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米中首脳会談を受けた朝鮮半島情勢(その六)

2017.4.22.

4月21日付の環球時報WSは、南京大学国際研究院院長の朱鋒署名文章「アメリカの対朝鮮「戦略的忍耐」政策終了の含意」を掲載しました。朱鋒は朝鮮に対して厳しい見解を発表することが多かったのですが、今回の文章はむしろ、私がコラムで紹介してきた環球時報社説の論旨を敷衍する内容となっています。
 特に私が注目したのは、トランプ政権が取り組みを強める「5つの分野」として朱鋒が指摘した内容です。特に第三から第五までの取り組みが安保理制裁決議として実行されるならば、朝鮮にとっては「外堀内堀」を埋められる、危急存亡、絶体絶命という表現が誇張ではない深刻な事態となるでしょう。
 朝鮮としては、巷間噂される建軍節(25日)前後の核実験(あるいはICBM発射実験)を「単なる噂としてやり過ごす」ことで、環球時報社説が具体的に言及した石油禁輸(大幅制限)を内容とする安保理決議への動きにストップをかけるかどうかが問われています。
 参考までに、私自身の考え方を付け加えておきます。私は、朝鮮が開発に成功している核ミサイル能力は在日在韓米軍基地を射程に収めており、アメリカに対するデタランスとしてすでに十分以上だと判断します。朝鮮がアメリカ本土をも射程に収めるICBMを開発することはいたずらにトランプ政権(この政権のもっとも警戒すべきは予測不可能性にある)を刺激するだけで、政治軍事的には有害無益です。また、朝鮮にとって軍事的には更なる核実験が必要かもしれませんが、米日韓も朝鮮が核ミサイルの実戦配備を行う段階に到達していると承認せざるを得なくなっている(朝鮮の核デタランスを認めている)わけですから、第6回以後の核実験には慎重であるべきだと思います。
したがって、朝鮮の当面の政策としては、①ミサイル開発については、米本土を標的とするICBM開発は行わない、②核実験については、安保理決議に対する対抗措置として行ってきた過去の政策に回帰する、という2点を確立する(アメリカにどのように知らしめるかは別問題)ことが緊要だと判断します。この2点について米中が確認すれば、中国が「双方暫定停止」「ダブルトラック同時並行」提案(この提案は朝鮮にとってメリットが大きい)に基づいてアメリカを巻き込んだ外交プロセスの展開という可能性につながると思います。
問題は、朝鮮の人工衛星打ち上げです。朝鮮の人工衛星打ち上げは宇宙条約上の権利であり、これをも禁止する安保理決議は不法かつ無効です。この点に関しては、中国は自らのこれまでの非を認め、米日韓の動きをチェックすることが不可欠です。しかし、中国がそのような立場を明らかにすることは少なくとも当面の間は考えにくいので、朝鮮が建軍節に際して、ICBM発射実験ではなく、宇宙条約上の権利行使として人工衛星を打ち上げると、事態は暗転が不可避です。これまでのところ、そういう情報は朝鮮側からも米韓側からも流されていないので、私の取り越し苦労で終わることを願います。

 トランプ政権が「戦略的忍耐」政策を放棄したということは、朝鮮に対して「軍事攻撃」プランを起動させることを意味するものではない。…韓米が朝鮮に対して軍事攻撃を行うという計画は(もともと)安上がりなものではない。朝鮮が事実上核兵器を保有した今日では、「軍事攻撃プラン」はさらに「言うは易く行うは難し」になっている。アメリカが長期にわたって朝鮮に対して戦争に訴える決心がつかなかったのは、アメリカ及び同盟国に軍事攻撃能力がなかったためではなく、「コストと成果」との間の計算ができる、実行可能なプランがなかったからだ。…
(軍事行動の準備は加速的に進行する)<br />  トランプ政権が「戦略的忍耐」政策の終了を発表したことは、アメリカの対朝鮮政策における決定的な変化である。この変化により、ワシントンは朝鮮核問題の解決を外交安全保障政策上の「優先事項」に置くこととなった。ペンス副大統領が38度線を訪問した際に述べたように、アメリカは、中国との協力強化を含め、「様々な国際的資源を誘導して」朝鮮核問題の膠着を打破し、朝鮮の核ミサイル能力開発を押さえることをもっとも切迫したかつもっとも重要な外交課題として据えることとなった。恐らく今後は、全力で朝鮮核問題に取り組むことがトランプ政権のアジア太平洋戦略における優先課題となるだろう。
 それに応じて、トランプ外交にも調整と展開が起こるだろう。トランプ政権は、少なくとも5つの分野において全力で取り組みを強めるだろう。第一、引き続きアジア太平洋同盟諸国を動員して、朝鮮情勢に対応するための準備を強化する。第二、中国等諸国との協力を推進し、朝鮮核問題に関する「大国協調」プロセスを再起動させる。第三、国連組織における朝鮮関連の攻勢を強め、平壌政権の徹底した「非合法化」を推進する。第四、ASEAN、欧州、中東、アフリカなどの国々を説得し、朝鮮の外交スタッフ、商務活動、人的往来などの分野での制限及び打撃を全面的に強化し、朝鮮が営んでいる「地下ネットワーク」をさらに遮断する。第五、国際社会を全力で説得し、朝鮮に対する「制裁並み」行動を可能な限り採用させ、安保理制裁決議の厳格な執行に加え、朝鮮の人的、経済貿易的交流を全面的に圧縮、断絶させることによって、朝鮮の金融的及び経済的なソースを最大限に扼殺する。
 これと同時に、アメリカは朝鮮に対する軍事行動の準備をさらに加速するだろう。2015年以来、米韓合同軍事演習は朝鮮に対する「斬首作戦」、戦略施設支配、心理戦等多くの内容を加えた。アメリカの韓国における軍事配備に関しても、防核、防化(化学兵器)等の能力を増加した。米日韓軍事同盟の枠組みの中での協調も不断に深まっている。2016年に米日韓が対朝鮮ミサイル防衛の合同演習を行った後、2017年3月には再び米日韓合同の初の対朝鮮潜水艦対抗合同軍事演習を行った。朝鮮の軍事情報を共有する日韓の取り決め、韓国にTHAADミサイル防衛システムを配備する行動等、対朝鮮戦争行動を予見させる準備が鳴り物入りで進行中だ。
(平和解決のカギは米朝の手に)
 有り体に言えば、トランプの作戦は、全面的圧力を利用して「核で自らを守る」という朝鮮の幻想を捨てさせることだ。仮に朝鮮が妥協しなければ、「朝鮮を押しつぶし」、さらには朝鮮の新たな挑発行動を理由に「朝鮮を叩き潰す」こと、これがこの戦術の結末だ。…
 中国は朝鮮核問題の平和的解決を主張している。中国政府及び人民は伝統的な中朝友好を大切に考えている。同時に、半島非核化に関する中国の決意は断固不変である。朝鮮にとって必要なことは、中国が発揮する特殊な役割及び中国の平和的努力を大切にし、中国の利益と原則を尊重することである。そうしないと、情勢は、朝鮮が耐えるすべがない、また耐えたくもない方向に展開していくに違いない。
 中国は対話を堅持しており、トランプ政権も朝鮮との対話を拒絶しない可能性がある。ペンスはアメリカが朝鮮の「政権更迭」を追求するわけではないと言及した。中米両国が追求する対話は、国際社会が見届けたい対話であり、平壌が巨大な圧力に直面すると同時に選択する対話でもある。仮にアメリカが戦争という行動を取らないとしても、ますます厳しさを増す制裁のもとで、朝鮮はいったいどれだけ耐えられるだろうか。米朝がともにハッキリ認識する必要があるのは次のことである。すなわち、この対話は、単純に「核停止」「核凍結」との交換としての対話ということではなく、ましてや、対話起動によって朝鮮が速やかに結果を獲得できるという類の対話でもなく、それは、朝鮮が核放棄と同時に6者協議共同声明上の義務を再確認する対話であり、誠意を持って核を放棄しようとする朝鮮が同時に安全保障及び尊重を獲得する対話であるということだ。朝鮮核問題の解決は勇気を必要とし、それ以上に選択を必要としている。