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米中首脳会談を受けた朝鮮半島情勢(その八)

2017.4.25.

*私は、朝鮮に対する満幅の期待を込めて、朝鮮が今日(4月25日)第6回核実験を行わないで「やり過ごす」ことに賭けていますが、中国は朝鮮が核実験に踏み切るのではないかと深刻に憂慮しています。本当に固唾を呑んで「長い一日」を過ごす思いです。

 4月24日に、習近平とトランプは再び電話会談を行いました。25日付環球時報社説(24日付の同紙WSに掲載)は次のように述べ、この会談が朝鮮半島情勢に事実上集中していたことを明らかにしました。

 習近平とトランプは北京時間の月曜日午前に電話で会談し、朝鮮半島情勢を議論した。この通話は、朝鮮の第6回核実験がいつ何時起こるか分からないとする情報が流れているときに行われた。火曜日は朝鮮の建軍節であり、その日の前後には朝鮮が新たな核実験を行う可能性がある、もっとも敏感な時であると広く受けとめられている。
 今回は、中米両国元首が2週間も経たないうちに2回目の電話を行ったものであり、このような元首間の電話頻度は中米関係史上前例がないものだ。そのことは、中米最高レベルにおける意思疎通のスムーズさを際立たせるとともに、朝鮮情勢の緊迫度をも反映している。

 中国が北朝鮮による4月25日の核実験の可能性に対して極度に緊張していることは、上記環球時報社説に加え、朝鮮半島情勢についてずっと論評を加えてこなかった国営通信・新華社が24日、「半島情勢の緊張を激化させるな」と題する短評を出し、「中米元首が通話し、「朝鮮半島情勢の緊張を激化するいかなることも行うべきではない」という明確なシグナルを発した」と述べ、朝鮮に対して安保理決議に違反するいかなる行動も取るなと釘を刺したことからも窺うことができます。
 冒頭に紹介した25日付環球時報社説は、「「一歩引き下がることによって世界が広々と開ける」 これは臆病ではなく、知謀に長けたことだ」というタイトルです。このタイトルが示すとおり、社説は、以上の中米会談の意味を指摘した後、朝鮮に対して、朝鮮戦争以後独立自主の道を堅持して北朝鮮の立場を高く評価した上で、25日に核実験を行う場合の計り知れない結果を説き、核実験を思いとどまることこそが朝鮮の将来を切り開く上でのもっとも勇気ある行動であると、以下のように切々と説いています。

 (朝鮮が核実験を行えば)安保理が朝鮮に対して更なる制裁決議を行うことは避けられず、そうなれば朝鮮経済は窒息に直面するだろう。最悪な状況のもとでは、ワシントンが北京及びモスクワの反対を顧みずに朝鮮に対して軍事攻撃を実行し、半島のパンドラの箱の蓋が開いてしまう可能性もある。
 情勢が崩壊することにより、関係諸国は損失を蒙るが、朝鮮の損失が最大になることは確かなことだ。
 国際的な反応がもっとも穏和な状況のもとであっても、空前の厳しい制裁が朝鮮の工業活動全体に打撃を加え、朝鮮の経済社会発展計画は継続するすべがなくなるだろう。アメリカが朝鮮の核ミサイル施設に対して外科手術的除去行動を行えば、平壌政権は「生死の決断」という至難な選択に迫られるだろう。
 そのときに、朝鮮が米韓に対して戦略的報復を行わなければ、朝鮮の対外デタランスは破産し、ワシントンのしたい放題の攻撃・圧力のもとに置かれるだろう。平壌が冒険を賭してソウル地域に火力による報復を行えば重大な死傷を生み出すが、平壌が最後のカードを切ったことにより、米韓は間違いなく攻撃の目標を核ミサイル施設から平壌政権そのものに向けることになる。…
 中国は朝鮮半島の隣邦であり、中朝は友好国同士であって、朝鮮がこのような苦境に向かうことを見届けたくないし、とりわけ半島が再び戦争となることを願っていない。しかし、情勢全体に対する中国の影響力は非常に限られている。アメリカは、中国がマジックのように平壌の核ミサイル活動を押しとどめることを希望する。平壌は、北京が圧力の方向を米韓の戦争脅迫に対して向けることを希望する。中国が朝鮮、米韓のいずれをも満足させるようなことはできっこない。
 北京としては、この気が狂った賭博においてサイコロを振らないことを強力に促しており、現段階では、平壌が第6回核実験という冒険的な行動を取らないことを極力勧告する。朝鮮が土壇場で思いとどまれば、実際上対応しきることができない極限的な挑戦はやってこないし、平壌は現有の核ミサイルを利用してアメリカと値段交渉を行うことができ、核放棄プロセスの中で自国の安全にかかわる様々な権利を獲得することができる。
 平壌は、朝鮮戦争後は独立自主の国家路線を奉じ、その主権の保全度は韓国よりはるかに高く、この点については少なからぬ者たちが刮目するところだ。しかし、朝鮮の実力のレベル及び特殊な地縁政治環境のため、朝鮮の国家戦略においては、断固決然(という要素)に加え、カギとなる弾力性(という要素)がなければならない。時には一歩引き下がることによって世界が広々と開けるのであり、それは卑怯ではなく、長い道を歩いた揚げ句の発想の転換であり、慣れ親しんでいないやり方でチャレンジを迎え撃つ勇気である。
 朝鮮は独自のやり方を貫き、大国を驚きへこます道を切り開いてきたが、朝鮮が全勝で、世界唯一の超大国であるアメリカが全敗するという事態は実現不可能な奇跡であることを納得するべきである。朝鮮が際限なく突っ走れば、早晩、相手の猛烈な報復にぶつかるだろう。第6回核実験はその決定的なターニング・ポイントとなる可能性が高く、その一歩を踏み出せば戻る道はもはやなく、平壌にもなく、他の国々にもないだろう。…平壌はどんなことがあっても自らマッチの火をつけるべきではなく、意表を突く大知謀によって軟着陸を実現する必要がある。