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米中首脳会談を受けた朝鮮半島情勢(その五)

2017.4.20.

米中首脳会談を受けた朝鮮核問題に関する中米間の共通認識は次のようにまとめることができると思います。①トランプ政権は、最終的に朝鮮政権の更迭を目指したオバマ政権の「戦略的忍耐」戦略を失敗と断定し、朝鮮政権の更迭ではなく朝鮮政権の核ミサイル計画中止(最終的には放棄)を目標とする「まずは最大限の圧力、その後に対話」の新戦略を採用。②習近平政権は、トランプの新戦略(朝鮮政権の更迭を追求しないことを明確にしたことが中国にとっての最重要ポイント)を積極的に評価し、朝鮮政権の政策路線変更に向けた働きかけ強化を約束(朝鮮に対する石油輸出の厳しい制限に踏み込む安保理決議採択への同調を含む)。③トランプ政権は習近平政権の約束を評価し、中国が朝鮮に対する外交的努力を見守ること。④中国の努力が奏功するときは、トランプ政権は「成功報酬」としてTHAAD韓国配備を事実上撤回すること(外交的には、韓国次期政権との間の米韓交渉に委ね、韓国新政権の「外交的成果」達成という形を取る可能性を含む)。④は私の大胆な推測でしかありませんが、①~③はまず間違いないと思います。
 4月18日付環球時報社説「中米半島協力 限界と重点」は、朝鮮核問題に関して進行しはじめた米中協力において、中国が設定している限界と重点について明らかにし、同19日付社説「半島情勢の緊張 韓国にも責任あり」は、韓国保守勢力の身勝手な発想に対して釘を刺しました。

<4月18日付社説>

 この社説の主要なメッセージは二つあると思います。一つは、以上に述べた中米間の共通認識に基づく、朝鮮政権の政策路線変更に向けた中国の働きかけ強化の目的(政権崩壊ではあり得ず、ただただ朝鮮半島の非核化を実現と朝鮮政権の存続に目標がある点で、アメリカとは一線を画していること)を金正恩政権に対して正確に伝え、同政権が真剣に耳を傾けるように促すことです。もう一つは、私が4月15日付コラムで紹介した環球時報社説「朝鮮の核放棄と開放 中国の協力があれば危険なし」の極端な提唱(軍事同盟に消極的な中国の伝統的姿勢を破り、「自主」を最重視する朝鮮に中国との同盟関係強化による事態打開を呼びかけたこと)を実質撤回し、中国の真意は朝鮮半島の非核化と朝鮮政権の尊厳ある存続確保でありかつそれに尽きること、朝鮮にとっても非核化に踏み出すことが政権存続のカギであることを理性的に訴えようとしていることです。

 朝鮮の核問題の戦略的要素のいくつかには変化が現れた。中米の協力面の拡大。中国は朝鮮に対する制裁をさらに強化するだけではなく、朝鮮が安保理決議に違反する新たな重大な行動を取る場合は、中国はさらに制裁を強化するだろうこと。アメリカは「戦略的忍耐」政策を放棄し、朝鮮に対する武力行使の可能性を公然と議論し、かつ、これは口先だけの脅迫ではないこと。
 中米は朝鮮核問題でさらに積極的な行動を取る決心を下し、朝鮮核問題が無期限に引き延ばされていく可能性は急激に減りつつある。平壌は、最後まで対抗し、政権存亡の危機に見舞われるリスクをものともしないか、核放棄交渉に向かうかという戦略的選択に直面している。
 北京とワシントンの協力は無原則ではない。北京は朝鮮核ミサイル活動を抑えるという目標に中米協力を限定することを堅持するが、情勢の発展に伴い、北京が朝鮮の経済活動全体に影響が及ぶ厳しい手段、例えば朝鮮に対する石油輸出の大部分を停止するなどに同意すると見こまれる。アメリカが朝鮮に対し金融封鎖を実行するときには、北京は同意して協調する可能性が高い。
 しかし、中米協力は、いかなる状況のもとにおいても、朝鮮に対する軍事的脅迫にまで及ぼされることはあり得ない。北京は、アメリカが朝鮮に対して軍事攻撃活動を取ることを支持しないし、協調することもあり得ず、アメリカの朝鮮に対する行動の目標が平壌政権打倒にまで「ズルズルと拡大される」ことを支持することもあり得ない。
 アメリカはくり返し、中国が「朝鮮を取り締まる」措置を取ることを望んでいるが、中国が「取り締まることができない」ならば、「アメリカと同盟国が取り締まる」と言っている。その言外の意は、一番望ましいのは中国がすべての制裁手段を講じて朝鮮に核を放棄させることだが、その目標が達成できないときには、米韓が手出しするということだ。
 しかし、中国の制裁措置が直ちに朝鮮の核放棄を促すことはあり得ず、しかも、朝鮮を制裁するだけで、ワシントンが朝鮮に対して安全保障を提供するというもう一方の課題で弾力的姿勢を明らかにしないのであれば、制裁はいたずらに平壌を棺桶へと導くだけだ。棍棒以外ににんじんが合わさってのみ効果があるのであり、アメリカはその「第一段階」で拱手傍観して、奇跡が起こることを見守るということは許されない。
 朝鮮に対する武力行使についていえば、軽微な打撃であれば朝鮮の火力は温存されるのだから、ワシントンとしては、壊滅的報復を受けることになるソウル地域の人々が同意するかどうかをまず聞くべきだろう。本格的な攻撃で米韓が平壌政権を壊滅し、武力で一気に半島の地縁政治構造を変えるということについては、中国の人々は、かつて人民義勇軍が鮮血を流したあの土地が米韓に占領され、米韓同盟軍が鴨緑江沿いにまで進出する事態に対して、解放軍が何もしないことを受け入れるはずはない。
 確かに、朝鮮半島問題はかくもこんがらがっている。しかし、朝鮮の核保有に反対することは中米両国の共通の利益であり、しかもこの時点では、この共通利益がきわめて突出している。平壌の独断専行の核ミサイル計画は、朝鮮半島における往年のライバルを協力者に変え、朝鮮が爆走するに従い、中米がますます多くの制裁手段を繰り出すことは不可避となっている。
 もしも朝鮮指導者が中国とアメリカの協力の限界を見極め、北京は厳しい制裁を朝鮮に対して行うけれども政治的悪意はないこと、北京の制裁は平壌政権を困難に直面させるけれども、それは政権をひっくり返すことに向けられたものではないことを正確に見届けるならば、それこそが朝鮮国家にとっての希望の所在である。
 平壌が以上のことを見分けられず、実際的でない野心と恨み辛みの存念の中に浸り続けるのであれば、それは歴史的遺憾事だろう。中国に関して言えば、半島に核が存在することを許さないことは様々な利益における優先事項であり、そのほかのことは成り行きに任せるし、今後の問題とすることもできる。

 「朝鮮の核保有に反対することは中米両国の共通の利益であり、しかもこの時点では、この共通利益がきわめて突出している」とする社説の指摘については補足が必要でしょう。アメリカは朝鮮の核ミサイル開発がいずれアメリカに対する「脅威」となることを未然に防止することに主眼があります(朝鮮がアメリカに向けて核ミサイルを発射するのは、アメリカの軍事力行使に直面するときだけであり、朝鮮がアメリカに攻撃を仕掛ける意図はあり得ないのですから、「脅威」=「攻撃する意思」+「攻撃する能力」という「脅威」に関する古典的定義に即して言えば、朝鮮の核ミサイルがアメリカに対する脅威であるはずはないのですが)。これに対して中国の場合、朝鮮の核開発計画を押しとどめられないとき、韓国ひいては日本の核武装を誘発する危険が増大することをもっとも警戒しています。したがって、米中の「共通利益」はあくまで呉越同舟の産物であることはしっかり弁えておく必要があります。

<4月19日付社説>

 この社説の趣旨は、韓国世論をリードしている韓国国内の保守勢力(朝鮮日報や中央日報などの保守的メディアを含む)の身勝手な考え方を厳しく批判し、「ソウルが朝鮮核問題に現実的な態度を取ること、情勢の沈静化に役立つことを行うこと、米朝間の緩和を促すこと、そしてまた中米が協力を行うことにプラスの役割を果たすこと」を促すことに主眼があります。
ちなみに、韓国保守派の身勝手な考え方は、日本の安倍政権(保守勢力)のそれにも通じています。しかし、安倍首相が朝鮮有事に関して無責任な発言を重ねていること(「さまざまな事態が起こった際、拉致被害者の救出に向けて米側の協力を要請中」(12日)、「北朝鮮がミサイル弾頭にサリンを装着して発射する可能性もある」(13日)、「上陸手続き、収容施設の設置および運営、 わが国が庇護すべきものにあたるか否かのスクリーニングといった一連の対応を想定している」(17日))に対しては、「韓国の不幸を願い、楽しむような安倍首相の言動」(18日付朝鮮日報社説)、「韓半島の不安感あおる日本、自制するべき」(19日付中央日報社説)という激しい反発をするのも韓国保守勢力なのです。両者(日韓の保守勢力)に共通するのは致命的な他者感覚の欠落です。

 3月8日に中国が朝鮮と米韓による「双方暫定停止」の提唱を行ったとき、ワシントンの反応は消極的だったが、韓国が行った拒否するという言辞は関係国の中で際立っていた。THAADに関してペンス副大統領が述べた、韓国新大統領が決定すればいいというどっちつかずの発言に、韓国側は「焦って」、アメリカ側に対して「立場は変わっていない」と釈明することを迫った。
 半島の平和を維持するためには中米が協力することが極めて重要であり、中米が戦略的相互信頼を増進することは東北アジア全体の幸いでもある。ところが、習近平主席とトランプ大統領が成功裏に会合を行ったことに対して、韓国世論はきわめて心配の様子であり、ワシントンが中国側の協力を得るためにTHAAD配備を延期するかもしれないとする分析が現れたことに対して、ソウルはことのほか不安を示した。
 韓国世論は中米間の齟齬に関する報道を好むし、中朝間に挑発を行うことをさらに好む。このことは以下の印象を与える。すなわち、韓国世論を主導する保守勢力は、天下が大いに乱れることを望んでおり、中米が互いにいがみ合うことを見届けたがっており、アメリカが空母すべてを派遣してくれることを願い、半島情勢が緩和することは望んでいないということだ。韓国保守勢力からすると、絶え間なく平壌に圧力を与え、朝鮮政権を崩壊させ、韓国が半島全体を統一するべきであり、中米は韓国がこの目標を実現するのを手伝うべきだということなのだ。
 アメリカ国務省当局者は17日、ワシントンは平壌政権を打倒することを望んでいるわけではないと述べたし、ティラーソンも同様の発言を行った。このことは、現在の緊張した情勢のもとにおける重要なニュースである。ところがソウルはどうかといえば、何人かの大統領候補が政権を取った後には北との接触を強化すると発言している以外、韓国政府はすでに長い間情勢を緩和することに役立つ、このような発言を行っていない。
 韓国の保守勢力は一体何を考えているのか。彼らは核のない平和な半島を望んでいるのか。それとも、韓国が「乱世で功をなす」ことの方により関心があるのか。ここ数年来、韓国が米朝の関係改善推進に努力を払ったことはほとんどなく、アメリカの朝鮮に対する圧力が足りないことに関する不平ばかり言っている。
 それでは、韓国の保守勢力は本気で半島に戦争が勃発することを望み、韓国のすべての人民が彼らとともに戦火がソウル地域まで及ぶリスクを敢えて取ることを本気で望んでいるのだろうか。
 韓国はかつて北に対して太陽政策を行い、当時の金大中大統領は2000年に平壌を訪問しさえした。韓国世論は太陽政策の失敗をもっぱら平壌のせいだとしており、いまだかつて、弱小な平壌政権が核保有という極端な政策に走ったのは、朝鮮自身の問題のほかに、米韓も何か間違いを犯したためではないかということを考えたこともない。アメリカが当時、朝鮮との間で達成した核放棄の取り決めを履行しなかったことに対して、韓国は同盟国として勧告する責任を尽くしただろうか。
 朝鮮半島に戦争が勃発すれば、韓国に累が及ばないということはまず不可能だ。ソウルはまた、戦争によって平壌政権が崩壊し、韓国がすんなりと半島を統一することができると幻想するべきではない。中国は戦争という手段で半島統一を進めることには反対であり、韓国保守派がごり押しするならば、必ずや壁にぶち当たるだろう。
 我々は心から、ソウルが朝鮮核問題に現実的な態度を取ること、情勢の沈静化に役立つことを行うこと、米朝間の緩和を促すこと、そしてまた中米が協力を行うことにプラスの役割を果たすことを願っており、関係国が最大公約数を求め、共通認識を育み、拡大することを損なうようなことをしないことを願っている。我々はさらに、韓国の行動におけるロジック性、韓国の核心的利益にかかわる半島の平和を中心に位置づけることを期待している。
 いかなる原因によるものであれ、半島の緊張が増すたびに、そのマイナスの影響はめぐりめぐって最終的にはその大部分が韓国に押し寄せてくるだろう。中国が朝鮮核問題の主要な負担を背負うことによる中朝の尖鋭な対立が、情勢のほとんどの破壊的エネルギーを吸収し、それによって韓国は荷を下ろし、勝手気ままに過ごすことができると考えるとするならば、それは愚かな夢に過ぎない。