報じた朝鮮アジア太平洋平和委員会のスポークスマン談話は、次のような厳しい表現で、朝鮮の核ミサイル開発に対する文在寅政権の姿勢を批判しました。

「唖然とさせるのは、新しく政権を執った南朝鮮当局がわれわれのロケット試射ニュースが伝えられると朴槿恵残党まで呼びつけて「国家安全保障会議」を緊急招集し、「国連決議違反」だの、「重大な挑戦」だの、「新しい政府に対する試験」だの、何のと言っていわゆる「糾弾声明」なるものを発表する醜態を演じたことである」
「南朝鮮当局は、民族の頭上に核惨禍を被らせようと外部勢力にへつらって「北の核脅威」ほらを吹いて同族を害しようとしたが、悲惨な終えんを迎えた朴槿恵逆徒の哀れな運命から深刻な教訓を汲み取らなければならない」

 5月22日付及び23日付の朝鮮中央通信は、立て続けに個人署名文章を掲載し、文在寅政権の対米「追随」姿勢を批判しました。まず22日付の「鄭現」文章「対米屈従政策と断固と決別すべきだ」は、「情勢が複雑で先鋭な時であるほど、北南関係の改善と統一問題の解決において民族自主の旗印を高く掲げるのは民族問題解決の根本原則である」とした上で、「南朝鮮当局は、親米事大主義根性を捨てて屈辱的な対米屈従政策と断固と決別する勇断を下さなければならない」と要求しました。また、翌23日付の「韓哲明」文章「外部勢力追従と同族対決は自滅の道だ」は、「最近、南朝鮮当局が「韓米同盟は外交安保政策の根幹」などと言って米国と周辺諸国と「電話外交」「特使外交」劇を演じて「北核問題解決のための協力」と「6者会談での建設的役割頼み」をけん伝しているのも以前のかいらい保守政権時代の敵対行為と同じだ」と批判し、「心から北南関係の発展と祖国の統一を願うなら、外部勢力追従と同族対決は自滅の道だという歴史の教訓を深く刻みつけるべきであろう」と指摘しました。
5月22日付の『労働新聞』の署名入り論評「外部勢力への依存は恥辱と屈従、亡国の道」も、アメリカと中国に言及して、次のように厳しい表現で文在寅政権の「外部勢力依存」を批判しました。

「南朝鮮当局が今、「北核問題」を持ち出して外部勢力に執着しているが米国と中国をはじめ各国に派遣された「特使」らが外交の席上で受けているもてなしは自分の位置も占められなかったまま感受しなければならない外交的べっ視と冷遇だけである」
「南朝鮮当局者らは、外部勢力依存は亡国の道だということを銘記し、自ら災いを招く愚かな外部勢力依存策動にこれ以上執着してはいけない」

   THAAD配備問題に関しても同様です。5月27日、朝鮮平和擁護全国民族委員会スポークスマン声明は次のように激しい表現で文在寅政権を批判しました。

「南朝鮮の執権勢力が「THAAD」配置問題において優柔不断の態度を取っている」
「もし、米国に追随して「THAAD」配置をあくまでも許すなら、それは「乙巳五賊」も顔負けする天下にまたとない逆賊罪になるであろう」
「南朝鮮当局は民族の千年、万年の未来を保証してくれる正義の核の霊剣に対して歓迎はできなくても、侵略者の「THAAD」を引き入れてそれをなくしてみると狂奔した保守一味の策動がどんなに愚かな妄動で、恐ろしい反民族的罪悪になるのかを深くかみ締めてみなければならない」

 以下では、5月28日以後6月25日までの朝鮮中央通信が報じた文在寅政権批判の主な内容を整理して紹介します。

〇5月28日付『労働新聞』署名入り論評
 「今、南朝鮮当局が「北の核問題」をあちこちに持っていき共助を謀議しているのは民族に背を向け、外部勢力をせわしく訪ねて「北の核共助」を追求して国際社会の侮辱と冷遇だけを受け、しまいには悲惨な破滅を免れられなかった朴槿恵一味の轍(てつ)を踏む恥ずべき妄動である」
 「南朝鮮当局者らがあらゆる災難の根源である外部勢力依存病を払拭する時になった」
〇5月30日付朝鮮中央通信社論評
 「民心とは反対に南朝鮮当局が優柔不断な態度を取っている」
 「南朝鮮当局は、米国と保守勢力の圧力に屈して「THAAD」配置問題にあいまいに対処しながら米国特使団を送った時も「理解してほしい」などと言う粗末な劇を演じた」
 「キャンドル民心に後押しされて積弊一掃を「大統領」選挙のスローガンに掲げた現当局がいまになって「THAAD」問題に顔を背けるのは醜悪な事大屈従行為、キャンドル民心に対する裏切りとしかほかには見られない」
〇6月11日付『労働新聞』署名入り論評
 「南朝鮮当局者らは誰それの「核放棄」を目標に「制裁と対話を並行」するだの、何のとけん伝しながら一部の民間交流の許容で北南関係の改善に関心があるかのように恩着せがましく振る舞う一方、反共和国制裁を強化するために手段と方法を選ばない外部勢力の肩を持つ不穏当な行為をしている」
〇6月12日付朝鮮中央通信社論評
 「南朝鮮当局が真に「離散家族」問題に関心を寄せるなら、不当に抑留されている共和国女性の送還問題から一日も早く解決すべきであろう。 この問題が解決される前には、北南間に離散家族・親せきの面会をはじめいかなる人道的協力事業も絶対に実現されない。」
〇6月13日付朝鮮中央通信社論評
 「問題は、「米国にいつも『ノー』と答える」という発言をして民衆の人気を集めた現当局者がこんにちになって怖じ気づいて米国の要求通りに「北の変化がある時に対話が可能だ」「THAAD関連調査は既存決定を変えようとすることではない」と言って卑屈に行動していることである。
米国に対する明白な屈従であると同時に、北南関係の改善と外部勢力排撃を求める同胞の志向に対する反逆行為である。…
現南朝鮮当局の恥ずべき対米屈従行為に憤激した南朝鮮人民の間では今、「君舟民水」という言葉が流行している。
民は水であり、君主は舟であるから川水の力は舟を浮かべたり、怒れば転覆させることもできるという警告の意味である。
自分らの執権を支えたキャンドル民心に従うか、でなければ米国に従順であるか。
南朝鮮当局はこの質問に立場を明白にしなければならない。
民心の厳しい目が彼らを注視している。」
〇6月13日付『民主朝鮮』署名入り論評
 「南朝鮮当局が北南間の関係改善のための全同胞の真心こもった声に顔を背けて時代錯誤の対決観念を引き続き追求しながらわれわれの自衛的行使に対して無鉄砲に言い掛かりをつけていることこそ、外部勢力に漁夫の利を与えて民族の利益を害する間抜けな妄動であると言わざるを得ない」
〇6月14日付祖国平和統一委員会声明
 「南朝鮮の新当局者らは…執権初日から不穏当な言行をこととし、もはや北南関係の前途を甚しく曇らせている」
 「大国に無鉄砲にぺこぺこして「特使外交」だの、「電話外交」だのと言って機嫌を取るのに汲々とする一方、「韓米同盟強化」を毎日のように唱えて窮地に追い込まれているホワイトハウスの主人を訪ねて気に入ってもらうためのお粗末な訪問の準備に万事を差し置いてあわてふためいている」
 「もし、南朝鮮の現執権者が真にキャンドル民心の代弁者であるなら、本当に朝鮮民族の血と魂がある人間であるなら、民族自主と縁のない汚らわしくて哀れな行為からやめる勇断を下して当然であろう」
 「現南朝鮮当局は保守「政権」時代に引いておいた同族対決の「レッド・ライン」を越えられず依然として「北の政権と軍はわれわれの敵」だの、「制裁と圧迫共助を継ぐ」だのとけん伝する一方、保守一味が追求してきた「北体制崩壊」の奸悪な手段と方法を引き続き繰り返す不純な下心もはばかることなくちらつかせている」
 「制裁と対話、圧迫と接触のいわゆる「並行」についてけん伝しながら関係の改善をうんぬんするのはあまりにも愚かな醜態であり、明白に自己欺まんである」
 「問題は、任期内に朝鮮半島平和の「画期的転機」をつくると大げさにけん伝する現南朝鮮当局者らが同族の核戦力強化措置に引き続き言い掛かりをつけて米国の白昼強盗さながらの侵略戦争挑発策動に積極的に加担していることである」
〇6月19日付『民主朝鮮』署名入り論評
 「南朝鮮当局者らの哀願外交はわが民族の千年来の敵である日本におもねり、それにへつらって同族を害しようとする卑屈な醜態である」
〇6月20日付『労働新聞』署名入り論評
 「特に憤激させるのは米国の圧力に押さえられてあいまいに振る舞う南朝鮮当局者らの行動である」
 「南朝鮮当局者らが今のように事大と屈従の泥沼から抜け出せず恥辱の歴史を繰り返していれば、キャンドル民心に見捨てられ、結局は朴槿恵一味の哀れな境遇を免れられなくなるだろう」
〇6月20日付『労働新聞』署名入り論説
 「南朝鮮の現当局者は歴史の教訓を忘却して先任者と同じく外部勢力依存、外部勢力追従の不穏当な姿勢をあらわにして北南関係の前途を甚しく曇らせている。
もし、南朝鮮当局が心からキャンドル民心を尊重し、北南関係改善の道へ進む意思があるなら、米国に卑屈にへつらって民族の尊厳と利益を売り渡し、同族間の不信と敵対感を高調させる親米屈従行為から中止すべきである。
南朝鮮当局は、自主か外部勢力追従か、朝鮮民族同士か米国との「同盟」かという別れ道で正しい決心を下さなければならない。
南朝鮮当局がどんな選択をするかによって、北南関係の問題と統一問題解決の前途が左右されるであろう。」
〇6月21日付朝鮮祖国平和統一委員会スポークスマンの朝鮮中央通信社記者の質問に対する回答
 「現南朝鮮当局者が執権後、北南合意の履行と対話を通じた問題の解決を唱えながらも時をかまわず、われわれを刺激する不純な言動を続けている」
 「「大統領選挙」の際、北南関係の改善について力説しながら揚げたマニフェストとは相反するように公式および非公式の席上で「北が挑発によって得るものは国際的孤立と経済的難関だけだ」「国際社会との強力な共助で北を圧迫し、制裁しなければならない」などと、われわれの核戦力強化措置に言い掛かりをつける悪口をためらわずに吐いている」
 「「6・15南北首脳会談17周年記念式」で行った「祝辞」でも、「北の核とミサイル開発は地域と国際社会の平和と安定を脅かす深刻な憂慮事項」だの、「北は6・15共同宣言と10・4宣言の尊重と履行を催促しながらも核とミサイル高度化で言葉と行動が異なるように振舞っている」だのと言ってとんでもなくけなした」
 「南朝鮮執権者は、われわれに言い掛かりをつける卑劣な醜態でメンツを維持しようとするが、それは自ら自身をさらに四面楚歌の境遇に追い込む自滅行為になるだけだ」
〇6月23日付の、民族和解協議会スポークスマンによる米国人ウォームビア問題に関する朝鮮中央通信社記者の質問に対する回答
 「南朝鮮の執権者まで米国に「慰問メッセージ」を送る、どうするとして奔走したあげく、米CBS放送とのインタビューで「不当で残酷な待遇」「重大な責任」などと妄言を吐いた」
 「いっそう荒唐無稽極まりないのは、今回の問題を口実に南朝鮮当局者らがとんでもないいわゆる「抑留者送還」を大げさに騒いでいることである」
 「口角泡を飛ばして「懸念」だの、「送還」だの、何のと言うかいらいがそんなにも「人道主義」に関心があるなら、白昼に集団的に誘引、拉致していった12人のわが女性公民とキム・リョンヒさんから直ちに送還すべきであろう」
 「再び警告するが、南朝鮮当局はわれわれと米国間のことにせん越にくちばしを入れて無駄口をたたく親米奴隷的根性と悪習を捨てなければならない」
〇6月23日付『労働新聞』署名入り論説
 「現南朝鮮当局は米国と保守勢力の顔色をうかがいながら相変わらず同族対決の古びた枠から脱せずにいる」
 「制裁と対話、圧迫と接触のいわゆる「並行」についてけん伝して北南関係の改善をうんぬんするのは理に合わず、同族に対する欺まん、愚弄であるだけだ」
 「根本的な問題解決を忌避して幾つかの民間団体が行き来しながら過去と何か変わったという感じを与えようとするなら、北南関係の実質的な改善は成し遂げられない」

2.韓国メディアの取り上げ方

 しかし、韓国メディアの論調を見る時、朝鮮側の文在寅政権に対する厳しい姿勢に対してそれほど注目している様子は見られません。最初に朝鮮の文在寅政権に対するアプローチぶりについて取り上げたのは6月8日付の朝鮮日報WS(日本語版)の「文在寅政権発足1カ月 南北関係改善模索も北は応じず」と題する記事ですが、その内容は以下のようなものでした。

◇揺さぶり狙う北朝鮮
 …北朝鮮は韓国政府の誘いに即座には応じない雰囲気だ。
 北朝鮮は新政権発足以降にもミサイルによる挑発を繰り返し、民間団体の支援や北朝鮮訪問の提案も拒否した。北朝鮮側は5日、韓国の民間団体に送ったファクスで、国連の新たな対北朝鮮制裁決議とこれに伴う韓国政府の態度を問題とした。北朝鮮に対する圧力と対話を並行する方針を掲げる文在寅政権に、二者択一を迫った形だ。
 北朝鮮は6日、国営メディアを通じてさらに露骨に思惑を表した。
 朝鮮労働党機関紙の労働新聞は論説で「保守の輩が断絶させた一部の人道的支援や民間交流を許容したからといって、北南(南北)関係が改善されるとみることはできない」とし、「6・15共同宣言(2000年の南北共同宣言)と10・4宣言(2007年の南北首脳宣言)に対する立場と態度は北南関係の改善を望むか、さもなければ同族対決を追求するかを分ける基本尺度だ」と主張した。
 このような北朝鮮の態度は、新政権が発足するたびに北朝鮮が見せてきた典型的な「懐柔」パターンだと分析される。

 また、6月16日付中央日報WS(日本語版)は、6.15南北共同行事が実現しなかったことに対する朝鮮の立場を取り上げて、次のように紹介しました。

北朝鮮が6・15南北共同行事を開催できないのは韓国政府の優柔不断で曖昧な態度のせいだと批判した。
15日、朝鮮中央通信は北朝鮮の対韓国機構である民族和解協議会(民和協)の報道官談話を引用して「6・15共同宣言発表17周年を迎えて予定されていた北と南、海外の民族共同行事が南朝鮮当局の優柔不断で曖昧な態度によって結局実現できなかった」と伝えた。
引き続き、民和協報道官は「今回の民族共同行事にどう臨むかというのは南北関係の改善と統一に対する現執権当局の立場が垣間見られる一つの試金石」とし「だが、南朝鮮当局は最初から『韓米首脳会談の前に6・15共同行事の開催は負担になる』とか、『国際制裁の枠組みの中で検討する』などの不誠実な態度を取りながらこれに手をつけようとしなかった」と主張した。
また、「事実がこうであるにもかかわらず、南朝鮮当局は『6・15南北共同行事は北側が断ったため開催できなくなった』『北側は(北朝鮮訪問)招待状や身辺安全保障に関する覚書を送ってこなかった』などとして窮屈な弁解をしたあげく、『政府はできるのは全部し尽くした。問題は北朝鮮のせい』という詭弁を弄している」と付け加えた。
それと同時に「いったい、南朝鮮当局は今さら何の体面があって誰かの責任やら何やら破廉恥な愚痴をこぼしているのか」と非難した。
これに先立ち、南北共同行事を推進していた6・15共同宣言実践韓国側委員会は9日、記者会見で「現在の様々な物理的、政治的状況を考えて6・15行事をそれぞれ開催したいと思っている」と明らかにしたことがある。

 6月23日付の朝鮮日報WS(日本語版)は、6月21日付の朝鮮祖国平和統一委員会スポークスマンのコメントを取り上げて次のように紹介しています。なお、「北朝鮮が公の機関を通して文大統領を非難したのは、文在寅政権発足後、今回が初めて。しかも「南朝鮮の執権者」という表現で文大統領を直接狙った」とする指摘は不正確です。1.で紹介したように、早くも5月10日付の朝鮮アジア太平洋平和委員会のスポークスマン談話は、「新しく政権を執った南朝鮮当局」という表現で文在寅政権に対する批判を始めていました。また、「南朝鮮の執権者」というより直接的「名指し」に限っていっても、すでに6月14日付祖国平和統一委員会声明で「南朝鮮の現執権者」とする「名指し」批判が行われているからです。

 北朝鮮が、今月末に開かれる韓米首脳会談を前に、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と米国のドナルド・トランプ大統領を同時に非難した。
 北朝鮮の公式な対南機関「祖国平和統一委員会」(祖平統)の報道官は21日「南朝鮮の執権者は、北南関係が改善されない責任を北になすり付けようとしている。口先だけでいい加減なことを言っている」とコメントした。北朝鮮が公の機関を通して文大統領を非難したのは、文在寅政権発足後、今回が初めて。しかも「南朝鮮の執権者」という表現で文大統領を直接狙った。
 祖平統は、文大統領が行った6・15共同宣言17周年記念演説に言及して「相手を刺激する無謀かつ愚劣極まりない言動をやめ、北南関係に臨む姿勢からきちんと持つべき。国際的な制裁・圧迫への協調と騒ぎ立てるのは、事実上、対話をしないということ」と主張した。

3.李敦球文章「文在寅政権の38度線を超える暖風」

 中国の朝鮮問題専門家の文章でも、朝鮮の文在寅政権に対する厳しい姿勢について取り上げる文章はこれまでのところ見当たりません。私が常日頃注目している李敦球に至っては、文在寅政権のTHAAD政策(朴槿恵政権の行った決定そのものを根本的に見直すとはせず、環境問題についてじっくり時間をかけて検討するとする内容)に関して、中国にとっては楽観を許さないものだとする厳しい見方を示しています(6月7日付中国青年報所掲文章「THAAD問題 文在寅政権に対する幻想は放棄すべし」及び同15日付同紙所掲文章「文在寅政権のTHAAD政策 「太極拳」戦略に警戒せよ」)が、南北関係に関しては、6月21日付中国青年報所掲文章「文在寅政権の38度線を超える暖風」で、きわめて好意的な分析を行っています。
 韓国メディアの論調といい、李敦球署名文章といい、1.で私が取り上げた朝鮮側の文在寅政権に対する厳しい姿勢については一向に「無関心」である様子を見ると、私の受けとめ方にむしろ問題があるのではないかと考えさせられるほどです。そういう一種の反省も含めて、李敦球署名文章の要旨を紹介します。

 文在寅が5月10日に大統領に就任して以来、朝韓間の対決緊張の雰囲気は明らかに少なからず緩和されている。この期間には朝鮮によるミサイル発射実験や韓国軍による発砲事件などが起こったが、朝韓双方はロー・キーで処理し、事態のエスカレーションには至らなかった。それだけではなく、韓国新政権は「軍民一硬一軟」の対朝政策を提起し、朝鮮の挑発に対しては強硬に対応すると同時に、韓朝民間交流には弾力的開放的に対処する立場を取っている。…文在寅政権が朴槿恵政権の対朝強硬圧力・制裁封鎖一本槍の政策を放棄したことも朝鮮側の反応を得ることになっている。朝韓間の硬い氷は相変わらずだが、文在寅政権による対朝政策の暖風はすでに38度線を超えており、対朝関係はすでにかなりハッキリした積極的変化を生み始めており、その主な表れは以下の各方面に出ている。
 まず、韓国は朝鮮のミサイル発射にロー・キーで対処し、矛盾を拡大させない。…文在寅は朝鮮の挑発的行動と核による脅迫を絶対に容認しないし、国際社会と手を携えて強力に対応するとは言っている…が、文在寅の対応の仕方は朴槿恵政権とは大きな違いがある。(文在寅の具体的発言を引用した後)文在寅政権は韓朝関係を改善する意思があり、したがって、制裁を強調するが、行動面ではイニシアティヴをとるのではなく、「共同参画」に留める程度にしている。
 次に、国際社会が一致して朝鮮に対する制裁を行う大局を損なわない範囲で、韓朝民間交流を行うことを弾力的に考慮し、半島情勢を緩和させようとしている(として具体的言動を紹介)。
 第三、文在寅は、朝鮮が核ミサイルによる挑発を再び起こさないのであれば、無条件で首脳対話を行うと述べている。(文在寅の6.15の17周年記念活動における発言を引用した上で)文在寅は「朝鮮が再び挑発しない」という前提をつけてはいるが、この発言は、文在寅が大統領に就任してから始めて、対話を通じた朝鮮の核放棄、平和システム構築及び朝米関係回復に言及したものである。歴史上、金大中及び盧武鉉だけが朝韓首脳会談を実現しており、文在寅は第三番目になるかもしれない。
 第四、韓国新政権は、朝鮮が「核凍結」を実現すれば韓米軍事演習を暫定停止することは可能だとしており、その趣旨は朝韓間の軍事的相互信頼を打ち立てることにある。(韓国政府の統一外交安保特別顧問の文正仁の、朝鮮が核ミサイルを凍結すれば、韓国も米韓軍事演習の暫定停止を考慮できるとする発言を引用した上で)韓国新政権は板門店のホット・ライン復活、正常な交流の回復、その上で実務会談さらにはハイ・レベル会談を計画している。韓朝は1971年に板門店でホット・ラインを開通したが、2016年までに前後6回の断絶を経験している。文正仁の考え方は中国の「双方暫定停止」(即ち、朝鮮が核実験を停止し、韓米は合同軍事演習を停止する)の提案と合致するものであり、推奨される価値がある。
 第五、文在寅は朝韓の鉄道を連結し、開城工業団地に進出した企業に対する更なる補償を行うことを呼びかけており、その趣旨は朝韓の大規模な経済協力に向けて準備を行うことにある(として6月16日に文在寅がアジアインフラ投資銀行の韓国での年次大会で行った発言等を紹介)。
 文在寅政権は、政権に就いてからの1ヶ月で対朝政策をステップ・バイ・ステップで形成し、以上に述べた内容は政治、経済、軍事及び民間交流等各方面にわたっている。新政権の対朝政策は今後、国内保守勢力及びアメリカの反対と牽制に出会うだろう。文正仁が述べたとおり、韓国は朝韓関係において主導的立場に立つべきであり、そうすることによってのみ、韓米及び中韓関係の好ましい形での発展が可能となる。つまり、朝韓関係におけるブレークスルーがあれば、韓米及び中韓関係も進展することができるのだ。文在寅政権が朝韓関係改善の道筋においてどこまで進めるか、人々は刮目して注視している。