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安倍首相による政治の私物化
―2つの「学園問題」と9条「改正」提起-

2017.5.28.

私は最近とみに、末期症状の日本政治に対する脱力感が昂じており、「もう何を言っても無駄」という無力感に苛まれています。しかし、前川前文科省次官が明らかにした加計問題に関する「総理のご意向」、また、これに先立つ森友学園問題への安倍夫妻の関与を目の前にして、双方に共通する根っこの問題については「一言なかるべからず」の止むに止まれぬ心境になりました。
共通する「根っこの問題」とは、2014年の国会で成立した「国家公務員法等の一部を改正する法律」で設置された内閣人事局によって、各省の幹部人事を、首相を中心とする内閣が一括して行うことになったことです。その結果、各省のキャリアたちは官邸(首相)の顔色を窺って行政を行うようになりました。森友学園問題については財務省、そして加計学園問題に関しては文科省が、官邸(首相)の顔色を窺って物事を決めたことは今や明らかです。
 日本の伝統的政治土壌、すなわち丸山眞男が喝破した日本政治における「執拗低音」は、下位にあるものが上位にあるものに対して行う献上物ということです。これは、欧米や中国におけるgovernあるいは統治としての政治(上位にあるものによる下位にあるものに対する支配を本質とする)とは著しい対照をなす日本政治の最大の特徴です。そして、戦後の日本の官僚機構を政治の恣意的支配から辛うじて免れさせてきた制度的保障が各省人事権の独立でした。
もちろん、予算権限を牛耳っていた大蔵省(当時)を除けば、各省「事務方」(私が外務省に勤務していた当時そういう言い方をしていました)は常に官邸の顔色を窺いながら仕事をしていたのですが、それでも各省の設置法に定められた権限に対する政治からする横やりに対しては、それぞれの省がそれなりに抵抗する気構えは持っていたと思います。それはともすると、「縦割り行政」として批判の対象にはなっていましたが、政治に対する「公僕」としての自負心(つまり、自分たちは「お上」に対して奉仕するのではなく、「公益」のために働いているのだという自尊心)を支える、いわば制度的拠りどころとして機能するというメリットは確実にあったのです。
 しかし、上記の法改正によって内閣が各省幹部の人事権を牛耳ることにより、官僚機構は「公益」のために奉仕するのではなく、「お上」に奉仕する伝統的本章を直ちに露わにすることになりました。それでも、戦後政治自体が日本国憲法の本質を体するデモクラシーを我がものにしていたならば、人事権の官邸集中の弊害が現実のものになることは防げたでしょう。しかし、戦後保守政治は戦前を引きずったままの体質です。特に安倍政治は戦前への回帰を公然と目指しています。「献上物」として政治を捉える安倍政権が政治を私物化するのは必然なのです。森友学園問題及び加計学園問題は安倍政治において起こるべくして起こった問題といわなければなりません。おそらく、2つの問題は氷山の一角であると思います。
 安倍首相が突然、2020年までに9条改正をしたいと言いだしたのも、以上の安倍政治における発想を理解すれば、「けしからん」ことはもちろんですが、なんら不可思議なことではありません。安倍首相が立憲政治の本質を弁えていないのは今や公知の事実であり、そんな彼にとって、「9条改憲を成し遂げて歴史に名を刻む」こと以外は眼中にないのでしょう。
 私が暗然とした気持ちになるのは、安倍首相がわがままを言いだしたら最後、誰も止めに入ることもできなくなってしまっている日本政治の体たらくについてです。そして、こういう体たらくを生み出した元凶は、2つの学園問題の根っこが国家公務員法の改正であったように、小選挙区制の導入を行った1994年の公職選挙法「改正」であるということです。
 戦後政治、特に衆議院における中選挙区制は、中小政党が衆議院で一定数の議席を確保し、政治における最小限の多様性を確保することを制度的に保障するとともに、自民党内部では、派閥間での相互牽制を可能にするいわゆる「派閥政治」の制度的保障として機能してきました。もちろん、中選挙区制が完全無欠ということではありませんが、「献上物」であることを執拗低音とする日本政治の自己主張に待ったをかける重要な機能を営んできたことは、中選挙区制の最大のメリットでした。ところが小選挙区制の導入によってこの2つの制度的保障は一気に奪われることになったのです。
 欧米諸国のように政党政治の長い伝統のある国々でも、今や政党の存在理由が深刻に問い直されている時代です(いわゆる「ポピュリズム」現象との関連)。ましていわんやそういう伝統を欠く、「献上物」としての執拗低音が根強く支配している日本では、小選挙区制の導入は、一方で中小政党の更なる辺縁化を促進するとともに、自民党内部の派閥間の相互牽制機能を弱体化させ、総裁(総理)への権力集中を必然にしました。なぜならば、自民党の衆議院立候補者を決定する権限は総裁である首相の掌中にあり、いわば衆議院議員の生殺与奪は総理(首相)の意のままだからです。たいして能力もない安倍首相が一強政治を敷くことができるのはこのためですし、安倍種首相が何かを言いだしたら最後、誰も体を張って止めにかかることもできないのもこのためです。
 中選挙区制時代の日本政治であったならば、安倍首相による政治のこれほどの「私物化」はあり得なかったでしょう。中央官庁の人事権の官邸への集中自体が小選挙区制導入に源を発しているわけです。私が、「献上物」であることを執拗低音とする日本政治における「諸悪の根源は小選挙区制にあり」と断じる所以ですし、日本の政治を正すためには、小選挙区制にメスを入れることから始める必要があると確信する所以でもあります。

 参考までですが、2016年6月11日号の週刊誌『週刊現代』記事「霞が関の主要官庁「6月トップ人事」をスッパ抜く」を紹介しておきます。私は滅多にこの雑誌に目を通すことはないのですが、この記事は興味深く読みました。今回、このコラムを書くに当たってウェブで検索したところヒットしました。記事の内容がすべて当たっていると思っているわけではありませんが、中央官庁の官邸への従属という本質的問題の深刻さを理解する上では参考になると思います。

財務省は官邸にひれ伏した…
霞が関の主要省庁のトップ人事が、参院選公示直前の6月中旬をめどに発表される。それに先立って財務省は、昨秋から官邸の圧力を受けて組織防衛に汲々としていた。
「財務省は消費税の軽減税率をめぐって、官邸にろくな根回しもせず、マイナンバーカードを用いた還付案を提案しました。これを主導したのが、佐藤慎一主税局長('80年大蔵省)です。さらに佐藤氏は、公明党が求める食料品への軽減税率の適用にも最後まで抵抗。これが菅義偉官房長官の逆鱗に触れました。
佐藤氏が田中一穂次官('79年大蔵省)の後任となることは、財務省にとって既定路線でした。しかし、菅官房長官が『政局音痴を次官にするわけにはいかない』と、人事に介入してくるおそれが出てきたんです」(全国紙経済部デスク)
佐藤氏は税制を扱う主税畑が長く、予算編成を担う主計局が財務省での本流とされる中、必ずしもトップエリート街道を歩いてきたわけではない。にもかかわらず、同省が「佐藤次官」にこだわるのは、「民主党の野田政権下で消費増税に道筋をつけ、『三党合意』実現に向けて奔走した主税局の労に報いることが組織統治上、不可欠だから」(財務省中堅幹部)。
財務省次官OBは、「主税畑の有力者で、次官ポストが務まる人材は佐藤をおいて他にいない。彼を外せば今後、何年も主税畑からの次官は出なくなり、人事全体がおかしくなる」と危惧する。
財務省は自分たちの省内人事を守るために、官邸にひれ伏した。昨年から消費増税再延期が取り沙汰されているが、前回と違って財務省は沈黙を貫いている。得意の与党・マスコミ工作を完全に封印し、白旗を掲げて、安倍政権へ恭順の意を示しているのだ。
「加えて麻生太郎財務相が、『今回は俺の顔を立ててくれ』と安倍総理に懇願したことが功を奏しました。なんとか既定路線に戻せたと、省内には安堵感が漂っています。
しかし、総理や官邸に『借り』を作った代償は大きい。幹部の間では、消費増税の再延期はもちろん、景気対策で大規模な財政出動を求められても逆らえないという雰囲気が醸成されています」(前出・中堅幹部)
なお、佐藤氏の後任の主税局長には、星野次彦国税庁次長('83年大蔵省)が就任する見通しだ。
「他の主要幹部は留任する見込みで、麻生財務相の『お気に入り』である浅川雅嗣財務官('81年同)、福田淳一主計局長('82年同)、『10年に一人の大物次官』と言われた勝栄二郎氏('75年同、現IIJ社長)の『秘蔵っ子』岡本薫明官房長('83年同)が続投する。来夏の人事で、福田氏が次官に、岡本氏はその次の次官を襲うべく、主計局長になる予定です」(前出・経済部デスク)
外務省初の私大出身次官
外務省は丸3年務めた齋木昭隆次官('76年)がサミットを花道に勇退し、杉山晋輔外務審議官('77年)がトップに就任すると見られる。杉山氏は安倍総理のほぼすべての外国訪問に同行し、
「首脳会談に向けたメモ作成や、相手の首脳に関する情報収集など、かゆいところに手が届くバックアップを続け、総理の評価も高い」(外務省幹部)という。外務省の次官は国立大学出身者で占められてきたが、私立大学(早稲田大学)出身で初となる次官の座をほぼ手中に収めたかに見える。しかし、ここにきて20年前の古傷が疼きだした。
「杉山氏が多額の官房機密費を私的に流用した疑惑が、かつて週刊誌を騒がせました。料亭やクラブでの飲み食いばかりか、下品な宴会芸も話題になった。舛添要一都知事の政治資金問題に火がつき、公金の扱いに対する世間の目が厳しくなっています。官邸周辺からは『たとえ疑惑に留まっても、余計な波風は立てたくない』という慎重論も出始めてきました。
杉山氏の就任が見送りになると、安倍総理や菅官房長官の信頼が厚い秋葉剛男総合外交政策局長('82年)の大抜擢も取り沙汰されます。その場合、多くの局長よりも次官の年次が下の『年次逆転人事』となる。秋葉氏は数々の外交文書をまとめ上げてきた『スーパー官僚』ですが、さすがに今回は杉山氏の後任あたりで落ち着くのではないか」(全国紙外務省担当記者)
さらば、厚生のエース
総務省では、ジャニーズ『嵐』のメンバー・櫻井翔の父親、「櫻井パパ」こと桜井俊次官('77年郵政省)が退任する見通しだ。
「最後まで高市早苗総務相との折り合いが悪く、1年で勇退になりそうです。とはいっても、息子は日テレ『NEWSZERO』のキャスターだし、娘は同じく日テレのディレクター。総務省は電波行政を管轄する省庁ですから、桜井氏も日テレに天下るんじゃないの、なんて言われています」(全国紙総務省担当記者)
そんな桜井氏の後任には、佐藤文俊総務審議官('79年自治省)が就くことが確実視されている。
「総務省は旧自治省と旧郵政省のたすき掛け人事が慣例です。佐藤氏は地方自治体の財政を司る自治財政局長も務め、政治家とのパイプも太い。いずれ次官になると見られていましたが、満を持しての登場です」(同前)
年金や待機児童など、国民の注目度の高い事案を扱う厚生労働省のトップも交代する見込みだ。二川一男次官('80年厚生省)は、わずか8ヵ月での退任となる。
「次は岡崎淳一厚生労働審議官('80年労働省)が次官になると見られています。岡崎氏は長く『労働のエース』と言われてきた人材で、上から言われたことはきちんとこなし、物腰も柔らかいタイプ。女にもモテる。女性記者を集めて飲み会を開いたり、若手の女性職員としょっちゅう食事に行ったりしています」(全国紙厚労省担当記者)
その'80年組の一人で「厚生のエース」と言われた香取照幸雇用均等・児童家庭局長('80年厚生省)は、省外に追い出されることになりそうだ。
「香取氏は、年金局長の時に塩崎恭久厚労相と激突。塩崎大臣が進めるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)改革をめぐって怒鳴り合いの喧嘩をしました。これで次官就任の目が消えたとされましたが、香取氏の能力を高く評価する官邸側の強い意向で、省内に残っていた。
ところが、そこでも児童相談所の設置などをめぐって塩崎大臣と再び衝突し、怒声を浴びせあった。次は大使への転出か、存在感の薄い内閣官房の閑職ではないかと言われています。本人は周囲に『趣味のテニスでもして、地方で悠々自適に暮らしたい』と嘯いていますが」(厚労省中堅幹部) 経済産業省は菅原郁郎次官('81年通産省)の留任が確実視される。だが、その影響力は低下しそうだ。
「菅原氏は甘利明前経済再生担当相に引き上げられて成り上がってきました。その甘利氏が失脚したことは大きな痛手でしょう。菅原氏は総理や官邸とのパイプが心もとなく、同じ経産官僚出身で安倍総理の最側近である今井尚哉総理秘書官('82年通産省)や、官邸と密接な柳瀬唯夫経済産業政策局長('84年同)を頼る場面が多くなりそうです」(前出・経済部デスク)
経産省の注目人事はむしろ来夏で、『'82年組の三羽ガラス』と呼ばれる今井氏、嶋田隆官房長、日下部聡資源エネルギー庁長官の誰が次の次官の座に就くかが焦点だ。
「安倍総理は『お友だち』である今井氏を経産省に戻して次官に就かせたいという思いがあります。一方で、本人に今さら役所に戻る気はない上、経済政策だけでなく外交政策まで仕切っている今井氏を安倍総理が手放せないとの見方も強い。
そうすると、嶋田氏が官房長から次官にダイレクトに昇格する案が有力ですが、嶋田氏は数年前に心臓を患い、大きな手術を受けたため、激務に耐えられるかの不安がつきまとう。嶋田氏と日下部氏のどちらがトップに立つかは、嶋田氏の体調次第と言えそうです」(経産省中堅幹部)
国土交通省の次官ポストは、旧運輸省と旧建設省技官と事務官の三者で1年ごとに回すのが慣例となっている。現在の徳山日出男次官('79年建設省)は技官出身で、後任は西脇隆俊国土交通審議官('79年建設省)が就任する見込みだ。
「西脇氏は京都出身で、まさに『京都の商人』のような人物。政治家ともまんべんなく付き合って、敵は作らない。ゴルフとランニングが趣味で、『肌も腹も黒い』と評判です。その次は武藤浩国交審議官('79年運輸省)につなぐのが既定路線」(全国紙国交省担当記者)
国交省の旧運輸省系の官僚が虎視眈々と狙っているのが、海上保安庁長官のポストだ。
「海上保安庁の佐藤雄二長官('73年)は同庁が始まって以来初となる現場生え抜きのトップ。それまでは旧運輸省から出向してくるキャリア官僚の『指定席』とされてきたのですが、安倍総理の意向で抜擢されました。
とはいえ、就任してもう3年。旧運輸省にしてみれば、そろそろ奪い返したい。そこで、同庁の花角英世次長('82年運輸省)をトップに据えようと画策しています。花角氏は二階俊博総務会長が運輸大臣だったときの秘書官。官邸に物を言える二階氏の存在を背景に、花角氏で勝負をかけるというわけです」(同前)
官僚のドンの去就に注目
国防を担う防衛省の人事では、黒江哲郎次官('81年防衛庁)が留任し、2年目に突入することが決定的だ。焦点となるのは、勇退が見込まれる三村亨防衛審議官('79年大蔵省)と渡辺秀明防衛装備庁長官('79年防衛庁)の後任人事と、それに連動する局長級の異動である。
「順当に行けば、真部朗整備計画局長と豊田硬官房長(いずれも'82年防衛庁)が昇格します。過去の経歴から真部氏が防衛審議官、豊田氏が防衛装備庁長官との見方が強い。前田哲防衛政策局長('83年同)は留任して、深山延暁人事教育局長(同)が豊田氏の後任の官房長に異動する見通し。来秋にも想定される『ポスト黒江』は、この4人から決まりそうです」(防衛省中堅幹部)
霞が関が最も注目するのは、杉田和博内閣官房副長官('66年警察庁)の後任人事だ。官邸の人事のため、交代するとしても参院選後、内閣改造時と見られている。
「事務担当の官房副長官は事実上の官僚機構のトップで、各省庁の重石となる最重要ポストです。杉田氏は警備・公安畑を歩んだプロ中のプロで、官僚人事や警察情報を吸い上げ、霞が関をまとめあげる重責を果たしてきた。ただ、75歳と高齢で、体力的に厳しいと本人は退官を希望しています。
後任には岡崎浩巳元総務次官('76年自治省)の名前がウワサに上りました。しかし、岡崎氏は菅官房長官が『政治の師』と仰ぐ梶山静六元官房長官が自治大臣だった時の秘書官。菅官房長官がそこまで露骨に自分と近い人物を重要ポストに就けるはずがありません。
北村滋内閣情報官('80年警察庁)の名前も浮上しましたが、他の次官より年次が下で務まるポストではない。この人事に失敗すると内閣の求心力が低下するおそれさえあるので、官邸は慎重になっています」(全国紙官邸担当記者)
霞が関の幹部人事を一手に握る内閣人事局が設立されて2年。官僚たちは表面上、その意向に恭順する姿勢を示している。だが、官邸側が人事を失敗すれば、一気に離反しかねない。永田町と霞が関の「熱い夏」が一足早く始まった。