21世紀の日本と国際社会 浅井基文Webサイト

人民日報・千里岩文章

2017.5.4.

5月2日付人民日報海外版WS(海外網)は、海外網コラムニストである千里岩文章「米韓に付き従って朝鮮を倒すことが中国にとって利益になるか 独立した意志を持つべし」を掲載しました。私にとってはかなり衝撃的な文章でした。といいますのは、このコラムで紹介してきた環球時報社説の主張とは、力点の置き所が明らかに違う内容の主張が、環球時報の姉妹紙である人民日報に、そのコラムニストの執筆で掲載されたからです。その内容はむしろ、私が度々紹介してきた、朝鮮の立場に深い理解を示す李敦球の考え方を彷彿させるものです。全文(強調は原文のまま)は以下に紹介しますが、次のようなくだりをご覧下さい。

〇「朝鮮が直面してきた国際環境はきわめて厳しく、「核保有で自衛する」という政策は朝鮮にとって真剣な考慮を経て選択したものだ」
〇「中朝間には、歴史的要因のほか、中国が心配する表層的な問題として、いったん戦乱が発生した場合、中国は、難民、武器拡散から核汚染に至るかなりの波及を免れないことがある。しかし我々は何があっても、同じく重要な地縁政治的要素を絶対に忘れることはできない。」
〇「朝鮮の「核保有」は合法ではないが、すでに事実であり、「非核化」は獲得すべき目標であり、最終的に東北アジアの安定を実現ずる中での一部分でもあるが、取る手段が適当でないと、制御不能な結果の発生を導く可能性が大きい。」
〇「現実の背景のもとにおいては、「核保有」の朝鮮は明らかに北東アジアにおける不安定要因ではあるが、「非核化」のために「極端な」手段を講じることで半島の戦乱を招いてしまったら、典型的な当て外れとなるのではなかろうか。」
〇「現在の中米間では、北東アジアにおいて「平和確保と非核化」という2つの目標がある。しかし、今後どのように両者の関係を判断するか、また、如何にして実現するかについては、多くの違いが生じることは必然である。」
〇「現在両国間には利益の違いが存在しているが、中朝間では今後も戦略的協議を進めるべきであり、旅人のコートを脱がせる上で南風が北風よりも効果的であると同じく、中国もまた、適当な方法とペースによって半島政策の柔軟性を確保し、朝鮮をして利害を実感させるとともに、朝鮮がもっとも懸念する問題について支持を提供するべきである。」

 しかも注目されるのは、千里岩文章が傅瑩(全国人民代表大会外事委員会主任)という公的見解を代表しうる立場にいる人物の文章(浅井注:私はまだ見つけていません)に依拠しながら議論を展開しているということです。米中首脳会談を受けて中国の対朝鮮政策が「変化」したことは明らかですが、その「変化」の程度・ニュアンスなど、対朝鮮政策のあり方については、環球時報が代表する主張の方向で完全に収斂されたとみるのは早計かもしれません。ただし、産経新聞的な「権力闘争」の反映とみるべきではありません。念のため。

 4月の朝鮮半島のおののかされる事態に、全世界はびくびくしながら敏感な時間が刻々と過ぎていくのを見守り、幸いにも戦争は勃発しなかったことにホッと胸をなで下ろした。しかし、4月危機が収束したことは半島危機が収束したことを意味するものではない。そこで、海外網コラムニストの千里岩が関心を集める半島問題の4つのポイントについて文章をしたためた。
 4月が終わり、朝鮮は4月に密集していた敏感な時点に比較的自制し、外部が心配した「核実験」を行わず、それに伴う衝突及び対決もなかったが、朝鮮にしても米韓にしても実質的な変化は何もなかった。朝鮮当局は、「第6回核実験の準備はとっくに完了しており、最高指導者の決断を待つのみ」と何度も表明しているし、米韓も朝鮮を標的とする軍事演習を継続している。したがって、朝鮮半島における危機は収束からはほど遠い状態だ
 近日、全国人民代表大会外事委員会主任である傅瑩は、体験者の立場から、朝鮮核問題の由来及び中国が20年近くにわたって交渉を推進した歴史について総括と回顧を行った。彼女は最後に、半島の今後の方向性について分析的予測を行っている。第一の可能性は、米朝が相互に譲らず、半島情勢が引き続きエスカレートしていく難局の中で、互いがもみ合っていくというものだ。第二の可能性は、米韓が一貫して望んでいた朝鮮の崩壊だ。第三の可能性は、双方が交渉の軌道に戻って政治的対話による解決を探究することだ。
 傅瑩女史が言うとおり、北東アジアの平和と安定を追求するべく、中国政府は一貫して多くの努力を払ってきたが、朝鮮半島情勢は彼女の指摘した第一の状況がズルズルと深まってきた。その原因は主に二つである。まず、朝鮮が直面してきた国際環境はきわめて厳しく、「核保有で自衛する」という政策は朝鮮にとって真剣な考慮を経て選択したものだということだ。次に、アメリカは、地縁的戦略等様々な考慮に基づき、朝鮮に対する政治的軍事的圧力を放棄することに応じない立場を堅持してきたことだ。
 半島問題が、傅瑩の言う「臨界点に達する時点」にまで発展するならば、中国はきわめて難しい境地に陥るに違いない。つまり、そういう局面を作り出す主観的要素は中国と直接の関係はないが、中国はその結果の何ほどかについては背負い込まされるだろう。
 半島問題に関する国内世論における話題の中心は、韓国へのTHAAD配備問題から「我々は如何に朝鮮に対処するべきか」に移っている。しかし、この問題を解決しようと考える時、以下のいくつかの問題について考える必要がある。
<① 中国にとって朝鮮は何を意味するか>
 中朝間には、歴史的要因のほか、中国が心配する表層的な問題として、いったん戦乱が発生した場合、中国は、難民、武器拡散から核汚染に至るかなりの波及を免れないことがある。しかし我々は何があっても、同じく重要な地縁政治的要素を絶対に忘れることはできない。現在の世界はすでに核ミサイル兵器の時代であり、数百キロという距離は大局に影響しないと強調するものもいるけれども、朝鮮核問題に対する韓国の恐怖に乗じ、アメリカがずっと売り込もうとしてきたTHAADシステムを配備したことを見れば、人類がドラえもんの「意のままになるドア」でも発明しない限り、地縁政治は永久に大国関係で無視しようのない要素であり続けることが明らかである。
 さらに中国にとって、半島問題をうまく処理するということはより深い意味がある。すなわち、今日の国際関係の構造にあっては、国家と国家は大小にかかわらず一律に平等であるけれども、客観的現実として、国家の大小強弱は千差万別であり、大国が担う国際的義務及びその利益というものは小国と比べてはるかに複雑である。
 過去30年近くにわたって、中国は自らの状況に基づいて「韜光養晦」(才能を隠して外に現わさない)外交方針を確定し、中国の発展にとって総じて良好な環境を確保してきた。そのため、半島問題に関しては、中国は常に「状況対応」モデルを採用し、情勢の毎度の変化に基づき、会談促進を呼びかけ、その調停に当たってきた。
 しかし、現在の中国は経済がグローバル化に向かう大国であり、国際問題の処理において自己の独立意志を体現できず、その意志を貫く決意がないのであれば、全世界に広がる様々な利益を守る際に更なるチャレンジと困難に直面する時、語るに足る影響力を持ち得るはずがない。
<② 朝鮮崩壊は中国にとって有利か否か>
 現在中国国内には、中国は積極的に米韓と協力して朝鮮に対してさらに厳しい制裁を行うべきだと主張するもの、さらには、軍事手段を含めて韓国による統一完成に協力するべきだと主張するものさえいる。米韓と朝鮮の対決が朝鮮の「核保有」を推し進めたのに、中国が巨大な代価を払って半島の非核化を実現するというのは、「火中の栗を拾う」という意味合いがあるように響くのではないか。
 また、こういう状況下における朝鮮は一体いかなる状態になっているのか。そのときに巨大な代価を払うのは中国だけではなく、最大の代価を払うのは半島の人民であるに決まっている。こういう背景のもとで韓国が統一を実現したとしても、そのツケは誰が支払うことになるのか。そのことで中国に感謝するものがいるだろうか。中国の家の玄関先に歴史的因縁のある仇敵を作り出すことは絶対に中国の利益に合わないことだ。
 仮に米韓に協力し、制裁で朝鮮を崩壊させるということが中国の利益になるだろうか。恐らくそうではあるまい。韓国はかつて中米の間で「等距離外交」を試みたことはあるが、前に述べた如く、アメリカは未だかつて地縁政治的ゲームを忘れたことはなく、例え中米間でイデオロギー的な違いをなくしたとしても、アメリカはやはり様々な手段を講じて韓国を事故の戦略的手段としてがんじがらめにするだろう。往年のエリツィン時代のロシアはイデオロギー的に積極的にアメリカに近づいたが、NATOはやはり東方拡大をやめなかった。我々は、韓国が統一後にアメリカ寄りになるか否かという問題の答えについて心を砕いて忖度する必要はない。
<③ 朝鮮半島における優先問題は何か>
 傅瑩女史の文章においては、「中国の利益は、非核化を確保し、北東アジア及びアジア太平洋の平和安全環境が破壊されることを防止することだ」と明確に指摘している。この点についても2つのことを考える必要がある。
 まず、朝鮮の「核保有」は合法ではないが、すでに事実であり、「非核化」は獲得すべき目標であり、最終的に東北アジアの安定を実現ずる中での一部分でもあるが、取る手段が適当でないと、制御不能な結果の発生を導く可能性が大きい。次に、北東アジアの現状はきわめて不安定ではあるが、平和が曲がりなりにも存在している。したがって、今後中国が半島問題で自らのイニシアティヴを発揮しようとするのであれば、この2つの問題の優先順位を区別するべきは当然である。
 現実の背景のもとにおいては、「核保有」の朝鮮は明らかに北東アジアにおける不安定要因ではあるが、「非核化」のために「極端な」手段を講じることで半島の戦乱を招いてしまったら、典型的な当て外れとなるのではなかろうか。
 中国の建設と発展には平和な環境が必要であり、そうである以上、「不戦」は最低限の要求であると同時に、最優先して考慮するべき問題でもあることは明らかである。この基礎の上で、意思疎通と対話を通じて米朝双方がステップ・バイ・ステップで相互信頼を獲得し、対決レベルを下げて「不乱」を実現し、長期的な「非核化」のための道筋をつけることができるだろう。
<④ 中国は如何にして半島政策を主動的にするか?>
 傅瑩女史の文章における回顧と総括によれば、アメリカは朝鮮核問題の解決に対してあまり熱心だとは言えず、前後十数年の交渉過程で、アメリカの立場は国内政治の制約を受けて何度も変化した。これは何も不思議ではないのであって、世界No.1の強国であるアメリカの外交政策は内政の延長であり、歴代アメリカ政府の利益判断の系譜において、真っ先に考えるのはアメリカ政府自身の政治的利益であり、その後にアメリカの国家としての全体的利益が来て、その後にやっと関係がある他の国家的利益が来るのだ。
 歴史的な原因により、中国外交の重要な目的は、国際的に国家としての十分な合法性の承認と政治的なスペースを獲得することにあり、この点においてアメリカとはまったく反対である。しかし、今日の中国はもはや過去におけるあの中国ではなく、外交を通じて国家利益を守るロジックは適時に変化するべきである。
 現在の中米間では、北東アジアにおいて「平和確保と非核化」という2つの目標がある。しかし、今後どのように両者の関係を判断するか、また、如何にして実現するかについては、多くの違いが生じることは必然である。中米間においては「協力もあれば闘争もあり、闘って破れず」の関係となる運命であり、双方は小異を残して大同を求めるしかない。したがって、今後の半島問題処理における中国のイニシアティヴ発揮は、自国の国家的利益に関する判断に基づいてそれに見合ったプランを作り、ピンポイントで各種の手段を総合的に使用して、情勢を自らの利益に合致する方向に動かすようにするべきである。
 中朝関係に関しては、両国の歴史的関係は相互信頼の基礎であり、中朝友好相互援助条約は中国が半島問題で影響力を発揮する上での基本的な法律的保証である。現在両国間には利益の違いが存在しているが、中朝間では今後も戦略的協議を進めるべきであり、旅人のコートを脱がせる上で南風が北風よりも効果的であると同じく、中国もまた、適当な方法とペースによって半島政策の柔軟性を確保し、朝鮮をして利害を実感させるとともに、朝鮮がもっとも懸念する問題について支持を提供するべきである。