21世紀の日本と国際社会 浅井基文Webサイト

米本土ミサイル防衛(GMD)システムの実力(解放軍報文章)

2017.6.18.

6月16日付の解放軍報は、王群(国防科学技術大学軍事高等科学技術養成学院)署名文章「アメリカ本土ミサイル防衛システム 実戦能力はどれほど?」を掲載しています。これは、5月30日にGMDシステムがはじめてICBM迎撃に成功したと米軍が発表し、「朝鮮のミサイルの脅威を押さえ込む重要なランドマーク」と称したことに対する、中国専門家の懐疑的な見方を示したものです。
 韓国へのTHAAD配備問題をめぐって、中国(及びロシア)は強く警戒し、文在寅政権が配備決定を撤回することを要求しています。中国(及びロシア)が警戒するのは、THAADシステムの迎撃能力よりも、それが備えるX波レーダー・システムの探知能力であり、その探知能力はGMDシステムの実戦能力向上につながるからであることは公知の事実です。
 他方、私も注意してフォローしてきましたが、アメリカのGMDシステム自体の実戦能力について取り上げる中国の専門家の文章は管見では今回の王群署名文章が初めてです。しかも、解放軍報に掲載されたことは興味深いものです。結論から言えば、その内容は、私などの門外漢が常識的に理解している範囲を超えるものではありません。しかし、現段階での中国側の見方を理解する上ではやはり参考になります。要旨を訳出して紹介する所以です。

 現地時間の5月30日、アメリカ本土ミサイル防衛システムが成功裏に迎撃実験を行った。米軍によれば、「朝鮮のミサイルの脅威を押さえ込む重要なランドマーク」とされる。しかし実際の状況は必ずしもそうではない。
 まず、アメリカのGMDシステムの迎撃成功率は米軍が主張する50%以上には達していない。統計によれば、1999年10月から今回実験以前までの間、GMDシステムは18回の迎撃実験を行っているが、そのほとんどは速度が比較的遅い中距離弾道ミサイルであるにもかかわらず、米軍が発表した成功及び失敗の回数は50対50であり、今回の実験を勘定に入れても、成功10回、失敗9回で、成功率は53%弱である。しかも、米メディアがかつて明らかにしたところによれば、9回の成功例の中には少なくとも3回の完全な成功とは言えないものが含まれている。ということは、GMDシステムの本当の成功率は米軍が主張するよりもはるかに少ないということだ。また、パトリオット-3、THAADおよびイージスといったシステムと比較するとき、GMDシステムの迎撃成功率は最低であり、以上のことは、GMDシステムの技術レベルは実践レベルからはるかに隔たっていることを意味している。
 第二に、GMDシステムの迎撃実験には「口パク」的内容が含まれている。即ち、一方では「万一にも失敗しない」実験を確保するため、あるいはある特定の技術のテストを専門にするため、飛来する弾頭にはしばしば「ビーコン」が装備されており、強烈なシグナルを発出することによって迎撃ミサイルが捕捉しやすいようにし、技術的難度を低くすることで両ミサイルが「すれ違う」ことがないようにしている。また他方では、迎撃実験は完全な「不意打ち」で行うわけではなく、事前に飛来するミサイルのタイプ、発射地点、時間、方向等が分かっているし、GMDシステムの警戒用の衛星、レーダーさらには陸上X波レーダー(浅井注:THAADシステムに属するレーダー)がすべて準備万端で備えており、海上X波レーダーに至っては最高の海域で待機している始末で、すべては「シナリオ」どおりに従って行われるのだ。このように実戦から遠く隔たる迎撃実験は、必要ないとは言えないけれども、「成功」とされるところの意義は大幅に値引きされることになる。
 最後に、GMDシステムの迎撃実験は本当の実戦能力を必ずしも意味しないということだ。早くも2004年7月に米軍はGMDシステムの実戦配備を開始したが、米軍が採用したのは「配備しつつ、研究を進め、テストを進め、レベル・アップを図る」という方式である。即ち、新たに配備されるシステムには常に設計上の問題が存在しており、技術レベルが要求を満たしていないのに配備を急ぎ、実用性及び信頼性についてすべて問題があり、ましていわんや実戦においておやということだ。成功したとされる数回の迎撃実験に関しても、実際の戦場的環境にあったわけではない。というのは、相手側による戦術的遮蔽、電磁妨害、対抗兵器による攻撃の影響を基本的に考慮に入れていないのであって、ということはGMDシステムが強力な実戦能力を持つ可能性は低いということだ。
 同時に、今回のGMDシステムの迎撃成功は、もとよりその技術及び能力のレベル・アップを意味するものではあるが、そのことはそれを打ち破ることができないということではない。
 第一に、迎撃ミサイル数の不足だ。すべてがうまくいったとしても、本年末段階のアメリカの2箇所の基地に配備される迎撃ミサイルは44基にすぎない。分析結果によれば、実戦において飛来するミサイルを効果的に迎撃するためには2基ないし3基が必要である。ということは、もっとも理想的な状況下でも、GMDシステムが迎撃しうるのは20基以下ということだ。
 第二に、迎撃技術レベルが高くないことだ。これまでのところ、GMDシステムの迎撃実験のほとんどは中距離弾道ミサイルであり、単弾頭弾道ミサイルにしか対処できない。デコイ(おとり)とかニセとかの突破技術を備えたICBMや多弾頭のICBMを迎撃できるという証拠は何もない。また、隠蔽性に優れ、急襲能力がより優れている潜水艦発射ミサイルに対してはGMCシステムはなすすべがない。さらに言えば、相手側はその先端技術により、必要に応じてGMDシステムの警戒及び追跡レーダーを効果的に干渉ないし攻撃し、予めその「目」を潰し、そのミサイル防衛能力を大幅に低下させることだってできる。
 以上をまとめれば、GMDシステムには新たな進歩はあったとは言え、実際の迎撃成功率は相変わらず高くなく、実戦上の要求を満たす術はないのであって、性能の優れたICBMはその迎撃に対処し、突破する能力を完全に保有していることが分かる。