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米中首脳会談を受けた朝鮮半島情勢(その九)

2017.4.26.(補筆)4.27.

(4月27日補筆)
 4月26日付のロシア大統領府WS(英語版)は、プーチン大統領が同日、中国共産党中央弁公庁主任の栗戦書と会見したことを紹介しました。プーチンの発言には特に興味を引かれる内容はありませんでしたが、栗戦書の発言として紹介された以下の部分は、朝鮮問題をめぐって「急進展」した中米関係にもかかわらず、習近平・中国が中露関係に臨む方針は一貫しており、不変であることを強調するもので、きわめて興味深いものです。栗戦書の発言は次のとおりです。なお、栗戦書は習近平の側近中の側近であり、習近平の訪米、トランプとの首脳会談にも出席しており、米中首脳会談の内容についてもっとも正確かつ権威を持ってプーチンにブリーフできる立場の人物です。

国際情勢における深刻な変化にもかかわらず、私たちはあなた方と「三つの不変」に確固として忠実に関係を続けていく。「三つの不変」とは、状況如何にかかわらず、両国の戦略的パートナーシップと協力を深め、発展させる政策を変えないこと、共同の発展と繁栄に基づく政策は変わらないこと、そして、平和と正義を防衛し、世界における協力を促進する共同の努力は変わらないこと、である。以上が習近平の言葉である。

(以下が4月26日にアップした文章です。)
4月25日はともかく何事もなく過ぎました。しかし、トランプが安保理理事国15ヵ国の大使を呼びつけて朝鮮に対する強硬姿勢を示し(24日)、安保理で朝鮮核問題に関する特別会議を開催する(28日)動きを示すなど、朝鮮を刺激する行動をこれ見よがしにとり続けています。これでは、朝鮮としても堪忍袋の緒が切れてしまう状況に追い込まれる危険性は常に存在し続けます。トランプ政権の勝手し放題には真底危うさを感じます。
 4月26日付環球時報社説(25日にWSに掲載)「アメリカよ 棍棒を振り回すだけでなく、朝鮮ににんじんもあげなければ」は、トランプ政権の上記行動を批判的に紹介した上で、朝鮮核問題を根本的に解決するためには、アメリカが朝鮮の対米不信感を除去し、朝鮮の核放棄の見返りにアメリカが朝鮮の安全を確約することが不可欠であるとし、それができてのみ、トランプが歴史に名を残すことができるのだと説いています。
 私は、米中会談を受けて習近平指導部の朝鮮核問題に関する認識及び政策(アプローチ)に到底無視できない変化が起きたことを実感しています。いかなる要素が習近平をして従来の認識・政策(アプローチ)の見直しを促したのか、対朝鮮政策における「変化」と「不変化」とをどう整理するべきかについて考えている最中です。26日付社説は、中国の対朝鮮政策が基本において「不変化」であることを示すものです。以下、要旨を紹介します。
 なお、同日付のもう一つの社説「ロシア 朝鮮核問題で「中国を恨んでいる」?」は、中米首脳会談を受けた中国の対朝鮮政策における「変化」が、ロシアの中国に対する疑心暗鬼を生んでいるのではないかという「観測」を打ち消そうとする趣旨です。その要旨も併せ紹介します。

<社説「アメリカよ 棍棒を振り回すだけでなく、朝鮮ににんじんもあげなければ」>

 朝鮮の核ミサイル活動停止を促すには、棍棒で対処するだけでは不十分で、国際社会は同時ににんじんの重要性を認識するべきだ。平壌は今や無茶なことをすると深刻な結果に直面することを認識したが、一つの問題についてはきわめて確信が持てないでいる。それはすなわち、朝鮮が核ミサイル活動を停止した場合、一体何を交換で得ることができるのかということだ。
 複雑で困難を極める交渉のみが朝鮮の核放棄に対する利益交換の枠組みを作り上げることができるわけだが、現在のこの時点において、また、他のいかなる時点においても、ワシントンは平壌が正しい方向に歩みを進めることを励ます誠意を示すべきであり、対朝鮮政策をひたすら攻撃圧力の袋小路に追い込むのではなく、積極的な変化のための出口を設けておくべきである。
 朝鮮に対する制裁に関しては次のようなシステムを設けるべきだ。朝鮮が安保理決議に違反する核ミサイル活動を行う限り、朝鮮に対する制裁を強化する。朝鮮の核ミサイル活動が深刻になればなるほど、制裁の強度をますます引き上げ、それには上限を設けない。しかし、朝鮮が一定期間新たな核ミサイル活動を行わないのであれば、新たな制裁は行ってはならず、制裁と朝鮮の核ミサイル活動における「臨時的凍結状態」が現れるべきだ。
 朝鮮が正式に核ミサイル実験を凍結すると発表する場合には何を見返りに得ることができるようにするか。大国はこの問題について研究を進めるべきであり、国際社会のこの点についての積極的姿勢は、安保理を通じて具体化し、平壌がこの方向に向かって進むことを促すために条件を作り出すようにするべきである。
 次のことは指摘しておかなければならない。ワシントンは、過去において朝鮮核問題を処理する過程で、少なくとも2回約束に背き(浅井注:1994年の米朝枠組み合意をブッシュ政権が朝鮮の「核疑惑」を理由に破棄した事件と、2006年9月の6者共同声明採択後にブッシュ政権がマカオにある朝鮮系銀行によるマネー・ロンダリングを持ち出して合意履行にストップをかけた事件を指していると思われます)、平壌のアメリカに対する信任を損なった。朝鮮政権からすると、アメリカは朝鮮を死に追いやろうとしており、平壌は、核武装をいったん解除されると、アメリカは直ちに約束を破り、朝鮮を転覆するのではないかと恐れている。トランプ政権は、アメリカがそのような考え方をもっていないことを証明する必要がある。
 カギとなる出口を設けず、制裁と軍事的威嚇の棍棒を朝鮮の頭上で振り回すだけでは、朝鮮をして極端な選択へと追いやるだけであり、平和的に問題を解決することは夢のまた夢である。
 トランプ政権は朝鮮核ミサイル問題を「絶対に解決する」決心を下したようだが、最後には戦争でこの問題を「解決」するというのであれば、大量の死傷者を出し、核汚染をも引き起こすことになり、これではまったく「解決」の名に値しない。このような「解決」では、トランプ政権が知謀と胆力を持っていることをまったく明らかにするものではないし、結果とコストを顧みず、アメリカの実力により朝鮮半島で「事をなす」というのであれば、なにも大したことではない。
 朝鮮に核ミサイルを放棄させ、かつまた、深刻な代価をも伴わない。この2点を成し遂げることによってのみ、トランプ政権は歴史に名を残すことができるのだ。
 現在の急務は、朝鮮の第6回核実験またはICBM発射実験を阻止することだ。国際社会は北京が努力を行っていることを認めているが、多くの中国人からすると、ワシントンの努力は相変わらず落第だ。アメリカよ、やるべきことをやってくれ。

<社説「ロシア 朝鮮核問題で「中国を恨んでいる」?」>

 中米が意思疎通を深め、中国が朝鮮に対する制裁を強化している時、ロシアはことさら朝鮮に接近しようとしているのだろうか。「万景峰92」号という名前の朝鮮の大型客船が来月初旬にウラジオストック港に入港するという最近のニュースは、以上の見方を裏付ける最新のニュースであるかのようである。…
 このような見方は、先週安保理で、朝鮮のミサイル発射を非難するメディア向け声明案に対して、ロシア代表が意見を出してから集中的に現れることとなった。…また、ロシア議会の共産党議員及び一部左翼勢力が朝鮮に対する支持を表明し、朝鮮がクリミア問題及びシリア問題でロシアの立場を支持したことに報いるべきだとしたことも、国際世論の注目を集めている。
 核問題を巡る中朝間の違いが深刻化し、中国の朝鮮に対する制裁が強化されるに従い、朝鮮がロシアとの関係を強化して、中国の制裁で受けた損失を緩和しようとしているのは確かである。モスクワが平壌の接近を嫌がっておらず、朝鮮との友好交流も拒否していないことは、露朝関係における一つの真実という側面がある。
 現在、ロシアが朝鮮との関係を発展させるのはもっとも容易な時期であり、そうすることは、ロシアの北東アジアにおけるプレゼンスを強化し、モスクワがワシントンの圧力に抵抗するカードを増やすことができるし、朝鮮半島問題におけるロシアの発言力を強めることにもなる。
 しかし、総じて見る時、平壌の接近に対するモスクワの出方は極めて慎重であり、安保理におけるにせよ、朝鮮代表団のロシア戦勝記念行事への参加にせよ、正常な範囲を超えてはおらず、ましてや安保理と「対決している」などと言えるものではない。せいぜいロシアは、朝鮮がロシアにとっての一つのカードとなり得るという印象を与えているのであって、このカードを切るという姿勢ではまったくない。
 人によっては、中米の最近の接近及び露米関係改善が吹っ飛んだことにより、モスクワが嫉妬し、朝鮮問題で「中国を陥れ」ようとしているのではないかと疑っている。モスクワが中米接近に対して複雑な気持ちになるのは避けがたいことだが、そのことと対朝鮮政策とを結びつけ、さらには、モスクワが北京に面当てしているとまで考えるのは牽強付会の当てずっぽうである。仮に中米首脳会談がなく、中米元首間の2度の電話会談がないとしても、モスクワは恐らく露朝関係において以上のような行動を取っていただろう。
 中露は確固とした全面的戦略パートナーシップの関係だが、両国それぞれには各自の利益と行動スタイルがあり、双方が何事につけても「まるで同じ人間のよう」な振る舞いをすることはあり得ない。しかし同様に、一方にとっての重大な利益にかかわる領域において、他方が悪意を持って失敗させようとしたり、足元をすくったりするような関係でもあり得ない。中露はこの点については確信とレジリエンスとを持っている。
 朝鮮の立場からすれば、朝鮮は一貫して大国間の違いを作り、利用しようとしており、それは一貫したアプローチなのだが、実際上の効果は不断に縮んでいる。中国は長期にわたって朝鮮の最大の貿易相手国であり、中国東北地方は人口が稠密でしかも発達しているのに対して、ロシア極東地方は人口が少なく、中国の対朝鮮制裁以後、朝鮮は対露関係強化によって損失を補填することはできていない。換言すれば、ロシアは、中国が朝鮮の経済社会発展に対して果たしている役割を代替することはできないのだ。
 さらに重要なことは、ロシアは安保理常任理事国として、安保理決議に公然と違反することで、中国が決議に基づいて中断したカギとなる貿易について朝鮮のために補填することはあり得ない。ロシアにとっての朝鮮は、いかなる代価を払ってでも朝鮮に保護を提供するほどに重要だというレベルには至っていない。朝鮮半島問題で最重要なのは中米という最大の関係国が共通認識を深めることであり、中米が共にやるべきとすることに関しては、ロシアは総じて協力者であり、対立者ではない。
 北京とモスクワは、両国間の関係を挑発しようとする様々な雑音に警戒するべきであり、両国は不断に意思疎通を強化し、互いに率直に相対するべきである。両国が全面的戦略協力パートナーシップを維持することは互いにとって重要な利益にかかわることであり、それはいかなる一時的利益と交換できるような類のものではない。