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米中首脳会談を受けた朝鮮半島情勢(その四)

2017.4.17.

<トランプ政権の新しい対朝鮮政策と中国の積極的対応への動き>

 4月15日付のコラム「米中首脳会談を受けた朝鮮半島情勢(その三)」の中で、フランス外相との会談後の共同記者会見における王毅外交部長の「半島危機が強まっている現在、対話と交渉を再起動することを含め、理性的な発言が再び行われるようになっていることに我々は注目している」という発言を紹介しました。私も、「理性的な発言」とは誰のいかなる発言を念頭においているのかが気になっていました。
 その点に関して、14日付の中国中央人民放送WS(中国語:「央広網」)所掲記事は、軍事専門家の宋暁軍の発言として、次のように紹介しています。

 「昨日の王毅外交部長のスピーチの中で、とてもカギとなる発言についてほとんどの人が注意を払っていない。彼は、「理性的な発言が再び行われるようになっている」と述べた。「理性的な発言」とはいかなる発言か。それはすなわち、3月9日にティラーソンが行った「朝鮮政権の更迭を目的とするのではなく、朝鮮半島が非核化されるということだ」という発言のことだ。この発言は、アメリカが2002年以前に戻るということと等しい。2002年にブッシュは政権就任後、その国家軍事戦略の中で朝鮮政権の更迭を求めることを明確にした。その後のオバマの8年間の戦略的忍耐の中では、オバマはこの点について明確に発言することはなかった。」

 4月16日付の北京日報WSは、新華社記者である胡若愚署名記事「アメリカ、対朝政策確定 まず「最大限の圧力行使」のち「接触」」を掲載して、要旨次のように述べました。

 アメリカ当局者によると、トランプ政権は2ヶ月の研究を経て対朝鮮政策を確定した。それは、最大限に圧力をかけ、朝鮮がその行動を変更するならば、朝鮮と接触する、というものだ。ホワイトハウス当局者によると、トランプの対朝鮮政策の目標は非核化であり、「政権更迭」ではない。  14日付のAP通信は、多くの当局者の話として、朝鮮の核兵器放棄を促すため、トランプのスタッフは一連の政策選択肢を検討した。その中には、軍事攻撃で朝鮮政権を打倒する選択肢や朝鮮を核保有国として承認するという選択肢も含まれていた。
 名前を明らかにしないことを条件とした当局者は、トランプ政権の最終的選択は朝鮮に対して圧力を増加することだ、と述べた。ワシントン・ポスト(WP)は、アメリカNSCはこれを「最大限の圧力行使(maximum pressure)」と名付ける新政策とすることに同意したと報道した。
 WPの報道(浅井注:14日付WSに掲載されたJosh Rogin, "Trump's North Korea policy is 'maximum pressure' but not 'regime change'")によれば、「最大限の圧力行使」の狙いは、経済制裁と外交手段とで朝鮮の核ミサイル活動を停止させることにあり、「政権更迭」を追求するものではない。朝鮮が行動を改めれば、アメリカは朝鮮と「接触」するだろう。
 あるホワイトハウス高官は、「トランプ政権の優先目標は朝鮮政権が核兵器を装備することで引き起こされる脅威を取り除くことだ」と述べた。「アメリカの国家的安全保障上の利益は、アメリカ及び地域の同盟国に対する朝鮮政権の脅威を除去することにあり、したがって、ここに我々のフォーカスがある。」
 ホワイトハウス高官は、WPのインタビューに答えて、トランプの対朝鮮政策の目標は非核化であり、朝鮮をして一部の核ミサイル活動を暫定停止させるだけではない(浅井注:この発言は、中国の「双方暫定停止」提案を念頭において、それに応じる用意がないことを示しています)。この高官は、朝鮮に「政権更迭」が起こるときにはそれに対応するが、「現在は当面の脅威に注力する」と述べた。この高官はさらに、「最大限の圧力行使」においては、朝鮮に協力する企業及び金融機構に対して制裁を行うことも求めると述べた。
 APのインタビューに応じた政府当局者は同じく、「接触」の目標は朝鮮の非核化だと述べた。これら当局者によれば、トランプ政権は朝鮮との間で軍備管理協定または朝鮮の核兵器削減の取り決めを行う意思はない。なぜならば、そのようなことは朝鮮を核保有国として承認することを意味するからだ。これら当局者は、朝鮮が核実験を行う場合は、関係国は制裁強化を支持すると確信していると述べた。
 WPは、トランプ政権の対朝鮮政策には答えを出すべき問題が少なくないと指摘している。それらの問題とは、朝鮮核問題の解決に協力する地域の国々にいかにして保証を提供するか、朝鮮が態度変更に応じる場合、朝鮮は具体的にいかなる行動を取るべきか。いわゆる「接触」とは具体的にいかなる形式のものか、地域の同盟国である日本と韓国が受け入れるか、である。
 WPは、名前を明らかにしない政府関係者の話として、朝鮮が第6回核実験を行う場合に備えて、アメリカが様々な対応策をすでに準備していると述べた、と紹介した。やはり名前を明らかにしない米軍関係者がAPに述べたところによれば、アメリカは朝鮮の核実験またはミサイル発射実験に対して軍事力で対応することは必ずしも考えていない。ただし、この人物は、仮に朝鮮の発射するミサイルが韓国、日本あるいは米本土を標的にする場合にはアメリカの計画が変わる可能性はあるが、朝鮮がこのような行動をとる可能性はきわめて低い、と述べた。

 以上から明らかになることは、①胡若愚が紹介したトランプ政権の新しい対朝鮮政策の内容は習近平訪米の際に中国側に詳しく紹介されたであろうこと、②トランプ政権の当面の目標が朝鮮の非核化にあり、金正恩政権を転覆することには置かれていないことを確認した中国は「理性的な発言が再び行われるようになっている」(王毅)と高く評価したこと、したがって③中国としてもアメリカ側の強い希望・要求を受けて、「ウルトラ・レベルの知能を発揮」(10日付環球時報社説)して朝鮮半島非核化に向けて鋭意動く決意を固めた、ということです。私は、米中首脳会談後の中国の対朝鮮政策の変化がいかなる状況の変化によるものか判断しかねてきましたが、ようやく霧が晴れた感じです。
 以上は、トランプ政権の新対朝鮮政策が決定された、そしてその内容は非常に重要な変更(政権交代を求めない)が土台に座っている、とした胡若愚の指摘が基本的に正しいということを前提にしていますので、事実関係については今後の情報によって検証する必要があることはもちろんです。しかし、仮に基本的に正しいとすれば、トランプ政権は現在の危機的状況に対して軍事力行使は考えていないということですので、それは非常に明るいサインです。突発的に戦争が起こってしまう危険は引き続き排除できませんが、「朝鮮が核実験を行う場合は、関係国は制裁強化を支持すると確信している」とした米政府当局者の発言を額面どおりに受け取れば、朝鮮の第6回核実験強行という最悪のシナリオにおいても、トランプ政権は安保理による制裁強化決議(中国の参加)で対応する方針であることがうかがえます(16日のマクマスター大統領補佐官の「軍事力行使以外のすべての選択肢を追求する」という趣旨の発言も裏付けになります)。
 細かい点ではありますが、冒頭に紹介した宋暁軍の発言は、本質においては正しいですが、事実関係の指摘においては間違っています。本質において正しいというのは、トランプ政権の対朝鮮政策の短期的目標が「政権更迭」ではなく(この点で、ブッシュ及びオバマ両政権とは大きく異なる)、朝鮮の非核化実現であるということ(すでに3月にティラーソンが発言しており、それがトランプ政権の新しい対朝鮮政策の根幹に座ったわけです)を中国が高く評価して、中国としても動くことになったことを正しく認識していることです。間違っているのは、王毅発言が暗示したのは、ティラーソンの3月の発言ではなく、米中首脳会談においてトランプ政権が中国側に明らかにしたに違いない新しい対朝鮮政策であることを宋暁軍が踏まえていないことです。

<崔天凱大使発言>

 以上の「霧の晴れた」目で4月13日に中国の崔天凱駐米大使が中国国際テレビ局との単独インタビューで行った、朝鮮半島問題に関する発言(16日付中国外交部WS)を見ますと、興味深いニュアンスが含まれていることに気付きます。4月8日及び9日に、王毅外交部長も中米首脳会談について詳しく発言していますが、朝鮮半島問題への言及は短く、かつ、抽象的でした。これに対して崔天凱大使の発言は次のように具体的です(強調は浅井)。

 朝鮮半島問題に関する中国の最重要な考慮は、中国自身の国家的安全上の利益であり、そのことはこの地域の安全上の利益と一致している。したがって、中国は一貫して半島非核化の目標の堅持、半島の平和と安定の維持の堅持、いかなる当事者による情勢緊張を激化する試み・言動に対しても反対、と主張してきた。朝鮮核問題は必ず平和的方法で、対話交渉を通じて解決するべきであり、武力行使は実行してはならない選択肢だ。中国の半島情勢に対する関心は深まっているが、中国の立場になんら重大な変化があるとは考えていないことを承認するべきだ。
 両国元首は、半島問題における彼我の関心と立場に関する相互理解を深めた。このことは今回会合の重要な成果の一つだ。双方はともに、半島の非核化の堅持、半島の平和と安定の維持の堅持、そして外交手段及び交渉を通じた朝鮮核問題の平和的解決を主張している。

 「朝鮮半島問題に関する中国の最重要な考慮は、中国自身の国家的安全上の利益」、「中国の半島情勢に対する関心は深まっている」、「両国元首は、半島問題における彼我の関心と立場に関する相互理解を深めた」という言い方は、朝鮮半島問題が持つ中国にとっての利益、関心を前面に押し出す点で、従来の中国側要人の発言には見かけなかったものです。皮肉な見方をすれば、「アメリカ第一主義」のトランプ的発想を中国が「受け入れた」発言とも言えます。
 中国にとっての利益、関心という点で私が改めて注目するのは、崔天凱大使発言にせよ、王毅の2回のブリーフ的発言においても、THAAD韓国配備問題に関する直接的言及がないことです。しかし、敢えて深読みすれば、崔天凱の「両国元首は、半島問題における彼我の関心と立場に関する相互理解を深めた」というくだりがTHAAD問題を含んでいないということはあり得ません。中国は従来以上に朝鮮核問題の解決のために積極的に動く、その代わり、THAAD問題ではアメリカが中国の強い反対を考慮するという「取引」があったとしても驚くには当たらないでしょう。 もう一歩大胆に他者感覚を働かせてトランプと習近平のやりとりを想像すれば、中国が朝鮮をして核ミサイル開発「放棄」を実現させるならば、「成功報酬」として、アメリカはTHAAD韓国配備を見合わせる、とトランプが習近平に話を持ちかけることは、商売人的損得勘定で動くトランプならば、十分にありうることではないでしょうか。中国にとっては、中国の核戦略のあり方自体に深刻な影響を及ぼすTHAADの韓国配備を中止させることができるのであれば、朝鮮の核ミサイル開発を断念させるために目の色を変えて取り組む選択は決して損ではありません。というよりも、THAAD配備中止と朝鮮の核ミサイル開発中止とがともに実現するのであれば、正に一挙両得となります。
 4月16日付ソウル発時事通信記事は、「米ホワイトハウス当局者は16日、(訪韓する)ペンス副大統領の同行記者団に対し、在韓米軍へのTHAAD配備について、「(韓国が)5月初めに大統領を選ぶまで流動的だ。次期大統領が判断すべきだ」と述べ、配備完了の先送りを示唆した。ただ、副大統領報道官はその後、米当局者の話と関連し、「これまでTHAAD配備における政策変更はないと説明した。」と報じています。17日付の連合通信ニュースによれば、韓国国防部の文尚均報道官は同日、上記発言に関する質問に対して、「準備を着実に進めるという基本的立場に変わりはない」と答える一方、THAAD配備完了時期に関しては「現在の進行状況をみると、短期間に終えるのは容易ではない」と答えました。これらの一連の動きは、THAAD問題に関する米中首脳会談を背景に眺めれば、きわめて興味深いものであることは確かです。THAAD問題については、今後もフォローしていく必要があります。

<4月17日付環球時報社説>

 4月17日付(16日にウェブに掲載)環球時報社説「朝鮮、対決姿勢 いかんせん、ミサイルが意に沿わず」は、ミサイルのオン・パレードとなった15日の閲兵式と、16日の朝鮮のミサイル発射実験(失敗)を受けて、次のように述べています。ハッキリ分かることは、社説は今や、朝鮮の政権交代を求めないとするトランプ政権の新しい対朝鮮政策に全面協力すべきだという立場に立っている、ということです。

 平壌は昨日から今日にかけて新しい対決姿勢を示し、核ミサイル活動を続けていく決意を誇示した。2日前にはボールが金正恩の側にあったとすれば、ボールは今日再びトランプの方に蹴りつけられた。ワシントンがこれまで加えてきた圧力は効果が上がらなかったということで、トランプの「俺はやるぞ」的な気質は平壌を驚かせなかった。ワシントンは次のような新しい難題に直面することになった。すなわち、平壌をシカトするか、それともさらに大きく出るか。しかし、全力で平壌に圧力をかけても、どうにかなるだろうか。
 韓国世論は今や戦争勃発をきわめて心配していることもあり、トランプが即刻朝鮮に軍事攻撃を発動することはまずないだろう。アメリカの小規模な軍事攻撃でも、朝鮮によるソウル地域に対する軍事報復を招く可能性がきわめて大きい。情勢のこの複雑性に対して、トランプ政権は明らかにまだ十分なプランの準備ができていない。
 ワシントンは現在、北京に助けを求めており、中国が朝鮮に対する制裁を強化することを希望している。…朝鮮が第6回核実験を行えば、安保理は必ずより厳格な制裁決議を成立させ、その際には、北京は決議に基づいて新たな制裁行動を取ることになるだろう。ただし、現在の段階で安保理決議以上の行動を取ることは、北京の一貫した考え方とは一致しない。
 朝鮮の第6回核実験を阻止することは当面の急務だ。我々は次のことを主張する。すなわち、北京は外交チャンネルを通じて平壌に次の明確な態度を表明するべきである。つまり、朝鮮が国際社会の反対を顧みずにそうする(第6回核実験を強行する)のであれば、中国は朝鮮に対する大部分の石油提供を停止するだろうし、中国は安保理がそういう内容を含む真誠裁決議を採択することを支持するだろう、と。
 平壌は、再び外部の圧力を打ち破ることに成功したとゆめゆめ思わないことだ。このままいくと、朝鮮の安全保障状況は悪化し続けるだけであり、危機には終わりがない。国際制裁はますます厳しくなっていくだけではなく、朝鮮を軍事攻撃するアメリカの準備はますます真剣さを増すだろう。情勢が軍事衝突の勃発となれば、最大の損失を蒙るのは間違いなく朝鮮である。