21世紀の日本と国際社会 浅井基文Webサイト

米中首脳会談を受けた朝鮮半島情勢(その十)

2017.4.28.

中米首脳会談以後の中国の朝鮮に対する政策が「変化」したことに対して、私には唐突感が否めないでいますが、中国国内でも私と同じような受けとめ方が存在するようです。4月28日付の環球時報社説「中朝関係はさらにまずくなるかも 中国には準備が必要」は、そういう見方の存在を認めつつ、この「変化」した政策を今後も続けるという立場を確認し、その「変化」が中朝関係をさらに難しくすることへの対応のあり方を説くものです。
 また、中国がこのように対米「協力」しているさなかにアメリカによる韓国へのTHAAD導入が強行されたことに対して、4月27日付環球時報社説「カギとなるそのとき 中国を背中から斬りかかるTHAAD」は怒りをぶちまけています(ただし、怒りの矛先は主に韓国に向けられ、アメリカを厳しく批判することは避けています)。その怒りの所在を端的に示したのは同日付の中国網所掲の李家成(遼寧大学研究員)署名文章「米韓によるTHAAD導入加速 半島の新たな危機誘発」の次の指摘でした。

 韓米がTHAAD配備推進を強行した愚かな行動は、中国世論の激発を引き起こした。多くの中国人は韓米が悪を以て報いるこの行動を理解できない。すなわち、その前日である4月25日の朝鮮建軍節に際し、中国は多くの外交シグナル(トランプとの電話、対朝石油供給停止、軍事不介入-浅井注:4月22日付環球時報社説は、米韓による朝鮮に対する本格的軍事侵攻の時は別として、朝鮮の核ミサイル施設に対する限定的な軍事攻撃に対しては中国が軍事介入する必要はないと指摘-)を発して、朝鮮に自制を保つことを促し、朝鮮が起こす可能性がある軍事挑発を積極的に押さえた。朝鮮は死を賭して戦う決意を示しはしたが、4月25日当日には第6回核実験を行わず、弾道ミサイルの発射も行わず、いかなる異常な行動もなかった。中国が大きな役割を果たしたことは明らかである。
 ところが韓米両国は、THAAD韓国配備の凍結という同等のお返しをしないだけでなく、「暗闇でごそごそ動き」、「背中から切りつけ」、電光石火の勢いでTHAADの核心的設備を配備した。これは、「利益補償」原則に違反するし、「道義的バランス」原則にも違反するものであって、朝鮮半島情勢をさらに深刻にするものである。

 私は、4月10日付のコラムで指摘しましたように、米中会談を受けた中国の対朝鮮政策の「変化」決定は同日付の環球時報社説にとっても予想を超える「急展開」と受けとめられたのは間違いないと思います。そのことを端的に表したのが、「世界が刮目するウルトラ・レベルの知能を発揮すべきだ」という社説の最後の言葉でした。今回の社説は、そうした国内の違和感に対して、中国がとっている対朝鮮政策は正しいとする根拠を明らかにすることに狙いがあると思われます。私もこの社説の主張に刺激を受けていますが、私自身の考えを述べるのは別の機会にして、とりあえず社説の要旨を紹介します。

 中国が厳格に安保理対朝鮮制裁決議を履行することはもはや誰もが認める現実であり、平壌が引き続き核ミサイル活動を継続する場合には、安保理がさらに厳しい制裁決議を行うことを中国が支持することも必然の成り行きである。
 中朝関係はすでに深刻な影響を受けており、金正恩が朝鮮の最高指導者になって以来、中朝間にはまだ元首会談がなく、両国間の外交チャンネルは開かれてはいるが、双方の戦略的相互信頼はほとんど底をついており、意思疎通には深刻な障害が現れている。
 半島情勢がさらに悪化するに伴い、中朝関係は現在よりもさらにひどくなる可能性があり、平壌が名指しで北京を攻撃し、さらには非友好的な行動を取るかもしれず、中国はこのことに備えをするべきである。…
 今日の中朝関係はまずは正常な国家関係であるべきであり、両国はこの基礎の上でより親密な朋友となることもできるが、そのための前提は、中国の国家的利益を損なわず、北京が平壌の極端な政策のツケを支払わないということである。
 朝鮮の核保有は中国の国家的利益を深刻に損ない、しかも安保理が一致して反対していることであって、平壌がその核ミサイル活動について北京が大目に見ることを希望し、中国が安保理の制裁に参加しないことを要求しても、それは中国が絶対に同意できないことだ。
 半島問題は、全体としては米朝間の矛盾の表れだが、朝鮮が中国の国境から100キロも離れていないところで核実験をすることは、中国東北地方の安全に対する深刻な脅威である。また、朝鮮が核ミサイル技術を開発することは北東アジア情勢を刺激し、アメリカがこの地域で戦略的配備を強化するための口実を与えており、以上のすべてからして中国が部外者に留まるすべはない。
 中国が朝鮮の核保有に反対する態度にはいささかの緩みもあり得ない。中朝関係が損なわれ、中韓関係もTHAAD問題で急転直下であり、中国は同時に南北双方といがみ合い、しかも中国はあたかも「アメリカの手伝いをしている」かの如くであり、中国人の中には理解に苦しむものもいる。
しかし、指摘しておかなければならないのは次のことだ。中米はそれぞれの戦略的利益があり、その違いはきわめて大きい。しかし、朝鮮が核ミサイル技術を開発することに反対する点においては、中米間に共通の利益があるということは真実なのだ。北京が平壌に圧力をかけるのは、まずは自身の国家利益を守るということであり、「アメリカのために仕事をする」ということではない。
 一部の中国人の中には、中朝関係の悪化によって米韓に対する中国のカードがなくなること、また、北東アジアにおける戦略的カベを失う可能性があることを心配するものもいる。しかし、現在すでに朝鮮は中国の戦略的利益に背いているのであり、長期的に見る時、中朝関係の主導権は間違いなく中国の掌中にあることを見届ける必要がある。朝鮮が核を放棄しさえすれば、中朝関係は容易に元に戻るのであり、北京は核問題で平壌が態度を柔軟にすることを勧めることができるのだ。
 朝鮮核問題がくすぶり続ければ、半島に戦乱が起こることは免れ難い。半島の戦争が中国にもたらすリスクは対朝鮮制裁が生み出す面倒よりもはるかに深刻であり、中国が現在力を入れないと、将来における選択はさらに難しいものとなるだろう。
 中国の制裁に対する平壌の最大の反発は何か。中国が如何に朝鮮に対する制裁を行うとしても、軍事威嚇を行う米韓のそれとは質が違う。朝鮮が少しでも理性があるならば、中国と軍事的に対立するということはあり得ない。仮に平壌が中朝間の矛盾を理性喪失の方向に質的に変化させるとしても、その変化する局面を乗り切り、国家的安全を擁護する能力を中国は十分に持っている。
 平壌が外交的手腕を通じて北京の制裁を緩和することができるという幻想を中国が徹底的に消し去ることができれば、中国の朝鮮に対する威厳が確立し、作用を発揮することになるだろう。そのとき朝鮮は、逆転しようがない長期的孤立ともう一筋の国家的安全の道との間で改めて選択を行うだろう。
 「双方暫定停止」は中国の目指す目標そのものである。米韓は半島で不断に軍事プレゼンスを拡大し、朝鮮核問題解決とは真逆に動いており、米韓にどのように圧力をかけるかという点では、中国の手にあるカードは多くない。米韓をして中国と歩調を合わせるように推進するという問題は、北京が直面しているもう一つのチャレンジである。
 米韓には明確に次のように言い渡す必要がある。すなわち、中国は絶対に朝鮮核問題を解決する最大のカギではなく、米韓の利益を以て中国の対朝鮮政策決定の出発点にすることもあり得ない、と。米韓の発想に関しては、相手を圧倒するということではなく、中国の発想に接近するということでなければならない。北京は、各国の利益及び主張の最大公約数を探すことを手伝う気持ちはあるが、仮に失敗して、半島情勢が最終的に対決に向かうとしても、中国は朝鮮、米韓のいずれも恐くないし、中国の利益に関するレッド・ラインを踏みにじるいかなるものにも反撃するだけの十分な力を持っている。