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米中首脳会談を受けた朝鮮半島情勢(その三)

2017.4.15.

4月14日付の中国通信は、朝鮮人民軍総参謀部スポークスマンが同日発表した「米国のすべての挑発的な選択を朝鮮式の超強硬対応で無慈悲に粉砕する」という声明を伝えました。この中ではついに、「トランプ行政府が白昼強盗さながらの本性を現し始めた」「トランプ行政府の重大な軍事的挑発狂気」(強調は浅井。以下同じ)という、トランプ政権を激越な表現で非難する言辞が登場しました。トランプ政権の留まるところを知らない刺激的な軍事行動に対して、朝鮮もついに「堪忍袋の緒が切れた」ということでしょう。声明は、「米国とその追随勢力に対するわれわれの超強硬対応は生存を許さない破滅的懲罰を目標に無慈悲に加えられる」と明言しました。いずれの側が先に攻撃を仕掛けるかどうかに関係なく、米軍基地所在地を中心に、日韓両国はホロコーストに見舞われるという戦慄せざるを得ない予告です。
 同日付の朝鮮中央通信社論評「むやみに見くびるな」も、「金正恩委員長の指導に従って米国の反共和国圧殺策動を粉砕し、社会主義強国を必ずうち建てるというわが軍隊と人民の力強い進軍は、いかなる核脅威と経済制裁策動によっても阻むことができない」とし、金正恩の判断で朝鮮が行動することを示唆しました。朝鮮外務省の韓成烈次官も同日、AP通信の単独インタビューに答える中で、「最高指導者が適当と考えれば、朝鮮は何時でも次の核実験を行うだろう」と述べ、核実験についても金正恩の決定如何にかかっていると明言しました(同日付環球時報WS)。
 以上の朝鮮側態度表明を額面どおりに受け取る限り、私が4月10日付及び12日付で紹介した、環球時報社説で示された中国の警告メッセージは、朝鮮側にはなんらの影響力も生んでいないと判断する以外にありません。
 そういう中、米首脳会談を受けた中国の対朝鮮アプローチにはますます目が離せません。4月10日付コラムの冒頭で、「4月10日付の環球時報社説「中米 相互疑惑から相互信頼へ さらにカギとなる蓄積の一歩」の最後のくだりを読みますと、私の気のせいかもしれませんが、従来の論調とはニュアンスを異にする指摘があるように感じられます」と書きました。その後の展開は、私の受けた印象が的外れではないないことを示しています。トランプとの首脳会談を受けて、習近平指導部のトランプ個人に対する認識がどのように変化したのか、その結果、対米アプローチのあり方を含む対外政策にいかなる修正が加えられようとしているのかについては、さらに目をこらして見守っていく必要があると思います。しかし、こと朝鮮半島情勢特に朝鮮核ミサイル問題に関しては、すでに明確な変化が現れています。10日付社説のいう「ウルトラ・レベルの知能を発揮すべきだ」が掛け値のないものであることが分かります。
 そのことを窺わせる一つの材料はトランプの習近平に関する発言です。彼の思いつき発言の信頼性には大きな疑問符をつけなければなりませんが、判断材料としてまったく無視するわけにもいきません。
4月13日に配信されたウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)及びCNNの記事は、習近平との会談を受けたトランプの意気軒昂な発言と、トランプが大統領に当選する前と後での米中関係の変化とを次のように紹介しました。

<WSJ「トランプ氏と習氏、緊張関係が友情に変わるとき」(抜粋。筆者:ジェラルド・F・サイブWSJチーフコメンテーター)>
 「ドナルド・トランプ米大統領は12日、就任後に知己になったある国の首脳との関係について冗舌に語った。
 「われわれの関係は非常に良い」。…「われわれの相性はすごくいい。互いに好意を持っている。私は彼のことがとても好きだ。彼の妻も素晴らしい。」これほど温かい言葉で評されているリーダーとは誰か。中国の習近平国家主席だ。
 トランプ氏の口からこうした言葉が出てくると思っていた人はほとんどいないと言ってもいいだろう。昨年の米大統領選挙中、中国はどの国よりもトランプ氏による「口撃」の標的だった。…
 トランプ氏がインタビューの中で詳細に語ったところによると、習氏とは先週、フロリダ州の別荘「マール・ア・ラーゴ」で長時間ともに過ごし、随行者を同席させずに対話した時間も長かったという。米中首脳会談の最初の協議は「10分から15分の予定だったが、3時間に延びた」。さらに「2日目に10分間の予定で組んでいた会談は2時間に延びた。われわれは本当に相性がいい」とも述べた。…
 こうした言動にはもちろんご都合主義もあるだろう。トランプ氏がいま直面している最大の安全保障問題は、北朝鮮が核兵器とそれを長距離運べるミサイルを開発していることだ。その脅威の阻止で最も力になれる国が偶然にも中国なのである。
 ここにきて急速に進展している米中首脳の対話の中核を北朝鮮問題が占めているのは明白だ。実際、トランプ氏は一種の大きな取引を習氏に持ちかけたと話した。北朝鮮の核の脅威を阻止するために中国が力を貸せば、難航が予想される貿易交渉でより有利な条件を中国に提示すると申し出たという。
 北朝鮮に関してトランプ氏は習氏にこう言ったという。「仮に力を貸してくれなくても全く問題はない。われわれが自力で問題を解決する。だが貿易交渉は力を貸してくれた場合と同じというわけにはいかない」
 さらにトランプ氏は、中国が行動を起こし始めているかもしれないと主張した。習氏は今週行われた電話会談でトランプ氏に、中国はここ数日、石炭を積載する北朝鮮からの貨物船の一部を追い返していると伝えたという。石炭は北朝鮮にとっておそらく最も重要な輸出品だ。…
 たとえ北朝鮮問題で米中が協力できたとしても、南シナ海での領有権問題という別の火種が消えることはない。
 だが少なくとも今のところは、トランプ、習両氏の関係は世界で最も驚くべき「ブロマンス(男性同士の親密な関係)」になりつつある。」
<CNN「ロシア・中国・シリア――トランプ米政権が驚きの方針転換」(抜粋)>
「トランプ氏は12日、大統領選などで「時代遅れ」などと批判していた北大西洋条約機構について「もはや時代遅れではない」と述べた。また、中国に対しては「為替操作国」と非難していたが、今回認定を見送った。…先ごろ米フロリダ州で会談を行った中国の習近平国家主席については称賛の言葉を贈った。北朝鮮の核問題などについて協力を得られると信じているとした。トランプ氏は選挙中、中国が米国経済を「レイプ」していると非難し、就任初日に中国を為替操作国に認定すると主張していた。
こうしたトランプ氏の突然の政策変更が新しい展望や世界観によるものかは不明だ。しかし、大統領経験者がよく指摘するのは、選挙中に見る風景とホワイトハウスから見える景色は別物だということだ。」

 首脳会談の結果を踏まえた中国が、従来にはない緊張と警戒の目で現在の朝鮮半島情勢を認識していることは間違いありません。14日にフランスのエロー外相と共同記者会見に臨んだ王毅外交部長は、記者の質問に対して次のように答えました(同日付中国外交部WS)。

 「最近、米韓と朝鮮は真っ向から対決し、一触即発、山雨来たらんと欲して(風楼に満つ)の勢いであり、かかる危険な局面は、高度の関心と警戒に値する。
 中国は一貫して、情勢の緊張を強めるいかなる言動にも断固反対であり、軍事力では問題を解決できず、対話のみが唯一の出口であることは、歴史が一再ならず証明しているところだ。半島問題に関しては、誰が口にした言葉がより猛々しく、誰が振り上げたげんこつがより大きいかによって勝ちが決まるということではない。本当に戦乱が起きてしまえば、結果は総負けだけであり、誰かが勝利者になれるということはない。したがって我々は、言葉の上だけではなく行動においても、これ以上相互に刺激し合い、脅迫し合うことをやめ、事態を挽回できず、収拾がつかない段階にまで推し進めるべきではないと呼びかけているのだ。誰であれ、半島で戦乱を引き起こすものは、歴史的責任を負わなければならず、相応の代価を支払わなければならなくなる。
 中国人は常に、危険の中にチャンスがあると言う。半島危機が強まっている現在、対話と交渉を再起動することを含め、理性的な発言が再び行われるようになっていることに我々は注目している。これこそが我々が探し、掴まえるべく努力するチャンスだ。中国はすでに、「ダブル・トラック同時並行」の考え方及び対話を起動させる第一歩である「双方暫定停止」の提唱を行っている。中国としては、これらをさらに細かく詰め、運用可能な具体的方策を適時に提起するつもりだ。同時に、オープンな姿勢で、各国の有益な提唱を受け入れたい。交渉回復の方式はフレクシブルであり、対話でありさえすれば、正式であろうと非公式であろうと、シングル・トラックであろうとダブル・トラックであろうと、二国間、三国間あるいは四国間であろうと、中国はすべて喜んで支持する。

 中国はまた、ロシアとの戦略的意思疎通も忘れていません。見方によっては、大統領選挙まではロシアに対して好意的発言をくり返し、中国を罵倒して止まなかったトランプが、今や習近平・中国を褒めそやし、プーチン・ロシアを意識的に疎遠するのですから、ロシアが疑心暗鬼になっても不思議はない状況です。中国がロシアとの戦略的紙疎通に腐心するのは当然です。
 14日夜、王毅はラブロフと電話会談し、二国間関係、シリア問題、朝鮮半島問題等について、次のような戦略的意思疎通を行いました(同日付中国外交部WS)。ちなみに、シリア問題に関する王毅発言はロシアの立場を支持する内容です。

 「シリア情勢に関し、王毅は次のように述べた。シリアの独立、主権及び領土保全は尊重されるべきだ。当面の急務は、シリア国内の化学兵器問題について独立、公正かつ専門的な調査を行うことであり、事実と真相が白日にさらされることを確信している。
 朝鮮半島情勢に関しては、王毅は次のように述べた。半島に戦乱が起きることを防止することは中露の共通の利益に合致する。各国を交渉のテーブルに引き戻すことは中露共通の目標だ。中国としては、ロシアと緊密に協力し合って、半島情勢を速やかにヒート・ダウンさせ、関係各国の対話回復を促進したい。
 ラブロフは次のように述べた。露中のハイ・レベルの交流は緊密であり、戦略的相互信頼はますます深まっており、各分野における協力は大きな成果を挙げている。ラブロフは、シリア及び朝鮮半島の最新情勢に関するロシアの立場と見方を紹介し、シリア化学兵器問題について速やかに公正な調査を行うことを希望し、朝鮮半島問題に関する関係各国の対話回復を促進することを希望し、引き続き中国と緊密な戦略的な意思疎通と協力を保つことを希望していると述べた。」

 中国が「ウルトラ・レベルの知能を発揮」しようとし、従来の常識領域にまで踏み込んで、真剣に対朝鮮政策、特に中朝安全保障関係のあり方を根本から検証し直そうとしていることは、12日付の人民日報海外版WSに、千里岩(「国是縦横写作組」学者という肩書き)署名文章「中朝相互援助条約」期限間近 機に乗じて米韓がコマを進めることを防ぐべし」が掲載されていることからも窺うことができます。この文章は、中朝条約がこれまでの朝鮮半島の平和と安定に貢献してきたこと、近年の中朝関係には試練があることを述べた上で、今後の展望として、次のように述べました。なお、「国是縦横写作組」という組織が何ものであるかについては、今のところ不明です(検索サイト「百度」でもまだ紹介されていませんので、比較的新しい組織だと思いますが、最近、人民日報で見かけることが増えています。「千里岩」とは恐らくペン・ネームだと思うのですが、この名前も最近、人民日報紙上でかなり見かけるようになりました。

 「今回韓国がTHAADを導入し、そのことが中国国内世論における大規模な議論を引き起こしたことを考えると、中国における韓国のソフト・パワー投射力はかなりのレベルに到達していると考えるべき根拠がある。中朝条約が(2021年に)期限が来る前に、米韓がこの条約を廃棄させるべく、再び「ソフト・パワー」を発動してくる可能性はきわめて大きい。もちろん、ソフト・パワーに依拠するだけでは物事をなし得ず、必ずハードな行動を伴わなければならない。外部のハードな行動が再び中国の戦略的利益を脅かす状況が現れた場合にのみ、中国国内の一部グループがそのソフト・パワーによる攻勢に対して反応する可能性が出てくるだろう。したがって、今後4年の間に、米韓は、THAAD配備の如き行動をハードな動きとし、中国に対して再び戦略的脅迫を行ってくる可能性がある。
 もちろん、中国の戦略的政策決定者たちがこの種の「脅迫」を受け入れて軽々しく中朝条約を放棄することを口にすると心配する必要はない。そんなことをすれば、中国は間違いなく朝鮮半島から追い出され、半島問題に対する発言権を確保することが難しくなり、中国にかかわる利益を守ることもできなくなってしまう。しかし、米韓のソフト・パワーの投射を無視すれば、中国世論の分裂悪化を招き、中国の政治運営コストをさらに高めることになるから、それも取りうる選択ではない。
 以上に基づいて我々が警戒しなければならないのは次のことだ。すなわち、米韓が「中朝条約廃棄はかなわないとしても、再び「コマを進める」やり方で中国に対して戦略的囲い込みと圧力行使を行う」という目的を抱くならば、再び中国の利益を損なう行動を取る可能性があるということだ。したがって、速やかに準備措置を講じておかないと、米韓の「圧力行使」に直面して、再びコマを進められてしまうという苦い結果に直面する可能性が大きい。
中朝間で今後立場の違いをどのように協調させ、解決するか、さらには中朝条約を改定するか否か、この問題は中朝両国それぞれの独自の利益及び判断によってのみ決定されなければならず、米韓の様々な行動によって簡単に干渉されることがあってはならない。確かに、中米、中韓の今後の関係が如何にあるべきかは、中国の戦略的利益に対する判断の根拠となり得る。しかし、このことと、中朝間で2020年に条約を継続するかそれとも変更するかについて確定する問題とは、まったく別個の問題でなければならない。
2020年まではまだ3年という時間があるが、米韓が似たような動きを取るのは恐らくそれほど先のことではあるまい。中国が自らの判断力に依拠することを確保し、半島における中国の利益の最大限の確保が損なわれないことを確保するため、我々は可及的速やかに分析と評価を行って準備し、米韓の企みを主動的に解消することを確保するべきである。このような角度から見る時、THAADシステムの韓国配備は中国にとってためになるレッスンであり、然るべき教訓を学びとるべきである。」

 環球時報は、12日付で「シリアから朝鮮まで、アメリカの戦線は伸びすぎ」及び「朝鮮核問題が対決に直面 平壌はブレーキを踏んで安全を図れ」、13日付で「朝鮮の核放棄と開放 中国の協力があれば危険なし」及び「トランプによる人民元に対する新たな評価に「いいね」」、14日付で「中米露大三角形 中露関係は盤石でなければならない」及び「米軍の大規模爆風爆弾(MOAB)投下 平壌の腰を抜かせられるか」、と立て続けに社説を掲載しています。私が上記千里岩署名文章との関連で特に注目したのは、13日付の「朝鮮の核放棄と開放 中国の協力があれば危険なし」と題する社説です。
 この社説では中朝条約そのものに関しては何も触れているわけではありません。しかし、「中朝はかつて血の同盟関係にあったが、その後は様々な原因、特に核問題を巡る深刻な対立で、平壌は北京に対して戦略的な不信を生むことになった。中朝関係の朝鮮にとっての重要な意義を再度見つめ直すことは、平壌が困難から脱却するカギであるかもしれない。…中朝が新しく確固とした戦略的共通認識を確立できる状況のもとで、中国は朝鮮に安全保障を提供する能力があり、朝鮮が経済を振興することに対しても支持と援助を提供する能力も持っている」と指摘したくだりは、中朝条約を復活し、再定義するという実質的な提案と理解することは十分に可能です。
 この社説は正に「ウルトラ・レベルの知能を発揮」したものというべきでしょう。第一に、いかなる国とも軍事同盟を結ばないというのが中国の確固とした戦略方針です。しかし社説は正にそのタブーに踏み込んでいます。
 第二に、「自主(チュチェ)」を何よりも重視する朝鮮に対して同盟強化に等しい問題的をすることは、金正恩政権にとっては「火に油を注ぐ」リスクがきわめて大きいと言わざるを得ません。中国もそのことは百も承知でしょう。それでもなお朝鮮のタブー領域に足を踏み込もうとしているのです。ただし、環球時報社説の意図と真意については、現在の私では読み切れないものがあります。
 この社説の要旨は次のとおりです。

 「朝鮮半島情勢の危機は深まり、突発事態が起こる可能性が強まっている。平壌政権はこの情勢の嵐の中心におり、リスクは最大である。いかにして現在の苦境から抜け出すかは朝鮮にとってきわめて厳しい挑戦となっている。
 朝鮮の核開発の第一の目的は政権の安全を維持することであり、平壌はこの道を歩み通すことで、米韓が最終的に朝鮮の核保有の合法性を承認せざるを得なくなること、その核デタランスを受け入れること、そして朝鮮に対する態度を徹底的に改めることを希望している。…
 しかし20年以上の現実がすでに証明しているように、この道は可能性がない。さらに核実験を行い、中長距離ミサイルの発射実験を行っても、何の役にも立たない。ワシントンはそのことで平壌を恐れることはあり得ず、朝鮮が並外れた核ミサイル実験を行えば、アメリカが朝鮮に対して武力行使を行う可能性が急激に大きくなるだけだ。そのときは、平壌政権の生存が恐らく問題となるだろう。
 平壌が核ミサイル活動を停止する時機の到来は不可避である。朝鮮が劣弱な国力で安保理と長期にわたって対抗することはユートピアと言わざるを得ない。仮にアメリカの軍事攻撃を受けないとしても、長期にわたる制裁を朝鮮が耐えきれるはずがない。…現代における国家はこういう形では生き延びることは不可能だ。
 朝鮮が外部世界と和解することは不可避であり、朝鮮としてはその方向に向かうイニシアティヴを取るべきだ。…平壌政権には国際社会に再び加わる条件の下で国家の安定を維持するという能力が必要である。
 朝鮮の政治的現状では核を放棄し、対外開放する決心を下すことは難しい。なぜならば、朝鮮が米韓に対して開放した後、政治的浸透さらには転覆という巨大なリスクに直面するからだ。…アメリカが核兵器を持っていないサダム政権をやっつけた後、「アラブの春」がムバラク政権とカダフィ政権の命を絶った。これらのことは平壌に深刻な印象を与えただろう。
しかし、朝鮮が開放することにはリスクがあるとしても、鎖国の道はさらに希望がない。開放に伴うリスクを回避するためには、朝鮮はスケールの大きい戦略的計画を行い、頼りになる政治的同盟者と保護の傘とを探し、自らの軟着陸を実現する上での支えとする必要がある。
 中朝はかつて血の同盟関係にあったが、その後は様々な原因、特に核問題を巡る深刻な対立で、平壌は北京に対して戦略的な不信を生むことになった。中朝関係の朝鮮にとっての重要な意義を再度見つめ直すことは、平壌が困難から脱却するカギであるかもしれない。
  中国はいまや世界第2位の経済大国であり、近代以後のいずれの時期よりも力を備えている。中朝が新しく確固とした戦略的共通認識を確立できる状況のもとで、中国は朝鮮に安全を提供する能力があり、朝鮮が経済を振興することに対しても支持と援助を提供する能力も持っている。
 朝鮮は中国の隣国であり、中朝が友好協力関係を発展させることは、朝鮮が対外開放した後に必然的に直面するイデオロギー上の衝撃を緩和することにも役立つ。中国には朝鮮政権を転覆しようとするエスタブリッシュメントの力はなく、民間がそのような活動を行うことを許すこともあり得ないから、中国は、朝鮮が対外開放の条件のもとで国家の政治的安定を図る上での「大きな後ろ盾」となることが可能だ。
 中国は他国の国内政策に干渉しない政策を奉じており、…平壌に独立自主を失わせることはない。平壌の独立自主に対する認識及び国際的なこの点についての認識が一致している限り、中国に頼って核武装の苦境を抜け出し、普通の国家になるという前途はきわめて明るい。
 半島非核化は中国の確固とした立場であり、平壌が核ミサイル活動を行うことを辛抱することはあり得ないし、この点に関する中米の共通認識はますます強まっている。しかし、中米が違うのは、北京はこの問題を平和解決すること、平壌政権の生存に脅威を与えないことを堅持しているのに対して、ワシントンは武力行使という極端な手段をとる可能性があるということだ。朝鮮が中国の勧告に従って暫定的な核活動の停止を発表し、徐々に核放棄に向かって進むこと、そして、核放棄後の朝鮮国家・政権の安全に対して中国が積極的役割を果たすこと、それが平壌にとって最善の選択である。
 平壌が一日でも早くこの選択を行えば、それだけ早く前途が広々としていることを見いだすだろう。中国政府及び中国社会の主流は友好的な朝鮮を尊重することを願っており、朝鮮とともに鴨緑江両岸のうるわしい未来をともに築くことを願っている。」